TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
校閲が間に合わず_( _´ω`)_
多分、親しかったのだと思う。
『久しぶり、えっちゃん』
「リンカ……?ありえない……」
でなければ。
豹変したママが、苦しそうな顔をするはずもない。
『えっちゃん……いや、
「……っ」
『……予定が狂っちゃったな。やってくれたね』
『えっちゃんを本格的に壊そうとするなら邪魔するよ。えっちゃんを隔離して周りから削る。気付いた時には全部が手遅れ。トラウマを再燃させて壊そうとしたんでしょ?』
『ちぇ、バレちゃってるかあ。理性が程よくトんでる今がチャンスだと思ったんだけどなあ……』
ママを、壊す?
多分、物理的にじゃなくて、精神的に?
トラウマ?
「いずれにしろ、ヒイラギの加勢に行かないとだし?手段は選んでられないよね。まとめて相手してあげる」
『待って、えっちゃん!シオンくんとアヤメちゃんは……!?』
「幻だよね、全部」
『えっちゃんッ!!』
とっさに、リン姉が庇ってくれた。
ケラウノスによる一撃。
間違いなく、無差別な範囲攻撃だった。
改めて理解した。
今のママは、ママであってママではない。
『えっちゃん、怒るよ!大切じゃなかったの?!』
「大切だよ?」
『じゃあどうして……!!』
「だって、リンカがいるのがありえないんだ」
『え……?』
「リンカは死んだ、もういない。なら、わたしは精神干渉を受けているんだよね?」
『……っ』
「その二人も幻じゃないとは限らない」
リン姉、死んでるの?
いやまあ、確かに実体が無いなとはずっと思ってたけど。
「そういうの、防ぐアイテム付けてるんだけどな。どうやって破ったんだろ」
『違うよっ!私はっ……!!』
「とりあえず、手当たり次第に壊してみるかな」
『やめてっ!』
ママは、手当たり次第に破壊行動を始めた。
襲ってきた敵も、リン姉も、
避難の済んでいないありとあらゆる施設を。
『うげ、要らんことしたか。これじゃ先に私がやられちゃうよ』
『シオンくん、アヤメちゃん!私の後ろに!《テリトリア》も一緒に……!!』
リン姉はアイギスや他の防御手段を用いて必死に防御しているけれど、その背中に余裕が無いのは簡単に見て取れた。
『思った以上に拗らせてる……どうしよう、このままじゃ……』
しかし、周囲の被害も抑えるとなると、難易度は急激に上がる。
ママの本気の攻撃力は、並大抵の防御では防げないからだ。
ママは常々、母さんには勝てないと言い続けている。
けどそれは、裏を返せば『母さん以外には勝てる』ということなのだ。
それだけの力が、ママにはある。
『これだけは、これだけはしたくない……けどっ……!!』
リン姉はとても苦しそうな顔をして、決断を下したようだった。
『えっちゃん、ごめんッ……!!《
リン姉が腕を振ると、ママは消えていなくなった。
どこかに隔離したんだろうか……?
『うわ、無茶するね。下手すると存在そのものが無かったことにされかねないのに』
『
どういう意味だろうか。
けど、リン姉の顔を見るに、絶対にやりたくなかった手段だということは分かる。
「……あれは……幻楼院リンカ、か……?」
幻楼院……?
幻楼院?!
つくづく、縁があるというか……。
今度問い質さないと。
「……リンカっ……エソラを、どうした!!」
『一時的に例外規定を凍結したの。これ以上、えっちゃんに望まない事をさせるわけにはいかないから』
「保証はっ、あるのだろうな……!?」
『私が消えなければ』
「なら消えるな……!私も助力しよう……!」
《テリトリア》が立ち上がってきた。
もう全盛期ほどの身体能力も体力も残っていないのに。
だったら、
『はぁ……つまんない。アレを壊せば、黒猫が依り代を持って顕現すると思ったのに』
『させない。えっちゃんに、
『まあいいや。腹いせに、付き合ってくれるんだよねえ?』
あの恐ろしいほどに肉弾戦に長けた存在を、退けるために。
『できれば逃げて欲しいんだけど』
「逃げられないよ。逃げるわけにはいかない」
「逃げたらママと母さんの子だって誇れない」
「もとはと言えば私にも責がある。働こうか」
コスチュームはない。
けどそんなもの必要ない。
異能とは、本来そういうものだから。
『じゃあ、遊ぼうか?』
死の舞踏が、始まった。
私が幻楼院リンネ相手に
突如として、それは起きた。
「っ!?」
エソラの気配が、消えた……!?
