TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
実在しているのが不思議な存在。
されど実在してしまっている最強。
それがなんであの日はボロボロだったのか。
ボクにそれを知る術はない。
けど、彼女は無敵じゃないという事実だけがはっきりとある。
マジでどうやったんだ。
かつて起きた大乱。
エイリアンが大挙して襲ってきたというそれを撃退せしめた彼女を、一体どうやって傷つけるというのだろうか。
「ま、ボクがまともにやっておねーさんに勝てるとは思えないケド」
武具を引っ張り出しておいて言うのもなんだけど。
気休めって奴だ。
とりあえずアイギスの盾があれば、少しくらいは安心できる。
「なんだ、戦う前にもう降参か?」
「いやさ、
そう、何でも出せるわけではないのだ、ボクたちの異能、《
呼び出せる範囲は多岐にわたるが、天地がひっくり返っても呼び出せないモノはある。
呼び出したいモノの外観を描き、条件を設定し、目的と用途をハッキリさせなければ、ほぼ確実に呼び出しに失敗する。
だから、デスノ〇トは呼べても、ドラゴンボ〇ルは呼べないのだ。
前者は外観も条件も目的と用途もはっきりしてるけれど、後者は目的と用途の部分が漠然としている。
同じ理由で『自分たちが絶対に捕まらなくなる道具』も呼び出せない。
真っ先に試したさ。
リンカともども、安心して暮らせるようにしたかったから。
なにから捕まらなくなるのか、どのような手段を阻むのか。
それが確立できなかったから、呼び出しは成立しなかった。
あの時は敵が誰かもはっきりしてなかったのもあるけれど。
じゃあ、強力な護衛を呼べばよかったのか?
否だ。
理論上可能ではあったが、様々な観点からやめておいた方が良いと判断した。
ボク達に味方してくれるほどの善性を持つ者は付け入る隙があって。
付け入る隙の無い者は、ボク達に味方してくれないだろう。
先に行動を縛る道具を作れば良いって?
それこそリスキーだ。
どこぞの親父のようにはなりたくない。
隙を突かれ、一人用のポッドごと潰されてしまうリスクを背負うのならば、結局意味はない。
まあ、どっかの台所の英雄の面子ならワンチャンありそうだったけど。
他人に怯えるリンカに、負荷を掛けたくなかったのが、一番の理由か。
それに最終的に、ボクたちには呼び出せるものの限界がある。
結局、代替案として成立できたのはこのアジト。
一緒に施設を拡充して、八年過ごした思い出の場所。
「極論、自分が想像できるものまでしか呼び出すことができないんだ」
「……この世ならざるものを、全て想像して知覚することはできない。そういうことか」
「そ。だから、ボクが呼び出せるものも、この世ならざる者の一部でしかない」
だから、奇跡なんだよ。
ボクが呼び出されたこと自体が。
描いたのは、拙い自分の姿。
条件設定は逃がしてくれるオトモダチなんてモノで、用途は漠然としているくせに目的はただ逃げたいという気持ちで凝り固まって。
そんな存在想像もできなかったくせに信じる心だけはいっちょ前でさ。
「ボクにはそんなことできない。できないけれど」
リンカとは違う、ボクの強み。
枷でもあるそれは。
「リンカよりは、多くの事を知っている。たったそれだけだけど、おねーさんとケンカができる」
「ほう?」
「今から呼ぶのは意識のない影。ボクの命令に機械的に従うだけの欠陥品。本来の英傑たちとは比べるべくもない、マガイモノと呼ぶのも烏滸がましい。それでも、力だけは本物の、英傑の影」
「……」
「これが許されるのはここでだけ。この工房の中だからこそできる反則技」
「キミは、これまで
ペンを走らせる。
走らせ続ける。
「そうさ、しなかった。できなかったんじゃない、しなかった」
「……」
「分かってる。ボクがその気になればよかったなんて、百も承知だ。ボクにならできた、可能だった。あいつらの殲滅なんて、おねーさんが気付くよりも早く実行できた。でも、ボクにそんな強い精神は無いんだよ。誰かを殺すことに怯えて、たった一人の友達すら救えないッ!!どこまで行ったって小心者!!表立って動くことのできなかった軟弱な人間ッ!!それがボクなんだ!!!」
おねーさんは何も言わない。
否定しようがないだろう。
この工房の中身を、全て具現化することができると理解しているのだから。
「それでも、こればっかりは譲れないから」
