徒然草と青溟鳥   作:上条@そぉい!

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動き出してる未来を止められない。

 春眠暁を覚えず。とても気持ちのいい朝に、入ってきたのは一つの電話だった。眠気覚めぬままに携帯を取り出てみれば、相手は意外な相手だ。

 

「やぁ、元気だったかなアキラ」

 

 その声に一気に眠気が飛んでベットから立ち上がる。この声は──

 

「市長?また何か問題が?」

 

 新エリー都市長。僕たちにとって今唯一と言っていい『先生』に繋がるかもしれない情報をもたらす人。しかし、それと同時にトラブルも運んでくる。今までがそうであったように今日もまた何かあったのだろう。そう予想して尋ねてみれば、返ってきた返事は案の定と言うべきか。

 

「つい先日、イゾルデ大佐の一件が終わり、讃頌会も大きなダメージを受けた。その件に関連して、防衛軍はこの際、を出しておきたいらしくてね」

 

 その言葉にすぐに言わんとすることを察した。イゾルデ大佐の動きは、とても単独で行えることではない。如何に上の地位にいて情報を得られたとてボロが出て然るべきだ。それがなかった。つまり、防衛軍、ひいてはTOPSも含めまだ潜む者がいると考えている訳だ。

 

「つまり『協力者』がまだいる、と?」

「流石だね、少なくとも防衛軍はそう考えているよ。あの時の当事者たる君にも私を通して協力要請がきた。受けてくれるかな?」

 

 イゾルデ大佐の最後を思い出す。そして、その後に残ったあの『記録』。僕たちは進んでいる。きっとこの道を進めば必ず『真実』に辿り着けるはずだ。断る選択肢は無かった。

 

「勿論です」

「ありがとう。防衛軍に話はついている。この後オボルス小隊が迎えにくるはずだ」

「わかりました、それでは」

 

 話は終わったと思い、電話を切ろうとした時、市長からの呼び止める声が入った。

 

「ああ、彼女に伝えてほしい事がある。いや、大したことではないんだが」

「彼女、というと儀玄師匠に?」

「少々気になる事があってね。気のせいだと思うんだが──後で連絡する、と伝えてほしい」

 

 含みのある言葉に、少し嫌な予感がしたが言葉にする事なく了承し電話を切る。早速師匠の元へ行くことにした。まだ朝だし、彼女も居るはずだ。

 そうして向かうと、外で師匠がゆっくりと体を動かしていた。少し動いてはそのまま体を固定しゆっくりと動きを確認しているかのような。こういうのを映画で見た気がする。太極拳、だっただろうか?

 

「どうした」

「ああ、いや──」

 

 じっと見ていた事に気がついたのだろう。儀玄はそれを止めてこちらを見ていた。邪魔したかもしれない、と少々申し訳なく思いながら先ほどの話を伝えた。

 

「なるほど、なら行くといい。占ってみたが吉と出た。悪いことにはならんだろう。……防衛軍には些か嫌な印象があるがな」

「そうかな?」

「当然だろう。向こうの都合で私の弟子を縛りつけたんだ。いい印象などある訳もない……が、あの小隊がいるなら同じ事にはしないだろうな」

 

 それ早く行ってこいと言わんばかりに送り出されると、それから数十分もしないうちにオボルス小隊が適当観に訪れたのだった。

 

 


 

 

 妙な胸騒ぎがして、早朝から気を落ち着かせる為体を動かしていた儀玄は、アキラからの話を聞いて確信した事があった。

 

「既に何かが動き出している、と見るべきか」

 

 自らを占うことをあまりしたがらない儀玄にとって、こうも事が動いたと言うのは占うより雄弁な暗示のように思えた。そんな時だ。市長直通の連絡機から電話が飛んできた。

 

「もしもし」

「やぁ、元気かな?」

 

 聞き慣れた声だ。暖かさを感じながらも何処か胡散臭さを感じさせる。この街の権力争いに身を投じる以上仕方がない事かもしれないが、どうにも信用できない声だと儀玄は常々思っていた。言うことはないが。

 

「世辞はいい、お互い暇な立場じゃないんだ。用件はなんだ?」

 

 こうして直接連絡をしてくると言うことは、儀玄にしか頼めない荒事か。或いは雲嶽山の者にしか出来ない事。

 

「少々気がかりな情報が入ってきた。普通に考えて間違いの可能性が高いが、それでも伝えておくべきだと思ってね」

 

 歯に物が挟まったかのような言いづらさを感じながらも市長は儀玄に伝えた。

 

「……儀降の目撃情報が出ている」

 

 その言葉に、儀玄は手に持っていた機械を落としそうになった。驚愕の余り目を見開いている。

 

「本当か?」

 

 あまりに冷たく鋭い一言。嘘は許さんと怒りがチラつく口調で問いただす。

 

「彼女は死んだ。そう記録にもあるし、それは私より君がよく知るはずだ。私だってこんなの間違いだと思う。しかし、例外がある」

「……ミアズマ、か」

 

 ミアズマは、人の記憶を映す。そしてそこから形作られるものがある。最近になって見つかった事例を考えれば、その目撃情報を見過ごすという選択肢は無かったのだろう。儀玄にそれを話したのも、一番彼女をよく知るからだ。

 

「わかった、こちらも動いてみる」

「……すまない」

「全くだ」

 

 そうして通信を切り、儀玄は空を見上げて深呼吸する。もう、あれから10年以上が経った。あの時泣いた私は既になく、彼女も居ない。しかし、あの時止まった歯車が、再び動き出そうとしているのを儀玄は肌で感じていた。

 

──誰もが大きなものを失った。だからこそ前に進む。

 

 そう言った手間のかかる弟子の言葉を思い出す。そうとも、誰もが止まってはいられない。前に進まなくてはならない時が必ず来るのだ。

 

「姉様……貴方は」

 

 生きているのだろうか。それとも──




「ったく、工事の急な予定変更は事故の元だってのに」

 カンカンガリガリと派手な音が響く現場でクレタは工具を片手に嘆く。依頼元から突然の連絡によって、急な予定変更があったのだ。報酬は割り増しするとの事だったから受けたが、不満はある。

「まぁ社長、そう言うなって」

 それを諌めるのはクマシリオンのベンだ。肩に掛けたタオルで汗を拭く。

「……ん?おい、ユキはどうした?」

 普段なら何かドジやらかして騒ぐのが現場におけるユキの定番だったが、やけに静かな様子にクレタはようやくユキの姿が見えない事に気がついた。

「ん?あぁ、多分鋼材の補充に出掛けたんじゃないか?アンドーも居ないから多分それだ」
「なら良いけどよ」

 クレタは、何故だか妙な胸騒ぎがして、その苛立ちを持って工具を振るうのだった。
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