TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
結構少なくなってきた気がする。
「で、次は極東だったか?」
「通り道にアスタロレオがあるからどうしようかなって」
《夢想の黒猫》の破壊に成功した後。
ボク達はイセプタを後にして、海洋に出ていた。
目的地の候補は二つ。
旧極東、もしくはアスタロレオ。
アスタロレオに寄り道するかどうかの選択だ。
「レーダーの様子は?」
「リンネが持ってそうな二つは未だ旧ラセオにあるね。ただ保管してるっぽい?ただ回収しようと動けば対応されると思う。リンネの最終位置はアセリア。トートのさらに東側が最終感知地点だ。昨日までカルメットにいたくせによ……」
「この移動の速さは不可解だな」
「それはそう。ただ《非業の天命》を保有しているから、そっちの可能性はありそう」
「だが、アレは命を削るアイテムだったのでは?」
「さてね。スペアボディがあるから踏み倒せるのか、それとも影響を受けているのか。いずれにせよ、ロクなことにはなってないだろうね」
《非業の天命》。
願えば理外の能力を得る代わりに、寿命を削るオーパーツ。
言ってしまえばそれだけだが、一年ほどは寿命が残る。
その一年で、どれだけの被害が生み出されるかは定かではない。
なにより、使用制限がほぼ無いのだ、あのアイテムには。
ただ寿命を対価にバカみたいな能力を得るだけというシンプルさゆえに、
その一点だけで言えば、他の《魔女の遺産》全てより厄介と言えるだろう。
とはいえ、あの女がワープゲートを開発していたとしてもおかしくはない。
そちらの可能性の方が高いかもしれない。
いずれにせよ、奴の動向は詳しく見ておく必要があるが……。
「そういえばカルメットの《魔女の遺産》は奪われていないのか?」
「みたいだね。回収を諦めたのか、何か仕掛けたのか。それは定かじゃないけれど」
「後回しにするのが怖いな」
「カルメットにあるのは《堕落の救世》だったっけ。こいつも曲者だから放置はしたくないけど……放置せざるを得ないよなあ」
「全く厄介なことだ」
その後、相談の末、アスタロレオへ寄り道することに決めた。
ここにあるのは、《狂信の御使》。
どんなアイテムかというと……死兵量産機だ。
これを使われると、使った人間に対して狂信的なまでに従順になり、何でも言うことを聞いてしまう。
その上、身体能力のリミッターを外して動かすことができるものだから、使い捨ての強力な兵士の出来上がりだ。
まあ、その。
最強の催眠アイテムだね。
オラッ、催眠!!
…………。
だから!なんでこんなモンの概要が残ってるんだよ!おかしいだろ!!
これひとつで世界が滅んでてもおかしくないと思うんですけど(名推理)。
なんでも言うこと聞くのでえっちなこともできるね。
……ちょっと欲しくなってきたな。
とはいえ使われた側は精神がおかしくなるらしいので、やっぱり危険物には変わりがない。
最終的には脳死まで行くそうだ。
これは概要じゃなくて過去の実験データらしい。
極東連邦さん???
「リンネに使われたらどっちがヤバいかって言うとこっちだしね」
「寄り道する方がお得というわけか」
そういうわけで、アスタロレオへレッツゴー!!