「あら?あの娘が見えなくなったわね」
「貴様の眼からもか……」
尋常ではない。
どういうことだ。
私にそういった異能はない。
しかし、エソラの気配は、いつどこにいても感じられた。
だが今はそれが全く感じられない。
何も、分からない。
「エソラ、どこに行った……」
「案外、この世から消えてしまったのかもしれないわね」
苛立たしい。
エソラが勝手に消えることはない。
暴走癖はあっても、勝手にどこかへ行くようなことはしないのだ。
つまるところ、何かされたとみるべきか。
この状況を早く打開しなければ、何かが手遅れになる気がした。
なにか、なにかないか。
「……それはそれとして、随分と数を増やしたな。自己の境界はどうなっている」
「「「新しい境地に達したのよ」」」
「「「「全にして一、一にして全」」」」
「「「「「我が名はレギオン、大勢であるが故に、なんてね?」」」」」
要するに。
こいつは自己を群体として認識し始めたのだ。
全て根絶やしにしなければ、いずれ復活する悪夢として再誕したわけだ。
何がどうなってそうなったのかは知らん。
だが、その頭脳は一体一体が変わらない性能を持っているように見える。
それでいて意思を統一できている。
怖ろしいことこの上ない。
巨大な演算機構に等しい。
その力は、疑似的な未来予知の領域にもどっぷり浸かり、そのバカげた演算能力を以て、エソラの異能の産物の再現に成功したのだろう。
幸いなのは、産物の再現でしかない事。
つまり、奴はエソラの異能そのもののコピーは行えていない。
まだ打つ手はあると見える。
尤も、今はまだ、というところだが。
長年、剣を振るって分かったことがある。
この剣は、振るうたびに、私の人間として大切な何かを削っていく。
振るわずとも、微かに何かを削っていく。
そのなにかは、確かに存在していて、同時に消費と同じように補充することもできる。
補充の条件は分からない。
いや、分からなかったというのが正しい。
だが今分かった。
私の幸福から生まれる人間性。
それが代価であり、エソラのいない世界は、私にとってこの剣を振るい続けるほどの幸福を得られない。
私は今、急激に人間性が削れていくような感覚に陥っている。
今はまだいい。
何十年と過ごした幸福が、私を支えてくれる。
だが、長くは続かないだろう。
この剣は大喰らいであるために、30年前のように、エソラと出会う以前のように。
私はまた、道半ばで果てるのだろう。
そうなる前に。
取り戻さなければなるまい。
であるのならば。
今こそ願おう。
かつて、エソラはこの剣を『不完全で限定的な願望機』と呼んだ。
ならば、願えば叶うのだろう。
その代価に、何を支払おうとも。
「《決意の剣》よ。今ここに願おう。私に力を寄越せ」
「……流石にまずいわね」
この女を、斬る。
放課後の鐘が鳴る。
外は、生憎の雨。
折り畳みしか持ってきていないから、少し濡れるかもなあ。
梅雨時だもんね、仕方ないね。
いつも通りの日々。
いつも通りの帰路。
中学最後の夏休み前。
少し遅れて帰る癖のあるボクは、それを見てしまった。
幸か不幸か。
偶然か必然か。
幼馴染の
打ち所が悪かったのか、突き飛ばされた生徒は動かない。
ああ、可哀想に。
なんて、感想は浮かばなかった。
そいつは、蓮璃をイジメていた主犯格だったから。
狡猾なことに、実家が太いボクの事はイジメてこなかったし、ボクのいる可能性がある場所では尻尾を見せなかった。
「縁渦……見ちゃったんだ」
けど、結局死んだ。
蓮璃の震える声。
不安そうな顔。
今にも泣きそうな目。
「見ちゃったねえ……反撃とは中々」
「そうじゃないでしょ」
「……どうする?口封じでもしてみる?」
「馬鹿言わないでよ……遺書でも残して、どこかに消えるよ」
「泣き虫のくせに、一人で耐えられる?」
「来てくれるわけでもないんでしょ?」
「良いよ?別に。人生棒に振るより、友達見捨てる方が寝覚めが悪いや」
ボクは、努めて笑顔で、彼女の手を取った。
死出の旅を、恐れぬように。
