デルタへといたる道   作:natsuki

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いつもの三倍くらいあります。
長いです。




最終話

「宇宙――か」

「そうだよ、宇宙だ。嫌いかい?」

「いや、そもそも宇宙には空気が……」

 

 それ以外にもどうやって宇宙に向かうのか、ということもあるが。

 

『それには問題ないだろう』

 

 言ったのはレックウザだった。

 

『長い髭から粒子が出てきていてね。これは空気をも生み出すことが出来る。これを応用すれば私の周りに空気の膜を作り出すのも容易に出来る』

「そうか……。それならば問題ない。……って、え? 俺はレックウザにのって宇宙へ飛び立つってことか?」

「それ以外に何かあるの?」

 

 ヒガナは訊ねる。

 いや、確かにそれ以外の方法なんて思いつかないけれど。

 

『行くぞ、ユウキ。――隕石を破壊するために、な』

 

 レックウザは唸りながら、蜷局を巻いている。

 俺はそれを見ながら、レックウザに乗り込んだ。

 

『――確り、捕まえていろよ!』

 

 そしてレックウザは、宇宙へと飛び立っていった。

 

 

 

 

「ユウキは無事レックウザの伝承者になれたようだね……」

 

 ヒガナはそれを見送って、ゆっくりと地面に倒れこんだ。シガナが慌てた様子で彼女に寄り添う。

 

「私もこれまでかなあ……。ハハハ、まさか雷に打たれるとは思いもしなかったよ。それだけポケモンに嫌われている、ってことなのだろうね。当然だよね……人からポケモンとの絆の象徴でもあるキーストーンを無理に奪ったのだから」

 

 ヒガナは空を見上げる。

 もうレックウザは空高く飛び上がり、見えなくなっていた。

 

「そもそも、私のキーストーンが反応するかどうかは未知数だった。ばば様も言っていたっけなあ……。この世界の人間でも無いのに、メガシンカを使いこなすことが出来るかも解らない。だからこれは完全に賭け、だって」

 

 ヒガナの独白は続く。

 

「でも、ユウキは使うことが出来た。彼もまた、この世界の人間じゃなかった……って言うのに」

 

 ヒガナの身体が光に包まれる。

 それを見て彼女は――自らの限界を悟った。

 

「ああ、もう終わるのか……。そういえば、彼に一つだけ嘘を吐いてしまったね……。その嘘はほんとうに申し訳ないことだった。彼は戻ってくることも無いだろうし、仮に戻ってきても、私が耐えうることも出来ないだろうし」

 

 彼女はモンスターボールを開けて、ボーマンダを繰り出した。

 ボーマンダも彼女の異変に気付き、彼女に近づく。

 

「ボーマンダ……。この手紙をどうか、地上に居るだろうチャンピオンに渡してくれないか。ツワブキダイゴという名前だよ。あと、これも。このメガストーンは『彼』に渡してくれ」

 

 彼女は手紙とともに、七色に輝く石を渡した。

 キーストーンとメガストーンだった。

 

「私の吐いた嘘は『彼』を守るためだった。それは誰にも言うことが出来なかった。だから……ごめんね」

 

 ヒガナは涙を流す。一滴一滴が、地面へと零れ落ちる。

 

「お疲れ様、ヒガナ」

 

 彼女の見上げる空に、一人の影が浮かび上がった。

 それはおぼろに見えたが、しかし、それが誰なのか彼女はすぐ理解した。

 

「シガナ……。戻ったのね、人間に!」

 

 ヒガナは立ち上がる。痛みが無い。驚くぐらい身体が軽い。

 

「さあ、行きましょう。あなたは頑張ったよ。もう頑張らなくていいんだ。私と一緒に、恒久の時を過ごそう」

「シガナ、シガナ……! 会いたかった……!」

 

 そして二人は空へと昇り――消えた。

 ボーマンダもそれを見送って、そして、祭壇から後にした。

 最後に残されたのは、小さな一枚の手紙だけだった。

 

 

 

 

 もうすっかり俺とレックウザは宇宙空間に居た。

 はっきり言ってすでに隕石を破壊しており、あとは戻ればハッピーエンド……のはずだった。

 だが、違った。

 目の前にあるのは、小さな三角形だった。赤黒いそれは、宇宙空間に浮かんでいる。

 

「あれは……いったい何なんだ?」

『来るぞ。世界に語られることのないであろう、最終決戦の幕開けだ』

 

 レックウザとの会話も少し慣れてきた。

 そして――三角形が変化し始める。

 三角形から、触手とも思える腕が突出した。

 

「……あれは!?」

 

 俺の言葉を無視して、さらに変化を続ける三角形。

 そして、三角形は気付けば一匹のポケモンへと姿を変えていた。

 胸には紫色の水晶体がある。……これが心臓の役割を成しているのだろうか?

