優神を許さないのは何も間違っていない   作:生物産業

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第20話 最終兵器を出すしかない

「ライラ、今日はよろしく頼むね」

 

 例によって、警邏に出払っている団員以外が、集まっている。

 

 アストレア・ファミリア専用訓練場――ナナシ曰く通称:脳筋ファンタジア。

 実力を付けた団員たちによって何度も破壊されたことにより、ブチ切れたライラの提案で、訓練場の改修作業をナナシに依頼。多少の損傷は気にしない作りになっている。同時に、面白機能が搭載されているため、下手をすると訓練で死人が出るレベルだ。

 

 そんな安全とも危険ともいえる場所で、ナナシは小柄な女性に声をかけたのだった。

 

「……ゴーレム操作だろ? お前に借りてる蜘蛛の奴ならどんとこいだが、人型となると……正直、ちょっと自信ねぇな」

「大丈夫、ライラならできる。他の“考えるな感じろ”系の皆さんは、こう、頭がぱーんってなるから」

 

 ナナシの視線が脳筋ズに向けられると、赤毛の団長と森の“やりすぎさん”が同時に目を逸らした。だが逸らした先で目が合い、なぜか見つめ合い始める始末。

 

「……この脳筋どもめ。手ぇ繋ぐな。気味が悪ぃ」

 

 ライラの指摘にリューだけが赤らめるが、彼女はそういう趣味なのだろう。ナナシはそう思うことにした。

 

「基本的に一体操作が出来ればいいんだけど、上限の検証は必要じゃん? ライラなら軽く十体くらい行けると思っている」

「実際、やってみないとわかんねぇよ」

 

 ごもっとも。

 ナナシの魔道袋から、ライラと同程度の背丈のゴーレムたちが20体ほど取り出した。

 

「……多いな。いや、作りすぎだろ、どう考えても」

「商売になりうるからね。認証機能付きだから、転売不可だし。今回は実験のため、外してる」

 

 説明しながら、ライラにゴーレムを1体預ける。

 手袋型の専用装具をはめ、ゴーレムとの同期確認をするライラ。

 

「なるほどな」

 

 装具の意味を理解したライラ。

 

「それを付けていれば自由に操作可能。ライラの思念を読み取って、ゴーレムにつなげているわけ。ぶっちゃけ、最初は思念伝達通信機を作っていたんだけど、あれ、これでゴーレム動くんじゃね? と革新的閃きによって誕生したという偶然の産物なんだ」

「まず最初の段階で革新的だ」

 

 相変わらずどっかおかしいよなと、ライラが呟く。

 

「反応はまだいまいち。まあ、ライラならその反応ずれを考慮して動かせるでしょ? とりあえず、この場にいる7人相手に、模擬戦をしてもらおう。アストレアちゃんの許可は貰っているし、団長と副団長に賄賂は配布済み」

 

 その言葉に、ライラの視線がアリーゼと輝夜に向く。

 

「温泉の魔道具は皆のためよ♪ さすが仲間想いの私。ふふーん」

「試し斬り用ゴーレムは訓練効果を高めるためだ。むしろ正義。……正義だよな?」

 

 危険な笑みを浮かべる輝夜に、ライラが小声でつぶやく。

 

「正義の眷属……だよな?」

 

 すでにいろいろ間違っている気がするが、ここはオラリオでもトップクラスのファミリア。細かいことを気にしたら負けである。

 

「それで? 模擬戦ってのは何体操作するんだ?」

「一応、最大で十体くらい操作してもらう想定。いけるでしょ?」

「……やるけど、壊れたら勘弁な?」

「創造に破壊はつきもの。ただ、アリーゼにだけは負けないで。ドヤ顔がムカつくから。アーディは瀕死に追い込んでも大丈夫」

「やっぱり、私の扱いだけおかしいと思うんですけどー! 優しさが足らないぞー!」

 

 抗議の声を上げるアーディだが、彼女の性質もあってか、全然怒っているようにみえない。

 

「運動後にはクレープをあげるから」

「それ太るやつー!」

 

 運動して太るとか、何の冗談だと周囲が苦笑した。

 

 そして始まった模擬戦。

 

 ライラの指の動きに連動して、ゴーレムたちが同時に構えを取る。その光景は、まさに“人海戦術”の具現化。

 

「うわ、ちょっとカッコいいかも……」

 

 とつぶやくアーディに、

 

「ってか、これ魔道具ってレベルじゃねぇぞ」

 

 とライラが本気で警戒を始めた。それでも自分の頭の中で繰り出した動きを実行に移していく。

 

「うわああああ!!? 囲まれてるーっ!? アリーゼちゃん、どうしよう!?」

 

 後方支援タイプのセルティが襲われ、叫び声をあげる。前線メンバーを数体でうまく足止めし、迂回させていた残りの機体で、後方を狙うライラの作戦だった。

 

「ふふ、私たち正義の味方は、理不尽の権化のナナシが開発した暴走ゴーレムであっても立ち向かわねばならないの! いくわよリオン、ヒット&アウェイ作戦!」

「承知」

「……もう全員がノリノリだな……」

 

