「すいませーん、少し宜しいですかー?」
今日は最近出来たと聞くファンタジィ・リゾートへと足を運んできた。と、言うのもどうやら白祇重工の皆に社長の友人から招待を受けたらしく、丁度仕事も終わり、慰安を兼ねたバカンスにしようか、と話が決まったのだ。しかし、まぁ
「ここの配置、少し変えた方が良いんじゃねぇか姉御?」
「いや、ここを変えるとシステムに影響が━━」
目の前では、何故かリゾートに来てまで仕事着のまま顔を突き合わせて相談しあうアンドーさんとグレースさん。薄々気がついていたことだったが、白祇重工のメンバーはワーカーホリックの傾向がある。クレタ社長が休み与えても休んでくれねぇ、って嘆く理由がよく分かる。何処からか仕事を見つけては何故か仕事をするのだ。いや、強要した訳でもないし、本人達はいたって真面目だし不満もないのだが。
「あのー?」
さて、ここは砂浜だ。当然他にも海を目的に様々な人が来る。私も前にルミナスクエアで貰った私服に着替えてここに居る。
「聞こえてますかー?」
現実逃避をやめて、視線を戻す。そこには軽薄そうな水着姿の男がいた。これで何度目だろうか。ここに来てからずっと私は声を掛けられていた。やれお茶でもどうですか、とか、一緒に泳ぎませんかとか。なあなあで私もその場を逃げてやり過ごしていたけど、そろそろ我慢の限界も近い。
「何か?」
穏やかな口調ではなく、冷たく鋭い口調で尋ねる。具体的には『オメーくだらねぇ理由で声かけてんじゃねぇだろうな』的な圧を込めて尋ねた。今私の目は座ってるだろう。口調が荒れるのも止むなしである
「ヒッ、い、いえ。今実はキャンペーンをしていまして、もしよかったらと」
その言葉に、少しだけ圧を抑える。なるほど、ナンパが目的ではなく、あっちも仕事なのか。
「私?他にも居るだろうに」
まあ目立っていた自覚はあるから、そのせいで声を掛けられたのかもしれない。
「あはは……今、HIAセンターとのコラボでVRゲームキャンペーン中なんです。もし良かったら一回、どうです?」
チラリと、アンドーさん達を見る。会議に夢中で、まだまだ熱が入ってそうな様子にこれは暫く待っても無駄かな、と思った私はその提案に乗ることにした。せっかくリゾートに来たのだから楽しまなくては損だ。スタッフの誘導を受けて建物に入った所で、機械の前へ案内された。
「えーっと、フルダイブでリアル再現されたエーテリアスを倒せ!らしいですよ。バトルタワー方式で、ハイスコアを目指すゲームのようです。他プレイヤーとの乱入戦もあるみたいでプレイボリュームはあると思います」
ポケットから取り出したメモを読み上げたスタッフは、どうです?と目で此方を見た。仕事でホロウに入ることもある私にとってエーテリアスは珍しいものでは無い。
「その口ぶりだと、他にも既にプレイした人が?」
「たくさん居ますよ、今回はリゾートとのコラボですが、このゲーム自体はHIAセンターにもあるみたいで、目指せ最高記録更新!って感じですね」
ふむ。面白そうだし少しやろうかな?その旨を伝えると、喜んで機械をセッティングしてくれて、コックピットのような機械に座り、少しの浮遊感ののち、私はVR空間へとダイブした。
「おー、凄いな」
ゲームの中だと言うのに、まるで現実のように地面に足をつけて立つ感覚はそのままだ。
「なるほど、ここで武器とか選べるのか」
槍とか刀とか、銃もある。私はその中から目を惹かれた量産品みたいなデザインの剣を取り、その場で軽く素振りする。
「うん、なんか良さそうだ」
今まで殴り倒していたが、武器を持つというのも悪くない。むしろ、しっくり来る感覚がある。元ある所へ戻ったようなフィット感、というか。
「さて、じゃあ記録目指して━━」
目の前に生成されていくエーテリアスをその剣で一刀両断し、そのまま果敢に前へと飛び込んでいく。
「頑張るか!」
「ここがリンとアキラが言っていたリゾートか」
ピコピコと動く狐耳は、クールな表情とは裏腹に、その内の嬉しさを隠しきれていないようで。
「ねぇねぇ!あっちでかき氷やってるって!」
「あーはいはい。こうも日差しがあると暑くて仕方ないですねぇ」
楽しげな雰囲気に、既に勇み足な同僚達に苦笑しながら、眼鏡のズレを直し、オホンと、咳を入れる。皆の視線が此方に向く。
「それでは、今日はもうオフにします。ここに招待してくれたお二人にちゃんと感謝して楽しむように」
まるで引率の先生のような事を言って締める。もう待ちきれないとばかりに走り出す蒼角とそれにやれやれと肩をすくめて付いていく悠真。
「……雅?」
そんな2人を横目に、視線を戻せば、既に我らがH.A.N.Dの課長の姿は無かった。
「仕方ないんだから……」
子供っぽいところがある課長に待て、は酷だったかもしれない。と苦笑するのであった。
━━何?このゲームをして欲しい、と?ふむ、これも修行か。