呼び出す、呼び出す、呼び出し続ける。
この工房の中でなら、ボクのペンはいつもの何百倍も速く動く。
この工房こそが、最後の砦。
「ここはボクたちの最後の砦、決戦の地。
さしものおねーさんとて、無限には勝てまい。
「ボクは消えたい。おねーさんはヴィランに堕ちてでも一緒にいたい。お互い譲れないのなら仕方がない。負けた方の意見が封殺される。それでいいでしょ」
たとえおねーさんだろうが、迎え撃ってみせる。
エソラによって呼び出され続ける、無数の影。
一つとして同じものはない。
知っている影もある。
知らない影もある。
そもそも人ですらない影もある。
キミは、その全ての英雄たちを、知っているのか。
存在しない、英雄たちを。
ヴィランを自称するくせに。
誰よりも多くの英雄を知っている。
「ボクは知っている。ある日突然、世界が滅ぶことを」
「ボクは知っている。幸福が続くことが、当然ではないことを」
「だからボクは信じない。誰よりもボク自身の
だが、その英雄たちに意識はない。
その全てに意識があり、統率を以て連携されたら、流石に勝てなかっただろうが……。
これらすべてを指揮するのはエソラだ。
いくらエソラの能力で呼び出せるからと言って、エソラに限界が無いわけがない。
「だから来いよ、《ブレイディア》。信じさせてみせろよ」
強がりだ。
僅かに顔が歪んでいる。
早く決着をつけなければ、いけないな。
だがまあ、一つだけ安心できることがある。
全力で暴れられる。
これほどの戦力差。
あの日襲撃にあった時のことを思い出す。
全員殴り飛ばしてやったが、重傷を負った。
今にして思えば、随分と不甲斐ない戦果だな。
これが世界を救ったヒーローとは笑わせる。
あの時と同じであれば、一人一人の凶悪さが増している今回は、完璧に敗北を喫するだろう。
だが、エソラに拾われたあの日と今では、状況が大きく異なる。
「エソラ。キミは私に多くのことを教えてくれたと同時に、多くの時間をくれた。十分過ぎるほどの休息を手に入れ、傷は完璧に癒えて、ひび割れていた心も治って、更にはやる気に満ちている。端的に言えばそうだな、負ける気がしない」
虚空から、長らく抜いていなかった相棒を呼び出す。
ヒーロー《ブレイディア》。
その由来は、たったひとつの特徴だけ。
「……は?なんだよ、それ……!」
「私の相棒だ。直に見たことはなかったか?」
この一振りの剣で、全てを断つ。
斬って斬って斬り続けて。
ヒーローと呼ばれるまで斬り続けて、ただそう呼ばれるようになった。
誰も、私の名を呼ぶことは無くなった。
守りたかったものから、最も遠い存在になってしまった。
それが間違いだったとは言わない。
ただ、望んだものではなかった。
「あの日、私は
そんな状態で、無理をし続けたのがよくなかったのだろう。
いつしか私は、自分の異能を、うまく使えなくなっていた。
考えてみれば当たり前だ。
疲弊した状態で、どうしてうまく扱えるというのか。
私の持つ異能は三つ。
その全てが、弱体化していた。
ひとつ。
《
ただただ人間を超えた身体能力を発揮する力。
疲労した肉体は、動くことを拒んでいた。
ふたつ。
《
誰よりも速く、空を征くことができる力。
あの日はもう、空中で崩した姿勢を直すことしかできなかった。
そしてみっつ。
「《
決意を、覚悟を糧に、魔剣として召喚する能力。
もう二度と、抜くことはできないと思っていた、私の代名詞。
強い意志に比例して、私自身の力を引き上げる力。
意思が薄弱となった私に、抜けるはずもなかった。
私の剣を見て、エソラは狼狽え始める。
あり得ないものを見て、その現実を否定したい子供のように。
「あり得ない」
「あり得ている」
「あっちゃいけない」
「それは同感だ」
「それは、
「本当に、全く以て同意するよ」
この世ならざるものを知るエソラだからこそ、よく理解してしまう。
この剣を振るうということの意味を。
呆けるのも無理はない。
「しかし、いつまで呆けているつもりだ?」
「あっ……」
思い出したかのように、影たちが一斉に動く。
咄嗟の動きながら、恐らくそれぞれの役目を全うする配置で行動し、私に襲いかかる。
だがもう、そこに私はいない。
影の軍勢を突き抜けて、エソラの目の前までひた走る。
もし、彼らが本来の姿であれば、こうはいかない。
しかし今は、エソラの認識が及ぶ範囲でしか、対応が出来ない。