 赤と緑でつくられた触手のような手足。

 それは普通にいるポケモンとは違うことを、見ていて思い知らされる。

 

『――デオキシス。宇宙からやってきたポケモン、か。果たしてここまで来るのなら、ポケモンの定義とはどうなるのか解らなくなるな。ポケモンはどこへ向かっていき、何を目指しているのか……そんなことを研究している学究の徒もいるらしいが、それは永遠と解らないのだろうな』

 

 デオキシスはただこちらを見つめているだけだった。

 ……敵意は無いのだろうか?

 

「なあ、レックウザ。敵意は無いように見えるか?」

『それは私もそう思える。しかしデオキシスは隕石をここまで連れてきた可能性も大いにあり得る』

「連れてきた……だって?」

『私がポケモン協会なる組織に研究されていたころの話だ……。私を自由に操ることのできるものと同時に、ある研究が為されていた。それは、宇宙からやってきたポケモンの解析だった。ポケルスという言葉を聞いたことがあるだろう?』

 

 ポケルス。

 それはポケモンのみが感染するウイルスのことだ。それに感染することでポケモンのステータスが向上するなど言われている。一説には宇宙からやってきたのではないか――とも言われている。

 

「まさかポケルスが宇宙からやってきた……なんて言わないよな?」

『あくまでも可能性の一つだ。だが、ポケモン協会はそれを本気で信じていたらしい。カントー地方に落ちた隕石に付着したウイルスを解析したところ……それがポケモンだと判明した。そしてそのポケモンは、宇宙からやってきたポケモンだと断定して、こう命名した。――デオキシス、と』

「デオキシス……」

 

 再び、俺はデオキシスを見やる。

 デオキシスはどこか悲しげな表情を浮かべているようにも見えた。

 

「ただデオキシスは家族に会いに来ただけ……ってことか?」

『それも、可能性の一つだ。だが、それが正しいのかどうかは誰にも解らないがね。それが事実かどうかは解らない。だが、デオキシスが二体いることは確実だ』

 

 デオキシスは俺たちを横目に――俺たちの星に向かって飛び立っていった。

 それを俺は、止めることが出来なかった。

 

『止めなくていいのか?』

「家族に会いに行くのに、倒さなくちゃいけない理由でもあるのか?」

 

 俺の言葉にレックウザは頷く。

 

「戻ろう――俺たちが救った世界へ」

 

 

 

 

 祭壇に到着した俺はレックウザと対面した。

 

『これでお別れとなる……か。「ガリョウテンセイ」を打ち込むことが無かったのは、少々残念なことではあったが』

「バトルが無かったのはいいことだよ。だろう、レックウザ」

 

 祭壇にはヒガナもシガナもいなかった。二人(正確には一匹と一人)はどこに消えてしまったのだろうか?

 ……と俺が辺りを見渡していたら、手紙を見つけた。

 

「何だ、この手紙……」

 

 手紙を拾い、その内容を見る。

 

 

 

 

 

 ――あなたがこの手紙を読んでいるころには、私はもうこの世界にはいないでしょう。そして、あなたがレックウザによって隕石を破壊して、この世界を救った頃だと思います。

 ――私は『世界の改変』により消えました。そしてそれはあなたにも考えられることになろうと思います。

 ――すべてが終わったことは、とてもうれしく思います。だって、私たちがもともと暮していた世界にも、この世界にも平和が訪れたのだから。

 ――ただ、残念なことに私たちはこの世界で暮らしていくことは出来ません。かといって元の世界に戻れる保証があるかと言われると微妙なところです。元の世界は改変されてしまい、あなたとは違うあなたが暮しているのですから。もし戻ることが出来たとするならば、あなたがこの世界で過ごした記憶は消えているかもしれません。無論、あなたと過ごした私の記憶も。

 ――こんなことに巻き込んでごめんなさい。

 ――あなたはきっとレックウザに選ばれるために、この世界を救うためにここに来たのだと思う。けれど、結果としてあなたが消えてしまうのも事実。感謝してもし尽せないし、謝罪してもあなたが許してくれるとは思えない。

 ――だけれど、私は何度だってあなたに謝りたい。

 ――ありがとう。ごめんなさい。

 ――そして、お疲れ様。

 ――それじゃ、ね。

 

 

 

 

 手紙の最後にはヒガナの名前が書かれていた。

 この手紙から類するに、ヒガナは消えてしまったのだろう。

 ほんとうに、消えてしまったのだ。

 そして、俺も――。

 

『お別れのときが、来たようだな』

 

 気付けば俺の身体は光に包まれていた。

 

「そのようだな」

 

 涙を拭って、俺は言った。

 

『会う機会も無いかもしれない。だが、この世界を救ったのは紛れも無く君だ。それだけは言えるだろう』

「……ありがとう」

『礼を言うのはこちらのほうだ。いや、むしろこの世界のすべての存在から代表して、お礼を言わせてくれ。ほんとうに、ありがとう。この世界を救ったのは、ユウキ――君だ』

 

 光の輝きがどんどん増していく。

 俺は消えてしまうのか。

 そう思うと、涙が止まらなかった。

 

「さようなら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 俺の姿は、完全に消失した。

 

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