TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
という戯言はともかく、誤字報告ありがとうございます
おねーさんと暮らし始めて四か月ほどが経った。
もう長年暮らしているかのような雰囲気を出しているが、全然そんなことはない。
お互い我儘に応えつつ、日々を過ごしていたのだけれども。
「なーんか仕事なくね?」
最近、ボクの仕事がない。
仕事と言っても、家事だ。
最近ではおねーさんも家事スキルを習得し、凝った料理もし始めている。
掃除洗濯も覚えており、おしゃれもマスターし始めた。
良いことばかりだが、しかしここで先の台詞に繋がる。
そう、ボクの担当する家事が無いのだ。
いや、おねーさんは悪くない。
どちらかと言えば『気付いたらやる』スタイルのボクが悪いのだが、しかしそれにしたって仕事がない。
お風呂から出たら、ボクの部屋の掃除まで終わっている始末だ。
パソコンの掃除まで完璧にされていた……教えてないのに……。
あとね、オモチャもね、キレイキレイされてたよね……。
軽く隠してあったんだけどな……。
恥ずかしくて死ぬかと思った。
一応中身は思春期男子なんだぞっ!!
というのはともかく、仕事が無いのだ。
なーんかとても子ども扱いされてる気もするが、まあ実際子供だし?
仕方ないとは思うけれど?
「ということでおねーさん」
「なんだ?」
「仕事し過ぎ。ちょっとはサボったっていいんだよ?」
「やっておいた方が困らないだろう?」
「おねーさんが全部やる必要はないって言ってんの!」
「だがな、私は居候なんだ。家賃代わりに働くのはおかしくないだろう?」
「おかしくないけどおかしいの。おねーさんの一日のスケジュールを出してみなさいな」
おねーさんの一日をグラフ化したらあらビックリ。
余暇の時間が半日も無いじゃないですか。
なんで?
おねーさん、無職の居候のニートだよね?(辛辣)
なんでそんなに余暇の時間がないかな(明白)。
これじゃまるでボクの方がニートみたいじゃないか!!(事実)
どうしてくれる!!(八つ当たり)
「十分すぎるが?」
「そうだね、おねーさんの今までを考えれば十分すぎるね、涙が出て来るよ」
「そ、そうか……」
「というわけで遊び倒す快楽を教えてあげよう」
「言い方がいかがわしいぞ」
うるさいこのワーカホリックが。
遊ぶことの悦びを教えてくれる!!
「というわけではい」
「これは?」
「コントローラー。一緒にゲームしよ」
「やったことが無いんだが」
「何事もチャレンジチャレンジ」
なお、これはボクの間違いだった。
「な、なぜ……ボクの世界記録が塗り替えられている!?」
一週間後、ボクは無敗を誇っていた世界記録を一つ突破されていた。
バカな、ボクのマ〇カー的ゲームのワールドレコードは2位と1秒差だったはずだ!!
そ、その記録を出すのにボクがどれだけ研究したと……。
「やっと一つ、キミの記録を越えられたよ」
「やっと、じゃないよ!それ世界記録!ニューレコード!!初心者が一週間で越えたらダメな奴!!」
「そうなのか?」
「ちょっと見せて、ゴースト確認する」
「あ、ああ」
くっ、文句のつけようがない完璧な正規手順での記録だと……確かに、この手法ならコンマ2秒とは言え詰めること自体は可能だ。
だが……グヌヌ……実現可能かどうかは別の話だ……。
その難易度故、ボクも断念したというのに、この元ヒーローは……。
「?」
ぐやじぃ!!
悔しい悔しい悔しい!!
純粋無垢な顔しやがって!!
前世からの歴戦ゲーマーの意地を見せてやる!!
「おねーさん」
「なんだ」
「ゲーマーの魂に火を付けたらどうなるか見せてあげる」
「ほう?」
ゲーマーとは、悔しさをバネに進化する生き物だ。
やってやらぁ!!
