徒然草と青溟鳥   作:上条@そぉい!

19 / 23
あの日の続き

 その衝突は天災かと見紛うほどの衝撃波と炸裂音を響かせた。無言のまま攻め立てる儀玄と、それを必死にいなすクライン。

 

「何故だ、私は今完全な力を手にしたはずだ」

 

 今の私は『虚狩り』と遜色ない実力がある筈だ。奴に劣るはずがない。奴に負けるという事は、全ての前提が崩れてしまう。『虚狩り』に届かない力ならば全てを救うなど不可能なのだから。現実を否定したくて、剣を握る手に力が籠る。乱暴に剣を振るう。

 

「何故──ッ!」

 

 こちらのエーテルを操作した斬撃は避けられ、弾かれていく。ならばとエーテルをブラックホールの如く引力を持つ球体として放てば、奴の操る鳥の鉤爪が引き裂いていくではないか。

 そうして、辛うじて戦いを成立させていたその均衡はすぐに崩れる。稲妻の如く鋭い踏み込みでこちらに迫る儀玄は、掌底をこちらの腹に叩き込む。一撃で体が揺れる。胃液が口から漏れる。

 

「ぐっ──ッ!」

 

 しかし、やられてばかりではない。クラインもまた返す刃でもって反撃を試みるも、それは全て相手の防御に阻まれる。何故、こうも遠いのだ。『虚狩り』とは、それほどまでに遠いというのか──

 

「何も解ってないな」

 

 鋭い蹴りが、クラインの股に直撃する。ゴリゴリ、ベチャリと潰れるような感触がする。その痛みに悶絶するよりも先に、儀玄の握り拳が頬を突き刺し、そのまま後方へと吹き飛ばす。

 

「その力を誰よりも理解しているのは私だ。そんなものに、頼らなくてもいい道を探していたからな」

 

 来る日も来る日も、青溟剣を使わなくてもいい糸口を探し続けた。それが必ず誰かの助けになると信じて。探して探して探して、そうして辿り着いたのが今儀玄が振るう力の正体である。

 青溟剣の力を術法で再現し、それを自らが振るうのでは無く、間接的に振るう事でリスクを無くしたもの。それがいつも儀玄が操る鳥の正体。その名を『青溟鳥』と言う。儀玄の余りある才能と、血の滲むような研鑽の果てに辿り着いた境地。

 

「肝心な時に間に合わなかったこの力を恨みもしたが、今となっては感謝している」

 

 こうして、あの日姉様を失った時に間に合わせてくれたのだから。

 

「ふざけるな……ッ!そんなものに、私が負けて……!」

 

 クラインは立ち上がる。負けられない。負けてはならない。何のためにあの日旧都陥落の時があったのか。あの時に失った仲間たちは、その果てに平和があると信じたからだ。西風が吹く穏やかな日常が必ず訪れると思ったからだ。託された想いに応えられるのは、私だけ。

 

「トドメだ」

 

 どろりと墨のようなエーテルを手に集め始める儀玄。ふらりと震える手で、剣を構えるクライン。そこへ──

 

『クライン大佐!』

 

 クラインの視線がそちらに向く。儀降ユキを治療する人々の中で、鬼火だけがこちらを見ていた。

 

『……もういい!今なら間に合うんだ!』

 

 帰ってこい、と。鬼火は叫んだ。しかし、クラインは首を横に振った。帰る場所など、最初からない。あの日からずっと、失ったまま。結末が壊滅で終わるとしても、諦める訳にはいかなかった。走って走って、後ろなど振り返る暇もなかった。今更止まれるわけがない。

 

「来い──儀玄ッ!」

「……もはや命数は尽きた」

 

『──クラインッ!』

 

 鬼火の声が届くより先に、この事件で一番といっていい大きな揺れと衝突があった。そうして立ち昇る土煙が晴れた時、倒れ伏すクラインの姿があった。

 

「う……ッ!」

 

 もはやぴくりとも動けないようで、倒れた体を動かそうとしても震えるばかり。ここに決着はついた。今度こそトドメと、術符を構える儀玄だったが──

 

バシュッ!

