優神を許さないのは何も間違っていない   作:生物産業

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第2話 ギャグキャラじゃないから

「たまにはファミリアの外で、気分転換も悪くないでしょう」

 

 女神アストレアの穏やかな提案に、アリーゼ・輝夜・ライラの三人は素直に頷いた。

 ギルドから戻って久々の外食――ホームに残っていたメンバーで軽く外食にでも、と話はすぐまとまり、四人は和やかに門をくぐった。

 

 だが――その瞬間。

 

 ふわりと、風に乗って漂ってきた甘い香りが、一行の鼻孔をくすぐる。

 

「……ん?」

 

 戦乙女たちが思わず立ち止まるほど、濃密で、幸福感に満ちたその匂い。

 甘ったるいのにしつこくなく、まるで夢のように優しい香りが、自然と足をその方向へと導いていた。

 

 そして、普段は見かけない路地裏に、忽然と姿を現した屋台――

 白い布にでかでかと書かれた文字にはこうあった。

 

 『クレープ』

 

 ――反応したのは、やはりこの人だった。

 

「これ、絶対おいしいやつ!! 行きましょう、ええ、行っちゃいましょう! さあ、ゴー、ゴー、ゴー!!」

「テンションぶっ壊れかよ……」

 

 ライラが呆れたように呟いたが、止める気配はない。

 アリーゼはすでに勢いよく駆け出しており、後を追う三人も結局流れに飲み込まれるのだった。

 

「へい、らっしゃい」

 

 屋台の店主は、少年だった。

 年の頃は十歳そこそこ。だが、その手際はまるで熟練の菓子職人のように洗練されていた。

 

 先頭に突撃したアリーゼは、店主の顔などまったく気にすることなく、焼き上げられるクレープの動きに視線を釘付けにしている。

 

 だが――遅れてやってきた輝夜とライラの足が、ぴたりと止まった。

 

「…………」

「…………」

 

 二人は無言のまま、クレープ屋の少年を凝視する。

 

「どうしたの、二人とも?」

 

 様子を不審に思ったアストレアが声を掛けるが、返事はない。

 ただ、視線だけが少年に集中していた。

 それをよそに、団長様はマイペースに突き進む。

 

「私、この“ダンジョン特製ソース”ってやつにするー!」

 

 無邪気な声で注文を伝えるアリーゼに、少年は「かしこまり~」と気の抜けた返事を返し、クレープ生地を薄く広げて焼き始めた。

 手際よくフルーツを乗せ、濃厚そうなソースを回しかけ、くるりと包んで紙で包む――その一連の動きに、団長の視線は釘付けである。

 

 看板に目をやって金額を確認し、しっかりと支払って、ついに受け取ったクレープを一口。

 

「~~~~~~っ!!」

 

 アリーゼの全身がびくんと震えた。

 

 口に含んだクレープは、まるで夢のように柔らかく、舌の上で溶け、深い甘みと香りが全身を包み込む。

 味覚だけでなく、心の奥まで甘く蕩けさせるような一品。

 今日あった恐怖や疲労が、すうっと溶けていくのを感じる。

 

 それは、まさに異世界の幸福だった。

 

「おい、バカ団長」

 

 陶酔に浸るアリーゼの背後から、輝夜の冷静な――いや、呆れ気味の声が飛ぶ。

 よほどのことだったのか、いつも丁寧な口調の彼女からお淑やかさが抜けていた。

 

「輝夜も頼んだ方がいいわよっ! すっごく、すごいからっ!」

「……表現が死んでるぞ」

 

 輝夜は軽くアリーゼをどかすと、クレープ屋の少年にまっすぐ顔を向けて声をかけた。

 

「……また会えたな、少年」

 

 だが、返ってきたのは冷たい一言。

 

「……誰?」

 

 きょとんとした少年の目。

 それは悪意でも、意図的な無視でもなかった。

 本気で――覚えていない。

 

 その事実が、少なからず彼女の胸に突き刺さる。

 自分の容姿に多少なりとも自信があった輝夜にとって、それは地味に――いや、かなり――堪える一言だった。

 

