TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う   作:蓋然性生存戦略

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多分最後と言ったな。
あれは嘘だ。
天啓が降りた。


外伝:逆行ヒーロー
第一輪:遡航


朝。

いつも通りの時間。

だが、いつもと異なる天井と、倦怠感。

 

既視感はある。

私はこの天井を知っている。

覚えがある。

私はこの疲労を覚えている。

 

何もない、体を休めるためだけの部屋。

ベッドとクローゼット、それから申し訳程度の調理器具。

無駄に広い部屋に、たったそれっぽっちの私物。

ああ、夢ならば覚めてほしい。

あるいは、あちらが夢か。

 

「よもや、戻ってくるとはな……」

 

私は、エソラと出会う前まで、時を遡っていた。

 

 

 


 

 

 

状況を整理しよう。

私は、ヒイラギ=オークニー。

かつてのトップヒーローであり、ただ1人を愛し守るためにヒーローの座を降りた者。

(書類上は)17歳年下のエソラを伴侶として迎え、紆余曲折ありながらも平和に過ごすこと、数百年が経っていたのだが……。

 

目を覚ませば、私は数百年前、エソラと出会う前の日付に遡っていた。

何を言っているかわからないと思うが、私もわからない。

 

だがそんなことはどうでもいい。

 

最も問題なのは、この世界にエソラがいるかどうか。

もしくは、私の知るエソラが巻き込まれているかどうかだ。

それを知るすべは、今私には無い。

しかし、確認はしなければならないだろう。

幸いにして、記憶力には自信がある。

今日の日付が何を意味するのか、私は正しく記憶している。

 

「33日後、か……」

 

33日後、エソラと出会った日の前日に至る。

それまでにコンディションを整え、瀕死から重傷くらいには抑えなければならない。

でなければ、エソラと話をすることもままならない。

もしエソラも戻ってきていた場合、何をしているんだと笑うことすらしてもらえなくなってしまうからな。

とりあえず連絡を回そう。

 

「《テリトリア》か?ヒイ、こほん。《ブレイディア》だ」

『なんだ、珍しいな。何か事件か?』

「まあ、そんなところだ。だいぶ調子が悪くてな、至急休む必要があるので調整を任せる」

『……構わんが、何か隠してはいないだろうな』

「現場が忙しすぎてな。自分を見つめる時間も必要だと思った。()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()。スケジュールは任せるが、人事はこちらに任せてもらうぞ』

「そこは信頼しているさ。ひとまず休ませてもらおう。何かあればまた連絡する」

『用件はそれだけか?』

「ああ。改めて、頼んだぞ」

 

これで伝わっただろう。

《テリトリア》との付き合いは、この時点で既に長い。

それとなく内部に怪しい動きがあると伝え、しばらく動かないことを伝える。

 

まあ、エソラも舞い戻っていた場合、あの日を待たずとも私に会いに《ガーディアンズ》本部にこっそり現れるだろう。

その場合は事を早めるだけだ。

何も問題はな、い……いや待て。

今の時期はリンカもまだ生きていたはずだ。

もしかするとそちらにかかりきりの可能性もあるか。

だが、私としてはリスクは犯せない。

 

もし仮にエソラが巻き込まれておらず、この時代のエソラのままであった場合。

根城にしているニューセートを私がうろつけば、警戒して拠点を移す可能性がある。

と言うより間違いなく拠点を移すだろう。

 

彼女は臆病だ。

自他ともに認める臆病者だ。

故に、まだ面識のない私が接触する可能性を上げてしまえば、拠点を移してしまい、私は足取りを掴めなくなる。

ついでに言えば、あの日と限りなく近い状況を生み出す必要もあるだろう。

こう言ってしまってはアレだが、彼女の良心に訴えかける必要がある。

アジトに入り込み、信用を得てしまえばこちらのものだが、逆に言えばそこまでの牙城があまりにも堅い。

……不安になって来たな、私にそれができるだろうか。

 

ともあれ、コンディションを整えない事には始らない。

さすがに、私も死にかけるのは嫌だからな……。

 

 

 


 

 

 

《ブレイディア》から連絡が来た。

専用の回線を使い、なおかつ本題には触れず伝えるという形で。

 

「どこでそんな情報を掴んだのだか……」

 

内部に不穏な影アリ。

奴はそう伝えて来た。

奴自身が動くのはしばらく後。

その後どうするのかは伝えてこなかったのが分からないが……すぐに調べたところ、上層部がだいぶ食われていた。

非常にマズい。

すぐに現場の保守に回り、上層部からの指示を通りにくくした。

黒幕はそれから調べる。

 

「だが、これが分かっているのなら、何故奴は動かぬだなどと……」

 

それはそれとして、一つ疑問が残る。

《ブレイディア》はすぐに動いて欲しくはなさそうだった。

何かしらの狙いがあるのだろうが、その狙いは分からない。

それに、勘違いでなければ、昨日時点の彼女と比べると、あまりにも声音が優し過ぎた。

まるで年月を経た老婆の如しだ。

勘違いであれば良いが、そうでなかった場合、昨日までの彼女とは完全に異なるということだけは言えるだろう。

 

