TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
「かくかくしかじか」
キャスの言い訳を聞いた。
まず、私は元の時間軸で大規模な時空実験事故に巻き込まれてここにいるらしい。
対処に動いていたエソラを庇ってのことだそう。
その際、私は一部の記憶を失っている状態らしい。
確かに、全く覚えがないからな、その件について。
「で?お前がエソラを痛めつけた理由にはならないが?」
「ッス……ちょっとキレちまってよ、命張って止められてたというか」
「遺言は要らないな?」
「たすてけ」
はあ。
まあそれは一旦いい。
「この世界はどうなる」
「消えるってことはねえ。ただまあ、今回の件で色々不都合は起きてる。エソラの権限でリワークした方がいいだろうな。ちょうどそこの女がリソースを掌握していることだし」
なるほどな。
だいたいキミのせいではないか?
「というか、良い機会だし
「それはこの子に言ってくれ。私の管轄じゃない」
しかしそうか。
私たちのせいで不具合が起きてしまっている。
それであれば、これを機に拠点として掌握するのも必要か。
「幻楼院リンネのせいで各地が荒れに荒れている。なんとかしてもらえるなら、猫の手も借りたいが」
「私の腕の中のこの子がどうリデザインするかによる。現代文明では無くなるかもしれんな」
「そうか……」
こちらの不手際である手前、心苦しいが仕方がない。
そこの
存続を願うのならば、手直しは必須だからな。
「まあ良い、私のやることは変わらん。ひとまず、リンネは捕縛する」
「構わん」
「えっ?」
瞬く間に捕縛されるリンネ。
油断したな、女狐め。
「とりあえず、落ち着いて話せるところに移動しよう」
エソラを二人抱え、リンネを捕縛したテリトリアと、キャスとともに歩む。
ここは旧オート郊外ということもあり、廃墟がそこそこあり、人通りも少ない。
廃墟の中には、比較的きれいに保っている場所も……いや、リンネのアジトでいいか。
「《ブレイディア》、ここは?」
「リンネの研究施設だ。気分が悪い者もいるだろうが、ここのラウンジを使おう」
「……ここがどういう場所かわかってて言ってるんだよね、おねーさん?」
「キミには悪いとは思っているが、手頃な場所が近場にここしかなかったのでな。ついでに研究資料も全て押さえる。《テリトリア》が」
「そこは私に丸投げするのか……」
……悪手であるのは解っている。
エソラには苦い思い出しかなかろう。
「好感度調整でもしてるんじゃなかろうね」
「そんな器用な真似ができるのなら、私の人生はもう少しなだらかであったろうな」
「あっそ」
嫌われてしまったかな。
ラウンジにたどり着き、この時代のエソラを降ろしてから、眠っている私のエソラをソファに優しく寝かせる。
「全員コーヒーでいいな?」
「ああ」
「あ、私はカフェラテにしてくれるかしら」
「厚かましいなお前」
キャスが全員分のドリンクを淹れ始め、《テリトリア》が手頃な道具でリンネを簀巻にしていく。
『これじゃドリンクが飲めないじゃない!!』と騒いでいるが、お前に関しては何もさせたくない。
「お、良い豆あんじゃーん」
「どこの?」
「コムロン・プレミアムブレンド」
「え、マジ?ボク好きなんだよね、自分で淹れる」
「あぁ!?私の秘蔵の豆が!?」
さすがはキャスだな。
隠された秘蔵の豆を発見したらしい。
嬉々として淹れ始めている。
「おいおい、ゴルドーカウのミルクまであるじゃねえか」
「ガディバのプレミアムチョコまであるじゃん。許せねえ」
「これもう私らでもらおうぜ」
「賛成」
「あぁぁぁぁあ……」
ああ、高級品がどんどん見つかっていく。
キャスにかかれば隠されたものなどすぐに見つかるからな。
「うっひょー、アセンダンスの10年ものだ!!」
「おいずるいぞ、ボクまだ未成年なんだけど」
「あっちのお前に感覚共有してもらったらどうだ?」
「夏○くん、それはアリだ」
「九○九せんせー、その発言の結果どうなりましたか」
「……お前地球出身?」
「おう」
「見抜き」
「7鯖」
「大合宿」
「10鯖」
「移動派閥は?」
「零サフォ」
「「親友よ」」
ああ、なんか仲良くなり始めたな。
エソラとキャスにだけ分かる符丁があるのだろうか。
後で聞くか。
「ぅ、ん……ひいらぎ?」
「起きたか、エソラ」
「いま、どうなってる?」
「一度腰を落ち着けて話そうというところだ。あちらのキミはキャスと仲良くなっているようだぞ」