 それでも、その感情を顔に出さなかったのは、さすが副団長といったところだろう。

 ただ、ライラがその横で小声で呟いたのを、彼女は聞き逃さなかった。

 

「……地味にショック受けてるな、あれ」

 

 ◆

 

 ナナシは基本的に、どうでもいいことはすぐ忘れる。

 

 だからこそ――自分に声をかけてきた少女に対しても、遠慮なく率直な感想をぶつけた。

 

「……誰?」

 

 その無垢な一言が、まだ少女と呼んで差し支えない年頃の輝夜の心に、サクッと小さな傷を刻んだ。

 

 だがナナシは、その反応に気づかない。

 気づかないというより、「察する」という高等スキルを最初から搭載していなかった。

 

「あっ! あの時の子!」

 

 ようやく気づいたらしいアリーゼが、両手を打ち鳴らして歓喜の声を上げる。

 

「……遅せぇよ、気づくの……」

 

 ツッコまずにはいられないライラが、小声で毒づく。

 そんな三人のやり取りを見て、アストレアもようやく目の前の少年が「件の少年」だと理解した。

 ふと、落ち込む輝夜の肩にそっと手を添え、女神は優しい笑顔でナナシに語りかける。

 

「初めまして。私はこの子たちの主神、アストレアよ。ダンジョンでは私の子どもたちを助けてくれて、ありがとう」

「……?」

 

 少年の眉が小さく寄る。

 

「……心当たりがありませんって顔してるね」

 

 アリーゼが苦笑を浮かべながら呟く。

 自分たちの命を救ってくれた存在が、この程度の認識しかしていないという事実に、どこか肩の力が抜けてしまった。

 

「うん。何の話?」

「お前、アタシらとダンジョンで会ったの、覚えてるか?」

 

 ライラが語気を抑えながら尋ねると、ナナシは首をかしげたまま、ぼんやりと答えた。

 

「……なんとなく」

「なんとなく、かよ……」

 

 予想通りの返答に、ライラは顔をしかめる。

 

「三十階層で、変な連中をボコボコにしたのは?」

「ああ、それは覚えてる。僕の苦労を台無しにした愚か者どもに、怒りの猛抗議しようとしたら……顔がふくらんでた」

「そりゃお前のビンタが強すぎたせいだな」

「いや、あれでダメージ受ける方が悪い」

 

 平然と返すナナシに、ライラは言葉を失う。

 

(第二級冒険者が見えない速度で往復ビンタ……。全力だったら……頭ごと消し飛ぶか……?)

 

 想像したが最後、脳が自己防衛本能で停止を選んだ。

 

「それでだ。その連中が呼び出したかは不明だが、化け物みたいな化石モンスターが出ただろ? ……あれを倒してくれなかったら、アタシたちは全滅してた。だから、アストレア様が礼を言ってんだ。分かったか?」

「まあ」

「……まあ、ってなんだ……。まあいい。礼を言わせろ。ありがとうな」

 

 ライラが丁寧に頭を下げ、それに続くように輝夜とアリーゼも深く礼をする。

 

「特に気にしなくていいよ。あいつらが僕の邪魔をしただけだから、ついでみたいなもんだしね」

 

 ナナシのスタンスはあくまで“自己都合”。

 だがそれでも、結果的に助けられた彼女たちには、その無関心ささえ救いに思えた。

 

「じゃあ……!」

 

 と、アリーゼがひらめいた顔で声を上げた。

 

「この屋台の商品、全部買うわ! それが恩返しよ!」

「お前が食べたいだけだろ、アリーゼ」

「輝夜もライラもいっぱい食べるといいわよ! すっごく……すごいから!」

「語彙力どこいった」

 

 天然すぎる団長のボケっぷりに、思わず突っ込まずにはいられない輝夜。

 それでも、団長の一言が場を柔らかくする。

 

 結果として、他の三人もクレープを注文し、それぞれ出来上がりを楽しみに待つこととなった。

 

