TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
これで本当におしまいです。
「というわけでだな。お前を攫った」
「わーい、これからハッピーエンドに向けてモノローグしようって時に拉致された~~」
はい、というわけでね。
キャスに見覚えのない部屋に拉致られました。
どこだよココ。
そしてシレっとイメチェンしてんじゃねーぞキャス。
中性イケメン面したオッドアイ白髪ウルフショート長身スレンダーお姉さんになってんじゃねえよ。
ヒイラギに惚れてなかったら危なかったぞ。
「一応言っておくが私は既婚者だからな」
「ボクもだよバカタレ!!で、ここどこ」
「ここは私の家の工房だ。お前のアジトにも負けないレベルの施設があると自負している」
「ほほう?そりゃ聞き捨てならないねえ……」
「そしてお前を肉体改造する」
「聞き捨てならないねぇ!!」
何がどうなったらそうなるんだ、順序を追って説明しろ。
「まあ、まずお前の身体の寿命が不味いことになってるのは分かっていると思うが」
「はい」
「探索者技能ALL80↑の私にかかればできないことはない」
「SAN値は?」
「もちろん19」
「ふざけんな、こんなところにいられるか、ボクは帰るぞ」
「お前こそ死亡フラグ立てんなよ。冗談はさておいてだ。お前の異能と私の技能があれば、肉体の完璧な修正は不可能じゃない。むしろ成功率は99%を超えるだろう」
ふむ。
なるほど、お節介を焼こうというんじゃな?
であればだ。
「詳しく。具体的には身長170㎝以上の長身スレンダーポニテおねーさんになれるかどうか」
「きっしょ」
「うるせえ!!お前にボクの気持ちが分かるか!?40年に渡ってほぼ身長が変わらず胸ばっか成長したせいで合法巨乳ロリババアと言われているボクの気持ちが!!今更キャラ変もできないから年甲斐もなく配信でクソガキムーブしてるボクの気持ちが!!クソガキムーブ止めた途端に『背伸びしてて偉いねえ』って煽られるボクの気持ちが!?子供たちにさりげなく視線を合わせてもらってるボクの気持ちが分かるか!?」
「……すまんかった」
「というわけで、早急に、順当に成長した感じの肉体が欲しいです。切実に」
「……現実的な話をすると、現在の身長から上下20㎝が限界だ。あまり現状から乖離しすぎると認識の齟齬で問題が発生するんだよ……フルダイブVRが発明された時から発生してる問題なんだけどな……」
「さいでっか……」
170㎝は無理か……無念……。
ん?待って今聞き捨てならない言葉が。
「今フルダイブって言った?」
「言ったが」
「そっちの地球には大魔王カヤバーンが生まれたって言うんですか!?2022年にデスゲームが始まったって言うんですか!?」
「いや、私の地球でも、フルダイブVR技術が発明されたのは2100年代後半だな。流石にそんな技術革命は起きてない」
「シレっと長命種ムーブするのやめてくれない?」
「好きで長命種やってるわけじゃねえよ。話が脱線したから戻すぞ。とりあえず、私はお前の肉体の作成を手伝う」
「そうじゃん、なんで積極的に手伝ってくれるわけ?消極的だったのに」
「ヒイラギが怖いから媚び売って第二の人生謳歌する」
「ア、ハイ」
「あとお前を拉致った時点で色々代金以上のものを貰ったからな。ぶっちゃけこっちが本命なんだが」
「一応聞くけどボクに害はないよな?」
「ナイナイ」
ならヨシ。
しかし、流石の親友ヌッコもヒイラギが怖かったか……。
まあ分かる、ボクも怖い。
黒聖杯バックアップ受けた黒王みたいなムーブしてたもん。
あんなのほぼ魔力放出カリバーじゃん……。
「私はな、絶対に逆らわないと決めてる存在がいくつかある。その一つが、極致に至った剣士だ。あいつらはもう剣技と言い張って何でもして来るから手に負えない。私の知ってる最強の剣士は空間を斬り裂いて異世界間を自由に行き来していた」
「それ本当に剣士?」
「ヒイラギの奴もいずれそうなるぞ。違ったら木の下に埋めてもらっても構わない」
「こわ……」
え?じゃあボク本格的にヒイラギと戦ったら負ける……?
手も足も出ずに?逃げることもできず?
