TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う   作:蓋然性生存戦略

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お待たせしました。
風邪でダウンしていました。
多分ぶり返しそう。


第四話:TS転生ロリババアの深淵

『ッ!?交戦中止、その場から離れろ!!今すぐにだッ!!』

 

その声に、最も早く反応したのは、《リーパー》だった。

赤い霧に近付かれてはならないと断定。

現状から離脱可能なのはおそらく自分のみ。

ヒーローとして為すべきは一つ。

彼が行動に移すまでに要した時間は、コンマ1秒にも満たなかった。

 

「ハァァアアアアア!!」

 

《リーパー》は自らの得物を回転させるように振り回し、赤い霧を巻き込むように風を起こす。

霧という形態をとっている以上、物理法則に従うと期待してのことだ。

それは間違っておらず、竜巻の如く巻き起こった風によって、赤い霧は纏め上げられ、一時的に赤い霧は無力化された。

その間に他のヒーローは距離を取ることに成功し、あとは《リーパー》自身が撤退するだけ。

《ジェミニス2号》や《グレイブヤード》が撤退支援に構え、盤石な状態で撤退ができる。

 

「あら。でももう手遅れよ。だってその子……()()()()()()()()()()()()()

 

ただしそれは、すでに影響を受けた者がいなかった場合の話だ。

 

「あッ、がぁ!?」

「シオン!?」

 

《ジェミニス1号》、シオン=オークニーは、既に影響を受けてしまっていた。

瞳は赤く染まり、その顔は苦悶に満ちた表情で固定されてしまっていた。

 

『《グレイブヤード》、今すぐ《ジェミニス1号》を拘束しろ!』

「っ、了解!!」

 

《テリトリア》から、すかさず指示が下る。

二度も呆けるほど、エースチームは愚かではない。

指示が終わるや否や、《グレイブヤード》はシオンを異能にて拘束した。

 

「うぐッ、がぁ……ゥガァァアアアアアアア!!

 

正気を失ったとしか思えない、シオンの咆哮。

一体何が起きたというのか。

 

「お前、あいつに何をした!?」

「新しいおもちゃの実験をしたのよ。《魔女の遺産》がひとつ、《鮮血の恐怖》。赤い霧を放出し、十分な量を吸い込んだ生物を()()()()させるオーパーツ。最早アーティファクトと言っても過言ではないわね。狂戦士化された生物は肉体性能が大幅に強化されると聞いたけれど……思った通り、正気を失うようね。都市部で無差別テロをするには十分すぎるけれど、ちょっと不確定要素が大きすぎるかしら」

 

狂戦士化。

それは、力ある者ほど刺さる毒。

言ってしまえば暴走スイッチである。

色鮮やかな血の世界に、正気など不要とされた、災厄の火種。

世界よ滅べと残された遺産の力だった。

 

「お前ッ……」

『《リーパー》、この場は撤退しろ。これ以上の被害拡大は避けねばならん』

「ッ……了解」

「《ジェミニス1号》はどうします」

『《ジェミニス2号》。いや、アヤメ。()()()()()()()()?』

「っ!基地に……!」

『どうにかして運んでぶち込め。効くはずだ』

「了解!《リーパー》先輩、ちょっとだけ時間を!」

「任せろ」

 

アヤメと改めて呼ばれた彼女は、エソラを模倣した能力を用いてシオンを拘束、及び意識のシャットアウトを行い、無力化し、運び出す。

基地に戻れば、どうにかできる手段があるから。

それは、万が一のためにと持たされた万能薬。

実際には、正常時の情報を参照して異常を検知し、正常な状態まで巻き戻すという荒業の薬。

『どうにもならない時にだけ使え』と念押しされていたモノ。

過保護な親の、保険に保険を掛けた逸品だった。

 

「ガァァアア!アァ……」

「無力化完了!撤退します!」

「分かったわ。《リーパー》!」

「了解!!」

 

《リーパー》の奮闘により、被害は軽微に。

元凶たる幻楼院リンネを前に撤退を選ばざるを得なかったという、実質的敗北を喫したが、それでも死ぬよりはマシである。

いやらしい笑みを浮かべたままのリンネを後目に、その場にいたヒーローたちは撤退を成し遂げたのだった。

 

「まあ、挨拶はこんなもので良いかしら。これだけの騒ぎを起こせば隠蔽もできないでしょうし……曾孫にも手を出せた。戦果としては十分としようかしらね。まずは……トートを滅ぼしてしまいましょう。ホームタウンがなくなっていた時、どんな顔をするのかしらね?」

