TS転生ヴィランロリ、疲れ切ったヒーローを拾う 作:蓋然性生存戦略
見落とすと一生気付かないので。
あと、作者はハッピーエンドが好きです、信じてください。
《
それは、エソラが呼び出せる最上級の武装。
神話や伝説に連なる、神や英雄たちの所有する武具である。
彼女が呼び出すのは、そのレプリカ。
逸話の強大さに比例して劣化しているモノではあるが、その凶悪さたるや、この世に存在してはならないモノと言っても過言ではない。
《神話武装》で身を固めたエソラは、《ブレイディア》さえいなければ、現代社会を崩壊せしめることができる。
しかし。
しかしだ。
それを操るのは、成人の半分にも満たないような、幼い肉体でしかない。
ミョルニルの重さには耐えきれず。
ゲイ・ボルグを足で投げるような芸当はできず。
武具を振るうに足る肉体を、持ち合わせていない。
それはエソラ自身も理解していた。
如何にハジけたと言っても、思考の片隅に、理性を残している。
自分が耐えられる限界ギリギリ、そこを見極めて攻撃している。
それでもなお、常人が触れれば消し炭になる火力を誇っている。
「最初から制御装置がない、ね。そんなはずがない。ということはアナタ、リンカじゃないのね」
「なんだ、今ので死ねばよかったのに」
如何様にしたのか、幻楼院リンネは健在ではあったが。
「エソラ、殺してはダメだろう」
「ごめんごめん。久しぶりにキレちゃったよ」
「とはいえ……今のを防ぎ切るか。随分と入念だな、幻楼院リンネ。まるで私たちが来ることが分かっていたようじゃないか」
「私は《観測者》よ?大まかなことは見て取れるわ。そこのリンカではないその子の事は、あまりよく分からないけれど」
今度は、施設の防衛兵器がガシャリと音を立てて起動する。
無数の銃口が、二人に殺意を向けていた。
「おねーちゃんこっち。アイギス」
エソラが盾を展開すると同時、銃口からは鉛玉の雨が降り注ぎ、殺意の嵐を撒き散らす。
それらがアイギスを貫くことはなかったが、面倒くさいことには変わりがない。
ので、アイギスのギミックを使うことにした。
「アイギス。
攻撃を受け止めたアイギスで、カウンターを実行。
盾が妖しく光り輝き、向けられていた銃口が全て石化する。
「とりあえずアイギスで防いでおけば安心するよね」
「いやになっちゃうわ。どうやって全方位の掃射を防ぐのかしら、そんな盾で」
「アイギスは完全無欠の盾。構えれば守られるという概念防御。お前にアイギスを貫けないなら、ボクたちの勝ちは揺るがないね」
反撃に関しては特に解説しない。
物凄い形相で見られることは分かっているから。
「ふぅん……厄介ね。攻撃だけじゃなくて防御面もしっかりしているのね。優秀なだけに失敗と断ずるほかないわ」
「それはキミの教育方針の問題ではないかと思うがな!」
掃射が終わった直後。
《ブレイディア》は攻撃を放つ。
構えは居合。
対面まで約十メートルはあろうかという距離は、彼女にとっては無いに等しい。
「《唯・一文字》!!」
横一閃。
概念をも断つ必殺の一撃が振るわれる。
リンネが侍らせている武装の類を破壊していき……。
「は?」
「なるほど。先ほどはエソラの攻撃が激し過ぎて視認できなかったが……随分なギミックがあるみたいだな?」
エソラは驚愕し、《ブレイディア》は納得の色を見せる。
何かしらの原理によってか、攻撃を無かったことにされるのだ。
「妙な感触だった。手応えはあった。だが影響がなかったことにされる予感もあった」
数多の《神話武装》による攻撃も、これによって防いだに違いない。
「……ふぅ。驚かせてくれたわ。でも、私の防御を貫くことはできないみたいね?」
何かカラクリがある。
それは間違いない。
「そのペラペラな防御が何だって?厚化粧で誤魔化すのはほうれい線だけにしたら?」
「流石に誤魔化されないわね」
何らかの方法で、攻撃をなかったことにされている。
そんなギミックやシナリオを、よく知っているエソラは考える。
エソラの脳裏に、数々の可能性が過る。
その中でも最悪なのは『誰かを身代わりにしている』というパターン。
それだけは避けなければと思い、攻撃の合間に情報は集めている。
幸いにして、今のところ不自然な死者のニュースは流れていない。
「おねーちゃん、ちょっと考える時間ちょうだい」
「良いぞ」
しばし、考える時間が欲しくて、攻撃の対処を《ブレイディア》に任せる。