「はい、餡子と生クリームの人」

「私は輝夜だ。変なあだ名を付けるな」

 

 一口、ぱくり。

 

 目を見開いた輝夜は、数秒ののち、ゆっくりと頬をゆるめる。

 

「……美味い」

 

 それだけで、十分だった。

 

「フルーツの人」

「ライラだ。こう見えて、お姉さんだ」

「僕、11歳だから、だいたいみんなお兄さんかお姉さんだよ」

「……11歳……。やっぱりその歳であの実力って、頭の中じゃ理解してても、受け入れられねぇな」

「11歳が、無装備で下層にソロ潜行とか……この聡明な私の思考回路では処理できないわ……」

「というかさ、お前……最近オラリオに来たのか?」

「チョコレートの人」

「あっ、私ですね」

 

 ライラの質問は完全にスルーされ、アストレアにクレープが手渡される。

 

 神である彼女も、例外なくその甘味に目を細めた。

 まるで母が我が子を見守るように、微笑みながらクレープをかじる。

 

 その後しばらく、ナナシが焼く→乙女たちが食べる、という和やかな時間が繰り返された。

 

 ――だが、ナナシはその一部始終を、じっと観察していた。

 

「……ん? なんかついてるか?」

 

 じっと見つめられて、ライラが顔を手でぬぐう。

 

「ううん。今、調査中」

「調査……?」

「そう。至高の甘味で乙女たちがどれだけ横に成長するかの経過観察」

「……成長、横に?」

 

 その瞬間、クレープを食べる手が止まった。

 聞こえてしまったのだ。聞きたくなかった言葉が、はっきりと耳に入ってしまった。

 

「ダンジョン産の食材って栄養価が異常に高いんだよね。しかも僕のスキルが入ってるから、効果は10倍以上。1個で3食分の栄養価あるし、90%の吸収率。つまり、食べたらほぼ脂肪になるってこと」

 

 ざわっ、と乙女たちの顔が引きつる。

 

「えっ、それって……」

「うん。特に顎周り、少し膨らんできたね」

 

 全員、神速で顎に手を添えた。

 

 ぷにっ。

 

 ――終わった。

 

「……ちなみにこれは、元々家畜を大きく育てるための研究成果なんだけど、人間でもいけるってわかってよかったよ!」

 

 満面の、まるで天使のような笑顔。

 

「……言い残すことは、それだけか?」

 

 殺意を含んだライラの声に、輝夜とアリーゼも無言で武器を構えた。

 自覚はある。自業自得なのもわかっている。

 

 でも……乙女心は理屈じゃない。

 乙女に喜々として肉を付けようとしたら、それはもう――戦争だろうが!!

 

「あ、僕、こういう時にボコられるギャグキャラじゃないから」

 

 ふ、と一閃。

 風圧だけで、3人の額を正確に打ち抜いた。

 光速の3連デコピン。

 それは一瞬で、三人の意識を地に沈めた。

 

 バタッ。

 

「……貴方、本当に何者かしら」

 

 ただ一人静観していたアストレアが、乾いた笑みを浮かべる。

 

「ひゅーまん」

 

 少年――ナナシは、まるで何事もなかったかのように、次のクレープを焼き始めた。

 

 ◆

 

 いくら神といえど、下界では万能ではない。

 力の大半を封じられた女神アストレアにとって、気絶した団員三人を抱えて帰ることなど到底無理な相談だった。

 

 ホームはすぐそこだ。されど、この状態では――。

 

「この子たちを運ぶの、手伝ってくれないかしら?」

 

 気絶させた張本人にそんなお願いをするのも変な話だとは思った。

 だが、他に頼れる者もいない今、背に腹は代えられない。

 

「おkおk」

 

 ナナシはあっさりと了承した。

 手早く屋台を畳むと、気絶しているアリーゼと輝夜を、それぞれ肩に担ぐ。

 まるで収穫した芋袋を運ぶかのような雑な扱い。

 一番小柄なライラをアストレアに任せたのは、少年なりの配慮だったのかもしれない。

 