ひぇ……。
「お前……(ドン引き)」
「プライバシーの侵害だと思うんですけど」
「顔に出てんだよ馬鹿が。脳内ドピンクに染めてないでお前の寿命問題さっさと解決するぞ」
「うぃっす。で、具体的には?」
「とりあえず細かいデータあんだろ。それ見てからだな」
「ほいほい。どの端末に入れれば良い?」
「あそこのデータベースに入れておいてくれ。あるだろ、対応できる端子」
「りょっかー」
よし、気合を入れよう。
楽しい楽しい工作の時間だ、がんばるぞー。
「エソラ!?」
ふと声がした。
次の瞬間には、エソラは攫われていた。
「大事な大事な伴侶は預からせてもらったぜ?大人しく待っていてくれれば、五体満足で返すが」
そして、元凶は現れた。
白髪の女。
どちらかと言えば野性味を感じる中性的な顔立ち。
何故だか、それがだれだか、心当たりがあった。
「貴様……キャス、か?」
「正解。ま、ちょっとした野暮用でな。本命と一緒に用が済んだら返すわ」
「その野暮用の内容にもよるが」
「うちの旦那の受肉とエソラの肉体の修正」
「つまり?」
「《堕落の救世》の復活」
……残る一つの遺産。
それに宿る意思を復活させようということか。
エソラの肉体の修正は願ってもないことだが。
本来なら、受肉の方は止めるべきなのだろうが……。
「……何とも言えんな、貴様を見ていると」
そう、分からないのだ。
一口に《魔女の遺産》と言っても、キャスのように和解できるパターンがある。
だから分からない。
「安心しろよ。あいつは唯一の良識人だ」
「他を知らんからな……」
「ビビり過ぎで加害者になる最悪のビビり。
不幸を押し付けられ過ぎて世界にブチギレてる哀れなスカタン。
なんか知らんけど勝手に私の意思を代弁しようとする狂人。
恋人蘇らせるために世界を生贄にしようとしたアホ。
大局を見過ぎて人の心を失った神モドキ。
力を持つくせに個人に肩入れしまくる気まぐれな私。
こんなのに比べたら5億倍マシ」
「そこで自分も入れるのか……」
一応同僚なのだよな?
随分な言いようだが……自分に対してもやけに辛辣だな。
「私という存在に対する抑止力にもなる。悪い話じゃないと思うぜ?」
「問題なのは全て貴様の談だということなんだが」
「まあそれはそう。だから一回会って行けよ」
「《堕落の救世》に、か?」
「おう。あいつの場所に送ってやるからさ。まあ、意気投合すると思うぜ?主に手間のかかる伴侶を持ったという意味で」
「自分で言ってて悲しくならないのか?」
「事実だからな」
なんだろう。
惚気られた気がする。
「ほら、行った行った。あんまり時間は無いんだ、縄張の末裔は私の方から言いくるめておくからさっさと行きな。《
「……お前、何ができないんだ?」
「天才の所業。私は凡人の執念の寄せ集めみたいなもんでね。大抵のことは100点中80点が出せる」
キャスはそう言って、開かれたゲートに私を蹴落とした。
地味に力が強いな。
一応身構えた私を容易く蹴落としたぞこいつ。
「いってぇ!!バカみたいな密度の筋肉しやがって!!こっちの骨が折れるかと思ったぞ……」
思ったよりは容易くなかったらしい。
私の研ぎ澄まされた耳が、それを聞き届けた。
蹴落とされた先は、暗い洞窟の中……ではなく。
何故か宮殿の大広間のような。
中央には円卓が座しており、席は12か13ほど。
そのうちのひとつに、一人の騎士が座っている。
『おや。キャスが直接送って来るとは珍しいこともあるものだね。それとも、それほど焦っているのか』
「……お前は」
『自己紹介が先だったね、すまない。僕はアルトリウス。《堕落の救世》と呼ばれる者だよ』
金髪碧眼の美丈夫。
立ち上がった彼は、私よりもわずかに背丈があるように見受けられた。
だがそれよりも、私は彼の左腰に下がっている剣から眼を離せなかった。
アレは……私の剣と同等以上に危険な代物だ。
「私はヒイラギ。ヒイラギ=オークニー。あの化け猫にここまで送られてきたのだが……」
『顛末は大まか把握しているよ。君の伴侶の寿命がもう無いことも』
「単刀直入に聞こう。キャスは何を目的としてここに私を送った?」
『彼女に顔合わせさせる以上の考えはないよ。言ってはアレだけど、彼女はそこまで頭が良いわけではないからね』
「……そうか」
アイツは一体何なんだ、化け猫め。
『だけれども、僕にしか出来ないことは事実として存在する。僕だけは、遺産としては異質なものでね。厄災として呼ばれながら、僕は欠片たりとも被害を出したことがなくてね。それが反映されたのか、《魔女の遺産》としての僕は、人畜無害と言ってもいい』
「言うほど無害か?」
『まあ、彼女らに比べればという話さ。僕の遺産としての能力は』
「希望を絶望に変える能力、とエソラは言っていたな」
『その通り。ただそれは、一つの側面でしかない。この力の本質は反転させることだ』
反転、反転か。
私でも幾らか悪用方法が思いつくな。
『実を言うとね、エソラくんの寿命というのは物理的な意味だけじゃあない。運命力というべきものがほぼ空っぽなんだ。異能の代償だね。今までどこかの誰かが一部負担していたようだけれど、それも限界だったんだろう。エソラ=オークニーという人間が持つ運命の力は、もはや風前の灯なのさ』
脳裏に、リンカの影が過ぎる。
そこまでするのであれば大人しく蘇れば良いものを。
『ただし。
非常に幸運なことに、奇跡が積み重なっている今。
エソラくんには更なる奇跡を望める。
この異能の代償は、エソラくんが贋物であることに起因している。
つまり本物であれば良いということだ。
そしてそれは僕が叶えてあげられる条件を満たしている。
心当たりがあるんじゃないかい?
