TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う   作:蓋然性生存戦略

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大変お待たせしました
案の定熱がぶり返してました。
うごごごごご……。


第五話:TS転生ロリババアの窮地

「ヒイラギ。先日旧極東連邦の土地が物理的に真っ二つになったと聞いたんだが、関与してないよな?」

「私が斬った」

「そうか……」

 

あの日、現場にいたヒーローの身体検査を一通り終えた後。

一日ほどして、ヒイラギとエソラが帰って来た。

ヒイラギはそれほどだが、エソラは見るからに疲弊しており、すぐにシオンがいる病棟へと案内した。

少しでも回復してくれればいいが……。

シオンのいる病室への道中、私はヒイラギと話す。

 

「状況は」

「前に伝えたとおりだ。奴はまだ動く気が無いらしい。とはいえ、お前たちが来たからには、何かしらの行動を起こすと見ている」

「だろうな」

 

また一歩、人間をやめたヒイラギはさておき。

どうにも奴の狙いが読めない。

 

「エソラ、あの船に心当たりは?」

「ある。問題は、心当たりがあるということなんだ」

「……まさか」

「そう。アレはボクだけが知る世界の産物。空想に産まれた巨神船。あんなものが真っ当に建造できるはずがないんだ」

「ということは」

「十中八九、あの女はボクの異能を模倣している」

 

そこに、頭の痛い問題も追加されている。

ログを見て半ば確信していたが、確定事項となってしまった。

由々しき事態だ。

 

「さらに問題があるとすれば、模倣したのがあの女ということでもある」

「それは当然では?」

「多分ボクと他の人じゃ認識に齟齬がある。『幻楼院リンネが危険だから』じゃない。『幻楼院リンネに観測する力がある』のが問題なんだ」

 

その言い方をするということは。

そういうことか。

 

「……例外存在の中には、見るだけで影響を及ぼすモノがあるんだな?」

「そう。ボクだって、危険過ぎて『そういう存在がいる』という記憶しか残していない。危険な記憶処理を自分に施してでも封印している」

「お前が20年前に解き放ったものよりも危険なのか?」

「最終的な被害で言えばどちらにしろ人類は滅ぶ。問題は、認識というトリガーで発生する被害の早さだ」

「それは……」

「極論、あの女のアプローチ次第では簡単に世界が滅ぶ」

「そこまでか……」

 

自分の能力を知っているからこそ、相手にその力が渡っているという事実の恐ろしさを実感しているのだろう。

我々には、想像でしかその力の強大さを測ることができない。

いや、エソラでさえ、全容は把握しきれていないのかもしれない。

エソラは良心を備えている。

そうであるが故に、エソラは自らの能力に制限を掛けている状態だ。

自分が扱い切れる範囲のものでしか、エソラは具現化しない。

裏を返せば、エソラは自らの全力を出し切ったことがないとも言える。

 

「今すぐにでもトートを絨毯爆撃してあの女を始末したいけれど、今はシオンの安否が先だ。自分の目で確かめないと安心できない」

 

そう言ったエソラの眼は、危うく見えた。

 

 

 


 

 

 

病室に着いた時。

それは動き出した。

 

「エソラ」

「……今動くのか」

「安否は確認できた。私は出る」

「ボクも行くよ」

「ママ、母さん……」

 

巨神船に動きがあった。

私はすぐに出撃に動き、エソラもそれに続くようだ。

まあ尤も、それは許さないが。

 

「エソラ、休め」

「いやだ。あの女の清算を、ヒイラギだけに任せるわけにはいかない」

「キミは限界だ。私でなくともわかるほどに」

「……それでもっ!がっ……!?」

「「母さん!?」」

 

私はエソラの首筋に一撃を入れて、昏倒させた。

十分に手加減はした。

万全の状態ならば対応できたはずだ。

だが、反応すらできていなかった。

反応速度だけで言えば、私に追随するエソラが、だ。

精神的な疲労は言うに及ばず、ここまでの強行軍で体力も消耗している。

元より、エソラは体力が多い方ではない。

ここらが限界だ。

 

「すまないが、二人とも。エソラを見張っててくれ。疲れ切っているくせに這ってでも出撃しようとする大馬鹿だからな」

「お前がそれを言うのか、ヒイラギ?」

「私だからこそだ。それに……エソラには気絶してもらっていた方が都合がいい」

 

子供たちにエソラの事を頼むと、《テリトリア》が私を揶揄するように言ってくる。

アレからもう30年か。

《テリトリア》も老けるわけだ。

 

「今失礼なことを考えてなかったか?」

「いいや?それより、頼んだぞ。あの船は私が必ず撃墜する。後ろは任せた」

「ああ、任された」

 

