優神を許さないのは何も間違っていない   作:生物産業

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第23話 どうして、爆笑機能を付けないのか

 オラリオの北西のメインストリート、そこに存在するヘファイストス・ファミリアの鍛冶工房。

 上級鍛冶師(ハイ・スミス)たちが切磋琢磨するその場所に、ナナシは訪れていた。同行者として、アーディと輝夜がいる。武器の調整の依頼に来ている。

 

「おひさ~。椿調子はどう? 切ると相手が『自分の恥ずかしい話を暴露する』剣はできた? 見ただけで相手が『自分の性癖を暴露する』盾はどうなってる?」

「おお~ナナシか! 手前はそんな珍妙なものは作っておらん。今はお主が適当に合成する素材の使い道の模索に手一杯よ!」

 

 ナナシが興味本位にモンスターのドロップアイテムを合成し、それを椿に渡している。一部はヘファイストスにも供給しているが、基本は椿だ。というより、椿以外に扱えないというのが正しい。

 ナナシと友誼を結んでいるのが彼女だけというのもあるが、彼女以外の鍛冶師ではその奇天烈すぎる素材を扱えない。ヘファイストスですら、頭を抱えるほどなのだから、その扱いにくさは推してしかるべし。

 

「お? 大和竜胆(やまとりんどう)象神の詩(ヴィヤーサ)も一緒か!!」

「喧しいことこの上ないですねぇー。刀の手入れをお願いしに来ました。いつも通りお願いしますぅ」

「私の剣もお願いしまーす。どこかの誰かさんの実験に付き合うと、武器が悲鳴をあげるので、すみません」

「全く、ドコカノ・ダレカサンは酷い奴だね。もし会うことがあったら言っておくよ、もっとやれって」

 

 武器損耗の主な原因を作る少年に、その場の皆が苦笑するしかなかった。

 

「なるほどな。少し見せてみろ」

 

 椿が二人から武器をあずかりじっくりと観察する。

 

「芯がブレているな。二人とも新調した方がいい」

 

 芯がブレている──椿の厳しい一言に、アーディと輝夜の顔がピクリと動いた。

 

 だが、すぐに二人ともそっぽを向く。

 

「でも、まだ戦えるし……」

「……」

 

 抵抗感ありまくりです。

 

「確かに、まだ使えんこともないがな。だが芯が歪めば、狙いも鈍る。命取りになるぞ?」

 

 鍛冶師の説得に、二人は目をそらしたまま沈黙。

 そこに、空気を読まないやつが一人。

 

「じゃあ、作り直せばいいんじゃない?」

 

 ナナシである。

 

 地雷を踏み抜くその発言に、輝夜がビキィと眉を跳ねさせた。

 

「ナナシ、貴様、自分の武器への愛着を知らんのか」

「いや、そこを気遣って命をなくしたら本末転倒じゃん。普段青二才とリューを罵倒しているのに、そこで情に流されるのはどうかと思うよ、輝夜」

「正論を言いおって」

 

 ぐぬぬと輝夜が悔しそうな顔をする

 その空気を察してか、アーディまで両手を合わせてきた。

 

「ごめんね、ナナシ。私の剣、ちょっと優しいから、大切なんだ」

「ええ……優しい……?」

 

 ナナシは肩をすくめながら、椿に視線を向けた。

 

「この剣……魔力込めたら逆に切れなくなるという仕様だ。武器として落第も良いところだが、象神の詩(ヴィヤーサ)がそこだけは譲らなくてな。鍛冶師としては持ち手が望む以上のものは作れん」

 

 椿が鼻で笑いながらも、頷く。

 

「優しさというより甘さだよ。バカなの? 輝夜、説教」

「それはシャクティにでもやらせておけ。私が言って聞くようなたまではない。アリーゼやリオン以上に強情なんだ、そいつは」

 

 アーディの譲れない部分。

 それこそ、彼女の信念の部分だ。

 

「方向性を間違えているんだよ……魔力で鈍らせる構造、それを逆手に取れば、“切れないけど効く”剣を作るべきなんだ。たとえば、斬撃とかじゃなくて“機能停止”させる方向に行くのが普通じゃない?」