どうせ、普通に生きて普通に死ぬ人生だ。
だったら、短くて劇的な人生の方が、きっと楽しい。
友達が隣にいるなら、もっと良い。
「人生最後の旅をしよう。どうせお互い、家に親がいないしさ。家からありったけ貰って、楽しい最期にしようよ」
「……クス。なにそれ」
「悪くないでしょ?」
でも。
そんな最後の旅で。
ボクが生きる理由になれたのなら。
それに勝ることはない。
だから、一杯楽しいことをしよう。
美味しいものを食べて、映画なんか見たりして、綺麗な場所を巡ってさ。
「制服は目立つし、さっさと帰って準備しよ?」
最後にそれを選ばなくても、別にボクはどうもしない。
ただ、悲しむだけだ。
「縁渦って変だよね」
「そうかな?そうかもね」
そして、ボクたちは二人で手を取り合って……『ザザ……』
『回想はここまでのようだな』
視界にノイズが走って、真っ暗になる。
ああ、そうだ。
そうだったね。
これは、
よく覚えてなかったけど、鮮明に思い出した。
思い出しているのかな。
リンカを助けたかった理由を。
『助けられなかったのか?』
ふと、声がした。
視線を動かすと、碧く燃える、二又の尾を持つ黒猫がいた。
声の主は、きっと彼女だろう。
応えることにした。
「生憎とね。
ボクは彼女の生きる理由にはなれなかった。
一緒に逝く付き人にもなれなかった。
何も出来なかったんだよ」
『悔いているのか?』
「さぁ……。
どうして今、ボクがこんなことを思い出しているのかすら分からないし。
この旅路の結末は、ボクという引き籠りを一人産み出しただけに過ぎない。
蓮璃は自ら命を絶って、ボクはこの感情を受け止めきれず。
誰も救われなかった、そんなボクの過去の話だ」
『ありふれた話だ』
「そう。
ありふれた、なんてことない、それだけの悲劇」
『だから、お前は押し殺した』
……。
『そうだろう? エソラ=オークニー。いや、こう言った方が良いか。
「……そんな名前だったね。
ボクの、前世の名前は」
『こんなことがありふれた世界など、壊れた方が良い。そう願っただろう』
「……その時、ボクはただの人間だったよ」
『いいや、因果は繋がっている。ならば時系列は関係ない。身をもって知っているはずだろう?30年前の、あの日に』
……。
『お前の負の根源はこれだ。悲しみを産むのなら、悲しみを産む全てを壊せばいい。そんな感情を殺して殺して、殺し続けて。無意識の奥底に積もり積もった悪意がこれだ。お前が良くないモノと抑えつけた、自前の毒だ』
…………。
『と、ここまで言い連ねたが、そんなことはどうでも良い』
「…………じゃあ何が言いたいんだよ。
てっきり、全部ボクのせいとでも言うのかと思ったけど」
『言わんよ。それだけは、絶対に言わない』
「……じゃあ、なに」
『向き合え。本当に何も救われなかった話であったのなら、未練たらったらで現世に残っているあの娘は何だ』
「っ……」
『お前の幸せを願い続けている、あの少女は一体なんなんだ』
「それ、は……」
『まあいい、頭を冷やせ。私はお前が気に入った。多少のお節介はしてやるさ』
ボクの意識は、また暗闇に墜ちて行った。
時は少し遡り、《魔女の遺産》破壊の旅が、始まってすぐ。
「ヒイラギ」
「なんだ?」
「この旅、絶対無事に終わらないと思うんだよね。アイツが関わってるし」
「……そうだな」
「で、多分なんだけど、何かあるとすればボクなんだよね」
「縁起でもないこと言うな」
「ごめんごめん。でも、何もない今のうちに、言っておくね」
「聞かんぞ」
「聞いてよ。お願い」
「……尚更聞きたくなくなったが、聞こう」
「ありがと。まあ難しい話じゃないよ。何かあったら、シオンとアヤメの方を優先して。ボクは最後で良い」
「……どういう意味だ?」
「えっと、そのぉ……すごく言いにくいから黙ってたんだけどさあ」
「内容によっては私は今すぐにでもキミを家に連れ戻すが?」
「いやまあ、寿命が近いってだけなんだけど」
「……は?」
エソラは、衝撃の事実を言い放っていた。
花言葉。