「では私も、手隙の時に励むとしよう。キミの記録を追いかけるのは楽しかった」
「う、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
こ、こいつ。
火に油を注ぎやがって。
どうなっても知らないからなあ!!
なんてやったのが良くなかった。
気付けばボクとおねーさんの記録合戦は白熱し、同率1位まで持ち込み、3位と5秒以上も記録を離すことになった。
オンラインでワールドレコードは記録されるので、風の噂では、謎の1位とタメを張る謎のプレイヤーが現れたと言われているらしい。
そうだね、動画も上げてないけどBANされてないから不正はないという謎のプレイヤー二人だからね。
まあそんなことは良いんだ。
問題は……。
「家事が滞ってしまったな……」
「だね……」
「まるで麻薬だな、ゲームというものは……」
「まあ、中毒性はそうだね……」
二人でやりまくってたら、そりゃ家事は滞るわけで……。
「ちょうど良いし、二人で片付けよっか」
「そうだな」
お互い、何事も程々に、という認識を得られたところで、仲良く溜まった家事を片付けて行った。
思うに、おねーさんは凝り性だ。
何かをやり始めると途轍もない勢いで吸収し始める。
できそうだと思ったらやっちゃうタイプだ。
損な気質だなあ、と思う。
できそうだと思ったら本当にできちゃうから、自分の負担とか結構無視しがちなんだよね。
実際は結構負担がかかってるはずなのにね。
全く、ボクが甘やかさないと無理をし続けて壊れちゃいそうでまいったね。
「そういえばエソラ」
「なに~?」
「他にもゲームはあるのか?」
「あるよ。楽しかった?」
「ああ。何事もチャレンジというのは確かだったようだ」
ま、息抜きを見つけられて何より。
なお、この後紹介したゲームの数々は、ボクの記録を抜かれたり抜かれなかったりした。
才能の塊かよコイツ。
エソラに余暇が少なすぎると言われ、紹介されたゲームをやってみた。
何事もチャレンジと言われ、まずはエソラと一緒にやってみた。
さほどゲームはやったことなどなかったが、やってみると中々に面白い。
最初は操作も覚束なかったが、段々慣れてくると、できることが増えていく。
この感覚は好きだ。
得も言われぬ達成感が心を満たす。
なるほど、この感覚を万人が得られるのであれば、世に出回るゲームが求められるのはよく分かる話だ。
「しかし、エソラの記録は速いな」
一つのステージごとに、タイムが記録されているらしい。
そこに記録されたエソラの記録は、一見するととても早いように見えた。
一旦普通に走ってみたところ、タイムは雲泥の差。
私の見立て通り、とても早かった。
まずはこれを目標にしてみよう。
だがどのようにタイムを縮めているのかが分からない。
一旦、エソラの走った道を見ることはできないモノだろうか。
機能を確認してみると、ちゃんと履歴を見る機能があった。
見てみるとしよう。
するとそこには、私の想像を超える走りがあった。
数々のショートカット、駆使されるアイテムのタイミング。
なるほど、手法は理解できた。
真似をするのも少し練習すればできるだろう。
だが、真似するだけでは同じタイムが出るだけだ。
エソラの記録を超えるには、自分なりに試行錯誤する必要があるだろう。
家事やトレーニングが終わったあとは、これに時間を費やそう。
まずはコピーからだ。
カチカチと、コントローラーを動かし、ひたすらに練習。
三日ほどで、完全に真似することができた。
ただ真似するのでは味気ないので、このコース取りのネックな部分を考察してみる事もした。
何となく感じられたのは、僅かな妥協。
何故妥協したのかは分からないが、彼女が良しとした余白が、そこにはある。
恐らく、コンマ単位ではあるが少し動きを修正すれば記録を抜ける。