 

 ナナシだからこその発想。剣は切るもの。

 だからこそ、アーディは不殺を貫くために切れにくくした。

 しかし、ナナシはそれを否定する。

 切っていい。その分別の効果をつければいいと、誰もが考えそうで、実際にはかなり難易度の高いことを軽々と言って見せる。

 

「斬られた相手が動けなくなるとか、震え出すとか、笑いだすとか!」

「呪いかっ!」

 

 輝夜が即座にツッコミを入れる。だが椿は真面目な顔。

 

「……いや、冗談ではなく、ナナシの素材で“感覚干渉金属”を混ぜたら、あり得るぞ。魔力を通すことで、触れた相手の神経信号に干渉して──身体の制御を奪うとか」

「うんうん、実に正義の武器だね。悪人にとって迷惑極まりない代物だよ」

「つまり、それで優しく“止める”ってこと?」

 

 アーディはその案にぱぁっと笑顔を浮かべた。

 

「私、それがいい! 今より、もっと優しくなる!」

 

 ナナシは目を細める。

 

「優しさの方向性はちょっとヤバいけど……まあ、いいか。アーディ、真面そうに見えて、結構ぶっ飛んでるんだよね、実は」

「そもそもの話だが、“感覚干渉金属”なるものは本当に存在するのか? そんな不思議金属聞いたことがないぞ」

 

 輝夜が当然の疑念を抱く。

 

「この前、酒造り大好きのお兄さんがいたんだよ。自分の仲間を酔わせて犯罪集団に仕立て上げてた極悪人」

「認識の齟齬がひどいね。神ソーマはただ美味しいお酒を造ろうとしていただけ。それを狙った眷属が暴走したのが正解」

「何も間違ってないね」

 

 ナナシとアーディでは物事の捉え方が大きくことなるらしい。

 

「で、他人の精神に影響を与えるほどの酒。解析したくなるじゃん。で、素材と合成したら面白くなりそうじゃん。実際面白いものが出来て、椿やファイたんに提供したわけ。二人とも頭を抱えるくらい喜んでくれたよ。製作者としては鼻が高い」

 

 満面の笑みを浮かべる少年に対し、周囲はドン引きだ。

 何せ神にしか作れないとされる神酒を解析し、別のことに転用しているのだ。

 実は私は神ですと、少年が告げることになっても彼女たちは驚かないだろうと思った。

 

 それくらい、ナナシは常軌を逸している。

 己のすべてをつぎ込まねば神の領域に届きすらしない。

 至高の武器を夢見る椿が、ナナシと協力するのも彼の超人的な何かに惹かれているからかもしれない。

 

 話を切り替える様に、輝夜は剣を一振り。

 

「私のは強くあればそれでよし。折れず曲がらず、切れればなんでもいい」

「愛着うんぬん言っていた奴の発言とは思えない。さすが輝夜」

「黙れ♪」

 

 剣士であれば誰もが求めるものだ。

 

「折れず曲がらず、切れるもの。鍛冶師の夢だな」

「自動修復して、相手から能力を奪えばいいわけでしょ? 人ならステータス、モンスターなら魔石。たぶん出来ると思う」

 

 椿はすべての鍛冶師の目標として語ったつもりだが、ナナシはそれを可能だという。

 

「マジか!?」

「【神聖文字(ヒエログリフ)】を刻めばね。なんか一般人だと読めないらしいけど、僕天才だから、読み書きなんて余裕ですよ」

 

 さもありなん。アーディと輝夜はナナシならと思ってしまう。

 椿は驚きで目を見開いているが。

 

「よし、なら剣は手前がやる。ナナシ、素材を提供してもらおうぞ。そこに文字を刻んでくれ」

「普通の剣だと文字が刻めないよ?【神聖文字(ヒエログリフ)】を受け入れるだけの下地がないと」

「舐めるな、小童! 手前以上に適任な者はおるまい!」

 

 神剣の製作。ヘファイストスの剣を見た者たちが目指す至高の頂。

 椿はその入り口に立てることに、興奮が抑えられないようだ。

 