エソラくんと立場を入れ替えられる、本物の願望機に。
触媒として使える、本物の聖遺物に』
……つまりは、だ。
「リンカの遺体を差し出せ、ということか?」
『そういうことになる。無論、無理にとは言わない。本人たちの了承が必要なことは重々承知しているとも。だけどね、ヒイラギくん。僕からはこれ以上の奇跡は提供できない。できないし、できたとしてもしてはいけない。僕なりの線引きで悪いけどね』
「いや、十分だ。エソラが戻り次第、話を通そう」
『そうすると良い。ただ、あまり時間はない。肉体的にはあと数年残っているけれど、いつ不慮の事故で亡くなってもおかしくないからね』
「……忠告感謝する」
あまり時間がない、とはそういうことか。
全く。
上向きな知らせが少な過ぎる。
『それはそれとして、僕を連れて行ってはくれないかな。キャスと早急に合流しないといけないからね。帰り道は作ろう』
「お前たち遺産は何故こうもなんでもできる」
『異能なんてものが生まれる前の骨董品だからね、マニュアルで色々とできるのさ』
いずれは異能なんてものも、なくなるのさ。
そう嘯いて、彼は道具として私の手に収まった。
……コイツ本当は自分で動けるんじゃなかろうな。
もしかしたら、どの遺産もそんなものなのかもしれない。
またしても眼前で作られたゲートをくぐって戻る。
そして、戻った瞬間目にしたのは、意気消沈しているエソラだった。
「ど”ぉ”し”で”だ”よ”ぉ”ぉ”お”!”!”」
「次から次へとなんなんだ」
「いや、な?これは私の技量不足なのが悪いんだが……」
「失敗したのか?」
「成功はしてるんだ。だが、その。私がクライアントの要望に応えられなかったというか」
「要約しろ」
「20㎝身長を伸ばしたかったのにどう足掻いても145㎝以上にならなくて嘆いてるのが今」
「ああ……」
前から身長が欲しいと言い続けていたものな。
それは嘆くか。
『やぁキャス、久しいね。100年ぶりかな?受肉した感想はどうだい?』
「肉体の重さが懐かしいっての。アルトリウス、お前も受肉しないか?うるさい奴はもう全員いないぜ?」
『それより先に、やっておかないといけないかもしれない仕事があるからね。一旦先送りにさせてもらうよ』
「了解」
「エソラは私が抱えていく。全員一旦ついて来てくれ」
「おっけ。あとアルトリウス寄越せ」
「ほら」
「サンキュ」
とりあえず、悔しさで涙を流しているエソラを小脇に抱えて、ラセオからアセリアに帰る。
まあ、その、なんだ。
身長よりも生きててくれた方が嬉しいぞ?
解せぬ。
身長だけは修正できないとかおかしいだろ。
この世に神がいたとしたらロリコンに違いない。
まあ、気を取り直しまして。
「なんかメンツがいかつくない?」
「そうだな」
なんかね、よく分かんないけど。
アジトの中に関係者全員呼びだされまして。
ボク、ヒイラギ、リンカ、《テリトリア》、キャス、《堕落の救世》ことアルトリウスさん。
これから大事な話しますよってツラしかしてないメンツじゃん。
「単刀直入に聞くけどこれボクが当事者?」
「ああ」
「そうなるな」
『正確にはリンカくんもだね』
『私も?』
はい、ボクのことでボクが把握してない何かがあることが確定しました。
『エソラくん。君がこの先生きていくためには肉体の寿命だけでは足りなくてね』
「なるほど?」
『簡単に言うと綺麗さっぱり未来に繋がる道がない状態だね』
「あちゃー」
なんでか知らんけど多分異能のせい~~。
散々夢の中でキャスがウンヌンカンヌン言ってたこと考えれば異能の代償ってとこか?
