徒然草と青溟鳥   作:上条@そぉい!

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デートは突然に

 さてさて、私は今ルミナスクエアに来ている。記憶のない私では迷子になるので来てもらったのが──

 

「おう、こっちだユキ」

 

 着いてすぐの私を見つけた相手が分かりやすいよう手を振る。シャツから伸びる腕はムキムキで、ガタイのいい彼はすぐに分かった。

 

「アンドーさん、付き合ってもらって悪いね」

「いいって事よ。社長にも休日出勤はやめろって言われてたし、ちょうど良かった」

 

 気のいい兄さんのようなアンドーさん。漢というものに拘りがあるらしく、性格もまさに快活児といったものだ。まぁ、知能構造体でもない自分のドリルを相棒と呼び会話する姿は変だと思っているけど。

 

「で、ここに何の用で来たんだ?」

「アンドーさんは知ってるでしょ?私記憶喪失……いや、記憶欠落?まあそんな感じ」

 

 今でこそこうして話せるけど、社長と出会った頃の私は言語能力すら喪失していたんだからね。目の前に映る情報の全てが0と1にしか見えなかったというか。こうして休みの日はあてもなく何処かに出掛けてなんらかの記憶が蘇るきっかけが無いかと探していた。

 

「あー、つまりアテはねぇんだな?だったら任せろ!俺が色々案内してやるよ!」

 

 言いたいことを理解したアンドーさんはドン、と自分の厚い胸板を拳で叩いて自信ありげに笑った。

 

「ありがとう」

 

 そうしてアンドーさんに連れられてまず向かったのは……工具店?

 

「ここは……」

「おう、俺が贔屓にしてる店だ。質のいいものしか置いてねぇ」

 

 ズカズカと店に入っていくアンドーさんの後ろをついていく。見えるよう置かれた棚に飾られた工具達は、その役割を全うする時を待ちわびるようにきらりと光を受けて反射している。新品のものが放つ特有の匂いが鼻につく。

 

「は〜」

 

 私はその大小様々な輝きに目を惹かれて感嘆の声を漏らす。こう、なんというか。工具ってある種の芸術なのではないか、とこれを見ていると思う。求められたものを、求められた分だけ、そうして生まれた工具には必要が形を成す。機能美とはこう言ったものを指すのだろうか。

 

「お、アンドーじゃねぇか。なんだ、工具の新調か?」

 

 来店に気がつき、店の奥、暖簾を潜って顔を出したのは、クマのシリオン。

 

「違う違う。今日は見学だ。連れの……まぁ、後学の為、みたいな感じか?」

 

 そう言って私を指差すアンドーさん。シリオンの店員は、こちらを見てニッコリと笑うと、アンドーさんの脇を肘で突いた。

 

「いてぇな!?何すんだ」

「阿呆かお前は。デートならもっとマシなところ選べ。何処に工具見せて喜ぶ女がいんだ」

 

 ジト目で睨む店員。ある意味において正論だったその言葉に、アンドーさんも言葉に詰まった。

 

「で、デートじゃ──」

「あはは、私これでも好きですよ?現場で働いてますし」

 

 何か言いかけたアンドーさんを遮って私はそうフォローしておく。実際工具を見るのは嫌いでは無かったから。

 

「ったく、気を遣われてるようじゃ漢としてまだまだだなアンドー」

「な、なんだとぉ!?俺が漢じゃねぇってのか!?」

 

 やれやれと肩をすくめる店員に喰ってかかるアンドーは、その安い挑発に乗ってしまった。

 

「あ、あれ?アンドーさん?私は平気だよ……?」

 

 なんだか嫌な予感がして私は平気だと声をかけるも、既に時遅し。やる気十分なアンドーさんは肩をぐるぐると回して息巻いている。

 

「だったら証明してやるぜ!俺が漢の中の漢だってところよ!」

 

 そう言って私の手を引いてズカズカと店を出て行った。

 

「やれやれ、やっとアンドーにも春が来たかねぇ……頑張れよ」

 

 ぼそっと、そんな風に呟く店員の声を拾った私は引っ張られながら心で呟く

 

──多分、まだ先だと思いますよ。それ。

 