前提からして、あの妙なギミックさえなければ、《ブレイディア》が圧倒的に有利なのだ。
自分は本来必要ない。
それはそれとして、不可解だ。
攻撃は通っている。
それは間違いない。
問題は、その攻撃をどうやって捌いているか。
「(どういうカラクリだ?不死、不滅。そのあたりか?でもそれはおかしい。おねーちゃんは
エソラは考える。
幻楼院リンネという女のことを、深堀りする。
あの女のことを、エソラが端的に評するのならば、『あまりにもバカな天才』である。
そもそも幻楼院一族とは、世界的な技術者なのだ。
故に、その技術だけは本物であり、技術に携わる以上、その知識もまた本物である。
だがバカなのである。
何もかも一流の腕前を持つのに、その果てにやろうとすることがバカなのである。
世界征服なんてしてどうするんだ。
真っ当に技術者として名声を上げれば普通に世界の覇者だろう。
どうしてそこで邪道に走るんだ。
ついでに言えば倫理観もゼロである。
最早救いようがない。
では、そんな女が、自らの持つ異能をどう使うか。
幻楼院リンカというバカげたプロジェクトの成果がある以上、『この世に存在しないモノ』を観測したに違いない。
だが、それはリンカの脱走でとん挫しているはずである。
ならば問題は、その後何を観測したか。
そもそもこの世に存在しないモノの定義から始めなければ……。
そこまで考えて、当人から答えがもたらされる。
「流石にその武器や《ブレイディア》の攻撃は防げないわ。参ってしまうわね。奥の手を使う羽目になったのだもの。アナタたちを人形にするにはリソースを注ぎ込まないといけないし……
「……は?」
エソラの、思考が止まる。
自分の最低の想定をさらに下回る答えに、辿り着いたが故に。
「次の世界……?いや待て、確かにお前の能力なら観測自体は可能……技術的な問題をどうやってブレイクスルーしたのかはともかく……」
「流石に気付いたわよね?アナタたちが相手しているのは、ここではない世界そのものよ」
エソラは、考えるのを完全に放棄しそうになり、ギリギリのところで理性が踏みとどまる。
「アナタを逃がしてしまってから、道具に感情を与えるのは失敗だったと思ったのよ。だから、アレからアプローチを変えて……ここには無いモノを資源として扱うことにしたの」
つまり、今までの攻撃は、ここには存在しない世界に身代わりさせており。
つまり、その世界への攻撃ということであり。
「尤も、アナタたちの前では世界が相手でも大して変わらないみたいだけど。もう少し研究を煮詰めた方が良いかしらね」
その果てに、とある可能性に思考が辿り着いて。
「呆けるな、エソラ!!」
「ごめん、おねーちゃん」
拳を、ケラウノスを持つ手を、血が滲むほど力を入れて握りしめる。
その可能性を否定したくて。
ペンを走らせて。
「そういうことか。この際時系列は関係ないってか」
「エソラ?」
可能性が、事実になってしまった。
エソラの脳裏に、鮮烈な記憶が蘇る。
「(あの日は随分と平凡で、当たり障りない一日だった。あの雷鳴が、轟くまでは)」
瞬間、エソラの雷霆が光を放ち始めた。
エソラの意思に反して、だ。
「ッ!?」
時に、エソラが呼び出したケラウノスは、レプリカである。
宇宙を焼き尽くすと伝承に伝わるモノを、大幅にデチューンして、エソラにもギリギリ扱えるようにしたものが、このレプリカである。
では、そのギリギリとは最大出力の事を指すのか。
答えは否である。
改めて言おう。
エソラの肉体に、そんな大層な耐久力はない。
5%未満。
それが、エソラにとって扱える、ケラウノス・レプリカの限界。
それ以上は、自らをも焼き尽くしてしまう。
「ケラウノス、何勝手に起動してんのさ!?あづっ!?」
「エソラ!?止められるか?!」
だがケラウノスはエソラの限界を優に超えて荒れ狂い続ける。
エソラとて、制御しようと抗った。
だが、一向に収まる気配はない。
エソラはケラウノスの制御を諦め……ただ、《ブレイディア》を案じる言葉だけを放った。
「おねーちゃん逃げて。無理だこれ」
《ブレイディア》は逃げなかった。
「……出力測定……世界を以てしても防ぎ切れないわね。流石にこれは死ぬしかない、か。何が狂ったのかしら。次があれば研究したいわ」
「エソラッ!!!!!」
そんなセリフを吐くリンネなどには目もくれず、《ブレイディア》は手を伸ばした。