『まあ心当たりがついたと思うけど、あくまで君は本物と遜色のない贋物だからね。結果はともかく、その過程は少なからず劣化しているのさ。その代償がこれだ』
「おっけ。《堕落の救世》がここに無傷な状態で運ばれた意味も加味すると、ボクとリンカの真贋を反転させようってとこか?」
『察しが良いね。ただ、そのままでは反転は難しくてね。触媒がいる』
「……リンカの身体か」
『その通り』
『なるほどね。だから私も当事者なんだ』
……本音を言えば嫌だ。
ただ、元の持ち主がここに幽霊としてちゃんと姿を現している以上、ボクがどうこう言うのも筋違いなわけで……。
「……これに関して、ボクに発言権はない、か」
そういうことになる。
やむなし。
『あ、そう?じゃあ使って』
「!?」
と思っていたらノータイムでリンカからOKが出た。
複雑である。
『えっちゃんがワガママを言わないなら、私が言うもんね』
「だそうだ」
「あれー?人の遺体使うことに抵抗あるのボクだけ~~???」
「背に腹は代えられないという言葉が極東にはあってな」
「あー、日本にもあったなー」
『えっちゃんの為なら全然あげるけど』
「私は見届け人だ。口出しする権利はない」
『僕としては思うところはあるけれど、手段が意見を出してはいけないからね』
「おいおい味方がいないじゃん」
なんと。
味方/Zeroである。
なんてことだ、良識は死んだ。
なんて。
いや、分かってはいる。
いるんだけどぉ~~……。
「他の方法ない?」
『あるにはあるけど時間がないね』
「同意見だ」
「有識者がそう言っているのなら私から言うことはない」
「今更早死にして逃げるなんて真似はしないよな?」
『ごめんね、ちょっと私だけじゃ苦しくって』
ボクが工作している間に話纏まってるよねえ、これぇ!!
キャスのやろう影分身のジツができるのは工作している間に見たんだぞ、言い訳できると思うなよ。
「私の個人的な都合によりヒイラギ=オークニーに恩を売らないといけない関係上、お前には生きててもらわないと困るので、ヒイラギ=オークニーをアルトリウスのところに送っている間に話をまとめた」
「手際が良いことですねえ!!せめてボクにも事前に話を通そうよ!?」
「けどお前、無駄な遠慮するだろ。とうの亡霊が納得してるし良いじゃねえか」
「無駄って言うな無駄って。人としてそれなりに越えちゃいけないラインだろ」
「いうてこの中で人間扱いできるの
「ぐうの音も出ない事実を突きつけるのはやめろ?」
人間やめたヒイラギ、幽霊のリンカ、長命種ムーブするキャス、《魔女の遺産》であるアルトリウスさん、そして人間かどうか若干怪しいボク。
マジで確実に人間扱いできるのが《テリトリア》しかいねえ。
『一応説明しておくと、遺体を触媒として使用するだけで、遺体が消滅及び損害を被ることはない。
願望機の残骸というレッテルは剥がれるけれど、見かけ上は何もない。
保全も今まで通りで問題ないはずだ。
それから、エソラくんとリンカくんの真贋が反転することによる実質的な被害もない。
今すぐリンカくんが消滅するということはないし、エソラくんがゴーストになってしまうということもない。
事実上は何も失うものはないとだけは言っておこう』
まあ、その、なあ……。
幻楼院リンネとかいうカスのせいで忌避感強いだけだからなあ。
アイツ平気で死体とか使うし。
32年前に燃やした研究資料にも書いてあったしな……。
まあ、うん。
あのクソババアとは違う状況なのは分かってるけどね。
「よし」
『決心がついたかな?』
「ボクは寝るので」
『えぇ?』
「寝てる間に何が起きてても気付けないので。じゃそゆことで」
寝てる間に終わっちゃってたら気付けないもんなー、仕方ないよなー。
ボクが知らない間にことが済まされちゃったらどうしようもないもんなー。
『やれやれ。中々難儀な子なようだね』
「悪いな。彼女なりの線引きだ」
というわけでおやすみ!!
スヤァ……明日の朝まで~~、レッツゴー!!