 そうやって引っ張られながら急ぎ足でやってきたのは、ルミナモール。ルミナスクエア最大の大きさを持つショッピングモールである。所狭しと幾つもの店が立ち並び、店前には客引きの声が飛び交う。それらを横目に一つの店の前で足を止めアンドーはこっちを見る。

 

「ここは……」

「服屋だな、考えてみりゃユキは自分の服、無かっただろ?姉御の服を借りてるだけで」

 

 言われてみればそうだった。グレースさんが買ったはいいけど着ないまま放置されていた服を貰ったのだ。あの人、機械一筋でそういう服に興味がないのでらしいと言えばそうなのだが。

 

「が、しかしだ。俺ァこういうヒラヒラした服にゃ詳しくねぇ」

 

 腕を組み堂々と話すアンドーさんには何やら作戦があったようだ。

 

「なるほど?」

「だから、とりあえず金は出すから店員に見繕って貰えばいい」

「えぇ……?」

 

 つまりは丸投げ、という事か。最初こそ呆れ半分の困惑があった。しかし考えてみれば私もそんな事に詳しいわけもなく、一番丸い提案だった。なので、とりあえず背中を押されるままに店内へ入って、目についた店員さんに声を掛けてみる。

 

「あのー、すいません」

 

 その声に反応してこちらに寄る店員は、こちらの顔を見ると驚いた表情をした。はて、何か私におかしな所があっただろうか。

 

「今日はどうされたんですか儀玄様?以前受け取った服に何か問題が……」

「あ、いや……」

 

 どうやら人を間違えているようで、慌てて私は訂正する。

 

「人違いですよ、私はその人じゃ無いです」

「え……?も、申し訳ありません。その……とても似てらしたので……」

 

 今も何度も顔を見直している店員。そんなに似ていたのだろうか。まぁとにかく、事情を説明しておすすめの服が無いかを尋ねてみた。すると返ってきた返事は。

 

「オススメの服、ですか……少々お待ちください。確か前に作られたアレの予備が」

 

 そう言いながら店の奥から持ってきたのは、黒を基調とした、喪服のようなものだった。

 

「さぁさぁ着てみてください。私の目に狂いがなければ、とてもお似合いな筈ですから」

「あ、はい」

 

 その店員の背後にメラメラとやる気の炎が幻視できた私は素直にその指示に従う他なかった。

 

「──やっぱり!とてもお似合いですよ!」

 

 試着室を出て、店員にそう言われた私は少し赤くなった頬を掻く。私としても着てみてとてもしっくり来るのだけど、一つ問題が……

 

「これ、スカートの丈随分と短くないですか……?」

 

 とてもスースーして慣れない。しかし、店員はそれを止めるなんてとんでもない、とばかりに首を横に振る。

 

「その服は老舗の店で仕立てられた有名デザイナーの作品なんですよ!墨まとう影の──」

 

 そうして始まった服にまつわるあれやこれやを聞き流し、ようやく店を出た時にはアンドーさんも待ち侘びて座り込んでいた。

 

「お、来たな。随分と似合う服じゃねぇか。いつもと雰囲気がガラッと変わるな」

「なんか、とても店員が張り切っちゃってお代もタダでいいです!なんて言ってくれたんだ」

 

 まあ、半分はそのやる気に振り回された形だったけど。こうして着てみて少し楽しかったのは内緒だ。

 

「んじゃ次は飯だな!今日はとことんやろうぜ!」

「わっ」

 

 そうして再び手を引っ張られていく私。

 

──私の記憶の事とか、もうすっかり頭から抜けてるなぁ……楽しいからいっか。

 




「ただいまです!」

 人が居なかったのはもはや過去の話。こうして帰ってきた挨拶をすれば、誰かが返事を返してくれる。ここは適当観。師匠を慕う弟子達の住処にして、修行の場。

「帰ったか福福」
「あ、師匠居たんですね!」

 るんるん、と尻尾を振り回しながら師匠の元へと駆け寄る福福は、首を傾げた。

「あれ?でも師匠。今日ルミナスクエアに居ませんでした?」

 チラッと人混みの中で、師匠の後ろ姿を見た気がした福福は、その光景を思い出して首を傾げるばかりであった。

「私がか?今日はずっと適当観に居たぞ」
「あれぇ……?」

 私の気のせい、だったのだろうか?
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