尤も、敵対者ではないだろうことは分かる。

私でさえ言われなければ気付かなかった上層部の被害を、わざわざ教える敵はいないだろう。

その点においては、シロと言える。

撒餌である可能性は否めないが。

いずれにせよ、目の前の上層部の被害で手いっぱいだ。

アイツの変容にまで手を伸ばす余裕はない。

敵でないことを祈るしかない。

クソッタレ。

 

「先輩、少しいいですか?」

「なんだ《フィクシオン》」

「自分の異能なんですが……後継を探せってずっと言ってくるんですよ」

「誰のだ」

「《ブレイディア》先輩の」

「……」

 

まさかとは思うが、死ぬつもりではなかろうな……?

 

 

 


 

 

 

そして、時は来た。

コンディションは問題が無く、ちょうどよく苦戦するであろうことが予想される。

不審に思われないように、上層部のムチャにもある程度付き合い、程々に疲労感も溜まっている。

全く、バッドコンディションなど保つモノではないが……今はこれが必要だ。

襲撃予定地に先んじて向かい、そして潜む。

 

「……来たか」

 

今にして考えれば、よくもまあ、あんなコンディションで勝てたものだ。

疲労困憊、精神摩耗、一対多。

もう一度同じことをやれと言われても、できるかどうかは怪しい。

一種の奇跡ではなかろうか。

 

まあ、今回は実力でねじ伏せる。

 

「まずは一人」

 

余裕はさほどない。

私の知る私の肉体性能との乖離、抜けきらない疲労。

生かすのは一人で良いとはいえ、数が数だ。

一個中隊規模の人数がそこにはいる。

背後から胸を貫き、心臓を引き抜く。

 

「ターゲットだ。殺せ」

 

前回は聞き落とした言葉。

やはり私が主目的か。

 

()れると思うなよ、クズどもが」

 

物言わぬ肉塊と化した襲撃者を投げつけ、空を駆ける。

銃弾を躱し、首をへし折り、胸をぶち抜き、上官と思わしき人物だけを残して殺して回る。

 

「!?殺しに躊躇がない、だと!?」

「ヒーローのはずだろう!?」

「くっ、これでは前提が崩れる……!」

 

ああ、そうか。

私がヒーローとしてふるまうことも計算に入れていたのか。

嗚呼、まったく。

人間の悪意というものは厄介なものだ。

 

だが、覚悟では私も負けん。

 

「撤退、撤退だ……!」

「その判断をするには30秒遅かったな」

 

上官が指示を出す頃には、私はすでに他の全員を沈めていた。

 

「お前は……なんだ、なんなんだ……!?」

「《ブレイディア》だが?」

 

私はそいつの意識を刈り取り、異能封じの枷をつけて拘束し、座標を《テリトリア》に送って、その場を去った。

向かう先は、ニューセート。

エソラと出会うはずの場所。

時間はまだある。

焦らずいこう。

 

しかし、決着を急いで被弾が多くなってしまったな。

想定よりも傷が深い。

放っておけば失血死するだろうな……。

 

エソラに、早く会いたいな……。

 

「ああ、寒いな」

 

 

 


 

 

 

さて、読者の諸君。

 

人生は小説よりも奇なりとはよく言うものだが、しかし果たしてボク以上に数奇な運命を辿っている者もそうはいまい。

 

ボク以上ともなれば、それはもうマスターだの先生だのドクターだのそのような類の者達ぐらいだろう。

 

して、開幕からなぜボクがこんな語りをしているかというと、まずボクが転生者だというところから始まる。

 

 

 

2025年くらいに、まあとりあえず地球は滅んだ(デデン。

 

 

 

理由はよく分からない。

 

とにかく地球は滅んだということしか理解できてない。

 

そもそもボク、引き籠りだったしね。

 

もし地球が滅ぶのが分かっていても『FPSやめられないんだけどwww』と闇のゲームとして名高いオ〇バーウォ〇チ2でランクを回してただろう。

 

どうせ死ぬのは変わらねーんだ、ガハハ。

 

 

 

まあともかく、地球は滅んでボクは転生した。

 

それだけならば、まあまだよかったのだが。

 

問題がいくつかある。

 

まず、TS。

 

男→女のTSを経験してしまった。

 

まあこっちは時間が解決したので良いとしよう。

 

この身体とも八年の付き合いだ、もう慣れた。

 

 

 

次に、生まれ変わった先の世界は異能が比較的当然にある世界で、アベンジ〇ーズみたいなのがいたし、既に何か起きた後っぽかった。

 

マジかよ、リアタイしたかった。

 

 

 

更に言えば、ボクはヴィランである。

 

仕方のない事情があったとはいえ、今はこの生活を楽しんでいる。

 

マジかよ、アベンジャ◯ズと敵としてご対面?!