「はは、この頃のボクは、あの世界を知っている人間なんて、いないと思い込んでたから」
エソラは体を起こして、周囲を確認する。
少しだけ眉をひそめた後、まあ仕方ないかと言いながら、私に体を預けてきた。
随分と甘えん坊だなと思ったが、キャスと命がけの戦いをした直後だ。
好きなだけ甘えさせることにした。
「ん……」
「《ブレイディア》」
「なんだ」
「ずっと聞こうと思っていたが、その子は誰だ」
「エソラ=オークニー。私の伴侶だ」
「……あっちのそっくりな子は?」
「この子から見れば過去の自分、になるんだろう」
そう答えると、《テリトリア》は思いっきり頭を抱えた。
時空を超えた事案など、まあ手に余るだろう。
「つまり、お前は未来の人間なんだな?この時代のお前はどうした」
「わからん。気付けばこの時代の肉体に憑依していた。この時代の私の意識がどうなっているかもわからんし、元の肉体がどうなっているのかもわからん」
「いやーそれがさぁ」
「どうした」
「この時間軸のヒイラギ、魂が死んでるんだよね」
「……私が殺したのか?」
「元から死んでる。今のヒイラギが覚醒する前には死んでるね」
「なんだと!?」
ああ、そうか。
この世界線は。
「死因は?」
「過労死」
「やはりか。
「そ。だからスルッとヒイラギが入り込めたし、サルベージが難しい。今のヒイラギはこの世界の普通の人間として世界に認識されている。無理やり魂を引っこ抜くのは怖いから、ちょっと手続きが必要だけど」
「待て待て待て!この時代本来のお前は過労死だと!?」
「ああ。かくいう私も、疲れ切って死にかけたからな」
「っ……《フィクシオン》の言葉は、そういうことか……」
「本来ならこの世界線のボクも死んでるはずだけど、こっちのヒイラギが迷い込んじゃったからねぇ……」
面倒な。
不都合が起きなければいいが。
「ま、ヒイラギとこの世界線のボクはサルベージするよ。シキには悪いけど、この世界は二人がいなくても回っていく」
「……そうか」
「で、そこのクソババアなんだけど」
「こちらの司法で裁くつもりだが」
「まあそれはそれで構わない。ただ、この研究施設のモノ差し押さえるのはちょっと待ってほしくてね」
それはともかくとして。
エソラ、キミのやろうとしていることは分かっているぞ。
「証拠隠滅でも無ければ構わんが」
「……ま、ちょっと必要な儀式って奴さ。ヒイラギ、ちょっとココで見張っといて」
「……許すと思うか?」
エソラを持ち上げ、しっかりと捕まえる。
何も自分から滅ぼすことはあるまい。
「でもさぁ」
「心配しなくても、パラドックスは起きねえよ。別の死因が訪れるだけだ。世界ってのは案外つじつま合わせが上手いからな」
私がエソラを押さえていると、飲み物を用意してきたキャスが戻って来た。
どうやら話を聞いていたらしい。
「けど!」
「じゃああっちのお前に聞いてみろよ、多分違う答えが返って来るぜ」
「……ねえボク」
「なに?」
「死因は?」
「え?トラック」
「嘘でしょ?」
「マジ」
「な?」
良かったな、エソラ。
「なんだよもう……じゃあいいや」
「なんだったの今の」
「別に何も。羨ましいなってだけ」
「何がさ!?」
知らなくてもいいだろう。
知らない方がいいこともある。
「ともかく、本題に入ろうぜ。どうせリワーク案件でしょ?」
「ああ」
「ボクの所感だけど、現代感持たせたままリワークは無理やね」
それで本題だが。
やらないのではなく、出来ないと来たか。
「あー、やっぱお前もそう思う?」
「ていうかアルスガルが異常なんだよ。なんで概念的には神代なのに現代文明が築かれてんだよ、おかしいだろ」
「ホントにな。何がどうなったらこうなるんだか」
「神秘と現代は相性最悪のはずなんだけどね。それがこうもぶっ壊れちゃったらボクの技術力じゃ無理~」
コーヒーを啜りながら、エソラはそう言った。
そう言った細かい所は、私はよく知らないが。
アルスガルが異常だということだけわかっていればいい。
再建が難しいことも。
「いったい何の話をしている?」
「よーするに、人類全員中世からやり直しってワケ」
「……そうか」
「で、リンネに関してはこっちで引き取ります。こいつを裁ける司法がもう無いですしおすし」
「頭の痛い話だ……」
「あら、連れて行ってくれるのかしら」
「当然自由はないけどな。ホントなら殺したいところだけど、人手がちょっと足らんのでね、頭数に入れます」
……?