場面は移り変わり、アセリア。
トートシティ南東部、郊外。
「確かここらへんだって言ってたよな」
「そのはずだけど……」
リンネの目撃情報に伴い、二人のヒーローがここまでやって来ていた。
《ジェミニス1号》と《ジェミニス2号》。
エソラとヒイラギの子供たち、シオンとアヤメであった。
「2号、頼んだ」
「オッケー1号」
二人一組のヒーローとして活動している二人は、本来トートの担当ではない。
が、先日《テリトリア》から招集が掛かり、幻楼院リンネの捜索態勢が強化された。
その都合上、トートに穴が開いており、そのカバーとして二人が来たのだが……。
「あら、曾孫たちとこんなにすぐ会えるなんて、幸先が良いわね?」
「誰だ!!」
「うそ、簡易レーダーに映ってないんだけど!!」
間が悪かった。
もし、エソラがこの配置に気付いていたら、即座に引き返していただろう。
だが無情なるかな。
エソラは《テリトリア》を信頼しており、配置などに口を出すことはない。
故に、この事故が起こった。
この邂逅が果たされてしまった。
「シオンとアヤメと言ったかしら。エソラと《ブレイディア》の子供たち。コスチューム越しでもわかるわ、二人に似たのねぇ」
二人が現着した瞬間、リンネは現れた。
その顔に、歓喜の色を隠さずに。
「幻楼院リンネ……写真では見てたけど、やっぱりママにそっくりだね」
「曾孫って言ってたからママの
「とりあえず捕縛しよ。抵抗するなら交戦」
「だな。僕が前を取る、いつも通り」
「オッケー!!」
二人はいつも通り、職務に忠実だった。
それが悪かったとは言えない。
幻楼院リンネという存在を、二人は直接味わったことが無いのだから。
だから、これは仕方のないことだった。
「「《
二人の異能は《憧憬と承継》。
端的に言ってしまえばコピー能力だが、ただのコピーではない。
憧れた存在の能力をコピーし、行使する能力である。
ただ、最初は劣化コピーでしかない。
憧れから始まる道は、決して順風満帆ではないのだから。
だが、習熟すればするほど、コピーした能力はオリジナルに近付く。
いずれは同等のものとなるそれは、今ではオリジナルの背中が見えてくるほどまでに習熟が進んでいる。
故にこそ。
リンネ相手では分が悪かった。
何故なら。
幻楼院リンネという存在の根幹は、研究者である。
つまるところ、ある種トライアンドエラーの権化である。
それが意味するところとはつまり、一度見た手札は対策が練られていると言っても、過言ではないということだ。
前提からして不利。
リンネは二人の手札を知っているというのに。
二人はリンネの手札を知ることができていないのだから。
「ゼェェアアア!!」
「《ブレイディア》よりは遅いわね?」
「っ!?」
気絶させるつもりで打ち込んだ掌底は、しかし余裕をもって躱される。
あり得ない。
音速で踏み込んだというのに、リンネは軽々と避けた。
事前に聞いていた異能ではあり得るはずのない挙動だった。
「こうだったかしら?
「うっそだろ!?」
「アイギスッ!!!」
更に、あり得るはずのない現象。
エソラとアヤメしか現状使うことができないはずの雷霆が、リンネの手にある。
「ふむ……出力を誤ったわね。右腕が焼けてしまったわ」
だが、リンネも制御しきれていないのだろう。
右腕が焼け焦げていた。
意にも介していないようだったが。
「でもそうねぇ……
「嘘でしょ、ママのアイテムがなんで出てくるの……!?」
「この世にあったのならば、私は観測できるわ。なら再現を試みてもおかしくはないでしょう?」
「デタラメかよ……」
二人の脳裏に、敗北の二文字が浮かぶ。
別談、二人はプライドが高いわけではない。
敵わないと分かったのならば、撤退する選択肢を選ぶことができる。
二人には、今それを選べない理由があった。
それは、リンネが現れた時から遠目に見えていたモノ。
体長500メートルは越えようかという巨体が、空に浮かんでいる。
エソラがこの場にいたのなら、絶対に見覚えがあって叫んでいたモノ。
某防衛軍では、グングニル連打で沈む泥船、全身弱点、デカい的などと揶揄されるそれは、しかし現実に現れれば正しく悪夢であった。
「アレに対抗できるもの出せるの、今私しかいないし」
「目の前のこいつシバかないといけないのも明白だし」
「「逃げるなんてできないよね」」
というか逆に言えばグングニル連打でもしないと楽をさせてもらえない。
そんな存在が、あの船だ。
「流石ね、ヒーロー。逃げないなんて感心するわ」
「元凶が言うことか?」
「元凶だからこそでしょ。さて、あんまり時間ないし……シオン、一気に決めるよ」
「ああ」
「可愛いわね。もうチェックメイトよ?」
だからこそ、判断が鈍った。
逃げるという手段を、脳裏から消し去ってしまった。
この二人に限って言えば、逃げるべきだったのに。
「《唯・一文字》ッ!!」
「《ケラウノス》ッ!!」
「《
《
『トート南東部に巨大飛行戦艦確認!!ならびに、《ジェミニス》が幻楼院リンネと交戦開始!!急ぎトートへ戦力を!!』
その報告は、想定しうる限りの最悪を更に超えて行った。
シオンとアヤメが交戦してしまう可能性、それは考えないではなかった。
だが二人を前線から外すことなどできない。
だから穴埋めとしてそこに配置した。
それが裏目に出るとは。
すぐに人員を動かしたが、しかし間に合うとも思えない。
幻楼院リンネという人間が表に出てきたということはつまり。
算段があるということだ。
不確定要素は可能な限り排しているに違いない。
《フィクシオン》も対策されていると見て良いかもしれないな。
「軍に応援を要請しろ!!それから現地の警察に協力を仰ぎ、トート住民の避難を開始!!トートは戦場になると思え!!」
「「「「了解!!」」」」
「現時刻を以て緊急事態と判断し、緊急出動プロトコルを発令。近隣のヒーロー全員を集めろ!!」
そして大問題なのはトート上空に現れた巨大飛行戦艦。
戦艦と断定されたのは、明らかに砲塔と思わしき機構が確認できたから。
それは上空5㎞地点を航行しており、悔しいことに地上からでは私の異能は届かない。
あれから異能は成長したが、それでも半径3㎞が限界なのだ。
私の異能に対しても警戒を怠っていないようだ。
今のところ航行しているだけだが、何かアクションを起こされたらひとたまりもない。
エソラとヒイラギに連絡を取るか?