そうして、私は出撃する。

そういえば。

久しぶりに一人で出るな。

こうも心許なく感じるのは、なぜだろうか。

かつてはそれが当然だったはずなのに。

 

「リンカ。聞こえているかは知らん。エソラを頼んだ」

 

守るモノが増えたからか。

それとも、一人でない時間が増えたからか。

いずれにせよ。

ある意味では、私は弱くなったか。

すっかり姿を見せなくなった亡霊に、縋りたくなるほどに。

 

さて。

 

戦いの前の祈りは済んだ。

一度跳んで、空中でもう一度跳ねる。

跳んだ衝撃で、建材などに罅が入らないように。

そして加速する。

私は既に、一歩で音を置き去りにする。

あの巨体では、小回りの利く私を捉えることは敵わない。

故に。

 

「《唯・一文字》ッ!!!」

 

ただ一振り。

それだけで、今の私には十分過ぎる。

私は、船の真正面から両断した。

 

爆発音と爆風、雷鳴のような轟音を立てて、巨神船は落下していく。

かつて、空を覆わんばかりのエイリアン大艦隊を斬り続けた私だ。

この程度では止まらないことは分かり切っているはず。

ならば、あの女は次の手を既に動かしている。

例えばそう。

 

()()()()()

「効かんッ!!」

 

強烈な一撃を、不意打ちでいれてきたり、などな。

 

「流石は最強と褒めてあげたいわね。ヒイラギ=オークニー」

「世辞は要らん。お前を制圧する」

「ふふ、怖い怖い」

 

だが、なんだ。

幻楼院リンネの、この余裕は。

 

「そろそろかしらね」

「何がだ」

「あの娘が大切なのでしょう?なら、ちゃんと後ろも見た方が良いわ。忍び寄っているのは私だけではないのだから」

「……貴様、何をした!!」

「私は何もしていないわ。私はね。ただ、《非業の天命》がうるさかったのよ。あの願望機に会わせろってね」

「っ!!」

「今頃は曾孫たちの病室に辿り着いてる頃合いかしら。もちろん、アナタには私と踊ってもらうわ」

「そうか……」

 

私がここに来ればいい。

後は足止めすれば良い。

こいつにとって、それくらいは余裕だろう。

 

「ならば、捕縛のための手心など加えられんな」

「ふふふ……武者震いがしてくるわ」

 

捕縛など言ってられん。

 

殺す。

 

「いいわ、その眼。その顔が見たかったの」

「これほど殺意を抱くことは、そう多くは無いのだが。いよいよヒーローとは呼べなくなってきたな、私も」

 

 

 


 

 

 

『いやっほーぅ!こーんにーちわー!!』

 

何が起きた。

ボクは、()()()は……ぁれ?

自分は、誰?

 

「――て、――きて!起きて、ママ!!」

「ぁ……?」

「ダメだ、やっぱボロボロだよ!」

「チッ……私が殿を務める。エソラを連れて逃げろ」

『って、あれ?願望機ちゃん寝てる?マジか……』

 

違う、ボクは、願望機じゃ……そうだ。

ボクは、エソラ=オークニー。

それ以外の何者でもない!!

 

「らぁ!!」

 

ケラウノス、限界出力!!

 

「エソラ!」

『お!起きた起きた!!よっし遊ぼう!!』

「知るかぁ!!」

『ちぇりおーーー!!』

 

なんだこいつ。

雷霆を拳で相殺しやがった。

 

「ママ、下がって!!」

「前衛は僕らの仕事でしょ」

「若造共の言う通りだ。下がれエソラ」

『愛されてるね。それは願望機とは関係ない、君自身が紡いだ絆だ、大事にしなきゃいけないよ』

「言われずともっ!!」

『だったら君はつべこべ言わず逃げるべきだったんだ。私は、()()()()()の中でもフィジカルがトップでね』

「はやっ……!?ぐっ……」

 

こいつ、ヒイラギに準ずるか同じくらいに速い……!?

首を掴まれた。

首が、締まる……!!

 

「そのクソガキを離せ!!」

『うぉっと』

 

《テリトリア》のカバーで、間一髪。

相手が低身長だったおかげで、転げまわることもなく着地。

ボクが寝ている間に何が起きたんだ全く。

髄液くんで迎撃を続行。

こいつをシバく!!

 

「ハイドラグラム!!」

『重さが足りないねえ!!』

 

嘘だろ。

拳ひとつで弾かれた!?

 

『うーん、今一つ足りないね。黒猫のバックアップを受けてるわけでもないみたいだし……』

「《唯・一文字》!!」

「《天の鎖》!!」

「《領域封鎖》!!」

「千手ファ〇ネル!!」

 

なら飽和攻撃で!!