ならばエソラを斬る必要はない。
要するに、エソラの反応を振り切れば良い。
「っ、舐めんなっ!!そんな
「いくらでも足掻け。私はそれを上回る速度で斬るだけだ!!」
「言ってろ、脳筋!!」
エソラが一体描き出すまでに、二体以上斬れば良い。
実にシンプルな結論で。
「一意専心、この一刀にて最強を示す!!」
そしてそれは、できてしまうことだ。
間合いに捉え、抜刀の構えを取る。
斬るべきは、ただ一つ。
エソラを縛る、諦観だけ。
「タルタロス、防衛機構起動、出力1000パーセント!!!」
「奥義ッ!《唯・一文字》!!」
横一文字の斬撃が、エソラの防衛機構にぶつかる。
激しい抵抗の後、刃はそれまでの抵抗が嘘のようにするりと通り抜けた。
勝ったのは、私だ。
「あがッ!?ぐっ……概念ごと、ぶった切ったな……!?」
エソラは、痛みに耐えるかのように、ペンを持つ手を押さえて蹲る。
「肉体の方まで影響が出てしまったか。斬る対象は選んだのだがな」
「ふざけろ……指示系統のパスまで斬りやがって……フィードバックが……」
「すまない。流石にそこまで手加減はできないからな」
「ばか、あほ、くそぼけ……こんな強いのに、なんであの日ボロボロだったんだよ……」
「死にそうなほど疲れてたんだ」
「この、おおまぬけがっ……」
そのまま、エソラは気絶してしまった。
案の定、無理をしていたのだろう。
額に手を触れれば、高熱が出ている。
「今度は私が看病か。あの日とは逆だな」
エソラを抱きかかえ、工房を出るべく、歩みを進める。
途中で、影たちがこっちを見ていることに気付いた。
『ソイツを頼んだ』
そう言わんばかりに、手を振っては消えてゆく。
意識がないはずの影たちが、自発的に還っていった。
ある者は瞬間移動で。
ある者は星に乗って。
ある者は呪文を唱え空を飛んで行った。
私の知る影も。
私の知らない影も。
エソラに向ける目は、暖かかった。
「任せろ。私が幸せにするさ」
目を覚ますと、布団に寝かされていた。
ああ、負けたんだ。
あれだけやって、おねーさんに勝てなかったんだ。
傷ひとつくらいは付けられただろうか。
付けられてない気がする。
悔しい、悔しいよ。
「目を覚ましたか、エソラ」
「……あの日とは逆だね」
「奇遇だな、私もそう思っていた」
「でも距離が近すぎるんじゃない?熱いよ。暑いんじゃないよ、熱いんだよ」
「良いだろう、別に。それに、キミに逃げられるよりはずっと良い」
なにが悔しいって、同じ布団の中で抱き枕にされている事実が何より悔しい。
ボクを何だと思っているんだ。
あとボクの頭を胸に埋めるのはやめろ。
ボクの心が爆発する。
「しばらく、キミの体温を感じさせてくれ……」
ばくはつした。
もういいすきにしろ。
もっかいねる。
だいすき。
「私もだよ」
意識を落とす瞬間、幸せな感触が、頬に落ちた気がした。
「《フィクシオン》、どうだ」
「どこで見つけたんですかこの資料!?検証した結果全部事実だということも判明したんですが!?」
「出所は言えん」
「ダーティなことやってないですよね!?」
「私はやってないぞ」
「なら良いんですけど!!」
トートまで突っ走った甲斐もあり、《ガーディアンズ》は巻き返すことができた。
無論、上層部は入念に入れ替えや洗浄が行われた。
幻楼院一族も強制捜査が行われ、大部分の逮捕及び検挙が出来た。
全く、大戦果だ。
まあ尤も、影響は少なくはないし、逃がした幹部も多い。
謎の因果干渉能力者の詳細も分かっておらず、警戒は解けない状況が続くだろう。
「ところで、《ブレイディア》先輩は無事なんですかね……」
「さてな。行方を晦ますだけ晦まして音沙汰無しだ。存外、私達に愛想が尽きたのかもな」
「そんなぁ~~……」
「そんな事よりしゃっきりしろ。お前が頼みなんだからな」
「でへへ……頑張っちゃいますよ~~!!」
後ほど連絡を入れよう。
事態が収拾するまで、耐えて欲しいと。
下手に動かれても困るしな……。
厄ネタと厄ネタが厄ネタを狙うボケどもに対するスタンスの違いで喧嘩してる図。
・《ブレイディア》
特に《決意の剣》が厄ネタ。
不完全かつ限定的な願望器。
壊す方面に特化している。
・《現エソラ》
お前の存在が厄ネタ。
変な生物呼べばそれだけで世界がヤバいかもしれない。
色々できるが特化はしていない。
・またしてもフラグを立てる《テリトリア》
お前の胃には穴が開く。