「《ブレイディア》……何があった」
旧オート郊外、跡地。
恐らく余波と思われるそれに、郊外全域を超高熱で焼き尽くされた事件が起きた。
そこは、《ブレイディア》と
《ブレイディア》自身も、決して軽傷とは呼べない傷を負っている。
「《テリトリア》か……頼む、まだ間に合う。エソラの治療を」
確かに、まだ間に合うだろう。
だが、可能性の話だ。
峠を越えられるかは、未知数だ。
「最後になぜかエソラの道具が暴走を起こした。その際、幻楼院リンネの死亡を確認。実験施設も全て消し飛んだ」
「報告は後で良い。その小娘ともども治療を受けろ。救護部隊、急げ!!」
「ハッ!!」
《ブレイディア》が抱えている幻楼院リンカの姿は、なぜまだ死んでいないのか不思議なほどの重傷だった。
特に右半身が酷い。
右腕と右足は根元から吹き飛び、腹部は一部が炭化。
何故か頭部と胸部は無傷のままだが、それだけである。
恐らく《ブレイディア》がデタラメな剣技で守ったのだろうが、それでもなお、この傷だ。
一体、何が起きたというのか。
救護部隊に連行されていく二人を見届け、煙草を取り出す。
めったに吸わないが、今はどうしても無性に吸いたかった。
「先輩……申し訳ないです。最善の手を打ったつもりなんですが……」
「言うな。これで一番マシなんだ、きっとな」
これは後日判明したことだが、奇跡的なことに、この事件に関して、民間への被害はなかった。
死亡者は、幻楼院リンネただ一人。
意識不明の重体も、幻楼院リンカ一名という、本当に奇跡的なものに留まった。
そんなもの、何の慰めにもならない事は、よく分かっていたが。
数日後。
今回の事件の処理に区切りがついた私は、《ガーディアンズ》本部に施設されている医療施設に立ち寄った。
本来、部外者が利用することのできないはずのそこには、現エソラの名札が貼られている病室が存在した。
《ブレイディア》の、強い要望によるもので、幻楼院リンカ……現エソラはそこで集中治療に入っている。
そして、《ブレイディア》は一日の大半をここで過ごしている。
「しばらくは目を覚まさないはずだ。数日前にも同じことを言ったと思うのだが」
「……そうだったか」
「あれから一睡もしていないだろう。寝てくれ、頼む」
「……この子が無事に目を覚ますまでは、安心できないんだ」
一睡もせず。
つきっきりで。
ただ、現エソラという存在が、まだ生きていることを確認するためだけに。
自らも治療中の身でもあるにも関わらず。
「あの時、お前はこう言ったな。この小娘は、なぜか道具が暴走したと」
「……ああ」
「その前に、何があった」
どう足掻いたって聞きやしない。
そう悟った私は、軽く事情聴取をすることにした。
なぜ、あのような大規模な破壊に至ったのか。
それを知らねばならない。
「幻楼院リンネは、この世界ではない世界を観測し、それを資源として扱って戦っていた。恐らく、そこに何か原因があるはずだ」
「待て、シンプルに情報の威力が大きすぎる。奴は異世界なんてものを観測して、なおかつ干渉していたというのか?」
毎回のことながら爆弾情報をいきなり投げるのはやめてほしい。
私の胃は無敵ではない。
少し息を整えて、続きを聞く。
「ああ、間違いないだろう。技術的な観点はさておき、少なくとも私たちの攻撃は通っているはずなのに、何かしらの手段で無かったことにされていた」
「……頭の痛い話だ。最悪、異世界からの反撃なんてものも考えられるんだが」
改めて、研究施設が爆散どころか消失したのは手痛い損失だ。
最悪の場合、何の手立てもなく異世界からの反撃を迎え撃たなければならない。
エイリアンの再襲撃も考えなくてはならないというのにもかかわらず、だ。
「それは知らない。ただ、エソラは何かに気付いたようだった」
ただ、《ブレイディア》はそこに興味は無いようだった。
エソラが、何かに気付いたという事実にこそ、意識を向けていた。
「何に気付いたんだ?」
「『そういうことか。この際時系列は関係ない』。エソラはそう言っていた。《テリトリア》、何か分かるか?」
「分かるわけあるか。だが後半の言葉は大きなヒントだ。この小娘にとって、時系列が前後する何かがあるんだろう。お前にその心当たりがあれば、何か分かるはずだ」
「……そうか」
それ以降、《ブレイディア》は何も話さなかった。
ただ、表情をより一層悲痛なものにして、エソラを見つめていた。