 と呆れるライラだったが、手は止めない。

 

 ――だって、楽しいから。

 

 思考と動きがリンクし、まるで指先一つで戦場を操っているかのような錯覚。戦術家冥利に尽きる時間だった。

 

 そのときだった。

 

 突如、後方のゴーレムがガクッと倒れた。

 

「……あー、やっぱり同時制御十体は無理だったか。限界は七体かもな」

 

 ライラが額の汗をぬぐいながら、口元だけはニヤリと笑った。

 脳みそが疲れる。肉体戦闘ではあまり感じなかった疲労感を満足感が上書きする。

 

 そして、模擬戦の様子を見てナナシは満足げにうなずいた。

 

「うんうん、これで性能限界も把握できたし、データも収集済み。いい感じの実験になったよ。ありがとう、ライラ」

「まーな。お前がもうちょっと常識的な用途で使うなら、もうちょい協力してやってもいいんだけどな」

「常識的って何?」

「お前が親の腹の中に置いてきたもんだ」

「そっか。それじゃあしょうがないね」

 

 ないものはないのだから。

 ナナシは開き直る。

 

 そうして、ゴーレム実験訓練は無事に終了した――と思われた、が。

 

「だらしないぞ、貴様ら」

 

 アダマンタイトではないが、それなりの硬度の金属で作成したはずのゴーレムが二つに分かれた。

 

 輝夜の太刀がきれいに決まったようだ。

 

「あれ、絶対にわざと壊したよね?」

「この前の水中訓練での恨みを晴らそうとしたんだろ」

 

 ライラが輝夜の思惑を予想する。

 

「こうなっては仕方がない。最終兵器を出すしかない」

「おい、マジか!? まだこれ以上の化け物があんのかよ」

 

 そんなの操作できねえよと、ライラが焦っていると。

 

「召喚、僕!」

「お前かよ!」

 

 確かに最終兵器である。

 

「ナナシ、相手にとって不足はない」

「越えるべき壁。未熟な私ですが、手合わせお願いします」

「ふふーん、レベル5の冒険者相手にどこまでもつかしら? 今日こそ、ぎゃふんって言わせてあげるわ!」

「ぎゃふんって、今時聞かねぇよ」

 

 輝夜、リュー、アリーゼが検証の目的を忘れ完全な戦闘態勢に入る。

 観客気分のライラだけが、冷静にツッコミをいれる。

 

 彼女たちには試したいという気持ちがあった。

 大抗争時代、最後まで自分たちと戦い、時代の英雄の踏み台になることを望んだ、レベル7の怪物。

 蹂躙された。

 加減もされた。

 罵倒もされた。

 そしてなにより、勝利を譲って(・・・)もらった。

 

 当時のレベル4より、ランクも実力も上げた今なら――天才に迫ることが出来る。

 

「今日こそ、泣かせてやるニャっ!」

「そろそろお姉さんの威厳を見せないとね」

「ナナシ、勝つよー!」

 

 クロエ、ルノア、アーディが参戦を表明する。

 

「多少魔力を扱えるようになって勘違いでもした? ゴブリンじゃ、ドラゴンには勝てんのよ」

 

 瞬間、空気が変わった。

 

 ライラが肌で感じたのは、あの時――そう、大抗争時代、なすすべなく倒されたときに感じた、全身が悲鳴を上げるかのような“プレッシャー”だった。

 現在最強と同格以上の女傑。才禍の怪物と呼ばれたヘラ・ファミリアの天才を幻視する。

 

「おいおい、冗談だろ……? 『静寂』、いやそれ以上か!」

 

 ナナシの周囲に、ゆらりと揺らめく空気の層。魔力? いや、違う。もっと根本的な“存在”の圧だ。

 観戦しているはずのライラの冷や汗がとまらない。

 

 本人は無邪気に笑っている。

 

「ちょっと戦力過多じゃない?」

「どっちがだよ」

 

 それがライラの率直な印象だった。

 アストレア・ファミリア最強の3人に加え、同じくレベル5が二人、支援もアタッカーもこなせる万能レベル4が一人。その6人を並べて、まるで均衡がとれていない。

 ナナシではなく、アリーゼ達がだ。

 数的優位、レベル5が5人。

 それが勝利への何の保証にもならなかった。

 

 ――輝夜が動いた。

 

 真っ直ぐに、何の飾り気もない踏み込み。

 それでも鋭い。迷いがない分、まるで稲妻のように一直線。

 刀がナナシの首を狙う――

 が、次の瞬間。

 彼女の視界からナナシが“消えた”。

 

「……っ!?」

 

 直後、背中に感じる圧。

 だが、振り返る前に――頬に風圧だけが走る。

 

 消えたわけじゃない。ナナシはただそこに“いた”だけなのだ。回避の動作すら感じ取れない。それなのに、正面と背後から感じる圧に、輝夜は驚きを隠せなかった。

 

 いや、一度消えて、戻ったのかと、動揺した頭に少しだけ冷静な部分が残っていた。

 

「え? はやっ!? ねえリオン、今の見えた?」

「……見えなかった。気配も……薄い」

 

 リューが即座に間合いを詰める。並の敵ならそのまま動きを封じられる距離だ。だが――

 

「なッ――!」

 

 逆に、腕が捕まれた。

 リューの細い腕が、まるで飴細工のように持ち上げられ――投げられる!