 

 空気の抜けたような音と共に、倒れ伏すクライン大佐の体に何かが刺さる。何かと儀玄はよく見れば、それは注射針だ。容器の中身は、とてもドロドロした紫色。

 音のした方を見れば、物陰から銃を構えていた男がいた。痩せ型で白衣に身を包む男。クラインに協力していた讃頌会の研究者であり、戦いが始まると共に最初から物陰に隠れていた男だ。

 

「うぅガァァアア!!?」

 

 何かを注入されたクラインが、バタバタとその場で暴れ始める。全身の血管が浮き出て、その色を紫へと変えていた。目は充血し、とても正気ではない。

 

「チッ、目障りな儀玄を狙ったのに」

 

 様子を伺っていた研究者の男は、もはや目的は果たせないと判断し、今後のために儀玄をここで消そうと考えたのだ。しかし、弾は外れた。

 

「まぁいい。役立たずだったクラインもこれで少しはマシになるだろう」

 

 エーテリアスとなったクラインなら、この場を逃げるだけの余裕は作れる。そう判断して、男はその場を走り去る。儀玄もそれを追おうとして、姿を変えつつあるクラインを見る。

 既に体の半分が異形となっており、もはや命は無いだろう。

 

「仕方ない」

 

 まずはこれから片付けるとしよう。

 


 

 ふわふわとした浮遊感の中で、私は目を覚ました。体を起こすと、そこは地平線まで白一色の世界だった。

 

「また、ここに」

 

 またあの剣が私に何かを見せようとしているのか。もう見るものはない筈だ。私の事は全て知った、今更──

 その時だった。白一色だった世界は、突如として色付き始め、私の前に現れたのは荘厳な神殿のような、或いは何かを祀る神社のような。とにかく厳かな雰囲気のある建物だった。立ち上がって、重そうな扉に手をかけて、力強く開けた。

 中は薄暗く、何かの匂いが鼻についた。ふわりと煙が漂う。香が焚かれた部屋のようだ。恐る恐る先に進む。私が歩くたび鈴の軽やかな、シャン……と音が響いた。そうして進んだ先は行き止まりで、誰かがそこに鎮座していた。

 

「誰?」

『我が名は雲嶽山初代宗主○○。』

 

 名前だけが文字化けしたみたいに聞き取れなかった。薄暗くてその姿は見えない。だけど、敵じゃない事は分かった。

 

「貴方は──」

『青溟剣を振う者よ、何の為に振るう。何の為に過去を捨て去る』

 

 尋ねるよりも先に、尋ねられた。逡巡する事なく私は答える。

 

「守る為に。家族を、皆を。そして私を」

 

 過去よりも、私は未来が欲しい。過去が消えていくなら、私は未来が欲しい。消えていく過去よりも楽しくて、温かい未来で埋め尽くしたい。

 

『ならば我ら雲嶽山は汝を一切の憂慮から守らん』

 

 シャンッ!と一際大きい鈴の音色が響いた。その時になって私は気がついた。目の前にいる人だけではない。よく見れば、私の周りには色んな人がいた。誰も顔は見えなかったけど、皆同じような服装をしていた。

 何かを言う前に、目も眩むほどの光が体を包んで私の意識は途絶えた。




「ここは危険だよ、一旦離れたほうが──」
「ダメだ、この人が」

 強力なエーテリアスと化したクラインを見てシードが言う。それをアキラが止める。今儀降は危険な状態だ。動かすのは良くないことになるかもしれない。

「しかし余波から守れるかどうかは……」
「五分五分、と言ったところでありますね……」

 冷静に、軍人らしい判断を下すトリガーとオルペウス。どうすれば良い、とアキラは悩んだ。が、しかしそれよりも倒れていた儀降の手が、アキラの腕を掴んだ。

「ッ!?目が覚めたのか!?」
「……最高とは言えないけど、まぁ悪くない、よ」

 グググと、体を起こそうとする儀降に、皆が止めようとする。だがそれを拒む儀降。

「まだ、やらなきゃならないことが残ってる。説教はその後にして欲しい」

 手当したとは言え、瀕死の重症だ。安静にするべきだ。そんな言葉は聞いてもらえなかった。立ち上がって、一歩、一歩と儀玄の元へ歩く儀降。

「──」

 言葉なく手を横に差し出せば、何処からともなく飛来する剣が儀降の手に収まった。青溟剣。対価と引き換えに力を齎す呪いのような剣は、まるであるべき場所へと戻ったかのような輝きを放っていた。

「儀玄」
「姉様……!?」

 言葉は要らない。これを倒す。もう下がって、とは言わないよ。

「今度は2人で」
「……あぁ!」

 あの日並んで立てなかった姉妹は、今度こそ2人並んで立つ。

「──雲嶽山12代目宗主儀降ユキ
「──雲嶽山13代目宗主儀玄」

 いざ、参る。

どんな結末が見たい?

  • 主人公も皆も無事のハッピー
  • ……バッドエンド
  • 欲張りに両方欲しい!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。