優神を許さないのは何も間違っていない   作:生物産業

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第17話 1.564倍

 青空の下、潮風が心地よく吹き抜ける港町。

 その一角に、なぜか肉の焼ける香ばしい匂いと、少女たちの笑い声が響いていた。

 

「これが……試験運用兼ねた、実地報告会だニャ……あとは皆で地獄を見るニャ」

 

 クロエは、呆れたように呟きながら、串焼きのタコをもぐもぐしていた。

 隣ではナナシが魔導端末を操作しながら、肉や魚をひっくり返している。

 

「焼き加減、そろそろだね。魔導コンロの温度制御は問題なし」

「実験名目にしては豪勢すぎニャ!」

 

 そう、今日は漁港でのバーベキュー大会。

 英気を養ってもらうという名目で、アストレア・ファミリアが招待されていた。

 アリーゼ、ライラ、アーディ、そして輝夜。

 オラリオの冒険者界でも名の知れた美少女たちが勢揃い。

 

 しかも水着姿である。

 

「あ、これ美味しい!」

 

 アリーゼが明るく声をかけると、ナナシはちらりと横目を向ける。

 

「……調理は僕がするから。そっちは焼かないでね」

「ちょっと! 失礼すぎない!?」

 

 周囲の漁師たちは、美少女たちの水着姿に目を奪われてざわついていた。

 が、当のナナシはというと――

 

「水着も下着も同じ。ネーゼに至っては普段と変わらないし」

 

 普段から上半身に軽装のビキニ型トップスをまとい、露出の多いその姿でいる彼女は戦場よりも浜辺が似合いそうである。肩や腕には青緑の装飾が巻かれ、鋭い眼差しと引き締まった腹筋が、その見た目以上に苛烈な実力者であることを物語っている。

 だからこそ、交流を持ちたい海の男たちが怯えて近づいてこないのだ。

 

「うわー、夢がないっていうか、少年らしくないっていうか……」

 

 アーディが呆れる中、ライラは焼きナスをじっと見つめていた。

 

「……このナス、野菜なのに妙に筋肉質だぜ」

「うちの畑産だね。いい筋肉してるね」

「野菜の筋肉ってなんだ……?」

 

 そんな中、一際注目を集めたのは――

 

「――輝夜、水着姿で凄い注目されてるわね。アストレア様の時以上かも」

 

 アリーゼがぼそりと呟いた。

 振り向いた輝夜は、普段の凛々しさを相乗するような、白地に紺の模様が入ったシンプルな和柄の水着姿。

 

「海で着物というわけにはいかんからな。別段隠すような乙女でもない。どこぞの高潔なエルフ様と違って、肌の一つでお子様みたいな反応はせん」

 

 かっこいいを体現する女。それが大和竜胆(かぐや)である。

 一方でシャツをきて、出来るだけ肌を見せないようにしているエルフ。

 恥ずかしいのか、周囲の視線を気にしながら頬を染めている。

 

「人様に自慢できるほどあるわけでもなし、アリーゼみたいにフリル着きで誤魔化すという手だってある。普段から短パンで足を出してるくせに、今更何を恥じらいでいるのか、疑問」

 

 一瞬の沈黙。

 

「まあ、ナナシにリオンの乙女心を察するなんて出来ないよね。あと、私は誤魔化しているわけじゃないから」

「現実を見て。僕と同じくらいの背のライラの方が普通にデカいよね? 輝夜の堂々したスタイルを見習って。アストレアちゃんなんて、男神に給仕させてあごで使ってるし。人のホームであれをやれるのは胸がでかいからだよ」

「胸じゃなくて器じゃないかな。普段のアストレア様ならしないだろうけど、クロエがひどい目にあわされたって聞いてるし」

 

 実際酷い目に会わせたのはナナシであって、ニョルズではないが、情報とはどこかで改竄されるものなのだ。

 

 そして紅の正花(スカーレット・ハーネル)はしくしくと現実を突きつけられて、泣いている。

 

「つうか、ガキとは言え、おめぇも少しは反応しろよ。アタシの勇者さまにこの姿を見せたら泣いて喜ぶぞ」

 

 ライラが自信たっぷりにそう言い放つ。

 どこかのアラサー小人族(パルウム)に謂われのない風評がついてしまう。

 

「ナナシはこの中なら誰が一番?」

 

 あまりナナシと関りがないノインだったが、興味本位で尋ねてきた。

 そんな彼女のシンプルなネイビーブルーのワンピース型水着は、派手さこそないものの、逆に彼女の清楚な雰囲気を際立たせる。ショートカットのおかげか、肩から背中にかけてなめらかに伸びるラインが、無言の色気を帯びていた。

