少数の人間が山道を歩く。その見た目は黒で統一され、手には小銃が握られている。ここは衛非地区でも知る人が少ない山道の一つである。少しズレれば泅瓏囲へ向かうこともできるが、まずこの道を使う者などロープウェイができた今、いない。だからこそ、ここはうってつけの場所だった。人から隠れるのも、何かを隠すのにも。
そこでその集団を待っていたのは、1人の男だ。
「待ちくたびれたぞ」
「そう言わないでもらいたいねクライン大佐。こちらも少々予定が狂ったんだ」
へっへっへ、と愛想笑いをするも、クライン大佐の表情は変わらない。
「ほう、聞こうか」
「あの女だが、あれを兵器利用は無理だ。エーテル耐性が高すぎてそう簡単には染まらない。サクリファイスにするのにも苦労するだろう」
クライン大佐に、持っていたアタッシュケースを渡す。その中身を確認しながら大佐は話を続ける。
「そうか、元よりこの中身が本命だ。もうあの女に用はない。」
そう言って取り出すのは、試験管に収まった血液だ。
「ではアレは?」
「放っておけ。精々時間を稼いでもらうさ」
そう言い、合流した黒づくめの兵士達と更に山道の奥へと進むと、そこにあったのは祠だ。こじんまりとした小さなもの。しかし、その扉には硬くしめ縄と札がびっしりと貼られており、開ける事を想定されないものだとすぐに分かる。
しかし、クライン大佐が手に持っていた血液をその祠に垂らすと、まるで火をつけたように、しめ縄と札が燃えて消えていく。
「かつて今の雲嶽山宗主が青溟剣を封印した。二度と使うことがない様にと。愚かなものだ。だがそのせいで目の前にあっても取れなかった。」
形も残らず消えた封を見て、徐に扉に手をかけ、開く。そこに鎮座していたのは一本の剣。荘厳ながらも、何処か人を惹きつける怪しい輝きがそこにある。
「奴の封印は強力だった。自らの血と力を封印に込めた結果、奴以外に封印は破れない。だが、例外があった」
同じ血を引き、同じ力を持つ者がもう1人いた事を想定していなかった。それが儀玄の失敗だ。
「おぉ、その剣が──」
「そう、青溟剣だ」
この為に、妨害されうる者達をラマニアンホロウに集めたのだ。餌は、あの女だ。少々予定にないこともあったが、こうしてここに辿り着いたと言う事は、作戦の成功を意味する。今頃、澄輝坪とホロウを繋ぐロープウェイは爆破され、分断されたはず。
「して、その剣を?」
研究者が、剣を見る。しかし、大佐は抜かない。あくまで目的はこの剣の力だ。剣そのものに用はない。アタッシュケースに収められた小綺麗な剣を取り出し、その柄に仕掛けられたスイッチを押す事で輝磁が、その剣に宿るものを吸い取っていく。
「おそらく、剣が力の代償を求めるのは一種のセキュリティだ。だがこうして力だけを持っていけば──」
その言葉に反応する様に、大佐が持つ剣がブルブルと震え出す。そして、剣を通して伝わる強大な力に大佐は笑みを溢した。
「思った通り、これでいい」
「実験は成功、と。では次の段階ですな」
「ああ、今澄輝坪を守る者はいない。讃頌会の信者を集めろ。防衛軍が確保していたサクリファイスを襲わせる」
さぁ、新たな世界を始めよう。誰もが『虚狩り』になる世界へ──
しかし、彼らは気づかなかった。音を出しそうになる狸を抑えながら木々の隙間から様子を伺う人物がいたことに。
「これってやばいんじゃない……?」
突如として襲ってきた人間に、アキラは困惑と驚きが混じった目で見る。
「師匠なのか……!?」
あまりに瓜二つの姿に、師匠が讃頌会に利用されたのかと嫌な予想をするも、すぐに鬼火隊長が否定する。
『いや、コイツは儀玄ではない。その姉だ』
姉……!?いや、前に師匠がそれらしいことを話していた気がする。確か名前は──儀降だったはずだ。前雲嶽山宗主であり、旧都陥落の時に亡くなった。そんな彼女が何故、今ここに。
「疑問は後よ、来るわ!」
迷いを断ち切る様に、11号が警告する。そうして再び激突する。剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。すぐさま援護するようにトリガーの弾丸が飛ぶが、それらを剣で全て叩き落とし再び距離を取る。
「エーテリアス、なのか!?」
とても人間離れした挙動に一瞬雅さんの顔が浮かぶが、あんな人間が沢山いるはずも無い。そう言う姿のエーテリアスなのでは無いかと予想するが、fairyの分析がそれを否定する。
『訂正、該当存在はエーテリアスではなく、侵食率はそれほど高くありません。推測、ミアズマの影響が深刻化していると思われます。』
「ミアズマ……!つまり彼女は幻覚を見ているのか!?」
ならば、こうして戦っているのは──
『今もまだ、エーテリアスとの戦いの中に居るのだろうな』
痛ましそうに、目を伏せる鬼火隊長。
「彼女を止めるにはエーテルを浄化するしかない」
「できるでありますか!?」
アキラの言葉に、オルペウスが半信半疑といった様子で驚く。その横では既に弾を非致死性の弾丸に切り替えるトリガー。無言で銃を構える。
「分からない、だけど。やるしか無いだろう!?」
「鬼火隊長!」
『分かっている!オボルス小隊!プロキシ君の援護を!』
11号の鋭い声に、感情を切り替え、鬼火隊長が全員に指示を飛ばす。その言葉を皮切りに、動きを変える。
(僕にそんな力が本当にあるのか、それは分からない。だけど、師匠に教わった術法がある!)
オボルス小隊の無言の連携が、相手の動きを封殺し、そのまま背後からビックシードが彼女の四肢を固定する。
その隙を見て、アキラが儀降の体に触れる。エーテルを吸収していく。
(これは──)
その中で、アキラは誰かの記憶を見た。死が溢れる廃墟を1人歩き続ける儀降の姿を。これは、零号ホロウだろうか。1人歩く儀降の顔は、空虚で、前を見ているのに、何も見ていなかった。ただうわ言のように同じ言葉を繰り返すのだ。
──守らなくては
その守りたいものすら分からないのに、突き動かされる様に、ずっと、ずっと。春も夏も秋も冬も。彼女は幾度なく繰り返す季節の中、ずっと歩き続けていた。1年か、2年か。いや、違う。彼女は一体どれだけの時間を──!?
「──?」
そんな時だ。そんな彼女の前に、少女が現れたのだ。アキラはその少女を知っている。
(クレタ!?)
白祇重工と出会ったのか──!
そこまで見えたところで、相手からの拒絶反応か、アキラの触れる手が弾かれた。そして、すぐさまビックシードの拘束を離れる。
「まだ終わって──」
「離れて!」
トリガーの叫ぶ声と共に、近くにいた11号がアキラの体を後ろへと引っ張った。
「うぅううう」
頭を抑え苦しむ儀降は、そのままその場をすさまじい速さで離脱。建物を跳ねる様にして飛び回り、逃走した。
とても頭が痛い。苦しくて苦しくて仕方がない。その時だ。私を呼ぶ声が聞こえた気がした。とても遠くて、小さい。だけど、呼ばれているのだと分かった。
──急がなくては
痛みが苛む中で、私は何故かそう感じていた。
どんな結末が見たい?
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主人公も皆も無事のハッピー
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……バッドエンド
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欲張りに両方欲しい!