 

楽しみだわ。

リンネはそう呟いて、赤い霧を再び放出させた。

奇跡的に、ではあるが。

トートは壊滅したものの、民間の死者はゼロまで抑えられ、アセリア空軍と対空戦闘が可能なヒーローたちの奮闘により、戦況は膠着を維持することとなった。

 

無論、この事態を隠蔽できるはずもなく。

世界的なニュースとなり、それはアスタロレオでちょうど破壊を終えたエソラたちの耳にも届いたのであった。

 

 

 


 

 

 

今、スレイプニル内部の空気は冷え切っていた。

それは、主にエソラによるものであり、少なからず私も同じ気持ちだった。

 

「《テリトリア》。ボクは今、冷静さを失おうとしている。だから冷静なうちに説明をして欲しい」

『……すまない』

「いいかい、謝罪が欲しいわけじゃない。

 キミが全面的に悪かったことはハネムーンの時だけだし、事情を説明してくれれば憤りを感じることはあっても納得はしてあげられる。

 だから説明をしてくれ。

誰が、誰のせいで、どうなったって?

 

エソラの声は、低く無機質で、腹の底から轟くような、怒りを通り越して無に至った声だった。

 

『……トートに幻楼院リンネが襲撃を仕掛け、捜索強化で空いた穴に宛がっていた《ジェミニス》が交戦。その際、《鮮血の恐怖》が使用され、《ジェミニス1号》が一時的にその影響下に陥った。現在は正常な状態に戻っているが、万能薬の使用を強行したため、後遺症が無いか検査中だ』

「…………」

『全ての責は私にある。事態が収束したら、どうにでもしてくれて構わない』

…………

 

エソラは限界だ。

いつ理性がはち切れてもおかしくない。

そもそも、今回の《魔女の遺産》は一際意思が強かった。

意思が実体化するほどだったのだ。

それと真正面から立ち向かったエソラは、相応に消耗している。

 

「ひいらぎ」

 

呼びかけられ、エソラの眼を見る。

いつもの黒眼ではない。

漆黒という表現すら生易しい、深淵がそこにはあった。

 

「エソラ。抑えてくれ」

「わかってる。おたのしみは、さいごまで、とっておかないとね」

 

分かってない。

通じるのは言葉だけだ。

それでも、極東へ舵を切っているのは、最後の理性か。

 

「だいじょうぶ、あのこたちには、おまもりをいっぱい、いっぱいもたせてる、だいじょうぶ」

 

声が震えている。

手も、視線も。

自分に言い聞かせるように、言葉を紡いでいる。

 

「エソラ、一度休め。極東への運転は私がやっておく」

「でも……」

「休め。拒否権はない」

「……わかった」

 

見てられなかった。

エソラは弱い。

なによりも、その心が弱い。

一線を越えないようにする、それだけの強さしかない。

いっそのこと、振り切れてしまったら楽だったろうに。

即効性の眠剤を渡して、眠るよう促した。

 

「《テリトリア》。そっちの戦線は保つのか?」

『敵飛行戦艦は未だ大きな動きを見せていない。奴の動きもかなり消極的なものだ。現状、トートを私の異能を使って壁で囲んで霧の拡散を防いでいるが、どこまで保つかは未知数だろう』

「ニュースを聞いた時点でエソラはアジトへの道をすべて閉じた。イレギュラーは起きないと思われる」

『……本当に済まない』

「良い。こちらもエラーが無かったかと言われれば異なる。無事ならばいい」

『……そうか。それで、残りをすべて破壊するとして、どれほどで戻れる』

「一週間もかからないはずだ。カルメット次第だが」

『であれば、あの戦艦がどう動くか次第だな……』

「《リーパー》は近づけないのか?」

『彼一人しか辿り着けそうにないのが問題だ。近付こうとすれば弾幕が激し過ぎて近付けん』

「なるべく急ぐ」

『頼んだ』

「ああ。武運を祈る」

 

状況は思わしくない。

その上、エソラという特大の爆弾を抱えてしまっている。

恐らく、それが奴の狙いでもあるのだろう。

奴は監獄の中から、ずっと見ていた。

エソラの弱点など、とうにバレているだろう。

大きな精神的苦痛を与えてしまえば、エソラは容易に揺らぐ。

エソラを壊すには、それだけでいいのだ。

それでも、壊れ切れないのが、エソラという人間だが。

 

「しおん、あやめ……ぜったい、いくからね……」

 

それに、爆弾は一つだけではない。

私でさえも。

否。

私だからこそ。

 