 屋台を引き、二人の少女を両肩に担ぎ、女神と並んで街を歩く。

 

 ――異様だった。

 

 そしてさらに異様なのは、その隣にいる女神までもが、少女を背負っているという事実。

 

 誰がどう見ても「事件性を疑われる構図」である。

 が、本人たちは至って真面目だった。

 

 しばらく奇妙な隊列で街を進んだのち、アストレアがふと隣の少年を見た。

 

「あなた、お名前は?」

「個人情報なので黙秘で」

「……そう。けれど、それだと会話が難しいと思うの」

「ナナシ。名前がないからナナシ。良いネーミングでしょ?」

 

 アストレアの表情が一瞬止まる。

 

 その言葉に――少年の過去の一端を、彼女は察してしまった。

 

 神は下界において人のように振る舞っていても、"真偽"だけは感知できる。

 この少年の言葉は――嘘ではなかった。

 彼は本当に、名前を持たずに生きてきたのだ。

 

「あ、でもね。別に過去に縛られてるわけじゃないから。恨みとか復讐とか、そういう中二病みたいなことはしてないよ。……ま、相容れない国はあるけど」

「……なぜかしら。天界の友人と話している感覚に近いわ」

「ああ、それは言葉遣いかな? 胡散臭い爺さんが『神様の日常漫画』なる本をくれてさ。あれ、言語覚えるのに便利だったんだよ。影響で語彙が神様寄りになってるのかも」

「胡散臭い爺さん……」

 

 アストレアの記憶の中で、数々の「胡散臭い神」のリストが次々と浮かんでは消えていった。

 あまりに該当者が多すぎて、誰とも特定できなかった。

 

 そうして会話を続けるうちにアストレアは感じていた。

 この少年は――自由を望んでいる。誰にも縛られず、自らの信じる道を歩もうとしている。

 

 たとえ、それが神を敵に回すことになっても。

 そんな感覚をアストレアは感じ取ったのだ。

 

「貴方は正義が嫌いかしら?」

 

 なぜそんな質問をしたのか? 子供に聞くような話ではないが、アストレアの口から自然ともれたものだった。

 

「ああ~、もしかして僕が自分の不幸を~みたいなこと思ってる? ないない。正義? 良いんじゃない好きにすれば? 正義だろうが悪だろうが、結局のところ力の強いものが決める都合の良い考えなんだから。モンスターみたいな弱肉強食の世界、僕たち人間のように秩序を是とする世界。要は大多数にとって過ごしやすい世界を目指す。その秩序を守る存在を正義、乱す存在を悪っていっているだけだと思う」

 

 正義と秩序の女神に対して、それを気にしたそぶりもなく言い切るナナシ。

 

「それこそ、どこぞの国家みたいに周辺に侵略戦争をしかけるのが日常だと、秩序なんてクソくらえ。一人でも敵を多く殺した者が正義。逆にオラリオみたいにある程度統制が取れているなら、暴れる奴を倒す者が正義。ただの言葉遊びじゃない?」

「絶対的な正義はないということかしら?」

「少なくともこの世界では。そもそも絶対的なものがないからね。諸行無常だっけ? 極東の言葉だったかな? 世界は変わるのだから、考え方が変わるのも当然」

 

 まるで一つの考えに縛られるのがおかしいとでも言いたげだった。

 

「貴方は正義が嫌い?」

 

 そんなナナシに対して、アストレアは同じ質問をした。

 

「僕は、うーん……苦手かな。誰かのために命を張るとか、正義のために全力を尽くすとか。そういうの、たぶん向いてない。でも、それを当たり前みたいにやっちゃう人がいるのは、すごいと思うよ。綺麗ごとを命がけで笑いながら語っちゃう存在、それが正義の味方だからね。頭が下がるよ」

 

 その言葉にアストレアは一瞬きょとんとしてしまう。バカにされたわけでも、見下されたわけでもはないことがわかってしまうからだ。

 純粋に心から言葉。

 だから、少しだけ嬉しくなった。

 

