徒然草と青溟鳥   作:上条@そぉい!

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後日談
嵐が過ぎ去った後に


 「おせぇぞユキ!」

 

 儀玄と一緒に白祇重工の現場へと訪れた私に対する第一声は社長のそんな声だった。いつも通り、大の字で腕を組み、重機の上から見下ろす社長は相変わらずで、私は笑って会釈する。

 

「すいません、遅くなっちゃって」

「全くだ、ユキのせいでどれだけ工期に遅れが……」

 

 ぷりぷりと怒る社長に、微笑ましいものを見るように笑って横腹を突くのはグレースさんだった。

 

「そんな事言って、ユキが目覚めた事を知るまでグズグスだったじゃないかおチビちゃん」

「う、うっせぇ!」

 

 よく見れば目元が腫れているあたり、とても心配させてしまったのだろう。申し訳ない気持ちだ。

 

「でも社長、私もう現場は無理だと思いますよ?」

 

 こんな足になってしまって、前のようなことはもう無理だろう。ずっと儀玄が付きっきりという訳にもいかな……いてて、無言で脇腹を抓らないで儀玄。わかった、わかったから。不穏な事を考えるとすぐにバレるんだから。再会してから儀玄はずっとこんな調子で私から離れようとしないのだ。別に困っている訳ではないのだけれど、やはり申し訳なさが勝る。

 

「あぁ、それなら私に任せて欲しい」

「グレースさんに?」

 

 グレースさんは別に医者という訳でもないだろうに、一体どんな秘策を……?

 

「機械の事なら任せて欲しい。足に取り付けるタイプの補助器具を作成中さ」

 

 おっと、いつも見る機械に狂った目だ。これは碌なことにならなそう。でもまあ、グレースさんは機械に目がないけど、人に関わることに関しては真摯であり真面目だ。悪いことにはならない、と信じたい。

 

「んんっ、別に現場だけが仕事じゃねぇだろ?」

 

 咳払い一つ、社長が気を取り直してそんな風に言う。何処にそんなスペースがあったのか、社長の背後からにゅっと顔を出すのはベンさんだ。

 

「実際、うちの事務担当は俺しかいなくてなぁ。人が増えるのはありがたいんだ」

 

 確かに、書類と睨めっこをよくしているのはベンさんだ。というか現場にいるより事務所にいる事の方が多いと思う。それならまぁ、私もできるかな?

 

「というか社長、あの事、話さなくていいのか?」

「ん?……あぁ!?こんな事してる場合じゃねぇ!ユキ、お前ちょっと奥行ってこい!アンドーが!」

 

 慌て始める面々に、私は首を傾げるばかりである。アンドーさん?一体何があったんだろうか。まさか前に助けた時、実は怪我していたとか。あの時腹を銃で撃たれてたし、まさか私以上に!?こうしてはいられない。私は顔色を変えて社長達が指差す先に急いだ。

 

 アンドーさんは居た。しかし、その姿は以前とは全く違うものだった。あれだけ力に溢れていた表情はなく、陰のある陰鬱としたものに。心なしか、ピンと跳ねていた髪もしなしなになっているように見える。

 

「あ、アンドーさん!?」

 

 なぜこんな事に!?驚く私と、横でため息を吐く儀玄。あ、こっちに気がついた。

 

「ユキ!?ユキか!?」

 

 ダッシュで駆け寄るアンドーさんは、こちらの手を取り私の体のあちこちを確認して無事なことを確認していく。あ、儀玄が我慢できず青溟鳥でアンドーさんの頭突っついた。

 

「悪意はないとは言え、姉様の四肢を見回すとは礼に欠けてるんじゃないか?ええ?」

 

 ちょっと柄悪いよ儀玄。あとその目つきで凄んだら普通に怖いよ儀玄。

 

「あ、あぁすまねぇちょっと取り乱した」

 

 ちょっとかなぁ?しかしまあ、アンドーさんも傷は平気そうだ。少しホッとしたよ。

 

「ユキ、俺はお前に謝りたかったんだ。本当にすまねぇ!」

 

 直角90度。見事なお辞儀で頭を下げるアンドーさん。

 

「俺がヘマしななきゃ、お前がそんな風になることも無かった筈だ。だから俺ァ──」

 

 そう言いながらアンドーさんは顔を上げ、私の足を見る。杖を突く私の姿を見る。

 

「それ以上言ったら私が怒るよ」

 

 だから、私は眉を曲げてアンドーさんの顔を見る。私はあの選択に後悔なんてしていない。この足は、身の丈に合わない背伸びをした結果なのかもしれない。だけど、私はこれを代償とは考えてないよ。私が守ろうとしたものを、守り抜いたのだと言う証だ。それを無くてよかったなんて、アンドーさんにも言わせない。

 

「それよりも、アンドーさんが無事で良かったよ」

「だけどよ、俺が」

「私が気にしてないんだから別に良いでしょ?それとも、アンドーさんが目指す漢って、終わった事をぐちぐちと後悔する人?違うでしょ」

 

 せっかくなら、私の足の代わりになってやるくらいの漢を目指してもらいたい。それでこそ私が知るアンドーさんだ。

 

「……そうだな、確かにその通りだ。よしッ!俺ァ決めたぜ!今度は俺がユキを守る!次なんてねぇようにな!」

「そうそう、それくらいじゃなきゃね」

 

 ようやくいつもの笑みを取り戻したアンドーさんに、私は微笑む。

 

──前途は多難だな……姉様は鈍いぞ?

 

 その一部始終を見ていた儀玄は、甘くて敵わんとため息を溢し呟いたのだった。




儀降ユキ
いつもの調子に戻ったな!ヨシ!としか考えてない。

クレタ社長
必死でいつもの調子に繕っているけどその裏で死ぬほど心配したし何回も見舞いに行っていた人。この人が居なければ星見雅は動かなかった。

グレースさん
作るとしてどんな形がいいかなぁ?と既に頭は機械の事で一杯。それはそれとして純粋に心配もしていた。

ベンさん
良かったなぁ、無事な姿が見れただけで俺は満足だよ、と何処か親みたいな心境になってる人。

アンドーさん
俺は守るぞ!と宣言した人。その表面的なものとは裏腹にこれを誓いとしており、想いが重い。なお発破をかけた人にその自覚はないので前途は多難。がんばれアンドー、お前の未来はお前次第だ。

儀玄
姉様セコムになってる人。これまでの分全力で守る事を誓っているので、もし今後アンドーが姉様とそういった関係になる際は、見極めするつもりでいる。私を倒してから行けくらいは真面目に言いかねない真剣さがある。
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