だが、その少しの動きが、かなり緻密な操作であるだろうことも感じられた。
そこに挑戦するか否か。
私は挑戦することにした。
何事もチャレンジと、エソラは言ったのだから。
それから、エソラが残した余白を埋める時間に余暇を全て費やした。
そうして埋めきったのが、紹介されてから一週間。
エソラに報告したら、物凄い形相で揺さぶられた。
「やっと一つ、キミの記録を越えられたよ」
「やっと、じゃないよ!それ世界記録!ニューレコード!!初心者が一週間で越えたらダメな奴!!」
なんでも、エソラの記録は世界記録だったらしい。
道理で難しいはずだ。
いくらなんでも一週間で初心者が超えて良い記録ではなかったことは、私でも理解できた。
同時に、あの妥協の意味も理解できた。
あの余白を埋められるなら埋めてみやがれ、と言う彼女なりの挑戦状だったのだろう。
それを私が埋めるとは思っていなかったようだが。
なんだか泣きそうなのは気のせいだろうか。
だが、エソラの記録を追いかけるのは楽しかった。
それを伝えると、エソラは一気に嬉しそうにして、やる気を出した。
それから寝ずにゲームに齧りついたのには困ったが、まあ楽しそうなので満足するまで世話をしてあげようと思った。
三日もすれば『あい、あむ、ちゃんぴおん……』などと言って眠ってしまった。
画面を見れば、新世界記録が叩き出されていた。
エソラをベッドに叩き込み、ゴーストを確認する。
「コース取りを一新した……!?」
なるほど、エソラが言っていたゲーマー魂に火が付くとは、このことか。
エソラは、私に新しい余白を寄越した。
その余白は、もはや白紙の紙一枚と言ってもいい。
新たなコース取りという、莫大な余白だ。
「家事がまだ終わっていないが……まずはコピーだ」
何となく闘争心に火が付き、コントローラーを手に、椅子に座る。
「この道はまだまだ若輩だが……理解した」
この闘争心と、あの達成感こそが、ゲームの本質なのだと。
であるのならば。
「私に向き過ぎている」
こういう手合いは、無限にやれてしまう自分がいた。
私は《テリトリア》。
上層部の腐敗、もしくは上層部への敵性勢力の侵入に、胃を痛めている一人のヒーローだ。
そして、今の《ブレイディア》と現エソラの事を唯一知るも、誰にも伝えることのできない存在だ。
完全服従という契約が為された今、私はある意味完璧に信用され、入念な警戒の下、アジトへの出入りを許可されている。
全く以て遺憾である。
だが、《ブレイディア》の今までの苦労を知った今、安否を確認できるだけありがたい。
尾行が無いか入念なチェックを行った後、アジトに入る。
二人は基本的に引き籠っているので、たまに報告ついでにお菓子などを提供するのだが……。
「何をしているんだ、この二人は……」
今日の二人は、今までとは少々異なった。
「食らえゼロパー即死コン!!」
「な、それは反則だろうエソラ!」
「ボクの伝家の宝刀を抜かせたおねーさんが悪いんだからね!!」
「ならばこれを喰らっても文句は言うまいな!!」
「それこそ反則でしょうよ、おねーさん!!駆け引きゼロじゃん!!」
二人してコントローラーを握り、やいのやいのとゲームをしている。
二人とも黒髪なのも相まって、まるで年の離れた姉妹のように見える。
しかし、まさか《ブレイディア》がゲームとは。
人は変わるものだな、と痛感した。
恐らくエソラが勝ったのであろう試合を見届けてから、声をかける。
「二人とも、差し入れを持ってきたんだが」
「あ、入り口の位置を変えても追跡してくる人だ」
「まるでストーカーのような言い方はやめろ」
「……やっていることは事実だと思うが」
「やめろ《ブレイディア》。流石に傷付く」
最近、《ブレイディア》も私を追撃してくるようになった。
絶対にあの小娘の影響だと思う。
思いたい。
「で、今日の貢ぎ物はなぁに?」
「言い方」