「すぅ……すぅ……」
安らかな寝顔。
呼吸をしていなければ、死んでしまっているのかと錯覚してしまうような、青白い顔。
《ガーディアンズ》の全力の治療も虚しく、エソラの身体には痛々しい傷痕が残っている。
峠は越えたらしいが、私はそれを信じることが出来なかった。
『おねーちゃん、逃げて。無理だこれ』
アレは、どうしようもできないと悟った時の顔だった。
単なる諦めとは異なる、何をどう頑張ってもどうにもならなかった時の、諦めるしかないから諦めたというような、どうしようもない行き詰まりの表情。
雷光に包まれる寸前、私は可能な限り暴走からエソラを守ったが、彼女の右腕と右足は破壊されてしまった。
例え無事に目を覚ましたとしても、以前のように過ごすことは……たぶん可能ではあるのだろうが。
「……ここで、見守っていても、変わらない、か……」
どう足掻いたところで、現実が変わらないことを悟るしかなかった。
私は少し仮眠をとった後、トートのアジトの入り口に向かった。
エソラの部屋に、なぜあの雷が暴走したのか、そのヒントがあるかもしれないと期待して。
数日ほど不在にしていたアジト。
シン、と静まってしまったアジトは、どうにも寂しさだけが漂っていた。
胸が締め付けられる感覚に陥るが、私はエソラの部屋に入り込む。
広々としたデスク、仰々しい見た目のパソコン。
埃が被らないように棚に飾ってあるフィギュアの数々、散乱しているゲーム雑誌。
その中に、異物と呼ぶべきものが二つあった。
ひとつは、手帳。
日記帳と書かれているそれは、随分と使い込まれた跡があった。
もうひとつは、手紙。
『
「私の、名前……」
なんだ、知っていたのか。
そんな思いが胸を通り過ぎる。
私は、手紙から読むことにした。
『ハロー、おねーさん。この手紙が開かれるとき、恐らくボクはこの世から去っているだろう。
っていうフレーズ、やりたくないけどやる羽目になったよ』
これは……喧嘩する前にしたためた遺書か。
『まあそれはさておき。
この手紙がおねーさんによって開かれた時、アジトの管理者権限をおねーさんにも付与するようにしてある。
信頼の証だぜ?
便利グッズの数々を悪用するとは思えないしね。
残ってるもの、全部あげる。
その、なに。
この手紙を書いた動機だけどね、ぶっちゃけ死ぬつもりだったんだ、おねーさんが来るまでは。
リンカっていう八年連れ添った友達がいたんだけどね、おねーさんが来る二週間くらい前に死んじゃったんだ。
だから、遠い遠い誰もいない場所で死のうと思ってたんだ。
幻楼院っていう危ない連中もいるし。
でもおねーさん拾っちゃったからね、最後まで面倒見ようと思って、ここまで引きのばしちゃった。
引き延ばしちゃったけど、おねーさんならもう大丈夫でしょ?
だからボクはここまで。
さいなら~、バイバイ!!
なんて、味気ないから色々最後にぶっちゃけちゃおうか!
おねーさんさぁ、いくら相手が子供だからって無防備過ぎない?
ボク、実は中身男だからすっごい困ったんだけど。
前世では十七歳、思春期真っただ中なワケで、心臓が破裂するかと思った。
ホント勘弁してよね。
あと頼み事というか、お願いなんだけど。
ボク、実のところ普通に生まれた人間じゃなくてさ。
色々と語るには長い事情があるから端折るけど、前世では突然世界が滅んで死んだんだよね。
この世界でも同じことが起こらないとも限らないからさ、調べておいてよ。
ボクはもうできないからさ、頼んだよ』
ここまで読んで、一つの可能性に行きつく。
まさかとは思うが。
「ふざけるなよ」
もし運命の神がいるというのなら、私は無性に殺したくなった。
・幻楼院リンネ
倫理観皆無の天才バカ。
異能は《観測者》。
極論、ただ見るだけの能力だが、彼女にとって観測できるものは、それは干渉可能なものだった。
ただただ素のスペックが高過ぎて既存の技術からブレイクスルーを起こしてしまう。
因果も干渉するわ異世界も干渉するわでコイツが一番やりたい放題。
観測以外の全ての能力が外付けの設備で補われているので、本当は外部から大規模破壊を起こせば簡単に沈んだという事実は、無かったことにしなければならない。
それはそれとして他世界を盾に出来ただけでエソラと《ブレイディア》に直接痛手を与えられたわけではない。
ただただしぶといだけのサンドバッグ。
・余談
卵が先か、鶏が先か