「……やあ、ぐっすりと眠っていたようだね」
声が聞こえた。
どうやら俺は眠っていたらしい。
そこに居たのはヒガナだった。彼女はあまり眠れていないのか、目つきは悪い。しかし、俺の表情に気付き、笑みを浮かべると、それが少し可愛い。そして、彼女に擦り寄るようにゴニョニョのシガナもいる。
「それじゃ、始めようか。儀式を」
そう。
彼女がはじめるのは儀式だ。
大いなる、儀式。
この世界を救うための儀式。
そうだと彼女から聞いていたが……それでも実感というものがわかない。
それは、この世界の住民じゃない俺が深く関わっているからなのだろうか?
……解らない。今、ここで考えてみても解るはずも無かった。
この世界で隕石を破壊したとしても、俺は元の世界にも戻れなければ、この世界で生きていくことも許されない。
それは悲しくて仕方ないことだった。どうして俺がこんな目に合ってしまったのだろうかと思った。
でも、ここまで来たらやるしかない。
「いろいろごめんだったね」
「お前は最後まで軽いんだな、ヒガナ」
「軽い感じで話さないとやっていられないよ。それはユウキだって解っているだろう?」
「それもそうだ」
ユウキの言葉にヒガナは目を瞑る。
「……よし」
そして、ヒガナは祭壇の中心に立ち――キーストーンを持ち祈った。
「数多の人の御霊を込めし宝玉に―――我が御霊をも込め申す……!」
刹那、ヒガナを中心として風が吹き荒れる。
「ヒガナ!」
俺は声をかけたが、ヒガナは集中しているらしく、詠唱を続けている。
シガナが俺の足を掴む。その表情はどこか悲しげだ。
俺はただ、ヒガナの詠唱を見つめるしかなかった。
「我が願いを、何卒、何と……ぞっ、叶え賜え……っ……! 叶えろ、レックウザぁぁぁ!」
雷が、祭壇の中心に落下した。
俺は急いでヒガナの元へ駆けつける。
ヒガナはもろに雷を受けていたが、何とか無事だったようだ。
息も絶え絶えで、立ち上がる。
「私なら……問題ない。大丈夫」
しかしその様子は、見るに堪えない。
空から――緑色の光が輝いたのは、その時だった。
そして、レックウザが、祭壇に降臨した。
「……やった。レックウザが……。これで世界が救われる! あとは私の祈りを……レックウザに届かせるのみ! ねえ、レックウザ、メガシンカして。そして、その力で隕石を破壊して!」
――ヒガナのキーストーンは反応を示さない。
「 ……!? ど……どういうこと!? あなたの力に耐えうるだけのキーストーンを集めた。そして、あなたは降臨した……なのにっ! なぜっ!?」
――ヒガナのキーストーンは反応しない。
徐々に口調が荒くなっていく。焦っているのだろう。
「ねえ! してよ! メガシンカしなさいよ! なんで!! なんで……!」
ヒガナはそのまま、膝から崩れ落ちた。
レックウザを呼び出したことによる精神力で、どうにか起きていたのだ。
「もしかしたら……翠色の宝珠に惹かれただけ? でも、それは完全にコントロールは出来ないって言われていたはずなのに……」
「エネルギーが……足りていない、ってことか……!」
俺は、その事実を。
理解してしまった。
頼みの綱であるレックウザが、エネルギー不足。
こんなこと、地上で待機しているダイゴとミクリに言えるはずがない。
むしろ、言えると思っているのか!
そう思っていた――その時だった。
『どうやら、私とお前では「絆」が足りぬようだな』
声が聞こえた。耳を通して、ではなく、直接心に伝わった。テレパシーのようなものだった。
それを聞いて、俺は即座に直感した。
「まさか……レックウザがテレパシーで話している、というのか!?」
『然様』
レックウザは頷く。
「絆が足りない……ならばどうすればいい? 絆がメガシンカのポイントなのだろう?」
『絆というよりも、友好と言えばいいだろうか。要するに、「愛」だよ。どれだけの愛情を注いできたか。逆に、ポケモンからしてみれば、このトレーナーなら自分の命を任せることが出来る……そういう「関係」がメガシンカを生み出すのだよ』
「ヒガナとレックウザじゃ……それにみたしていないってことか」
『はっきり言って、このやり方じゃ強引過ぎる。現に私は今のポケモンたちが持つ「メガストーン」をもっていない。力の源であるそれさえあれば……ん?』
俺の持つリュックが光を帯びていた。
それをレックウザも感じ取ったらしい。
恐る恐る取り出すと、それは隕石だった。見覚えがある。これは煙突山の隕石だ。
「きっと彼が……ユウキが、疑問を浮かべていたのかもしれない」
ヒガナの声に俺は耳を傾ける。ユウキとはきっと前の世界――いや、この世界のユウキのことだろう。