TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う   作:蓋然性生存戦略

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第五話:TS転生ヴィランロリと反抗期ヒーロー

エソラが《ブレイディア》と共に暮らし始めてから五ヶ月の月日がたったある日の朝。

 

「間違いなく、エソラの正体はこれだな。()()()()()()()()()()()が……素性を考えれば妥当か」

 

《テリトリア》は、先日のエソラとの会話で、エソラの素性を調べ上げた。

既に死亡したことになっているが、間違いなくその人物だという確信を得た。

故にこそ、先日のエソラの言葉に説得力が増すのだが、それでも、彼女は後任に踏み切るよう要請することはできなかった。

相手はあまりにも組織として大きすぎて、もし成功したとしても、禍根を残すだろう。

そのことを考えると迂闊には動けない。

そう思っていた矢先、事態は急変した。

 

『先輩、今どこですか!?』

「どうした《フィクシオン》」

『今すぐテレビ付けてください!!』

 

《テリトリア》は起き抜けに鳴らされた携帯を手に取り、後輩の《フィクシオン》に言われるがままテレビを付ける。

すると、そこには驚愕のニュースが流れていた。

 

『《ガーディアンズ》上層部の不正が多数発覚し―――――』

『ちまたでは《ガーディアンズ》解体の声も―――――』

 

それは、上層部を洗っている途中から危惧していたこと。

上層部への敵の干渉に気付いた時から、敵の狙いは恐らくヒーロー組織の瓦解。

《ブレイディア》という絶対的な象徴を排除してからの、表社会への侵攻。

それを防ぐために、《テリトリア》は後任の《フィクシオン》に手を打ってもらっていたのだが、奮闘虚しく危惧した状況は具現化し、世論はヒーロー組織の代表たる《ガーディアンズ》解体の声が上がっていた。

 

「どういうことだ《フィクシオン》!?こうならないよう手は打っていたはずじゃないのか!?」

『急に()()()()()()()()()()()()()!!相手にとんでもない因果干渉能力者がいますよコレ!!手遅れにならないように抵抗するので精一杯です!!』

 

まさしく奇襲。

だが、それでも《フィクシオン》は抵抗しているという。

であるのならば。

 

「まだ巻き返せるんだな!?」

『イエッサー!!とりあえず一時間以内にトートに行ってください!!よく分かりませんがそれで事態が好転するはずです!!』

「クソ、トートか!!こんな時に!!」

『心当たりがあるなら尚オッケー!!良いですか、今から一時間以内です!!間に合わせてください!!』

 

《テリトリア》は一分で支度を終え、バイクに跨ってトートまで飛ばす。

幸いにして、ギリギリ一時間圏内の場所にホテルを取っていた。

彼女の空間把握能力を以てすれば間に合う。

後輩を信じて、《テリトリア》はバイクを飛ばした。

 

ただそれは、エソラと《ブレイディア》のことは考慮されていないことに、気付かずに。

当然だろう。

《フィクシオン》は、知らなかったのだから。

 

 

 


 

 

 

「ま、そういうこったろうと思ったよ」

 

朝のニュースを見て、ボクは純粋にそう思った。

だから言ったのに。

でも、そう簡単には動けないか。

まあまあ、慌てない慌てない。

手順、間違えるからね。

 

おねーさんが起き出す前に、コーヒーの準備でもしてあげよう。

なんとなーく、来客がある気もするし。

ついでに自分の朝食も作るか。

と言っても、ただのトーストなんだけど。

コーヒーを三人分、テーブルにおいて、と。

 

「すまないエソラ!手を貸してくれ!!」

 

ほら来た。

やれやれ、ヒーローってのは世話の焼ける人間ばかりなのか。

なんてね。

 

「クックック、天下のヒーローがヴィランに助けを乞うなんて、無様だねぇ!!」

「言ってる場合か!!」

「まあまあ、落ち着きなよ。コーヒーでも飲んでさ」

「いや、そんな場合では……」

「なに、そのコーヒーで世界が変わるかもしれないよ」

「……いただこう」

「素直でよろしい」

 

確か《ガーディアンズ》には《フィクシオン》がいる。

名前の通り、このヒーローはフィクサーである。

因果干渉能力。

世にも珍しい概念に直接干渉する能力だ。

主な仕事は裏方。

《ガーディアンズ》、ひいては社会全体の巡り合わせをよくすること。

彼に欠点があるとすれば、未来を見ているわけではなく、この時こうすれば自分たちの巡り合わせが良くなる、程度の事しかわからない事だろう。

とは言え、その効果は絶大であり、縁の下の力持ちと言っても過言ではない。

一も二もなくボクに助力を乞うたということは、もしかしなくても、かのヒーローの進言だろう。

むろん、ここに来れた時点で事態は好転している。

 