「ということでね。昨日も激動の一日でしたね」
目覚めまして、臨時司令室。
今日も今日とて忙しく働いている《テリトリア》に挨拶。
ちなみにヒイラギは寝てる。
昨日は結構疲れたみたい。
「本当にな。とりあえず書類上は無から生えた二人の処理を丸投げされてキレそうなんだが」
「ごめんて。でも生えてきたのはあいつらのせいだからボクに怒らんといて」
「ツカサお爺様へどう申し開きすれば良いか分からないんだが???」
「そんなこと言ったってェ!!あいつら勝手に受肉したんじゃん!!ボク関係ないよ!!」
「お前の異能に不正アクセスして虚数空間から材料を調達したと聞いたが」
「知らない!そんなの知らないよォ!!異能に不正アクセスって何!?」
「……まあ、お前も被害者か……」
あ、あの野郎……ボクに黙って非存在空間から材料パクッてただとぉ!?
許せねえ!!
「詫びとして完全没入型仮想現実空間の基礎理論と仮想空間管理用AIの研究論文を公表しておくと言っていたな」
許す!!!(手のひらドリル)
「で、具合はどうだ?」
「ばっちり健康体。いやぁ、悲壮感たっぷりだった今回の事件も、無事に終わりましたねえ」
「一部お前が納得していない所が無かったか?」
「いやまあ、死体使うとか幻楼院みたいでいやだなーって思ってただけ」
「……理解できるのがなんとも言えんな」
「ま、結果としてみればこの上ないハッピーエンドでしょ」
「それはそうだが。今回の件で各国の上層部も流石に黙っていられなくなったようだぞ」
「そりゃね……あーあ、大変だ、これから」
「武力だけではどうにもならんからな」
「そこで妙案があります」
「なんだ」
「ボクは死んだことにしましょう」
「……お前な」
まあまあ、みなまで言うな。
分かってるさ、普通にやったんじゃそう思わせるのは無理だって。
けどこっちにも切り札はあるのさ。
「ちなみに手段はあります」
「一応言うだけ言ってみろ」
「キリエは無能力者の健康体に移し替えたけど~~、元の身体はどうなったか、言ってなかったよねえ~~」
「おまっ!?」
いやまあ、使う予定なんて無かったんですけど。
「勿体無いので時間凍結保存してあります」
「お前それ死体を使うのと何が違うんだ」
「あれまだ生きてるよ」
「なおのこと悪いだろ。どの口でモノ言ってるんだお前は」
「いやまあ、そのさ。キリエに返すこともあるかもしれないと思ってチマチマ修繕してたんよ」
「続けろ」
「修繕が終わったから一応聞いたのね。元の身体いる?って」
「断られたんだな」
「うん。ってのが10年くらい前で、それ以来死蔵されてたのよ」
「それでお前の手元に《
「でまあ、昨日の一件があったじゃん?」
「ああ」
「知らんぷりしたけどやっぱ一線越えた影響ってデカいよね」
「ああ……」
一回前例を作ると人間の引き金は軽くなる。
嗚呼愚か愚か。
ボクも例外ではなかったということだ。
「まあ、肉体から異能だけ抽出して道具として固定する技術は昨日見てきたので」
「シレっとヤバいこと言ってる自覚はあるか?」
「流石に抵抗されてる状態じゃ無理だよ。繊細な作業が必要なんだから」
「今の異能社会を根幹から崩す技術を手にしている自覚はあるかと聞いているんだバカ者!!」
「わーっとるわ!他言できるかよ馬鹿野郎!キャスの工房なんかそんな内容ばっかだぞ!!」
「なお悪いわ!!そんな技術を持ってる先駆者がいるという事実が!!」
「そんなこと言ったらキャスが受肉した時点でこの世界終わりだよ!!対抗馬にヒイラギとアルトリウスさんがいるからマシなだけだよ!?アルトリウスさんがマトモそうでよかったね!!」
「クソが!!」
はい、というわけでね。
この後作業したいと思います。
「キャスとアルトリウスさんにタゲを移してボクは死んだふりでやり過ごす。カンペキな作戦だと思わないかい?」
「死因はどうするつもりだ。昨日の作戦はお前が臨時司令室にいるのは周知の事実だが」
「今すぐにとは言わないよ。後日心労が祟って死んだことにすればいい。身代わり人形くんシリーズが頑張ってくれます」
「便利だな、お前のソレ」
「文字通り身代わりになるのでDNA鑑定までパス出来ます。カンペキ~~」
「お前がヴィランから足を洗ってくれてて心底ほっとしているよ」
「褒めても何も出ないよー」
「もちろん身を隠した後は陰ながらサポートしてくれるんだろうな?」