「お、ガディバの高級チョコじゃーん!!」
「そう言えば、《シュガードーズ》がよく食べていたな」
「贅沢な奴め、庶民の敵だな」
「一応ヒーローだな、彼は」
「さすが国家公務員、稼いでんねえ!!」
全く。
こうして眺めている分には、無邪気な子供にしか見えない。
あの日のヴィランのような姿はどこへやら。
いやまあ、彼女は自他ともに認めるヴィランなのだが。
それはともかく、今日の用件を終わらせよう。
「で、ストーカーさん。定例報告?」
「そんなところだ。ある時期から、上層部の信頼していた者もおかしくなっていることが分かった。《ブレイディア》が無茶な指令を受け始めた時期と一致している」
《ブレイディア》を疲弊させた上層部の暴走。
それを看過した私にも責があるが、うまいこと隠されたのには理由がある。
そう思って、関係各所をごっそり洗った。
結果。
「ふぅん」
「で、だ。おかしくなった上層部の共通点だが」
「言わなくていい。幻楼院一族との接触でしょ」
「……何故分かった」
「秘密。と言っても、ストーカーさんならすぐわかるよ」
悪名高い、幻楼院一族との接触が分かったのだが、先んじてエソラに当てられた。
その時点で、エソラの正体にいくらか見当がつくが、今はそれは重要ではない。
「全く、懲りないねえ、あそこも……いっそのこと強引にガサ入れしたら?」
「我々としてもあの一族の事は目の上のたん瘤だが……そうはいかない理由があるのは分かるのだろう?」
「まーね……《ガーディアンズ》の特権使って強襲して後から大義名分ゲットとかでもないと一族郎党検挙はできないでしょ」
「なぜ《ガーディアンズ》の緊急出動独自権限を知っているんだ」
「おねーさんが教えてくれた」
「《ブレイディア》!!」
「すまない、口が滑った」
「一応極秘事項なんだがな!?」
看過できない事実も発覚したが、一応そこも重要ではない。
重要なのは……
「いうなれば脱法ヴィランの老舗、総本山。裏表の社会にしっかり根を張る大規模組織。戦力は相当なものだ。如何に《ガーディアンズ》と言えども、手が足らないねえ」
「その通りだ。そのため、他の組織の手も借りたいが……」
「そんなことしたら筒抜けだろうね~~。あっはっは、手詰まり!!」
「あの一族の影響力をよく分かっているようで何よりだ」
手の出しようがないほど、敵が強大だということだ。
恐らく、最後に《ブレイディア》を襲撃したのも、奴らの精鋭部隊だと思われる。
あれほど巨大な組織の精鋭部隊ともなれば、さしもの彼女も苦戦を強いられる。
いや、エソラに拾われなければ危うかったかもしれないことを考えれば、精鋭中の精鋭を大量に送り込まれたに違いない。
端的に言って、《ブレイディア》というヒーローは最強である。
実力が遺憾なく発揮された彼女の戦闘力は、かつて起きた大乱で証明されている。
決戦時には余波で決戦地の小国が一つ滅び、その国周辺の天候と海が荒れ狂った。
そんな彼女が、恐らく周囲の被害を気にしての戦闘ではあろうが、重傷を負う。
それだけでも、敵の強大さが分かろうというものだ。
「でも、おねーさんが本当の意味で本気出したら壊滅するよね」
「……だがエソラ、それは」
「分かってる。でもね、そろそろあいつら叩いた方が良いと思うよ。どーせおねーさんのあの日のケガにも繋がってるんでしょ。だったら、
ふと、エソラがヴィランの側面をさらけ出す。
何を犠牲にしてでも、復讐を遂げんとする、復讐者のように。
「……小悪党を自称するキミにしては、随分と物騒で過激だな」
「そう?そうかもね。ともかく、状況は分かったよ」
次の瞬間には、何事もなかったかのようにヘラっと笑い、ひらひらと手を振って部屋に戻った。
《ブレイディア》と顔を見合わせ、その日は解散となった。
後日、エソラの素性も判明した。
その時には、もう何もかも遅かった。