「∞エナジーはそれ程に大変なものだったのか……」
俺はヒガナの話を聞いて、少なからず絶望していた。俺の世界になかったもの、その代名詞ともいえる一つ、∞エナジーはそれ程までに重要かつ危険なものだった。
「そう。∞エナジーはポケモンの生命エネルギーに依るもの。だからこそ私は危惧していた。それによって多くのポケモンの命が使われることを解ってほしかった。理解してほしかったのよ」
ヒガナの言葉は強いものだったが、しかし言っていることは純粋に真実だと思えた。
「……シガナについて信じてもらえるとは思っていない。むしろ、疑って当然だと思っている。でも私は信じている。それだけは理解してほしい」
状況を整理しよう。
ヒガナ――この世界の人間ではなく、別の世界に渡る方法を欲している。
シガナ――もともと人間だったが、『じくうのさけび』なる現象に遭遇しポケモンになってしまった。そのあと、サイコメトリーめいた能力を手に入れ、ヒガナに今回の災害について教えた。
……そして、この世界での俺は死んだ。マグマ団によって。
……待てよ、マグマ団?
「そうだ、ヒガナ。気になることがある。……アクア団はどうしたんだ? マグマ団ばかりが登場して、少しばかり気になっているんだが」
「アクア団はマグマ団と同様の可能性をはらんでいた。要するに、アクア団もまた海を欲し、人間を滅ぼす可能性だって考えられたわけだ。超古代ポケモン、カイオーガを目覚めさせることでそれが実現してしまうからね。ただ、あいにくこの世界ではグラードンをマグマ団が復活させようとして、それによってカイオーガも目覚めた……ただ、それだけのことになったようだよ」
「結果を聞きたいんじゃない。アクア団がどうなっているのか、それを聞きたいんだ」
「アクア団は解散したよ。マグマ団と同様の思想を持っていることから、騒動後マスメディアに大きく取り上げられた。この世界での彼らはただの環境保全団体だったのにね。……まあ、それを今更言っても仕方ないことだけれど」
アクア団が解散した。
マグマ団はまだ復活の狼煙をあげようとしている……ということなのか?
「いいや? マグマ団はそんなつもり毛頭無いよ。そもそもリーダーであるマツブサがそのやる気を削がれているからね」
……何だと?
マツブサは生きているのか。てっきり死んでいたのかと思った。だから恨みを持たれたのかと思った。
しかしそうでないとするなら――ほんとうにマグマ団をつぶされたことがいやだった、ということなのか。
「マグマ団も独自に∞エナジーを研究していたらしい。通信ケーブルを知っているかい?」
「ああ。図鑑を通してポケモンを交換する際、必要とするケーブルのことだな。……どうやらこの世界ではそれを不要としているらしいが」
「そう。無線通信で交換を行っている。便利な世界だろう? それもまた、三千年前に最終戦争があったか無かったかで別れる。『じくうのさけび』も恐らくはそれに依るものだろうね」
「……『じくうのさけび』は世界的に関係ないんじゃないのか?」
俺の言葉にヒガナは指を振る。
「ところが違うんだよね。確かに同じ世界から分岐したものとは到底思えない。だけれど、こうは考えられないかな? もともと同じ世界だったからこそ、この世界からあの世界へ渡ることが出来た……と」
三千年前にあったとされる『最終戦争』。それが俺の世界をつくり、この世界をつくり、最終的にポケモンたちの楽園まで作り上げてしまった。……なんというか、頭がついていかない。
「そう思うのも仕方ないことだろう。しょうがないと思っている。だけれど……たとえ、世界から『間違っている』と言われようとも、私はこの世界を守りたい」
ヒガナのその言葉は、とても力強く、俺の心に届いた。