「どうせなら、文字の刻み方も教えるよ。ちょっと特殊な液体が必要だけど、すでに培養済みだし、椿くらいになら提供しても問題ないしね」

「おお! 感謝するぞっ! ナナシ!」

 

 椿は知らない。その特殊な液体の原料が神血(イコル)であること。一つの国を崩壊させて楽しんでいた神をナナシがボコボコにして、神血(イコル)の提供者にさせられたことを。

 

 そして、その神がすでに天界に送還させられていることを、椿は何も知らないのであった。

 

 ◆

 

 こうして、ナナシのやべぇ素材と、椿の変態的な技術、そして神の残り香の混じった【神聖文字】によって――

 

 二振りの剣が完成した。

 

 一振りは、アーディの《カリス・アルモニア》。魔力を込めるほど切れ味が下がり、相手の神経に干渉して“優しく”動きを止める慈愛の剣。

 もう一振りは、輝夜の《竜胆》。斬撃時に対象の力を吸収し、自動修復を繰り返しながら成長する刀。

 

 両方とも明らかにぶっ壊れていた。

 

「……どうして、爆笑機能を付けないのか」

 

 完成品を見たナナシがぽつりと呟く。

 性能は破格。へファイトスの作る剣に勝るとも劣らない。

 しかし、ナナシには不満でしかない。

 彼の感性では物足りないのだ。

 

「何を言うか! 最高の剣だぞ!? 合作ではあるが神剣の形が見えた! お主の素材と、手前の技術が完璧に合わさった奇跡だ!」

 

 歓喜する椿。ナナシという補助がいたとは、彼女の感覚では最高傑作の出来というところなのだろう。

 そして何より、壁を超えた感覚。未知を知らぬが故にもがいていた技術が、それを知ったことで人の領域を超え始めたのだ。

 

 人の身で神を超える。

 笑い話では済まないところまで、彼女は至った。

 

「じゃあ、検証だね。剣なら試し切りだよ」

 

 その言葉に輝夜がクイッと刀を構えて笑った。

 

「……どこで?」

「うーん、今の時期は27階層かな。たぶん復活しているよ」

 

 試し切りに階層主。

 アーディがまた命の危機がと胸を押さえたのをナナシは知らない。

 

 ◆

 

 27階層――眼前に広がる巨大な滝つぼ、死の領域。

 

 そこに棲まう階層主(アンフィス・バエナ)

 二つの頭を持ち、水上でも燃え続ける蒼炎と魔法を拡散させ威力を落とす紅霧という息吹を有しており、魔導士による遠距離戦は殆ど通用せず、接近戦でないと倒すことは出来ない。

 

 純粋な戦闘力がレベル5と言われているが、このモンスターが本領を発揮するのは水中である。その際はレベル6相当にもなる。27階層のメインギミックとなっている巨大な滝を利用し、階層を移動する階層主としてギルドでは注意を発している。

 

「じゃあ、やってみようか」

 

 ナナシは言った。

 以前ナナシが開発した水中でも動ける戦闘服。輝夜とアーディはそれに着替えていた。ナナシ以外は女性ということもあって、輝夜は堂々と服を脱いだ。アーディは乙女らしく岩陰に隠れたが。

 まあ、ナナシの結界魔道具のおかけでモンスターに襲われることはないが、ダンジョン内では輝夜の方が正しいと言える。恥じらいがなく、下品とナナシに酷評されることになるが。

 

 道中、試し切りをしながら感覚を研ぎ澄ませていた輝夜は滝の中から発せられる威圧感に興奮を抑えられない。

 

「僕と椿は観客。不甲斐なかったらヤジを飛ばすね」

「性格、歪んでない?」

 

 アーディが冷たい視線を向けるが、彼は気にしない。もう慣れている。

 

 アンフィス・バエナが咆哮を上げた。二つの頭が左右に揺れ、地響きが起きる。

 魔法無効化の霧が吹き出し、空気が黒く染まる。

 

 普通の冒険者なら、近づくことすら不可能だ。

 

 だが──

 

「その首もらうぞ、怪物!」

「が、がんばりまーす」

 

 二人の剣が、地を蹴った。

 

