「俺が……死んだ?」
「正確にはこの世界の『ユウキ』という存在がね。それを知っているのは数少ない。本当に数少ないよ」
「それをどうしてお前が知っているんだ。……まさかお前が」
俺の言葉にヒガナは首を横に振った。
「まさか。いくらなんでもチャンピオンだよ? そう簡単に倒すことなんて出来やしない」
それもそうだった。自負しているつもりではないが、チャンピオンがそう簡単に破れてもらっては困る。チャンピオンは人々の憧れであり、目指すべき存在であり、人々を守るべき立ち位置にある人間なのだから。
「あなたが疑問に思い、そして疑うのは当然のこと。私だってその事実は信じられないし信じたくない。ただ、正確にいえばあなたは殺された。それだけは言える。そしてそれは私ではない、ほかの誰かということも……」
汗が額を伝う。聞いていて、とても気持ち悪かった。
一体全体、どういうことだというのか。俺には、まったくもって理解出来なかった。理解したくなかった。
ヒガナの話は続く。
「あなたが狼狽えていることは十分理解できる。だって仕方がないことだもの。あなたがそう思うのは当然のこと。当然なのだから」
「……俺を殺したのは誰だ、誰なんだ」
正確にいえば俺は生きているから、この世界の俺だということになるのだが。
「考えれば容易に想像出来るんじゃない? 誰が犯人なのか。明らかに君のことを恨んでいる人間がいたでしょう?」
「……カガリ、か?」
「ご名答」
短い拍手を送るヒガナ。
いや、うれしくない。それよりも疑問が生じる。
「何か不服かい?」
「不服というより、気になっていることなんだが……。お前が言うには、カガリが俺を煙突山に突き落とした」
「突き落としたというか、結果的にそうなったってことだね」
「なぜお前はそれを知っている?」
「……まあ、いろいろあったんだよ。それに正確にいえば、マグマ団には各幹部の一派が存在する。カガリだってそうだ。もう一人の……ほむほむとか呼ばれている幹部だって、一派を持っている。その規模はどれくらいかはわからないけれど、カガリの一派はそれなりに巨大だった。そして彼らは許せなかった。カガリからその立場を奪った人間を」
「そして俺を殺した……と? それじゃカガリは殺してないのか?」
「まあ、そういうことになるかな。指示を出したのは彼女だよ」
「でも『まさかここで会えるとは』……って言っていたぞ。まるで煙突山での結果を聞いていないようだった」
「……たぶん、まだ生きていると思ったんじゃないかな。ポケモンはその気になればマグマでも無事なものだってつくりかねない。君だって知っているでしょう? ポケモンが齎す、その超自然的エネルギーを」
ああ、知っているとも。俺だってチャンピオンになったんだ。
ポケモンのことを知らないで、チャンピオンになれるものか。