 やがて、アストレア・ファミリアのホームが見えてくる。

 団員たちはまだ外出中らしく、静かな館の門を開き、アストレアが先導する。

 掃除が行き届いた廊下を進み、来客用ホールへ。

 ナナシは躊躇なくソファへと進み、アリーゼと輝夜を左右に放り投げた。

 

「はい、完了。じゃ、バイバイ」

 

 軽く手を振って、踵を返す。

 その背中に、柔らかな声がかかる。

 

「ありがとう、ナナシ」

 

 ナナシは振り向き、にこりと笑った。

 

「どういたま。また会ったときはよろしくね」

 

 そう言って、ふわりと――影に溶けるように消えていった。

 

 そして、館には静寂が戻る。

 

「……ん」

 

 その直後、ソファに横になっていた3人が、順々に目を覚ます。

 

「起きたのね。頭は大丈夫?」

「アストレア様、それだとアタシたちがヤバい奴みたいだからやめてくれ……」

 

 額を押さえながらライラが呻く。

 

「あの少年は……?」

 

 周囲を見回しながら、輝夜が問う。

 

「貴女たちを運んでくれたあと、すぐに帰ったわ。名前は“ナナシ”だそうよ」

「……完全に偽名じゃねーか」

 

 ライラが憤るが、アストレアの静かな声がそれを打ち消す。

 

「名前がないから“ナナシ”。おそらく、親や家族を知らずに育ったのでしょう」

「戦災孤児か……」

 

 輝夜が、ぽつりと呟く。

 雰囲気が、一気に沈む。

 そこへ――アリーゼの明るい声が割って入った。

 

「暗い、暗い! あの子、今すっごく楽しそうだったじゃない。それって素敵なことだし、私たちがあの子の過去をどうこう言うのって、ただの傲慢じゃない?」

 

 その言葉に、皆の顔がはっと上がる。

 

「さすが、聡明で美少女な私♪」

「「イラ☆」」

 

 輝夜とライラは無言の笑顔で親指を下に向けた。

 アストレアは静かに微笑む。

 

「それにしても、あの子……間違いなく、レベル5以上よね。腕の動きがギリギリ見えたくらい」

「あやつの腕が一瞬だけぶれた。分かったのはそれだけだ」

「うげぇ……アタシなんて気づいた時には地面に転がってたぞ……」

 

 ライラがうなだれる。

 

 本当はナナシの動きは“見せていた”のではなく、“見えた気になった”だけだ。

 それだけの速度で、彼のデコピンは炸裂していた。

 

「ねぇ、どこのファミリア所属なのかしら? あの実力ならフレイヤかロキ・ファミリアにいてもおかしくない」

「二つ名を聞いたことがないのが逆に怖ぇ」

「……オラリオの外から来た?」

「妥当でしょうね。さすが私!」

「お前の意見じゃねーだろ」

 

 テンプレ通りのライラのツッコミに、アリーゼは得意げに胸を張る。

 

 ――と、その時。

 

「ナナシはたぶん、“神の恩恵(ファルナ)”を受けていないわ」

「「「……えっ?」」」

 

 アストレアの静かな爆弾発言に、全員の思考がフリーズする。

 

「確証はないけれど、神の気配がしなかった。私たち神には分かるの。恩恵を受けた子どもたちの気配くらいは」

「……それ、冗談ですよね……?」

 

 輝夜が乾いた笑みを浮かべるが、アストレアは優しく――だが、確かに頷いた。

 

「まじかよ……」

 

 ライラが呟く。

 

「神の恩恵なしで……あそこまで……?」

「? ……いいじゃない、そういう子がいても。神様がいるんだから、人間にもとんでもないのがいてもいいと思わない?」

 

 アリーゼの正論に、ライラも輝夜も、反論できなかった。

 

「ま、屋台やってるみたいだし、またすぐ会えるわよ。その時、もっと話しましょ♪」

「お前の楽観主義、時々神がかってるよな……」

「同感だ」

 

 そして、アストレア・ファミリアは――また、団長によっていつもの調子を取り戻していくのだった。

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