「いや待て、なぜコーヒーが三つ用意してある」

「そんな気がしてね。で、用件は例のニュースでしょ?はいこれ」

「これは?」

「幻楼院が今回企てている計画の全容の原本。証拠付き」

「はッ!?」

 

何故ならボクがいるからだ。

全く、アイツらは仕事が完璧すぎるから、ボクにとっては隙になっちゃうわけで。

 

「奴らは証拠も計画書もこの世に残さない。だからボクの異能の範疇だ」

 

この世に存在しないんだもんねえ!

じゃけんボクが作っちゃおうねェ~~~!!

捏造?知るか。

 

「いや、捏造なのでは……?」

「いーやこれは本物だね。なぜならこれはかつて存在したから」

「……その理屈は通るのか?」

「通せるでしょ。何のための《フィクシオン》なのさ」

「いいだろう。だがいいのか?貴様は死んだことになっているから今の生活があるのだろう?これを出せば貴様の生存は明らかになる」

「いーのいーの。どーせあいつらもボクが死んだなんて微塵も思ってない。表立って敵対しないから今は放っておいただけ。うまいこと使って公権力でズタズタに引き裂いてあげて」

「感謝する」

「別にいいよ。ボクが小悪党であるためには、世の中は平和でいてくれた方が良いんだ。前にも言ったけどね」

「それはそれとしていつか捕まえる」

「おうやってみろストーカー女」

 

渡すものは渡した。

《テリトリア》をアジトから叩き出して、おねーさんの分の朝食も作り始める。

今日のおねーさんの朝ごはんはベーコンエッグよ~~。

 

「……おはよう、エソラ。《テリトリア》が来ていたようだが」

「用件は済んだから帰しちゃった。急いでたみたいだし」

「そうか」

 

のそのそと起き出したおねーさんを横目に、チャンネルを変える。

軽快な音楽が流れだし、朝の空気感を上げてくれる。

 

「彼女の用件は?」

「大したことじゃないよ。ちょっと書類を頼まれただけ」

「書類……?」

「この世にはもう存在しないはずの書類だけどね」

 

ほい、ベーコンエッグ完成。

おあがりよ!

 

「ありがとう」

 

さ、て。

はぁ。

これから先が怖いね。

ボクが生きていることを事実上公表する以上、あいつらは本気で血眼になってボクを探すだろう。

例え公権力に追われていたとしてもだ。

ボクさえ手に入れれば、巻き返せると思ってるから。

そしてそれは事実だ。

全くやれやれ。

ああは言ったけど、ボクが小悪党でいられるのはあとわずかかな。

どこかで区切りをつけなくちゃ。

区切りをつけて、どこかで終わらせなくちゃ。

 

あーあ、楽しかったのにな。

でも仕方ないよね。

楽しいことには終りがある。

 

「でも、やだなあ」

 

つい、口から零れる本音。

あいつらさえいなければさ、もうちょっと時間は続いたはずなんだ。

おねーさんと、バカみたいにはしゃいでさ。

 

「どうした、エソラ」

「ううん。なんでもない」

 

本当は、あいつらを消すことは簡単だ。

ヒーローの手を借りなくても、公権力の力を振りかざさなくても。

ボクが本当の意味でヴィランになればコトは済む。

宇宙戦艦だのデス〇ートだの作って殲滅すれば良い。

ただ、勇気が出なかっただけ。

ちょっと勇気を出して、知らんぷりをすれば……ボクは小悪党でいられた。

 

結局、ボクは半端者なのだ。

ボクは、弱いから。

そんな単純なこともできやしない。

あの時だってそうだ。

ボクは、何もできやしない。

 

「小悪党生活もそろそろ終わりなんだなって思ったら、悲しくなっただけ」

「……」

「でもいいんだ。いつまでも続くとは思ってなかったし?現エソラというヴィランも閉業するだけ。大丈夫だよ」

 

弱さゆえに、ボクは流されるのだ。

おねーさんを拾った、あの日のように。

 

「そうか」

 

そう、思っていたのに。

 

「なあエソラ」

「なぁに、おねーさん」

「どうやら私は今反抗期に入ったみたいでな」

「なにさ、いきなり」

「全力で幻楼院を潰そうと思う」

「なんでさ!!」

 

おねーさんいきなりなんか言い始めたんだけど!!