 

 周囲に群がる男たちの視線を少なからず集めている。

 

「ん~アーディ」

「あ、やっぱり私か! えへへ」

 

 可愛く笑う彼女は、薄い青を基調としたビキニタイプで、彼女の快活さもあって、色気より健康美を周囲に振りまいていた。

 彼女のファンになった男もこの場にいることだろう。

 

「というのは冗談として、普通に輝夜かな」

「なんで!?」

「……は?」

 

 アーディとは違う驚きで、輝夜が声を漏らした。

 

「え? 何度か言ってるじゃん。輝夜は綺麗だよって。性格がクソなところを除けば、普通にモテると思う」

「酷い容姿の褒め方だわ。さすがナナシ」

 

 いつの間にか復活したアリーゼが戦慄する。

 

「あらあら、皆楽しそうね。私も混ざって言いかしら?」

 

 その声とともに、場の空気が変わった。

 振り返った瞬間、そこにいたのは──

 女神・デメテル。

 

 淡いピンクのパレオを腰に巻き、上半身はほとんど布とは呼べないようなブラトップが、彼女の“神の恵み”を必死で支えていた。

 ──いや、支えきれていなかった。

 あまりの質量に、布が悲鳴を上げているのが視覚的に伝わってくる。

 もはや、布 VS 神乳の構図である。

 

「「…………」」

 

 アリーゼとリューが、そろって固まった。

 男たちの視線が重力に引き寄せられるようにデメテルへ集中していく様子は、もはや神聖すら通り越して災害指定レベルの物理現象。

 その場にいた者たちの心に「これはもうダメだ」という諦めが広がっていく。

 

「ふふっ、皆そんなに見つめて……もしかして、ちょっと目立ちすぎかしら?」

 

 揺れた。

 

 何がとは言わないが、明らかに風よりも遅れて、“二つの重力源”が揺れた。

 その瞬間、砂浜にいた男の半数が鼻血を噴きながら昇天した。

 

「……こ、これが神……」

 

 アリーゼが膝から崩れ落ちる。肩が震えていたが、それは嫉妬ではなく──敗北である。

 リューにいたっては、目を伏せながら静かに言葉を漏らした。

 

「……あれが豊穣の神の力……」

 

 そのつぶやきに、周囲の誰もが深く頷いた。

 もはや彼女は戦いの場に現れた最終兵器。比べるなどという行為が、そもそも無意味なのだ。

 

「さて、どの子が一番気に入ったかしら?」

 

 にこやかに問いかけるデメテル。

 だが、その問いに誰一人声を出せなかった。

 ナナシ以外は。

 

「だから輝夜。2度目なんだけど? それよりデメテルちゃんのせいでニョルズ・ファミリアが半壊したけど? バーベキューやるよって誘ったのはこっちだけどさ」

 

 赤い液体を鼻から流した男たちが、周囲に倒れていた。

 そんな周囲を見て、邪魔だなと文句を言う。

 

「…………」

「輝夜、顔が少し赤いわよ? 日に当たりすぎた?」

「……そうかもしれん」

 

 アリーゼが心配するのをよそに、勘のいい乙女たちはニヤニヤと輝夜を見る。

 そのことに気づいて、輝夜がブチ切れるのは、少しあとのことだが、結局ナナシ式水中訓練で皆ぶっ倒れることになったので、誤差だった。

 

「若いっていいわね」

「デメテルったら、そんな風に言っているとおばあさんみたいよ」

「も~アストレア、失礼しちゃうんだからっ!」

 

 ぷんぷんと1億歳近い神々がそんなやり取りをしている。

 

「年齢で言ったら普通に俺たち、ババアにジジイじゃん」

「「ニョルズ?」」

 

 女を歳のことで怒らしてはいけない。

 たとえ神であってもそれは変わらない。

 飲み物とお食事を用意しますと、脱兎のごとく走り去れる男神を、二人は冷ややかな目で見るのだった。

 

 そしてナナシ式水中訓練を終えた後、

 

「ニャああ……ミャーの太ももが……ぴきぴきと悲鳴を上げてるのニャ……」

「う、腕が上がらない……」

「背中が攣った!」

「耳鳴りが酷い」

 

 阿吽絶叫という状況。

 