「……もちろんさ!」
「言い淀んだな、今」
いやだってさあ。
見てみろよ、自分の仕事の量を。
増やしたボクが言うのもなんだけどさ。
お前もお前で人間やめてるよ、《テリトリア》。
「目は口ほどにものを言う、なんて言葉が極東にはあってだな」
「分かってるならさっさと仕事を分配しろよ。アホかお前。《フィクシオン》に愛想つかされてないだろうな」
「あいつも裏で仕事漬けだ」
「仕事馬鹿がよ……まあ良いや。じゃ、あいさつ回りして来るから」
「気を付けろよ。既に各国が動いているからな」
「防犯グッズ増やしておくかあ」
あー、こわやこわや。
時にリンネよりも国家がこえーよ。
ボクはともかく、シオンとアヤメが心配だなあ……。
とりあえず二人に会いに行くか。
「というわけでおはよう」
「おはようママ。色々解決した?」
「おっは。さっきまでリン姉もいたんだけど」
「色々解決はしたよ。リンカはまあ……また後で会うじゃろ」
「それなら良いけど」
二人とも元気そうで何より。
特にシオン。
遺産の影響を受けたけど、五体満足で帰ってきてよかったよかった。
いつまでもガキじゃないけど、やっぱり親から見たら子供は子供だしねえ……。
子離れしないと。
「まあそれはそれとして、だ。昨日やり過ぎたから各国のエージェントが動いてるので気を付けてね」
「ママ?それ僕たちとばっちりじゃない?」
「いうて二人ともボクとヒイラギのコピーじゃん。遅かれ早かれマークされたよ」
「ぐうの音も出ない」
責任の一端を感じないでもないけど。
まあ、その。
ボクとヒイラギの子なので、諦めてもろて……。
ぶっちゃけ生まれた時からマークされてたし……。
「でまあ、今日の予定は?」
「トートの復興作業かなあ。母さんが撃墜した巨神船の解体とかもしないとだし」
「あーね。ボクもそっち手伝うかあ~~」
「母さんも来るって昨日言ってたよ」
「んじゃあ、家族総出だね。はぁ……やらかした手前ネットが怖い」
「見てないの?」
「見れない。怖い」
「大丈夫大丈夫。炎上とかはしてないからさ」
「むしろ心配されてるくらいで」
「うぅ……」
「ああ、ほら泣かないで」
「トラウマなのは分かるけどね?」
皆が優しいよォ……。
でもボク死んだふりする気なんだわ。
心が痛い痛いだね。
「そういえばリンカどこ行ったの?」
「なんかキャスさんに用があるって言って仮設テントの方に行ったけど」
「そう?じゃちょっとそっち行ってくる。また後でね」
「はいはい、また後でね」
じゃ、リンカに会いにいこっか。
どーこじゃどこじゃ。
あ、いたいた。
『私ってどれくらい現世に残れるんでしょうか』
「お前の場合特殊だからなあ……あんま正確な数字は出せねえぞ?」
「そもそもゴーストという存在自体が、当人の気合次第で何年も存在時間が延びるからね」
「まあ力使いまくっても100年は堅いだろ。そもそもの存在強度がレベチだしな」
「異能とか使わず見守るだけなら1000年は行けると思うけど、その前にあの二人がこの世を自分から去る方が先じゃないかな」
『よかった。それなら今度は私が見届けることができそうです』
……タイミング悪かったかな、こりゃ。
聞かなかったことにしよっと。
『私、見送らせてばっかりで。いっぱいもらったのに、何も返してない薄情者で』
「本人に言えよバカ。道理ですれ違ってるわけだ阿呆ども」
「ちゃんと伝えないと伝わらないからね」
『そう、ですね』
「ちなみにちょっと前からそこでエソラが聞き耳たててるぞ」
うぉい!!
バラすなよバカ!!
気まずいだろ!!
「聞かなかったフリしようと思ってたのに何でバラすかなあ!!」
「じれったいんだよお前ら。お互いに気遣ってすれ違ってんじゃねえボケカス」
「言い方ァ!」
『え!?あ、え、その、えっちゃん、あのね』
「リンカもリンカで落ち着いて、ね?」
「じゃ、私らお邪魔だろうし消えとくわ」
「ちょっと待てお前には聞きたいことがあるから残れ。アルトリウスさん、ちょっとお宅の嫁さん借りますね」
「構わないよ。多分キャスが悪いだろうからね」
「おいアルトリウス。ナチュラルに断定しないでくれるか」
はい、リンカ落ち着いてね。
すってーはいてー。
はいおっけー。
『……えっちゃん。今度は私が見送るから』
「そんなもんしなくたっていいんだよバーカ」
『えっ』
ほんっまに!
ほんまにこのクソバカ幼馴染はさぁ!!