 

「そしたら晴れて私もヴィランだ。一緒に逃げよう」

「ちょっと待て。お前何言ってるのか分かってんのか」

「久しぶりにキャラが崩れたな?そちらが素か?」

「やかましい!お前、自分から人殺しするって言ってるんだぞ!分かってんのか!?お前仮にも元ヒーローだろ!?」

 

茶化すように聞いてくるけどこっちは真剣だぞ。

おま、おまおまおまえ!!

そんなのもうプロポーズじゃん!!

バッドエンド系のプロポーズじゃん!!

なんて思っていたら。

もっと衝撃的な言葉が出てくる。

 

「キミこそ分かっているのか?ヒーローなんてものはな、()()()()()()()()()()()

「っ!!」

 

本当に、衝撃的だった。

おねーさんの口から、そんな言葉が出てくることが。

なぜ、どうして。

 

「まあ、大体キミに紹介してもらったゲームで理解したことなのだがな」

「ボクのせいかよ」

「ほら、FPS対戦ゲームでよくあるだろう、MVP」

「あるね」

「よくよく考えたらな、ヒーローも大して変わらないことに気付いてしまってな」

「誰だよFPSなんかおねーさんに紹介した奴」

「キミだが?」

 

そうだね、ボクだね、クソッタレ!

こんな形で自分の首を絞めるとは!

それでもおねーさんを止めようとボクは足掻く。

 

だが。

 

「それにな、エソラ」

「なんだよ」

「キミと私が組めば何事もうまくいくだろう?」

 

純粋に、そう思っている目。

自分が暴れても、ボクが何とかできると信じている目。

ふざけるな。

なんだそれは。

なんでボクをそこまで信じるんだよ。

一応ボクは悪党だぞ。

 

「キミは私に多くを気付かせてくれた。その事実はキミがヴィランであるという事実と同じように揺るがない。だから、私はヴィランでありながら私を変えてくれたキミを信じている」

 

……全く、人を口説き落とすのが上手いおねーさんだ。

 

「じゃあ、おねーさん」

「なんだ?」

 

『当機構、決戦隔離結界タルタロスにおける《ブレイディア》のクリアランスレベルを3から5へ変更』

 

「ボクの工房へ案内するよ」

 

そして、ボクの諦観を殺してみせて。

 

 

 


 

 

 

現エソラと言う少女は、外見不相応に理知的だが、しかし同時に外見相応の反応を見せることもある。

今がそうだ。

怯えている。

震えている。

持ち前の理性で抑えてはいるが、私がそれを見逃せるはずがない。

ああ、どうしたって私は見逃せない。

見逃せないことを、私は思い出した。

 

そうだ。

最初はただ、目の前の泣いている子供に、手を差し伸べたかっただけだった。

 

「でもいいんだ。いつまでも続くとは思ってなかったし?現エソラというヴィランも閉業するだけ。大丈夫だよ」

 

そんなわけない。

いや、ヴィランであることには言いたいことがあるが。

大丈夫なわけがない。

だって、手をそんなに握りしめて、何かに耐えている。

それなのに、何もしない私でいるのは、嫌だった。

だから、手を伸ばす。

手を掴む。

多くを教えてくれたこの少女の手を、私は離さない。

 

その気持ちは伝わったのだろうか。

 

エソラは、今まで見せてこなかった工房に、私を招待した。

足を一歩踏み込めば、そこには私の想像を絶するものが、そこには並んでいた。

 

「おねーさんが熱心に口説くから仕方がない。昔話をしようか。なにから話そうかな」

 

幾億の星。

無数の虚数。

 

「とは言っても、ボクの生い立ちを話す方がいいだろう」

 

この世ならざる存在のうねり。

存在を許されない永劫の嘆き。

 

()()()()()()。幻想を現実にする、そんな馬鹿げたプロジェクトの唯一の成功例」

 

キャンバスの裏側に押し込められた、線画の数々。

ああ、そうか。

キミの異能は……

 

「この世ならざる存在たちに、存在するという例外を与える能力」

 

作り出していたのではない。

存在しない存在を、呼び出していた。

エソラが、リンカが用意するのは、条件を満たす存在を通すゲートだけでいい。

だからこそ。

 

「正解。現在(いま)にあってはいけないもの。過去(きのう)抹消されたもの。古今東西(みらいえいごう)存在を許されないもの。空想でしかないもの。ボクはそれらを描き出し、『存在証明』という形で例外を下す。今まで作るとは言っていたけど、正確にはゲートを作ってたのさ」