だがそれも罠な気がしてならない。
クソ、どうすれば良い。
「《フィクシオン》から伝達!!『自信はありませんが二人は呼ばない方が良い』とのこと!!」
「……信じるぞ、
一瞬悩んだ。
自信が無い、と前置きするほどだ。
あまり確定的なことは言えないのだろう。
それでも伝えてきたということは、ここが重要な分岐点だということだ。
ここぞという時に、《フィクシオン》が外したことはない。
私は自らの夫を信じることにした。
「《エソラゴト》及び《ブレイディア》の援軍は無いモノと思え!!現在あの二人は最重要極秘任務に就いている!!我々だけでどうにかせねばならん!!そのことを念頭に入れて事に当たれ!!甘えは許さん!!」
二人は、呼ばない。
後で盛大に恨まれることになるだろうが、呼ばない。
「《テリトリア》司令!?」
「それはあまりにも!!」
「戦力云々の前に酷です!!」
分かっている。
非情な判断だということくらいっ……!!
「口より先に手を動かせ!!それでも決断せねばならんのが我々司令部だ!!あの二人に対しては私が全て受け持つ……ッ!!恨まれるとすれば私一人だ、余計なことに気を回すなッ!!」
「司令……」
「指令、拝命しました……っ」
「クソっ……近隣のヒーローへ司令部から通達ッ!!」
私とて。
自らがこんな決断ができる人間であることを、何度、何度恨めしく思ったか。
誰が好き好んで親しい友の子を囮にするか。
この悔しさは幻楼院リンネの首級で晴らしてくれる。
それに、アセリアには、まだ特級戦力がいる。
「《
『
「それは重畳。我らが友人とよく似た顔だが、容赦なくぶちのめしていい。ソイツは大罪人だ」
『誰が相手でも手は抜きませんよ』
《リーパー》率いるヒーローチーム、《グリム》。
彼らがいる。
『《グレイブヤード》、頼んだ』
『《クラッシュハンド》、合わせて!!』
『《リーパー》、俺に続くっす!!』
『《ジェミニス》の交戦記録を取得完了!データは送信したわ!!』
デビューから20年もの間、アセリアのエースを張り続けているヒーローチームだ。
リンネ相手でも遜色はあるまい。
『《テリトリア》司令!戦闘ログは見ましたか?』
「これから見るところだ。概要を頼めるか?」
『結論から言いますと、何らかの方法で《エソラゴト》のアイテムを模倣されています。《グリム》なら対応できるでしょうが、《ジェミニス》の二人では荷が重いかと。色々な意味で』
「模倣されているアイテムは?」
『現状確認できている中ではケラウノス、エリクサー……今アイギスが追加されました。それから正体不明のアイテムが現在交戦映像に映っています……これは……赤い霧?』
赤い霧、だと?
何故?……いや待てまさか!!
「ッ!?交戦中止、その場から離れろ!!今すぐにだッ!!」
『え、それはどういう』
「早くしろ!!!」
あの女、こんなところでぶちかましてくれやがった!!
・巨神船
某防衛軍出身なら分かるよね、あの子です。
戦艦形態になったり人型形態になったりする超巨大戦艦です。
・《鮮血の恐怖》
ついに発動された《
テリちゃんが叫んだ通り、距離を取ればなんとかなる。
ただ、捕まったらアウト。
エソラブチギレ演出が確定するかどうかの瀬戸際
・リンネ
あ~~、楽し~~!!
対策すれば呆気ないものね~~!!
でも本人たちよりは劣化してるみたいだからまだ分からないわね。
そうだわ、この二人で実験とかしたいわね!!
とりあえず《鮮血の恐怖》で耐久実験よ。
あら?3匹ほど虫ケラが死にに来たわね。
いいわ、気分がいいからアナタたちも相手してあげる。