TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う   作:蓋然性生存戦略

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そう言えば外伝なのでいつもより短い章になると思う、思いたい。


第二輪:違和

私が記憶を持っていることで、違和が生じるのは当然のことだ。

知らずに行動することと、知っていて行動を真似するのとでは、根本的に異なる。

自らすら欺くような、生粋の演者でもなければ、それは成しえないだろう。

故に、こうなることは必然だった。

 

「ねー、おねーさんさぁ」

「なんだ」

「ボクのこと知ってるでしょ」

「さてな」

 

アジトで過ごすことになって数日。

私はエソラに隠し事をしていることがバレた。

エソラは聡明だ。

私の意図の有無に関わらず、私が黙っていることを察する。

だから私は、演じることは早々に諦めていた。

それに、下手に隠すよりも見せつけたほうがいいだろう。

 

「逆に聞くが、どこまで知っていると思う?」

「ンー……そうだねえ……ボクに悪意があるのなら隠すほうがいい。けどおねーさんは堂々としていたからねぇ……大穴で全部にベットしよう」

「大きく賭けたな……ならそうだな。キミならば、『何でもは知らない、知っていることだけ』と返すところだと言っておくか」

「わーお。なるほどなるほど?おねーさんはボクをよぉく知っているみたいだ……面白くなってきたじゃん」

 

どーいうパターンだろうなー……などと考え込み始めるエソラ。

 

「答え合わせは必要か?」

「そうだねえ、イエスノーで答えられる質問をしていくから、答えてよ。最後にボクが回答する。どう?」

「なるほど、ゲームか」

 

ゲーム好きのキミらしい。

 

「そそ。じゃ、問1。おねーさんはアジトの構造を知っている?」

「イエスだ」

「問2。おねーさんはボクの異能についても詳細を把握している?」

「イエスだ」

「問3。おねーさんはボクの生い立ちについて詳細を把握している?」

「イエスだ」

「それはボクが現状知らない部分についても?」

「イエスと答えておこう」

「問4。おねーさんは異世界出身?」

「ノーだ」

「問5。おねーさんはこの時間軸に2人いる?」

「恐らくノーだ」

「なーるほどね。答えはタイムスリップ。過去の自分に憑依するタイプだ」

「正解だ」

 

なるほどねぇ、とつぶやきながら、またも考え込むエソラ。

恐らく、私がタイムスリップしてきた理由でも考えているのだろう。

 

「一応言っておくが、私も原因は解っていないぞ」

「え、マジ?偶然?うそでしょ?」

「大マジだ。私の知る未来はあまねく奇跡が重なって紡がれた未来だ。それ以上を求めてドブに捨てるほど、私は強欲ではない」

「あ、はい……えー、じゃあ原因探ったほうがいいのかあ?うーん……」

「できることならば戻りたいし、そのためにキミに接触した。今だから懺悔するが、キミに出会うために当時の出来事を可能な限り再現した」

「ばっかじゃねえの。死にかけるところまで再現?」

「重傷に留めたつもりだが」

「はいばかー、おおばかー、それに騙されるボクはもっとばかー」

「謝罪する」

「いいよ。ボクの手口とか能力とか全部知っている上で出現地点が絞れているならボクだってそうする」

 

エソラはそのまま悩んだ様子で顎に手を当て……。

そして結論を出した。

 

「おっけー、おねーさんが元の時代に戻るのを手伝おうじゃない。ちょうど、やることもなかったしね」

 

ああ、そうだな。

キミには今、生きる理由がないのだものな。

 

 

 


 

 

 

さてさて困りました。

おねーさん、意図せず過去に戻ってきた憑依型タイムスリッパーでした。

うーん、いろいろ聞きたいことがあるが、しかし知るということは必ずしもいい結果を生むとは限らない。

知らないほうがいいこともあるだろう。

ただ、なんでボクへの好感度が高いのかだけは聞いておこう。

 

