デルタへといたる道   作:natsuki

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第二十八話

「……やあ、ぐっすりと眠っていたようだね」

 

 声が聞こえた。

 どうやら俺は眠っていたらしい。

 そこに居たのはヒガナだった。彼女はあまり眠れていないのか、目つきは悪い。しかし、俺の表情に気付き、笑みを浮かべると、それが少し可愛い。そして、彼女に擦り寄るようにゴニョニョのシガナもいる。

 

「それじゃ、始めようか。儀式を」

 

 そう。

 彼女がはじめるのは儀式だ。

 大いなる、儀式。

 この世界を救うための儀式。

 そうだと彼女から聞いていたが……それでも実感というものがわかない。

 それは、この世界の住民じゃない俺が深く関わっているからなのだろうか?

 ……解らない。今、ここで考えてみても解るはずも無かった。

 この世界で隕石を破壊したとしても、俺は元の世界にも戻れなければ、この世界で生きていくことも許されない。

 それは悲しくて仕方ないことだった。どうして俺がこんな目に合ってしまったのだろうかと思った。

 でも、ここまで来たらやるしかない。

 

「いろいろごめんだったね」

「お前は最後まで軽いんだな、ヒガナ」

「軽い感じで話さないとやっていられないよ。それはユウキだって解っているだろう?」

「それもそうだ」

 

 ユウキの言葉にヒガナは目を瞑る。

 

「……よし」

 

 そして、ヒガナは祭壇の中心に立ち――キーストーンを持ち祈った。

 

「数多の人の御霊を込めし宝玉に―――我が御霊をも込め申す……!」

 

 刹那、ヒガナを中心として風が吹き荒れる。

 

「ヒガナ!」

 

 俺は声をかけたが、ヒガナは集中しているらしく、詠唱を続けている。

 シガナが俺の足を掴む。その表情はどこか悲しげだ。

 俺はただ、ヒガナの詠唱を見つめるしかなかった。

 

「我が願いを、何卒、何と……ぞっ、叶え賜え……っ……! 叶えろ、レックウザぁぁぁ!」

 

 雷が、祭壇の中心に落下した。

 俺は急いでヒガナの元へ駆けつける。

 ヒガナはもろに雷を受けていたが、何とか無事だったようだ。

 息も絶え絶えで、立ち上がる。

 

「私なら……問題ない。大丈夫」

 

 しかしその様子は、見るに堪えない。

 空から――緑色の光が輝いたのは、その時だった。

 そして、レックウザが、祭壇に降臨した。

 

「……やった。レックウザが……。これで世界が救われる! あとは私の祈りを……レックウザに届かせるのみ! ねえ、レックウザ、メガシンカして。そして、その力で隕石を破壊して!」

 

 

 ――ヒガナのキーストーンは反応を示さない。

 

 

「 ……!? ど……どういうこと!? あなたの力に耐えうるだけのキーストーンを集めた。そして、あなたは降臨した……なのにっ! なぜっ!?」

 

 

 ――ヒガナのキーストーンは反応しない。

 

 徐々に口調が荒くなっていく。焦っているのだろう。

 

 

「ねえ! してよ! メガシンカしなさいよ! なんで!! なんで……!」

 

 

 ヒガナはそのまま、膝から崩れ落ちた。

 レックウザを呼び出したことによる精神力で、どうにか起きていたのだ。

 

「もしかしたら……翠色の宝珠に惹かれただけ? でも、それは完全にコントロールは出来ないって言われていたはずなのに……」

「エネルギーが……足りていない、ってことか……!」

 

 俺は、その事実を。

 理解してしまった。

 頼みの綱であるレックウザが、エネルギー不足。

 こんなこと、地上で待機しているダイゴとミクリに言えるはずがない。

 むしろ、言えると思っているのか!

 そう思っていた――その時だった。

 

『どうやら、私とお前では「絆」が足りぬようだな』

 

 声が聞こえた。耳を通して、ではなく、直接心に伝わった。テレパシーのようなものだった。

 それを聞いて、俺は即座に直感した。

 

「まさか……レックウザがテレパシーで話している、というのか!?」

『然様』

 

 レックウザは頷く。

 

「絆が足りない……ならばどうすればいい? 絆がメガシンカのポイントなのだろう?」

『絆というよりも、友好と言えばいいだろうか。要するに、「愛」だよ。どれだけの愛情を注いできたか。逆に、ポケモンからしてみれば、このトレーナーなら自分の命を任せることが出来る……そういう「関係」がメガシンカを生み出すのだよ』

「ヒガナとレックウザじゃ……それにみたしていないってことか」

『はっきり言って、このやり方じゃ強引過ぎる。現に私は今のポケモンたちが持つ「メガストーン」をもっていない。力の源であるそれさえあれば……ん?』

 

 俺の持つリュックが光を帯びていた。

 それをレックウザも感じ取ったらしい。

 恐る恐る取り出すと、それは隕石だった。見覚えがある。これは煙突山の隕石だ。

 

「きっと彼が……ユウキが、疑問を浮かべていたのかもしれない」

 

 ヒガナの声に俺は耳を傾ける。ユウキとはきっと前の世界――いや、この世界のユウキのことだろう。

 


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