 ◆

 

 《カリス・アルモニア》が振るわれるたび、アンフィス・バエナの動きが鈍る。

 斬撃のたびに、筋肉が痺れ、視神経が混乱し、二つの頭の連携がバラバラになっていく。

 

「ねえ、あれ正義のファミリアとして、許されるの? 階層主に効いたということは、オラリオの冒険者すべてに有効じゃない?」

「単純に毒を塗った剣とは違うからな。効果も使い手の技量次第。凡庸にも最強にもなりえる可能性の剣だな。象神の詩(ヴィヤーサ)でなければ、危険な代物としてギルドに取り上げられそうだ」

 

 アーディが切りつけるたびに階層主が声をあげる。やめろと。

 モンスターが言葉を喋ったわけではないが、そう叫んでいるような顔をしていた。

 

 一方、輝夜の刀《竜胆》は――

 

 斬るたびに、剣身が脈動していた。

 切っ先から吸い上げられる魔力。魔石に近い力を刀が“喰い”、それが強さへと還元される。

 

「ねえ、あれ正義のファミリアとして、許されるの? 階層主に効いたということは、オラリオの冒険者すべてに有効じゃない?」

「さっきと同じではないか。大和竜胆(やまとりんどう)の場合は危険物としてギルドに取り上げられそうだな」

 

 輝夜が切りつけるたびに階層主が声をあげる。マジでやめて!

 モンスターが言葉を喋ったわけではないが、そう叫んでいるような顔をしていた。

 

「階層主が泣いているように見える」

「奇遇だな手前にもそう見えるぞ。レベル5とレベル4。近接向きの二人とはいえ、苦戦は必至だと思っていたが」

「椿曰く神剣の一歩手前。このくらい想定の範囲内。たぶん、きっと、おそらく」

 

 さすがに最強格の存在が泣き出しそうになるのは予想外過ぎた。二人ともそれなりの傷を負っているが、それ以上に相手に傷を与えている。

 

 しばらくして、二人の連携により、階層主アンフィス・バエナは完全に崩壊した。

 

 最後の一撃――アーディの優しすぎる一閃が、静かにモンスターを包みこむように“切った”。

 

 その瞬間、モンスターの両頭は力なく地に伏し、そこに上空から飛来した輝夜が首を両断し、決着をつける。

 

 静寂が支配する。

 

「終わった……?」

「ああ。我々の勝利だ」

 

 満面の笑顔でアーディが微笑み、輝夜がすっと目を細めた。

 

「とりあえず素材を回収。やったね椿、竜胆をゲットだよ。なるほど、輝夜の二つ名だね。刀の名前にしてよかった。アストレアちゃんは花の名前みたいなことを言っていたけど、竜の(きも)だよね。やっぱり。実に輝夜らしい」

「小僧、さすがにそれはかわいそうだ」

 

 輝夜に恨みでもあるのか、椿は素直にそう思った。

 こうして、試し切りを兼ねた階層主討伐は終了した。

 

 ◆

 

 オラリオ帰還後――

 

 ホームで告げられた。

 

『アーディ、レベル5に到達』

 

 その報告に、団員たちはざわつきながらも、歓声をあげる。

 輝夜のステータスも普通ではありえないくらい上昇していた。

 

 レベル4から5への最速記録を更新することになり、のちに神会をわかせることになった。

 

 そんな歓喜にわくアストレア・ファミリアの一方で――

 

「……で、次はどうするか? 手前としては変形剣などを考えている。魔石を変えることで、魔剣の性質そのものを変える剣」

 

 椿の目が、キラッキラに輝いていた。

 

「何それ、かっこよ。ロマンじゃん。剣の変形、合体は夢がありすぎる!」

「なるほど! 短剣と長剣を用意して、二つを組み合わせることで大剣とする。各剣の能力を、引き継ぎ向上させる合体剣! いいな!」

「今日の戦いを見ていて、剣が自動的に戻ってくるような機能があると便利だと思ったよ! それなら10本の剣の同時展開とか可能そうだし!」

「おお!」

 

 こうして、また新たな“バカ発明”が、オラリオに産声をあげる――かもしれない。

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