体が軽い。今なら何でも出来る全能感を覚えながらも、私の気は逸るばかりだ。時間がない。何処まで持つのか自分にも分からないからだ。とにかく急がなくてはならないと、走る足に更に力を込めようとした私は、急停止する。止めなくてはならない人物がいたからだ。
「──待っていた」
そこに居たのは、以前ゲームで出会った……誰だったか。何処まで私が覚えているのか分からなくて混乱しそうだ。狐耳に、あの時とは違う鋭い刃のような気配を持つ彼女は刀の柄に手を掛けていた。
「事情は聞いた。その上で問おう」
──誰でもいい、ユキを止めてくれ!
そう叫ぶ眼帯をつけた少女を雅は見た。本人にも理由はわからないまま叫ぶ少女は、泣いていた。遠くへと行こうとするユキを止めて欲しいと。自分にその力がない事を悔しそうに。
──善処しよう。だが覚えていて欲しい。
私に出来るのは、止めることだけ。真に大切な人を救いたい、守りたいと考えるのなら言葉を尽くせ。自ら果てに向かおうとするのなら、手を伸ばせ。と。
「ユキ、お前が皆を守りたいという意思で動いていることは分かる」
衛非地区で同僚たちの保護を受けた者達は口々に言っていた。彼女に助けられたと。しかし彼女は感謝の言葉を受ける事もなく去ってしまったと。こうして雅が彼女の姿を見た時、まるで痛々しい、人を助けたヒーローの姿とはとても思えなかった。まるで呪いだ。こんな姿を見せられて、通せるわけがなかった。
「本当は、私が代わろうと考えていた」
もう限界だろう、私がやると。もう休めと言うつもりだった。だが、ユキの目を見てそれは不可能だと思った。彼女の目に宿るのは、執念だ。雅が遍く全ての人々を守護すると『無尾』に誓ったように。彼女もまたその道に殉じる覚悟があった。
「お前は、分かっているのか」
守ろうとする者の中に、自分が居ない。最初から勘定に入れていないその姿勢に雅は苦言を漏らした。
そう言う雅もまた、かつてはそんな風に考えていた事があった。もちろん、同僚や仲間達を信頼している。だが心の何処かで自分が全てを守らなくては、と考えている自分が居た。その認識を覆したのは、『無尾』が暴走した一件だ。1人ではどうにも出来ない巨悪を前に、リンとアキラ。そして仲間達によって助けられた。きっと、1人では出来なかった。
「分かってるよ。だから私がやるんだ」
「お前の大切な者達は、守られるだけの存在ではない」
何処までも意固地な彼女に、雅はやはり言葉では止まらないと思った。
「──あの日の決着をつけよう」
鯉口を切って刀を鞘から引き抜き、構える。狐火が刀から体へと伝う。そうしてあの日ゲームでの最後のぶつかり合いと同じ衝突が起きた。
剣が、手を離れた。その衝突で周囲は派手な破壊痕を残しながらも、衝突の中心にいた2人の姿は対照的だった。悠然と刀を収めるもの。片膝をついて荒い息を吐く者。ここに勝敗は決した。
彼女は、私に手を差し伸べてこう言った。
「ユキ、お前に伝言がある」
「何……?」
「帰ったら説教してやる、だそうだ」
その言葉に怒った顔が思い浮かぶ。笑った。何故だかとても笑えた。それと、安心した。私にはまだ思い出せるものが残ってる。うん、帰ろう。私は帰らなくてはならない。ここで終わりになどしてたまるか。
差し出された手を掴み、立ち上がる。手から離れた剣を掴もうとして、やめた。
「ありがとう」
目が覚めた。私は甘えていた。全てを投げ出せば守れるなんて甘えだった。守ると言うのは、もっと難しくてそんな簡単なことではない。何も捨てずに、全てを守ろう。
「行くのか」
「うん、私がやらなきゃならない事だから」
どんな結末が見たい?
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主人公も皆も無事のハッピー
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……バッドエンド
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欲張りに両方欲しい!