 

却下、御免被るね。

 

 

 

そして最後の問題だが……。

 

「あたたかい、な……」

 

なんかアベンジャ○ズのリーダー格ヒーローがボクを抱き枕にしてくるんだけどー!!

何?なんなの?

何が起きてるわけ!?

アジトの入り口前でケガを負って寝ている黒髪ポニテ長身スレンダーおねーさんがいたから声掛けたら、《ガーディアンズ》トップヒーローの《ブレイディア》じゃねーか!!

なんなんだよもう!!

しかもガチ寝しながら抱き枕にしてくるんだけど!?

ホントに何!?

放り出しても良いけど、よく見たら放っておいたらまずそうなケガしてるのが本当に困る!!

これで明日の朝刊に訃報流れてたらボクのせいじゃん!?

 

「あーもう!!」

 

ちくしょう!

一目瞭然で死ぬ寸前です!!とかだったらまだ迷いがなかったものを!!

コイツボクを抱き枕にする余裕がありやがるもんだから釈然としない!!

何よりまんざらでもないボクがいるのが一番キレそう!!

中身は思春期男子高校生なんだよ!!

転生して8年くらい経ってるけど!!

 

「くっそ……」

 

で、見捨てる?

ちょっと無理です……くぅ……。

 

アンダーウェア型パワードスーツに物を言わせて、おねーさんをアジトに運び込む。

無駄にでかいソファに寝かせて、傷の様子を確認。

やっぱり、止血が済んでいるだけで、傷は深い。

ただ、止血は済んでいるため、後は安静にして傷を治すだけでいいだろう。

通常の治療はボクには難しいので、イレギュラーアイテムの治療薬を使う。

健康に害がないクリーンな塗り薬だよ!!代わりにめっちゃ太りやすくなるけど。

 

「……ん。ああ、手当てしてくれていたのか」

 

傷薬を塗っていると、おねーさんが目を覚ました。

手当だと疑わないのはどうかと思うんだけど。

ねえ?

 

「おはよ、おねーさん。ボクを抱き枕にするのはやめてね」

「すまない。疲労がたまっていてな……」

「休んでく?《ガーディアンズ》に戻れば治療出来たのに戻らないってことはさ、なんかあるんでしょ」

「端的に言うと上層部が喰われたから私は相打ちで死んだと思わせた方がいい」

「わぁい、完全に厄介ごとでぇす!!」

 

そして案の定厄介ごとの予感!!

やっぱり見捨てた方が良かったか?

馬鹿め、出来ないことを言うんじゃないよ。

はぁ……。

 

「巻き込んでしまってすまない」

「いーよ。心当たりがあるし……とりあえず入り口変えるかあ……」

「一応聞いておくが、ヴィランか?」

「え、あ、うん。現エソラ、しがないヴィランです、よろしく」

「知っていると思うが、ヒイラギ=オークニー。ヒーローだ」

 

それにしてもなんだかなあ。

おねーさん、なーんか妙なんだよなぁ。

まるで我が家みたいなツラして寛いでるんだもん。

一応ボクヴィランって名乗ったよな?

なんでクソほど気を抜いて寛いでるんコイツ。

図太さの塊か?

 

「ボクこれから出かけるけど、くれぐれも外に出ないようにね!入れなくなるからね!」

「分かった」

「あとご飯とかは自由に食べて良いから。じゃ!」

 

くそ、扉を閉める頃には寝息立ててやがら!!

えぇい、家事とかはきりきり働いてもらうからな……!!

 

 

 

と、思っていた時期がありました。

 

 

 

「おかえり。軽く夕飯を作っておいたが、どうだ?」

「うそん」

 

ツナギ無しの手作りハンバーグ定食、だと……!?

そ、そんなの美味いに決まってる……!!

こいつ、出来る!!

 

「し、試食してもいい?」

「構わない。そら」

 

一口貰う。

ボク好みの、素材の味を生かしつつ塩味の効いたパンチのあるハンバーグだ。

うめえ、ガチうめえ。

 

「お気に召したようで何よりだ」

「いつまででもいてくれて構わないよ!!」

「現金なことだな……」

 

性癖ドストライクの女が作るボク好みの味付けの手作りハンバーグだぞ、引き止めない理由イズ何処?

 

「良ければレシピを教えるが」

「良いの!?」

 

それはそれとして、なんかやたら好感度高くない?

気のせい?

 

 

 


 

 

 

予定通り、エソラと出会うことができた。

だが、私の知るエソラではなかった。

巻き込まれていないと喜ぶべきか、私の知るキミではないと悲しむべきか。

いずれにせよ、キミを守らぬ理由はない。

記憶がない以上、別人であると理解していても。

キミがキミである以上、私の身体は勝手に動くだろう。

 

たとえ、恨まれることになったとしても。

 

「おねーさん、今日のメニューは?」

「今日はアラカルトだ、好きなだけ食べろ」

「やったぁ!!」

 

今はこの時間を堪能しよう。




知らなかったからこそトゥルーエンドだった本編みたいなところある。
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