リンネをスカウトするほどのことがあったか?
私の喪っている記憶の中に、その理由があったのなら、私は分からないが。
「できれば《テリトリア》も来て欲しいんだけどなあ~……チラッ」
「選択肢があるなら、私は行かんぞ。この世界の住民として果たすべき義務がある」
「だよねえ。仕方ないか……はぁ、欲しかったなあ、最強の裏方……」
「そうもあからさまに落ち込まれると罪悪感が湧くからやめろ」
「ちぇ」
また、コーヒーを一口。
リンネを欲するほどの状況。
まあ、あとで教えてもらえば良かろう。
この世界の住人として生きる覚悟をしているシキに聞かせる話でもあるまい。
「で、この時代のボクの処遇ですが……」
「なにさ」
「ボクは1人で十分だ、死ねぇ!!ということはなく」
「ないんだ」
「いくらでもヒイラギに甘えてくれていいんだけど」
「いいんだ」
「残念なことにボクほどの人材を遊ばせておく余裕はありません、徴兵です」
「ギャオォォォォォォォォォォォン!!(力の解放)」
「一緒に頑張ろうな!擬人化古龍みたいな奴しかいない軍勢が世界の外に待ってるぜ!!」
「殺す気か?!」
「大丈夫大丈夫、ボクなら後方支援だから」
「もう一度言うぞ!?殺す気か!?古龍の軍勢とか勝てるわけないだろ!!」
「拮抗できるハンター相当の勢力がいるんすよ……世界って広いよね……」
「こわ……ハンターこわ……」
ふむ。
まあ、連れて行く面々が決まったのだ。
そんなところで終わりだろう。
「世界の再創世に関してはまた連絡する。《テリトリア》、聞きたいことはある?」
「聞きたいことは山ほどあるが……聞いてもどうしようもないのだろう?異能を以てしても超常と言わざるを得ない事態を、どうにかできるとは思えん」
「案外、キミも神に近いんだけどね。まあいいや。達者でね」
「ああ」
私の世界のエソラが一度離れ、キャスを伴って虚空に消えようとしている。
「ヒイラギ、三日後に迎えに行くからそいつら見張っといて。また後でね」
「ああ。待っている」
エソラを見送って、私は天井を見上げた。
思えば、懐かしい顔ぶれが半数だ。
少しくらいは、物思いにふけるのも良かろう。
「で、どうすんの」
「とりあえず、ヒーローとして最後の仕事をしておくか……」
「そうだな」
「手伝うことある?」
「そこの極悪人をもっと縛り上げておいてくれ」
「りょー」
「あ、ちょ!?それ以上きつく縛ったら私の内臓がっ!?くぎゅうううう!?」
尤も、ヒーローに休みはないが。
三日というわずかな時間。
私は、懐かしい顔と旧交を温めたのだった。
というわけで短めの外伝終わりです。
色々と設定はありますがそれは一旦置いといて。
もしかしたら、また外伝を描くかもしれません。
それでは。