「水中魔導スーツのトレーニング機能、出力を1.564倍に上げておいたからね。気付かなかった?」

「殺す気だったニャ!?」

「まあ、ちょっと試したいことがあってね。アーディ、皆をアストレア・ファミリアのホームまで」

「体が動きません」

「動かなくても魔法は使えます。大丈夫、周囲の人には僕の魔道具って誤解させてくるから。その間に撤収しておいて」

 

 ナナシが偽装をしている間に、アーディが魔法を発動し、死に体だった仲間を連れて帰った。

 ナナシは片付けを済ませ、デメテルを彼女のファミリアに送ってから、アストレア・ファミリアを訪れた。

 

 団員は疲労困憊なため、出迎えたのがアストレアだった。

 

「それで、何をしてくれるのかしら?」

 

 楽しそうにするアストレア。

 ナナシがすることは基本的に予想外のことが多く、彼女としても楽しみの一つにになっている。

 

「疲れた体に癒しを」

「回復魔法ってことかしら?」

「もっと原始的な方法だよ。レッツ温泉」

 

 そう言って勝手知ったると言わんばかりに、女性の園に駆け出した。

 いくつかの仕込みをしてから、アストレアに魔道具の説明をして、眷属たちを風呂場に連れて行くようにお願いする。

 脱衣所まではナナシが運んだが、特に誰からも文句は言われなかった。

 

 数分後。

 

「ふぃ~~~……ニャんて極楽ニャ~~……」

 

 湯煙の中、猫耳をぴょこぴょこさせながら、クロエが湯船で伸びていた。

 他の面々も別エリアの湯船でくつろいでいる。

 

「ふふ、温泉まで作るとは思わなかったわね」

「アストレア様、明らかに風呂場が拡張されている気がするのですが……」

「リオン、ナナシだもの。風呂場の拡張くらい当然よ!」

 

 温泉に入って回復したのか、アリーゼがふふんとドヤ顔をする。リューはなぜ貴方が自慢げなのですかと呆れているが。

 

「人間ってどこまで便利になれば満足するんだろな……」

「業が深いね」

 

 ライラとアーディがぼやきつつ、輝夜は黙って湯船の縁に座り、冷たい水を片手でかけ流していた。

 

「はーい、温度チェックと成分分析に来ましたー。気にせずどうぞ。私はナナシの奴隷です」

 

 ルノアが防水性の魔道具を持ちながら、いろんなところを検査している。

 

「別にナナシなら一緒に入っても気にしないけど」

「あ、アリーゼ、貴方はもう少し慎みを――」

「アタシらの裸みても気にしなさそうだな。無駄な脂肪とか言いそうだ」

「事実、そうなるだろ。あやつがそこらの変態になると思えん」

 

 アリーゼ、リオン、ライラ、輝夜がまったりと会話を繰り広げる。

 

「ねぇ? このお湯、魔力が流れてるよね?」

 

 そんな中、アーディが気になっていたことを口に出す。

 

「どうせ、回復を促す効能があるのだろう。湯が出ている魔道具が光っているぞ」

「うぅ~輝夜がナナシをなんでも分かっている感じになってる~。お姉さんは私なのに~。リオン、慰めて~」

「あ、アーディ!」

 

 風呂場でいちゃ付く美少女たち。アリーゼも当然のように参加し、周囲に水しぶきが飛ぶ。

 

「喧しい」

「ふふ、輝夜は気に入ったかしら?」

 

 ライラやイスカ辺りが参戦しだしたあたりで退避した輝夜の横に、アストレアがやってきた。

 

「極東ではよく入っていましたから」

「温泉は私がナナシに教えたのよ。極東では有名だって。ふふ」

 

 横からアストレアが微笑みながら見つめてくるので、輝夜はおもわず顔をそらす。

 

「なんでごさいましょう?」

「もしかしたら、輝夜が気に入るかもと、ナナシが作ってくれたのかもしれないわね」

「……それはありえません。温泉、回復、面白そうくらいの感覚で作ったのでしょう。ナナシはそういう奴です」

「あらあら、輝夜はナナシのことがなんでも分かるのね」

「か、からかわないでください」

 

 お湯に顔を沈めて、少ない抵抗をする輝夜。そんな彼女を見て、普段とは違う様子に、アストレアが新鮮さを感じて、優しく微笑む。

 

 こうして、ニョルズから依頼から、全く関係のない温泉魔道具開発まで、一連の騒動は幕を終えるのだった。

 

 

 

 

 

「温泉、回復、わんだふる!」

 

 魔道具を開発していた某少年が開発中にそう呟いていたのだった。

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