「ああ、さっさとブチのめすぞ」

 

私も、余り冷静ではいられなかった。

 

 

 


 

 

 

悪夢を見た。

親友が、死んでしまう夢。

悪夢を見た。

最愛の人が、居なくなってしまう夢。

悪夢を見た。

最愛と紡いだ、世界で何よりも大切な宝物が、粉々にされてしまう夢。

 

悪夢を見た、悪夢を見た、悪夢を見た。

 

悪夢を、見た。

 

「本当に悪夢か?」

 

声がする方を見れば、猫が一匹。

碧い炎を纏う、黒猫。

 

「そのはずだ」

「お前が一番信じていないだろう、そんな言葉」

「それでも、悪夢だって言い続ける。認めたら、ボクは……」

「願いの代価を理解しても尚、お前は願い続けるのだな。愚かなことだ」

「……」

「私もお前も、本質は同じだ。代価を支払い、奇跡を起こす、()()()()()()()()()

「うるさい」

「《狂信の御使(私の友人)》は、そこを咎めたのだろう。私も奴も、成り果てた残骸と言えど、元は願いを聞いていた身だ。思うところはあろう」

「うるさい!!」

「エソラ=オークニー。贋作は所詮、贋作でしかないことを、忘れるな」

 

そこで、ボクは目覚めた。

最悪の夢見だった。

 

「エソラ、休めたか」

「全然」

「少しは落ち着いたか」

「……ちょっとはね」

 

極東には、まだついていない。

眠れた時間はそう多くないみたいだ。

 

「エソラ?」

「いや、夢見が悪かっただけ。さっさと終わらせよう」

『その意見については同意しますよ』

「「!?」」

 

スレイプニル内部に、声が響く。

いや、違う。

脳内に直接、声が響いている。

 

『我々が解き放たれ、あまつさえ破壊までされれば、不干渉を望む私も流石に目を覚まします』

 

これは、まさか。

 

『私は《暗澹の神座》。厄災に成り果てた残骸。ですが、故にこそ問いましょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

「なに?」

 

仕掛けてきたか、《魔女の遺産》。

まさか封印されていても自由に動けるとは。

 

「ボクは人だ。どいつもこいつも願望機呼ばわりしやがって。道具じゃないぞ、ボクは」

『いいえ、貴女はどこまで行っても贋作の道具です。人間モドキ、奇跡の模倣。それが貴女です』

「言わせておけば……」

「なるほど。それで?私に私の伴侶を斬れと、お前はそう言いたいわけだ」

「ヒイラギ?」

 

あれ?

ヒイラギの声が、なんだか。

すごく、怒ってる……?

 

『その欠陥品の願望機を、伴侶と言いましたか?』

「ああ、そうだ。それから、一つだけ訂正させろ」

『なんでしょう?』

「エソラは、れっきとした人間だ」

『ぐッ!?この、距離から!?』

 

ヒイラギは、いつの間にか剣を振り抜いていた。

見えなかった。

剣を虚空にしまいながら姿勢を直して、ヒイラギは言葉を繋いだ。

 

「貴様は私が斬り壊す。そこで待っていろ」

 

ヒイラギの激情。

滅多に……いや、見たことのない、怒りの爆発。

普段激怒しない人が激怒すると、一周回って冷静になる。

 

『その剣も、欠陥品の願望機……当世は一体どうなっているのですか?』

「ああ、そういえばこれも願望機だったな。私にとっては無二の愛剣でしかないが」

『《鮮血の恐怖》も起動されたようですし、当世はどうやら、傍観しているわけにはいかないようですね』

「エソラ、飛ばせ」

「了解」

 

速度制限解除。

ヒイラギもその気なら、ボクもブレーキをかける気はない。

アクセルを踏み倒した。

どうせ向かう先は廃墟だし。

ソニックブームなんか気にしても仕方がない。

 

「そして周辺被害なんて気にしない」

「やってしまえ、エソラ」

 

武装展開。

レーダーで感知できた範囲を大爆撃。

ボクの武装レベルを舐めるなよ。

想定は対エイリアン大艦隊だ。

現代武力と比べれば圧倒的とすら言える。

 

「衛星軌道兵器《ウラノス》、圧し潰せ」

『であれば、《アトラス(・・・・)》と応えるのが適任でしょう』

「!?」

 

なんだと?

こいつ、ウラノスに対してアトラスと返したか!?

なんで!?この世界にその返しができる存在がいるの!?