「そういえばおねーさんさ、ボクへの好感度高いよね」

「そうだな」

「なんで?」

「私を変えてくれたのがキミだからな。命の恩人ということもある」

「へ~。ボクがイチ個人を変えられるほどのことをしたとは思えないケド」

「そうさな。キミの一言は一見して何気ないものだったとも。だが、この世界のだれもが失念していたことでもあった」

「例えば?」

「特別など要らない。社会を回すのに必要なのは普遍性だと。私が消えたくらいでどうにかなるのなら、そんな社会は消えたほうがマシだと言っていたな」

「はっは~ん、如何にもボクが言いそうなことだ」

「だろう?平和の象徴などと、そんなものが必要なほうがおかしいのだと気づかされてな。今から半年ほど後にはヒーローを辞めていたか」

 

無責任ヴィランなボクが言いそうなことだぜ。

けど、それで誰かの心を動かせたのであれば、それはそれでいいのだろう。

何より、最強のヒーローの心を動かしたというのは、なかなかな実績だ。

くっそ、ボクではないボクがうらやましいぞ、プラチナトロフィーどころの話じゃないぞそれ。

 

「そのあとは?」

「ゲーム実況配信者として生活していた」

「何その落差」

 

本格的にボクがうらやましくなってきたな。

ちょっと見てみたいのが腹立つ。

 

「くっそ、聞かなきゃよかった、クソほど気になる」

「これ以上は話せないからな」

「わかってるよぅ……」

「それと、自死は許さないからな。殺す気で生かすから覚悟しておけ」

「怖すぎる」

 

やべー、今のボクに生きる理由が無いのもバレテーラ。

ま、そうだよね。

色々バレてる前提で……ん?ちょっと待てよ?

 

「ねえおねーさん」

「なんだ」

「ボクの性自認は?」

()()()()?」

 

「馬鹿か貴様はッ!!ちったぁ警戒心を持てよッ!!妙齢の淑女だろうがッ!!」

 

なんでボクの性自認が男だって分かっててアジト内部で気を抜いてるかなァ!!

なんだァ、テメェ……?

 

「……そういえばキミは自制心が強い上に欲求も強かったな」

「なんでボクの欲求が強いことを知っているんですかねぇ……」

「キミの自室の玩具の数で分かろうものだ」

「なんでオモチャの数まで知ってるんですかねぇ!!」

 

コイツ自分の歴史では相当ボクと親密な関係を築いてやがる!?

というか初手の好感度の高さから考えて普通に恋人とかでもおかしくないな……?

 

「一応言っておくけどさァ、ボクは別人だぜ?」

「既に異なる歴史を歩んでいる別人だということくらいは理解している」

「なら良いけどさァ……」

「それはそれとしてキミをみすみす見殺しにする気もないだけだ」

「クソわよ。死にたい理由も知ってるんでしょ?」

「救えなかった上に、生きる理由もなく、更には狙われれば、さもありなん」

「はぁ……やりにくいったらありゃしないよ……」

 

希死念慮に囚われたクソガキなんざほっとけばいいものを……いや、ヒーローだからか?

やれやれまったく、お節介が本質とはよく言ったものだ。

 

「ま、おねーさんを見送るまでは、生きててやろうじゃない」

「では、帰るまでに生きがいを見つけてやるとしよう」

「やってみろよ、ヒーロー」

「やってやるさ、ヴィラン」

 

全く。

ボクはお前のエソラじゃないんだからな。

 

「ところでだが」

「なにさ」

「今日の夕飯は何が良い?」

「卵マシマシチャーハン」

「請け負った」

 

それはそれとして、美味いメシには逆らえない。

ちくしょう、なんでこいつこんなにメシが美味いんだ……っ!!

お前は一体何を持ち得ないのだ、ヒイラギ=オークニー!!

 

 

 


 

 

 

「ああ、クソ!あいつめ、このクソ大変な時にどこをうろついているんだ……!!」

 

場所はニューオート、《ガーディアンズ》本部。

本来の歴史通り、《ブレイディア》が失踪して一週間。

しかし、本来の歴史とは異なり、既に幻楼院からの大攻勢が始まっていた。

 

「先輩、次は旧セート、《ボルテクス》に手配を!!」

「奴は今出払っている!!」

「《ジャックジャック》大先輩を呼んで交代させてください!!《酔いどれ横丁》が潰れると言えば動きます!!」

「《テリトリア》!サーイートで大規模なテロだ!!」

「ええい、クソ!人手が足りん!!軍への要請はまだ通らないのか!!と言うより本来奴らの管轄だろう!!」

「国防省の方も大規模なサイバーテロ喰らって機能不全だクソッタレ!!」

 