 

だからこそ、この子は『道具』しか出してこなかった。

徹頭徹尾、人の手で制御できる範囲でしか、能力を使ってこなかった。

この子に宿った良心が、この滅びの塊を、封じ込めていた。

 

「でもね、このボクもまた、例外を許された存在なんだ」

「なに?」

 

待て、どういうことだ。

 

「ことの発端は、大乱の発生にまで遡る。おねーさんが頑張って収めたアレ」

 

「さしもの幻楼院も、アレには肝を冷やしたみたいでね。強力なエイリアンの軍勢を撃退する手段を考えた。それが、このプロジェクトの始まり」

 

「けれどもおねーさんが頑張ったおかげで、幻楼院リンカが完成して、実際に運用される前に、大乱は終結した」

 

「でまあ、あいつらバカだからさ。幻楼院リンカを今度は世界征服に使おうとしたわけ」

 

「でも、当時の彼女は完成したとは言っても安定はしていなかった。だから、安定化を図るために非道な実験が行われた。投薬は序の口。精神干渉や人体改造の類も行われたらしいよ。ボクはそれを記録としてしか知らないけどね」

 

語り口が、おかしい。

エソラの生い立ちのはずなのに。

まるで他人の記録を読み上げるような。

 

「おかしい。何故キミの生い立ちなのに、そんな他人事なんだ」

「だって、ボクは例外的に認められた、()()()()()()()()()()だから」

「っ!!!!」

 

まさか。

そんなことがあっていいのか。

いいはずがない。

だが、奥に見えるそれが、否が応でも現実を突きつける。

 

「現実に描いた絵空事。存在するはずのない代替品。彼女の血を絵具にして産まれた、血塗れの子(ブラッドボーン)

 

「彼女が最後に望んだ、最初で最後のオトモダチ。本物と遜色ないニセモノの幻楼院リンカ」

 

「それがこのボク、現エソラの正体さ」

 

理解してしまう。

エソラは陽の光を浴びて生きていけない。

本人がそう思っていない。

心臓にナイフを刺された、エソラと瓜二つの遺体。

不思議と、腐敗の進んでいない、綺麗な死に顔。

それを撫でながら、エソラは言う。

 

「ボクと言う存在の真実が露見すれば、なおさらアイツらの活動は激化する」

 

それがなぜか。

分かる、理解できる。

この工房を見てしまったら、理解せざるを得ない。

 

「ボクと言う例外処理を知られてしまったら、おねーさんの代替品を作れとか言われるだろうね?」

 

ああ、そうだろう。

()()()()()()()()ならば、呼び出せるのだから。

 

「だからね、消えるつもりだったんだ。そう遠くないうちに」

 

だが認められるわけがない。

私は、キミの手を取りたい。

 

「万が一にも、ボクと言う存在が捕まるリスクはなくしたいから」

 

生きていて欲しい。

私に活力をくれたキミが、消えなければならない理由など要らない。

 

「でも、そんなボクにおねーさんは言うんだ。プロポーズまがいの言葉で。一緒にいようって」

 

エソラは、幻楼院リンカの遺体をどこかへしまい込み、私に向き直る。

まるでこれから、私に挑むという風に。

 

「ボクは消えた方が良い。それでもおねーさんは、一緒にいようって言うの」

「当然」

「大のために小を棄てず、ボクを選ぶんだ。ヒーロー失格だね」

「ヒーローはやめたからな。それに……ここでキミを見捨てたら、私は今度こそ立ち直れない」

「我儘な人」

「そういうキミは身勝手だ」

 

エソラの周囲に、武具が集まる。

奇遇だな。

私もそれで話の決着を付けようと思っていた。

 

「「仕方がない、殴って雌雄を決めようか!!」」




・幻楼院リンカ
非存在具現プロジェクト唯一の成功例。
既に死亡済み。
割と最近まで生きてたが、おねーさんが来る二週間ぐらい前に死んでいる。
八年前にエソラを産み出し、一緒に幻楼院の研究施設から脱出。
八年の逃亡生活を共に過ごしていたが、逃亡生活に疲れ果て、エソラに介錯されて息を引き取る。
地獄のような研究施設から逃がしてくれる誰かを求めて、血の滲んだ指で必死に呼び出したのがエソラ。
TS転生した挙句状況が意味不明ながらも手段を択ばず頑張ったので逃げ果せることはできた。
ただ、その後の生活でメンタルを回復することが出来なかった。
それだけなのだ。
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