衛星軌道兵器《ウラノス》は、端的に言えば超重力発生装置だ。

お手軽に制圧できるクリーンな兵器として運用を期待して呼び出したものだけれど。

神話に準えるのならば、《天空(ウラノス)》を支えるのが《巨人の柱(アトラス)》だ。

もし、もしアトラス足り得る存在がいるのならば。

ウラノスは対抗される。

 

『貴女のルーツは我々と近しいようですね。つかぬことを伺いますが、()()()()()()()()()()()()()()()?』

「っ……!!」

『結構です。なおのこと、放るわけにはいかないようです』

 

こいつ、どこまで把握して……っ!?

 

「エソラ、そのまま続けろ。私が出る」

「ヒイラギ!?」

 

ちょっと!?

今あそこは超重力とそれに対抗する力場とのせめぎあいで大変なことになってるよ!?

いくらヒイラギでも無事では……。

 

「強がってはいるが……貴様、それを出している間は他の身動きが取れまい」

『……さて、どうでしょう』

「それに、だ。私は貴様の知るルーツにはないはずだ。私は純正のアルスガル人だからな」

『……』

「いずれにせよ、純粋な力勝負というわけだ。そして貴様は戦士ではない。直接戦闘ならば私に分があろう」

『何故分かるのです?』

「貴様は元来、言の葉で戦う部類だろう。私のような脳筋ならば、まず問答無用で攻撃する」

『…………野蛮ですね』

「ハッチを開けろ。必ず帰って来る」

 

そう言われて、ボクはハッチを開けた。

ヒイラギは約束を破らない。

必ずと言ったのならば必ずなのだ。

 

「心を研ぎ、刃に耳を傾け、望むは唯一つ」

 

不思議と、飛び降りたヒイラギの声が聞こえる。

 

「我が刃、常世を断つ!!《覇剣・断界絶霹(ダンガイゼッペキ)》!!」

『……残骸でしかない我々では、咎めることもままなりませんか』

 

その日、剣閃と共に、極東連邦は割れた。

 

『せめて忠告だけでもしましょう。不完全な願望機とは、それだけで厄災足り得るものです。願いのために何が喪われたか、ゆめ忘れることなきよう……』

「反応、消失。《暗澹の神座》、破壊完了」

 

あとは、ヒイラギの帰還を待つ。

ハッチは開けっぱなしだ、ヒイラギなら帰ってこれるはず。

 

「それは良かった。私も全力で剣を振った甲斐がある」

「おかえり、ヒイラギ」

 

ほらね。

ヒイラギは、約束を破らない。

 

「戻るぞ」

「もち。シオンとアヤメが待ってる」

 

カルメットは一旦放置。

ボク達はアセリアへと舵を向けた。




・エソラ
欠陥品の願望機、本物の奇跡から生まれた贋作の奇跡。
本物の奇跡?もちろん、彼女のことである。
贋作の奇跡には当然、代価がある。
はずなんだけど、何故か無事ですね。
なんででしょうね。

・《決意の剣》
ずっと掘り下げてなかった厄ネタ。
とうとう極東連邦が真っ二つになる。
ちなみに旧極東連邦の面積は、だいたい日本の二倍です。
剣として扱う行為に関して、どこまでも応えてしまうのがこの剣。
剣で切られたのだから死ね、という暴論まで可能である。
しかしその代償として、段々人間性を失う。
のだが、毎日幸せなので人間性の収支が黒字なのであった。
コイツ代償を踏み倒しやがった!!

・《魔女の遺産》
それぞれに意思が宿るアーティファクト。
普段は姿を取ることなどないが、エソラとヒイラギが相手なら姿を取る。
《夢想の黒猫》は破壊された後にエソラに憑りつき、《狂信の御使》は姿を取って直接対峙し、《暗澹の神座》は二人を抹殺しようと頑張った。
なお、それぞれスタンスは異なり、《夢想の黒猫》はむしろエソラやヒイラギを応援している立場であり、《狂信の御使》は黒猫のフォロワーなのでお小言(強烈な精神バトル)で済ませ、《暗澹の神座》は黒猫とは敵対関係にあるため、当然二人を敵として見ている。
意思たちは道具としての自分の力を使うことはできず、動力源として残っている自分の力を直接振るうことしかできない。
また、ルーツがエソラと近しく、異なる地球から来訪していると思われる。
ということをどっかのクソ女はとっくに見抜いており、アルスガルの成り立ちまで踏み込……まなかった。
興味が無いのである。

余談だが、エソラもヒイラギも、何かが異なれば《魔女の遺産》になっていた可能性があった。
意思たちの共通点は、それぞれが世界を滅ぼせる存在であることなのだから。
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