どこもかしこも大混乱。

情報共有もままならず、現場は現場だけで動くしかない悪循環。

あまりにも異なる歴史の出来事。

その要因は、やはりあの女。

 

幻楼院リンネ、今に存在するすべてを見通す眼を持つ、観測者。

 

彼女は見た、視た、観てしまった。

 

あらゆる脅威を上回る、さらなる脅威を。

その眼に映すことすらできない、その事実を。

このアセリアを、アルスガルを、覆いつくして有り余る理解不能な空白を。

 

故に、かの邪知暴虐なる女傑は動いた。

全ての計画を前倒しにして、この空白に抗するために。

 

幻楼院リンネという女は、頭の良いバカである。

しかし、それと同時に、有事に全てを率いる王たるカリスマを持つ。

そう。

平時であらば悪と断じられるそれは、有事に英雄と崇められるそれなのである。

彼女が下した決断。

それは、この星全てのリソースを手中に収め、総力を以てこの空白に抗うことだった。

 

恥も外聞もない。

プライドも何もかもをかなぐり捨て、少しでもソレに勝つために、人生で初めて『必死』になった。

 

ただそれだけの話である。

 

だが、そんなことは誰も知る由もない。

この空白の存在は、リンネ本人しか知り得ないものであるが故に。

 

更に言えば、それはリンネですら知らない。

その空白は、リンネが何もしなければ、特に何もする気が無かったことを。

 

違和が違和を生み、それらはやがて大きな波となる。

バタフライエフェクト、ここに極まれり。

 

「……いやね、もう。だから言ったじゃない。世界は廻り、繰り返し、そしてまた、今日になる、って」

 

いや、バタフライエフェクトですら、無かったのかもしれない。

 

 

 


 

 

 

「なんか大変なことになってなァい?」

「随分と動き出すのが早いな、リンネ。私の知る歴史ならば、四か月後くらいなんだが」

「おねーさんのせいでは?」

「可能な限り同じ動きをしたつもりなんだが……」

 

あまりにも早い攻勢だ。

だがまあ、私が来たことによって何もかもが変わったというのならば、納得は行く。

奴の眼は特別製だ。

何せ、条件付きでこの世に存在しないものまで観測できる。

私と言う存在の変化に気付いてもおかしくはないだろう。

 

だが……。

 

「いやに性急な動きだな。本当にこれは私の知る幻楼院リンネか?」

「別人だったりは?」

「しないな。この時期にこの規模で事を動かせるのは、幻楼院リンネしかおるまい」

 

性急だが、打つ手は最短最速を目指しているように見える。

奴にしては遊びが無い。

こうも必死さすら感じるのは初めてだが……奴め、何を見た。

 

「仕方ない、行ってくるか……エソラ、帰宅用の道具を貸して欲しい」

「どこにさ」

 

決まっている。

 

「リンネを討つ。来るか?キミが怖気づいてしまっているのならば代わりにやるが」

「おねーさんさ、人の因縁勝手に片付けるのどうかと思うんだよね」

「できるのか?小心者のキミに」

「それ以上にダセェ真似はできないの。行くよ、行けばいいんでしょ」

 

私がリンネを討つと答えれば、エソラは重い腰を上げた。

自重を棄てた、重犯罪アイテムと共に。

 

「既に十分休めた。反撃と行こう」

「全治一か月はあると思ってたんだけど」

「キミの薬は効き目が良いからな。太りやすくなるが」

「体重筋肉でしか増えてないくせによく言うよ」

「頑張ったからな」

「そっかぁ……」

 

太りやすい分、カロリーを消費すれば良いだけの話だ。

簡単なことだろう。

 

「で、どこから行く?」

「ニューノートから行くか」

「りょーかい。ちなみにその心は」

「テキトーだ。どうせアセリアを一周して旧オートに帰って来るからな」

「ア、ハイ……ええいクソッタレ、やってやらぁ!!」

 

可能ならば国外も対処したいな。

国内が落ち着けば《テリトリア》に話を付けてもらおう。

さて、ひと仕事だ、張り切って行こう。




だいたいお前のせいオブザイヤー幻楼院リンネは今日も元気……なんか必死ですな。
なんででしょうね(すっとぼけ
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