TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
シオン=オークニーとアヤメ=オークニーは、二人の母のことをよく知らない。
愛してくれている。
それは分かる。
配信業を生業としている老舗のチャンネルである。
それも知っている。
けど、それだけなのだ。
調べれば調べるほど出てくる、二人の母の成してきた数々。
それらを、二人は二人の母達から聞かされたことはない。
「なんかさ」
「なんだよ」
「ママたちってなんで一般人やってんのって感じだよね」
「下手な有名人より有名なのにな」
二人の母。
エソラ=オークニー。
ヒイラギ=オークニー。
二人の成してきたことはあまりにも多く、色眼鏡で見られることも多い。
母達との繋がりを求めて、すり寄って来る輩も少なくはなかった。
尤も、そういった輩はどこかの誰かが教えてくれて、自然と遠ざけてきたが。
「まあ、私たち出来が良くてよかったよね」
「まあな。親に比べて、とか言われなくて済んでるし」
学校の放課後。
最近二人は、空いた教室でのんべんだらりと過ごしている。
というのも、母達が喧嘩しているからである。
まあそう深刻なものではない。
というより、喧嘩のような何かだ。
険悪な雰囲気ではない。
だが、二人が喧嘩の原因だったりするため、家に居づらいのは間違いなかった。
「んでさあ、どうする」
「高校の進路?」
「そうそう。僕たちが答え出さないと終わらないし」
「でもさぁ、正直やりたいことなくない?」
「それはそう。困ったことにな」
母達の喧嘩の原因。
それは、二人の進路に関してだった。
中学も3年に上がり、本格的に進路を決めなければならない時期。
未だなにも固まっていない二人に、何かを感じたのか、エソラがヒイラギに相談したところ、そうなった。
特に慌てることはないと構えるヒイラギと、エソラの『ちょっとマズいんじゃない?!』という思いがすれ違っているのだった。
「いっそのことヴィランにでもなるか?」
「あはは、冗談きっつ~。真っ先にお母さんが来るのに?」
「だよなあ」
二人にやりたいことはない。
厳密には、やりたいことはあるが進路と呼べるものではない。
そういった漠然とした状態が、ずっと続いていた。
それは、誰が悪いというわけではなく。
ただただ、二人が才能を持て余しているだけのことだった。
「何かしらテキトーにやること探して報告とかになりそ」
「ママは騙せても、お母さんが見逃すか、それ?」
「……無理かあ」
母親たちは、基本的に否定しない。
何故?から始まり、最後まで聞いてから道を示す方針で二人を育てて来た。
だが、例外が一つだけある。
それが、本当にやりたいことなのか。
やらなくてはいけないことなのか。
そこを違えれば、母親たちは何が何でも止めてくる。
「やっぱリンねえに相談したほうが良くない?」
「といっても、リンねえもいつもいるわけじゃないしなあ」
下校時間が迫る夕暮れ。
二人は肩を竦めて、歩き出した。
「そういえばシオンってさ、正直家で肩身狭くない?ちょっと気になってるんだけど」
「今更だろ。というかママからしてエロ本その辺にほっぽり出してるし、家でそういう気持ちにはならないよ」
「ママさぁ……」
「ちなみにこの前猥談吹っ掛けられた」
「それ普通の家庭なら父親がすることなんじゃ……」
「時々ママのことが分からないよ……」
通学路。
家路につく二人は、いつも通り雑談をしながら歩く。
二人は、誰か友達と一緒に帰るという経験は意外と少ない。
二人で帰るのが常だというのもあるが、お互いの友人に色目を使って来る者がいたりいなかったりするので、兄妹二人で帰った方が安全だという判断である。
「ちなみにエロ本の内容は?」
「何で聞くんだよ、見てないよ」
「なんだ、つまんないの」
「アヤメは僕に何を求めてるんだ」
「面白味」
「流石に実妹でもぶっ飛ばすよ?」
余談だが、二人とも異能に目覚めている。
ここで喧嘩を始めようものなら、ヒイラギが飛んでくることは間違いないだろう。
