「ポケモンマフィアが台頭したことで、世界は大きく変わってしまった。……正確にいえば、この世界がひどくなってしまった理由ともいえるだろう。ポケモンマフィアのおかげで、ポケモンを悪事に使おうと考える組織が増えたと言ってもいい」
「ま、待てよ。それってほんとうに関係があるのか? ただのこじ付けじゃ……」
「でも実際にそうなった。そして、ロケット団に『正義』が執行された」
正義。
この言葉がこれほどまでに重く感じるとは。
ヒガナは微笑みながら、なおも話を続ける。
「ロケット団は正義の執行により壊滅した。そこまででしておけばよかったものを……ポケモン協会は自らの力に酔ってしまった。自分たちならば、どんな組織をも倒すことが出来る……。そう錯覚してしまった。それによって、さまざまな被害を負ったのも事実。そうして、世界の批判は次第にポケモン協会へと集中していった……。当然のことだよね。だって当たり前だもの。結果としていいことをしたかもしれない。でも、その結果が伴わなければ、それは正しいことだときちんと言えなくなってしまう。人間というのはそういう、恐ろしい存在なのよ」
「ポケモン協会が粛清を考えたのは……」
「そのころね。オゾン層に住む第三の超古代ポケモンを見つけたのは。そして、そのポケモンが放つエネルギーは人間をも滅ぼすことが出来るだろうとも言われているということも」
人間をも滅ぼす。
きっとそれは具体的にいわないだけだが、人間にその攻撃をぶつけるということなのだろうか。
だとしたら、外道と言って差し支えない。
「その通り。外道よ。ポケモン協会は完全なる外道。だって自らの批判を避けるために、この世界を滅ぼそうとしたのだもん。……まあ、結果としてそれは失敗に終わってしまったけれど。この不完全めいた翠色の宝珠がいい例だよ」
改めてヒガナはその機械を見つめる。
レックウザを制御する宝珠が、今彼女の手に握られているのだというが、俺はそれをにわかに信じられなかった。
ヒガナはうなずくと、それをポケットにしまう。
「さあ、行きましょう。ユウキ」
「行くって……どこへ?」
ヒガナは外に出ながら、言った。
「レックウザの住む場所へとたどり着く唯一の場所で、私たち流星の民の伝説が記されている……『空の柱』よ」
そのころ。
ダイゴはとある人物に電話をかけていた。
「もしもし」
『何だ。君から電話をかけるなんて珍しい。……ということは、何か只ならぬ事態が発生しているということかな?』
声の主は言った。上から目線で物事を語っているようにも聞こえるが、これが彼の普通だった。
「申し訳ないが、今長々と話している場合ではない。僕の勘が正しければ、彼……ユウキくんはある場所へと向かっているはずなんだ」
『それはルネシティジムリーダーである私に頼んでいること、ということかな?』
ダイゴは首を横に振る。
「いいや、これは「ルネの民」である君に頼んでいることだ」
それを聞いた電話の相手は、笑ったようにも聞こえた。
『成る程……。だいたい事態は把握した。そして、私は空の柱へ向かえばいいんだね?』
「ああ。僕もすぐそちらに向かうつもりだ」
『どうしてだい?』
「……元チャンプと言われちゃ、引き下がってもいられないからね」
そしてダイゴは電話を切った。