 

 華麗に一回転し、空中で体勢を整えるが、着地したときにはもう、ナナシがアリーゼに肉薄していた。

 

「こ、この――!」

 

 アリーゼが彼女の二つ名に由来した炎のエンチャントを纏いながら攻撃をしかけている。

 アーディのバフ魔法の効果も合わさって、それこそレベル6に届くステータスだ。

 

 

 が、それでもナナシには届かない。

 体をひねって――そのまま無言で手を突き出す。

 アリーゼが軽々と吹き飛ばされた。

 

「な、なによ、これ……! スキがないどころか、全部読まれてるみたい……!」

 

 輝夜が苦々しく歯を食いしばった。

 

「……底が、見えん」

 

 あの時の記憶がよみがえる。

 

 自分たちの戦いを、あざ笑うように見下ろしていた“あの目”。

 正義の剣を折られた、あの瞬間。

 

 いま、自分たちは――再び、その“天才”の掌の上にいる。

 

 同時に、ナナシが声を上げる。

 

「クロエとルノア、全力を出さないと地面と結婚することになるよ?」

 

 ――爆ぜる。

 

 それが、最初に感じた衝撃だった。

 地を蹴る音すらない。気配すらない。

 “加速”ではない。“ワープ”としか思えない速さ。

 

 二人の実力者が咄嗟に防御の構えを取るも、その腕ごと払われて地面に叩きつけられる。かつて地面に顔ごと叩きつけられた時の再来だ。

 そのまま意識を飛ばす。ランクアップしても彼我の戦力さは全く埋まっていなかった。

 

 しかし、二人に意識が行った分、他への注意が散漫した。

 

 そう思えた(・・・・・)

 

 しかしそれは幻想でしかない。

 輝夜の太刀が迫るが、ナナシの小さな指先が、柄に触れただけで軌道が逸れる。

 

「っぐ……!」

「切払いのそこが弱点だよ、輝夜」

 

 速さに主眼が置かれる居合において、その速さを上回られると、対応が不可能になる。

 切れると追い込んだ次の瞬間に接近され、柄をはじかれる。

 そのまま背後に回りこまれ、片腕だけで持ち上げられる。

 

 訓練場がどよめいた。

 輝夜がやられたと。

 

 アリーゼが叫ぶ。

 

「ちょ、ちょっと待って!? レベル5が5人で束になっても勝てないの!? アーディの魔法もあるのに!?」

「単純に身体能力の差がありすぎる……」

 

 とリューが冷静に分析するが、その顔は驚愕に満ちている。

 

「ナナシ、あなた……今、何を見ているの?」

 

 アーディが問う。理解できなかった。

 彼の戦いはあまりにも合理的で、隙がなく、全体がまるで“シミュレーションされた演舞”のようだった。

 

 ナナシは、普段と変わらずに返答する。それが全く特別な事ではないかのように。

 

「んー……上から、って感じかな? ほら、遊戯盤みたいに、こっち動かすとそっちがどう動くか、ってのが見えるからさ」

 

 ぽかんとする四人。若干二名は夢の世界の入り口を地面に見つけている。

 

「……何それ。神様が言うちーとって奴?」

「視点バグってんのか?」

 

 アリーゼとライラが呆れていた。

 

「戦ってるんじゃなくて、シナリオ書いてる人のポジション……」

 

 アーディの呟きを聞きながらも、それでも立ち上がるアリーゼたち。

 

「でも! こっちは4人! せめて一発くらい……!」

「6人で無理なのに……計算できる?」

 

 その言葉が終わる前に、アリーゼの足が、また浮いた。

 

 そして数分後。

 

 全員が地面に転がっていた。

 

 ナナシは最後に言う。

 

「……技術や連携はすごいと思うよ。でも、性能の差は、戦力の決定的な差なんだ。悲しいけど、これ現実なんだよね」

 

 そう言って、ぽすんと地面に座るナナシ。

 

 対して、泥まみれになりながらも、輝夜は立ち上がる。

 

「……理不尽だと嘆きたいところだが、そうも言ってられん。私達は正義の剣なのだから」

 

 リューとアリーゼ、アーディも、息を切らしながらうなずいた。

 

「私たちは、まだ“届く側”。いつかきっと……“その領域”に」

 

 その言葉に、ナナシは静かに目を細めて、言った。

 

「――そっか。だったら、期待してる」

 

 空には、彼女たちを照らすように日が差し込んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「良い感じに青春してっけど、これ、ゴーレム検証が本来の目的だよな?」

 

 ライラの呟きは誰にも届かない。

 そんな冷静な彼女に祝福が訪れる。

 その日の夜、ステータスを更新し、ライラの魔力と器用さが怖ろしいほど上昇していたのだった。

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