 

『もう良いよ』

「っ、アイギス!!」

 

あり得るはずのない反撃。

咄嗟に盾で受け、無効化を図る。

けれども、衝撃までは殺し切れず、ボクは病棟から外に投げ飛ばされた。

 

「あっ……」

 

ここは七階。

普通に落ちれば死ぬしかない。

神話礼装のフル活用で体勢を立て直し、ボクは地上に降り立った。

しかし、肉体へのダメージがバカにならない。

どれほどの威力で蹴飛ばせば余波でこうなるのだか。

幸い、骨が折れるまでは至っていない。

まだ戦える。

ペンを握れ、手を動かせ……!!

 

「こうなったら……!!」

 

あれに対抗できる英雄を、今ここ、で……ぁれ?

それって、()()()()

 

『キミ、今もうこっちで産まれる前のこと思い出せないでしょ』

「そんなはずは……」

 

おかしい。

ボクは地球からの転生者で……。

でも、ボクは地球で、なにしてたっけ?

あれ?

 

『少なからず破壊による汚染は受けてたってワケ。愛されている君は、今もどこかで誰かが守ってくれているんだろうけど、この世ならざる記憶までは守り切れなかったみたいだね』

「っ……」

 

汚染?

何のことだ?

ボクに異常がないかなんて毎日チェックしているはずなのに。

 

『まあ元凶の一人である私が言及するのもアレだとは思うんだけどさ。やめておいた方が良いよ。君が壊れちゃう』

「……」

『実際には、もう壊れかけてる。無理に破壊を強行するからだよ』

「余計なお世話だ。そうでもしないと、子供たちが安心して暮らせないだろ……!」

『つれないなあ……でも、《夢想の黒猫》が気に入る理由も分かるかな。君は頑張れちゃう子だからね』

「そこを退け。無理に壊すなというのなら退くのもやぶさかじゃない。だけど、幻楼院リンネだけは……!!」

『ああ、あの女か……度し難いよねえ、ホント。でも私は君に用がある』

「……そうかよ」

 

あくまでやり合おうってか。

やってやろうじゃねえかよこの野郎。

今すぐにでもその首取ってやらぁよ……!!

 

そう、意気込みたかった。

 

『ま、意気込むのは良いんだけどさ。大事な人たちを放っておいていいのかな』

「っ!」

『ちょっと来てくれる?悪いようにはしないからさ』

「……」

 

視界の端に、倒れ伏している3人がいた。

敵を挟んで、その向こう側に。

 

詰んだか。

 

「……あの子たちに、手は出さないんだな」

『もちろん』

 

ボクでは勝てない。

知らないうちに弱体化している今のボクでは、決して。

従うしか……ない。

 

『うんうん、聞き分けの良い子は好きだよ。さ、て……君は、いつまで寝てるのかな

 

ボクの意識はここで途絶え……。

 

 

 

代わりに、()()()()()()()

 

 

 


 

 

 

衝撃から目を覚ますと、ママが投降したところだった。

つい先ほど現れた敵を挟んで、向こう側にいる。

ああ、そうか。

足を、引っ張ってしまったのか……。

敵は、ヴィランはママの顔を引き寄せて、額と額をくっつけて、こう言った。

 

君は、いつまで寝てるのかな

 

その瞬間、ママの雰囲気が変わった。

 

「なんだよ。せっかく気持ちよく寝てるんだから起こすなよ」

 

違う、アレはママじゃない。

ママの身体を奪った何かだ。

 

「やりすぎ。殺すよ?」

 

声は平坦なものだ。

だけど、だけれども。

その重圧は、怒り狂ったママの比ではない。

一体どうすればこんな重圧が出るというのか。

 

『あは、やっぱりだ。表と裏で乖離してる。』

「……わたしも『ボク』だ。根っこの願いが同じである以上、邪魔しないでほしいんだけど?」

『だめ~。過負荷で凝縮された負の側面である君を放置するわけにはいかないんだよねえ』

「お代はお前の器でいいか?」

『良いよ。どうせリンネは私を使いこなせないし?』

「ハッ、笑える」

 

ママが決してしないような、肉食獣のような笑み。

挑戦者としてのそれではなく、食物連鎖の頂点に立つ獅子のような。

 

「やるならやろうよ。場所は変えるけど」

『良いよ』

 

そのまま、ママの身体を奪った誰かは去ろうとする。

()は動けない。

《テリトリア》も。

それでも、立ち上がって動こうとした矢先。

 

『どこか行っちゃうのは勘弁してくれない?』

「……嘘でしょ」

『うそーん』

 

現れたのは、リンカ姉だった。

ママと同じ構えで、ママと同じ背中を見せて。

 

『友達が悲しむ顔は、見たくないの』

 

少しだけ震える声で、そう言い放った。

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