「バーカ!!ホントバーカ!!バァァァァァカ!!」
『えっ、えっ、えっ……』
「オイ見ろよアルトリウス。アオハルだぜアオハル」
「若いって良いね……羨ましいよ」
「シャラップジジババども!!」
『えっちゃん?私、その……』
「あのね、リンカ。一度しか言わないからよーく聞くように」
『あ、はい』
「ボクの性癖壊れたの君のせいだからな」
『え?』
「ブハ!なんでこれでくっつかずにコイツ死んでんだよ」
「さぁ?それはそれとして伝え方が迂遠だね。20点」
「ホントうるさいな外野ども!!ヒイラギにボクの異能から材料パクったことチクってやろうか!?」
「おい馬鹿止めろ悪かったから」
「巻き添えで僕も怒られそうだ。退散退散」
ふん……。
『えっと、今のは……』
「しーらない。リンカのことなんてしーらない。勝手にしろばーか」
ほんっとに。
どうでも良い奴のために誰がキレるかバァァァカ!!
ホンマこいつホンマに。
もう知らん、さっさとキャスへの用件済ませるぞ。
「てことでキャス。お前ボクの異能に不正アクセスして材料パクったってホント?」
「……ああ」
「おいおいおい、言ってくれりゃだしたのによォ……ボクたち親友なんだからさぁ……」
「いや、その、な。欲しいアイテムはお前の知識じゃ出せないと思ってな?」
「事前に許可取るぐらいはしようずェ……?倫理感世紀末かあ?」
「ア、ハイ。すんません」
「いやまあフルダイブVRの論文出すっていうから許してるけど。まだ?はよ出して?出せ(迫真)」
「そっちが本命かよ!!」
「ボクは命が懸かってないアインクラ〇ドを攻略したいんだよッ!!ただアインクラ〇ドを真っ当にクリアするオンラインゲームを死ぬまで待ってたのに出てこなかったんだぞ!!」
「分かった、分かったから。戸籍とか住居関係が安定したら出すから。具体的には四か月後くらい」
「なんならゲーム作って?」
「無茶苦茶言い始めやがった!!保護者はまだか?!」
フルダイブVRがやれるならボクは相手が厄ネタでも強請るぞ!!
「分かった、なるだけ早く着手するから」
「
頼むよ。
ほんと頼むよ。
隠居後の楽しみなんだから。
「……お前、表舞台から消えるつもりだな?」
「まあね」
「気に食わねえな」
「ボクはそんな堂々とできないよ」
「嫌気が差したらいつでも言え。手貸してやる」
「そんなことがないことを祈ってるよ」
鋭いね、親友。
流石は厄ネタ、発想が物騒だぜ……。
「あまりエソラを悪の道に誘惑しないでくれるか。そうなった時に斬るのは私なんだ」
「来たな保護者。じゃ、そいつは任せた」
「ああ」
「ヒイラギ」
「《テリトリア》から聞いたぞ。話をしよう」
「そだね」
一旦、アジトに戻ろうか。
ヒイラギに抱きかかえられて、ボクはアジトに戻った。
「で?死んだことにして表舞台から消える企てをしていたと聞いたが」
「いやあの、案のひとつでして」
「却下だ」
「はい……」
ヒイラギさんに食い気味に却下されました。
ダメですかね?
良い案だと思ったんですけど。
「そもそも、各国の上層部を黙らせることなんて簡単だろう」
「というと?」
「余計なことをしたらキミともどもヴィランとして大暴れしてやると脅せばいい」
「わー、ヒイラギが物騒なこと言い始めたー」
30年も経てばヒーロー仕草が抜けてきましたね、ヒイラギ。
そんなヒイラギも好き。
「余計な気は回すな。分かったな?」
「分かったよもう……そんな怒らんといて」
「キミがこれまでの全てを投げ捨てるに等しい真似をしようとしたのにか?」
「はい……すんません……アサハカでした……」
「分かればよろしい。ただし今夜は覚悟しておくように」
「ア、ハイ」
「では、支度をしてトートに向かうぞ。シオンとアヤメもそっちに行くのだろう?」
「あ、うん。復興作業だってさ」
「中々に被害が出たからな、腕が鳴る」
「頑張りまっす」
結局。
なんだかんだとお国と揉めることは想像に難くないけれど。
「ボク、今まで通りでいいのかな」
「私がそう望む。キミは今や本物の願望機なのだろう?叶えてくれ」
「仕方がないにゃあ」
まあ何とかしよう。
世間のお邪魔にならない程度に、ね。
むしろ世間を味方に付けてしまおう。
っしゃ、印象操作からやってしまおうか。
「あれ?結局ヴィランっぽいことしてるような」
「気のせいにしておけ」
「いえっさー」
良いことだけじゃ回らない、そんな世の中。
ボクは悪いことに向いた能力を、存分に振るおうと思う。
自分たちの日常のために。
―――Fin
というわけで完結でございます。
いつもの駆け足というか。
キャスパリーグさんには平穏な狙いであってもらいました(《堕落の救世》受肉のためにイレギュラーオブジェクトを不正入手)。
なぜあのタイミングかというと、他の遺産が全部壊れたからですね。
一応もうあの時点では文句言ってくる奴いなかったんですけど、念には念を入れて《堕落の救世》以外壊れたのを確認してから動いた。
なお、一番文句を言ってくるはずだった《暗澹の神座》さん、三番目に破壊されたので猫が人知れずガッツポーズしてた。
エソラの地球ネタが通じる親友枠おねーさんですが、作中で登場したどの人物よりも危険なのでね。
その気になったリンネより気まぐれで行動起こすこいつの方が危険。
勝負になるのがヒイラギしかいないんだ、真面目に。
エソラはダメです、カモです、経験値です、極上の餌です。
極東のおじいちゃんはドンマイ!
