ヒガナとカガリのバトルは、簡単に言えば一撃必殺だった。
ヒガナのメガボーマンダが放った『りゅうのはどう』を食らったメガバクーダが一発で戦闘不能に陥ってしまったのだ。
「なんっ……で……!」
カガリは怒りを募らせていた。怒っていたのだ。
「さて……と」
ヒガナはカガリのもとへ向かった。目と鼻の距離まで近づいて、ヒガナはじっとカガリを見つめる。
「…………………………何?」
瞬間、ヒガナがカガリの腹を殴った。腹パンという奴だ。
「うぇぇ……」
「これでなんとかなる、かな」
「君、メガストーンを奪って何をするつもりだ!」
ダイゴさんは言った。
「別に私がテロリストのメガストーンを奪っても問題ないんじゃない? それに、あなたたちが考えているブラックホール構想よりももっといい構想だよ。そのためにはチャンピオンである彼が必要不可欠だからね」
「ユウキくんが……必要不可欠?」
「失礼します、警察です!」
階段を登ってきたのは警察の人間だった。
「………………エスケープします」
カガリは腹を抱えながら逃げていった。名残惜しそうに思っていたのは、恐らくメガストーンを盗まれたことについてだろう。
「警察の方がどうしてこちらへ……。もしかしてマグマ団を追って?」
「いいえ。実はこちらに窃盗及び傷害罪を犯した人間が逃げ込んだと言われておりまして……」
「もしかしてそれって……」
「ええ。そちらにいらっしゃる人です。ミシロタウンのハルカさんへの傷害罪及び窃盗罪が問われています。さらにはトウカシティのミツルさんへの窃盗罪を働いたということも」
「……それっていったい、どういうことだよ?」
俺はヒガナに訊ねる。
しかしヒガナは答えない。
「……私は一つの役目を終えるためだけに、その行動をとっている。それを否定されても、私は何もいうことはない。ただ役目を忠実に行うだけのこと」
「だからと言っても、それは犯罪だ! 犯罪を無視しては、流石にまずいことくらい解るだろう!?」
「犯罪を無視して世界を守ることと、犯罪を無視しない結果世界が滅ぶのだったら、前者の方が断然いいとは思わない?」
それは極論じみていた。間違いではないが、かといって正しい行為でも無い。自分のエゴを追求するために生まれた行動と言ってもいい。にもかかわらずそれを実行したのは、彼女も考えなかったのだろうか? それが間違いだとは思わなかったのだろうか。
「……取り敢えず、面倒なことになってきたな。ここで捕まるわけにはいかないし……」
ヒガナは笑みを浮かべるとあるものを投げた。
それはボールだった。
ボールが開くとそこから黒い煙が出てきた。それは次第に部屋を覆っていく。
「よし、逃げるよ」
ヒガナはボーマンダに乗り込む。俺も引っ張られていき強引に載せられた。
「おい! どうして俺を載せるんだ!」
「乗りたくないなら別にいいけど。世界も滅んで、あなたは私と一緒にいたからということで事情聴取を受けるだろうね」
何だよ、それ。脅迫か。
俺は舌打ちして、そのままボーマンダに乗ることにした。
「物分りが良くて助かるよ。……おっと、忘れていた」
ヒガナは研究員の近くの机に置かれていたものを取り出した。それは何かの機器のようだった。
それを持つとヒガナは再びボーマンダに乗り込んだ。
「……それは?」
「今話す時間もないし、またあとで話すことにするよ。それじゃ」
ボーマンダがゆっくりと翼をはためかせ始めた。
そして窓を突き破り、俺たちはトクサネ宇宙センターを強引に出て行った。
そして、決して優雅とは言えない空の旅へ。