何体目だったかもう数えるの忘れてから暫く経つ。最初こそ意気揚々と戦っていたが、後半になるにつれて相手は硬くなるしタフになっていくしでゲームとしての爽快感は薄れている気がする。
「ふぅ」
最後の一体を倒し、息を吐く。インターバルがあるようで、ある程度倒すと休憩できる時間が生まれるらしい。お陰で休憩しながら倒せる。そう言えば最高記録は幾つだったのか聞くの忘れてた。
──warning!warning!
突然自分の前に現れる警告と、その音に体をビクッとさせながら目をパチパチと瞬かせる。何かあったのだろうか。
「えーっと……『他プレイヤーが乱入しました、倒せば記録を奪えるぞ!』って……」
説明にあった乱入戦とはこれのことか。しかもここまで来たのに倒されたら記録をそのまま奪われる、ときた。これまでの苦労が水の泡になるなんて嫌だ。相手には悪いけど勝たせてもらおう。
「──なるほど、そういった修行か」
転送されて目の前に現れたのは、大和撫子のような狐のシリオンの女性だ。涼やかな佇まいとは裏腹に、その手に持った刀の柄に既に手をかけている。
「そちらも既に臨戦態勢の様子。なら━━参る」
ドンッ、と音がした時には既にその女性の姿はそこに無く、一瞬反応が遅れる。目の端で微かに捉えた何か目掛けて反射的に持っていた剣を振るう。
──ガキィィィィィン………!
金属同士が激しくぶつかり、不快な音が響き渡る。受け止めた手が衝撃で痺れる。この人、どんなパワーしてるの!?咄嗟に受け止められたとは言え、態勢を半分崩された。
「む……」
向こうもまた、今のは予想外だったようで動きを止めた。振るった姿勢からして片手で居合を放った、のかな?あれ何度も受けられないな、こっちが持たない。
「……一つ聞きたい」
抜いた刀を納め、私の顔を見つめる女性の表情はいたって平坦だ。その視線は油断なくこちらの一挙一動を見逃すことなく観察している。
「なに?」
「貴方に姉はいるだろうか」
何を聞かれるかと思ったら、予想外の質問に、しどろもどろに答える。
「えーっと、多分、いない。かな?」
記憶がないのではっきりとは言えないが、多分いないと思う。理由はないけど。
「なるほど、では私の気のせいだな」
「では改めて──」
──参る!
そう宣言すると再び姿を消す。そうして放たれるのは到底全てを捌くなんて不可能な濃密な斬撃の雨。
「うおおぉぉ!!!」
見てからなんて到底不可能。あらゆる体の感覚を使って直感的に避け、或いは剣で受けてなんとか縋り付いていく。10、20と受けていく間に、こちらも考えるのをやめた。
(こっちの動きなんて相手に比べたら高が知れてる。誰だか知らないけどこの人とんでもなく強い。勝てる気がしない)
ならば諦めるのか。それもまた違う。自分より格上の相手を前にした時逃げるという選択肢は自分の中に最初からなかった。逃げてはいけない気がしたのだ。
今、なんとか凌げているのは自分の感覚が優れているからに過ぎない。ならばいっそ、その感覚に全てを委ねろ。動きに迷いがあれば終わってしまう。
「む……」
幾度の剣戟を交え、雅は気づいた。先程から相手の動きが飛躍的に鋭くなっている。そして、相手の刃は徐々にこちらに迫りつつあることに。そして遂にはその肌に切っ先が掠るまでに。一体それは何故か。雅の観察眼はすぐにその正体を看破した。
「なるほど、エーテルを操作しているのか」
擬似的に再現されたこの空間のエーテルを操作し、此方の動きを読み取っている。そして、何らかの術理を持った体の動きはかつて手合わせした『彼女』と姿が被って見える。この時点で雅の中で相手の実力を数段評価を上げる。油断しているつもりはなかったが、気を引き締める。狐火を纏い、腰を一段落とした姿勢へ。
「決着といこう」
「──ッ」
その言葉と膨れ上がる威圧感に、言葉を返す余裕のないユキは、自分の感覚に身を委ねてあるがままに動く。
「天網恢々!!!」
「陰陽相生!!!」
各々が叫びながら衝突する。狐火を残して放たれる高速の斬撃と、僅かに金色を尾に引く剣戟の衝突は、激しい衝撃と破壊を周囲に撒き散らし、その終わりを見届ける前に、ゲームそのものが耐えきれずにクラッシュして終了する事となった。
ハッと目を開けると、プスプスと煙を上げる機械の中にいて私は慌てて飛び出すと、スタッフ達が集まっていた。
「あぁ、良かった!申し訳ありません!どうやら機械が故障してしまったようで」
ぺこぺこと頭を下げるスタッフに大丈夫だと言って私はその場を後にしようとした。そこに横から歩いてきて話しかけてきた人がいる。
「見事な腕前だった」
「あ、さっきの」
先程戦ったプレイヤーだ。物々しい刀を片手に凛とした佇まい。こういうのを、大和撫子と呼ぶのだろうか。
「私は星見雅と言う。貴方の名前を聞きたい」
「私?私は、ユキ」
名前を聞いた雅さんは、口の中で転がすように何度か私の名前を呟き、頷いてから此方に顔を向けた。
「先ほどの手合わせ。あの動きは何処かで習ったものだろうか?」
「いや、なんとなくで動いてたから……そういうのではないと思うよ?」
「そうか」
それにしては、余りによく似ていた。特に最後の攻撃は──
そう呟くと、また会おう。と言ってその場を去っていった。しかし──
「疲れたなぁ……」
ゲーム内での動きだ。肉体的には何の負担もないが、どっと私は疲れた気分だった。あれほど動いたのは初めてだった。
暗い部屋の中で、カタカタとパソコンを弄る音だけが響く。ディスプレイに表示された情報は、数字の羅列が並び何らかのデータを表していた。
「間違いない」
探していた最後のピースが見つかった。これで、ようやく目的を果たせる。既に用意はすませた。
「クライン大佐、準備できました」
テントに入ってきた部下の声でパソコンを閉じ、立ち上がる。
「あぁ、では仕事の時間といこう。イゾルテ大佐も厄介なものを残してくれた。それで?派遣された部隊は?」
「ハッ、オボルス小隊と聞いています!」
なるほど、妥当な人選だろう。イゾルテ大佐が遺した手掛かりを汲み取る為にはうってつけた部隊だ。私にとっては厄介者でもあるが。
──誰にも、計画を止めることはできない。