なんだかんだで美味しいところだけ上手いこと拾っていった猫。
リンネは勝ち逃げして猫は一番得して、エソラとヒイラギはお国に睨まれて大変という。
まあでもハッピーエンドです。
あの二人に勝てる奴なんていませんからね。
え?猫?
ヒイラギが何とかしてくれる。
なにはともあれ、今回結構とっ散らかっちゃったなーと反省。
あとで相関図書かなきゃ……となっている始末。
まあでもエソラの異能の代償はね、常々考えていたんですよ。
元々リンカの異能からは少し劣化していると言及してましたし。
第三部書き始める前は上手いこと考えつかなかったんですけど。
思いついたので書いたともいう。
そうじゃん、本物と贋物じゃんこいつら!
じゃけん贋物のエソラには『結果は』遜色ないけど『過程に』問題を発生させましょうねー^^。
正に天啓。
それに、適度にエソラにはボロボロになってもらいたかったんですよね。
この気持ち、これが……オヤゴコロ……?
第一部でも死にかけてるし、主人公はボロボロになるくらいがちょうどいいのかもしれない。
ヒイラギさんの心労?そっすね……でもソイツに落とされたヒイラギさんが悪いと思います。
心労と言えば、リンカですよ。
エソラの性癖歪めた上に死出の旅に付き添ってもらった挙句責任取らずに置いて逝った罪しかない女。
別にエソラのこと嫌いじゃないし大事な人だとは思ってるけど、生きて欲しい人にはなるも生きる理由にはできなかった。
なんだこいつ。
リンカとして生まれた後も助けて欲しい一心でエソラ召還したくせにやっぱり置いて逝った。
なんだこいつ!!
でもエソラに生きて欲しいってところは一貫してるんよな。
本当になんなんだこいつ。
自己評価低いから自分のこと傷にならないと思ってやがる。
死出の旅に付き合ってもいいと思える奴が傷にならないわけないだろ!!
リンカは絶妙に人の心が分からない。
まあだから虐められてたんですけど。
エソラの危ない部分の原因全部おまえのせいだからな、分かってんのか。
分かってないだろうなあ……。
リンネは分かっているので効果的に突っつきました。
流石エンジョイ外道クソババア、やることが違う。
エソラの本気を受けてウッキウキで消滅しやがったけど、それでも本気出さんかったら待ってたのは大戦争だった。
マジであの女……と思ったあなたはきっと間違ってない。
今回で完全消滅したのでOKです。
あ、リンネが残した言葉?
アレは回収されません。
薄っすら程度に『世界はループしている……!』程度に思ってもらえれば。
だいたいキャスのせいです。
言ったでしょ?一番危険なのはキャスだって。
そういえばキャスもアルトリウスも多才過ぎない?という話ですが。
そもそもアイツらとエソラたちとでは違うんすよね。
機械語で直接プログラム作って結果出してるのがキャスの時代の人間。
完成したアプリケーションを利用してるのがエソラたちの時代の人間。
なのでそもそもの話としてできることの幅が違うんですよね。
そもそも猫たち《魔女の遺産》の本命の能力は異能ではないし。
大前提として猫は技術屋だし。
今のアルスガルの人間とはできることの幅が違い過ぎるんです。
なので一定レベル以下の存在は足切りされてしまう。
(まあそもそも人間である時点でキャスの敵ではないんですが)
まあそんなとこでしょうかね。
なんか気になるところがあれば感想頂ければ書きます。
気が向いたらね。
ここまでご愛顧いただきありがとうございました。
本作はこれにて本当に終幕。
また別の作品でお会いしましょう。
それでは……。