「そういえばネンダイ速報みた?」
「ああ、スマヒロ新作出るって?」
「S&Rも新作出るってさ」
「マジ?それは初耳」
「オバクロも新作出るらしいよ」
「新作ラインナップがご機嫌だなあ。アヤメは何買う予定?」
「S&Rは確定。ただまあ、スマヒロはママと対戦できればいいし、ステイでも良いかなーって」
「僕はS&Rとオバクロかなあ。ママとお母さん巻き込んで4パで荒らしたい」
「おもしろそー。いっそのこと配信に混ざっちゃおうか?」
「家帰ったら提案してみようよ」
「そうしよ」
そんな、他愛もない会話で帰路は埋まった。
「「ただいま~」」
「あ、おかえり。着替えて順番にお風呂入っちゃいな~」
「どっち先にする?」
「先貰って良い?」
「ドーゾ」
そして帰宅。
ふと気付くが、二人を出迎えたエソラの表情は明るい。
喧嘩のようなモノに、何か進展があったのだろうか。
「あ、そうだ二人とも」
一度キッチンに引っ込んだと思ったエソラが、再びひょっこり顔を出す。
「このままやりたいことが無いならヒーロー育成校にぶち込むから」
「「え」」
いきなりぶち込まれた爆弾発言。
リビングにいるはずのもう一人の母、ヒイラギを見れば、バツの悪そうな顔をしている。
どうやら、エソラに押し切られたようだ。
「ちょっと待ってよママ!?」
「そんなこと言われても!?」
「やりたいことを見つけられたら、そっちを優先しても別に構わないから。でも何もないまま宙ぶらりんなのは許しません」
エソラ、今年35歳。
進路の定まらない我が子に強権を振るい始めた。
まあ尤も、煮え切らない二人が悪いと言えばそうなのだが。
「ママもお母さんもね、正直真っ当な人生は歩んでません」
「「ア、ハイ」」
「ぶっちゃけ人のこと言える義理ではないです」
「(そうなんだ……)」
「(真っ当な人生の定義とは?)」
「色々あって20年以上治安維持組織の活動に協力しながら配信者やってるとか、そんな意味分からん経歴の人間に言われる筋合いではないのは分かってます」
「(そうだね)」
「(なんで本業配信者?)」
「それでも言っておかないといけないと思うので言います」
「思い通りにいかねえのは承知の上で人生設計はちゃんとやれ」
「「はい……」」
エソラ=オークニー、今年35歳、中身52歳。
我が身を振り返り、仕方なかったとはいえ、こんな行き当たりばったりな人生は歩んでほしくないという思いが、爆発した瞬間であった。
「長々とお話しする気はないのでこれで終わりです。本気で嫌なら必死になりなさい」
エソラは引っ込み、夕食の準備へと戻る。
二人は顔を見合わせ、着替えとお風呂を済ませてリビングに集結した。
リビングでスマヒロをしているもう一人の母、ヒイラギのもとへと。
「お母さん、ママのアレは一体……」
「『ヒイラギは15歳でヒーローになるしかないと思って突っ走った結果がアレなんだから、もうちょっと考えた方が良いと思う』と言われれば何も言い返せなくてな……」
「何があったの」
「いやまあ、死にかけたんだが」
「それはお母さんが悪いと思う」
「まあな……」
「そういえばママとお母さんの馴れ初めってネットで見れば出て来るけどさ」
「お母さんと出会う前のママって何してたの?ママがすごい小っちゃいころだってのは知ってるけど」
「……ふっ」
「なにさ」
「いやなに、お前たちにだけ見えるオトモダチに聞けば、色々と教えてくれると思うぞ?」
「え?」
「リンねえが?」
「私よりもそっちに聞いた方が筋が良いだろう。それよりも、ウォーミングアップに付き合ってくれないか?夕食のあと、オンライン大会でな」
「あ、ちょっとはぐらかさないでよ!!」
「コントローラー投げ渡したって駄目なんだから!!」
「じゃあ私から一勝でももぎ取ってみろ」
「できらぁ!」
「やったらぁ!!」
そんな感じで、時間は過ぎていく。
概ね、オークニー家は平和なのである。
ちょっと時間を飛ばしたけど次に気が向いたら時間は戻すんじゃ。
そう言えばチビたちが中学3年になったらヒイラギ52歳ですって。
当然姿は変わってません、魔女がよ。