俺は目を覚ました。
何だろう、とても長い夢を見ていた気がする。
俺は自分の机に置いてあるモンスターボール――その中で佇んでいるポケモンの姿を確認する。こうしてポケモンの健康を確認するのが俺の毎日の日課となっている。
長い夢を見ていた気がするが、俺にはそれが何だったのか、思い出せない。
「なんだったっけ、ラグラージ」
俺は相棒のラグラージに訊ねる。だが、ラグラージは何も答えなかった。
そりゃそうだよな、俺の夢なのに。
ポケモンに聞いたって――解らないよな。
「今日も修行頑張るか……っと」
俺はチャンピオンになった今でも修行を欠かすことは出来ない。
「今日は寒いな……。半袖じゃ不味かったか?」
俺は呟きながら、街を歩いていた。
これから向かうのはヒワマキシティの西――天気研究所の辺りだ。あそこは自然のアスレティックになっており、ポケモンのみならずトレーナーも身体を鍛えることが出来る。
そして俺はそこまでやってきた。
そこに、誰かが居た。
俺以外、この場所を知っている人間は居ないというのに。
「誰だ?」
俺は訊ねる。
そこに居たのは、黒いシャツを着た少女だった。
少女の隣には白い髪をした女性も立っている。
黒いシャツを着た少女は俺の言葉に気が付くと、振り向いた。
「やー、済まなかったね。別にここを荒らそうって訳じゃないよ。何というか……ここに来たかったんだよね。何故だろうね? シガナ」
「何故でしょうね?」
シガナと呼ばれた女性は、もう一人の女性の言葉を聞いて頷いた。
そして二人は微笑みながら、立ち去っていった。
「……何だったんだろう、さっきの人は」
俺はそう言いながら、ラグラージを見やった。
見覚えがあるようにも見えたその黒いシャツを着た少女もまた、振り返ることなくその場を去っていった。
◇◇◇
すべてが終わって、ボーマンダがダイゴのもとへやってきた。
「ボーマンダ……だけ? ヒガナとユウキくんは? 彼女たちはどうなったんだ?」
しかしボーマンダは人間の言葉を話すことは無い。
「ダイゴ。ボーマンダにそんなことを言っても無駄だ。ポケモンはポケモンの言葉しか話すことは無い。人間が理解できる言語を話すことは出来ないんだ」
「何を言っているんだ! メガシンカは人間とポケモンとの絆をもとにやっているのだろう!? 人間とポケモンが思想を理解できないで、ポケモンの言葉を理解できないで、何が絆だ」
ダイゴは言葉だけ吐き捨てて、ボーマンダから手紙を受け取った。
そこにはダイゴに対する謝罪を延々と記していた。
そして最後には、こう書いてあった。
――この世界には、私もユウキももう居ないことだろう。だからこそ、今の世界のあなたたちが作ってほしい。
「ユウキが死んでしまった……と書いてある」
ダイゴはぽつり、呟いた。
ミクリもそれを聞いて俯いた。ルチアも同様だ。
「……待てよ。手紙には続きがあるぞ。二枚目がうまい形でくっ付いている。どういうことだ?」
――追伸
――ユウキが死んでしまった。
――そう書いたが、はっきり言ってそれは嘘だ。彼は生きている。彼はある方法を使って、死んだ風に見せかけただけだ。
「死んでいない……だって?」
「『みがわり』を使ったと言いたいのか? ポケモンにしか使えない技だぞ」
「それくらい解っているが……。まだ続きがある」
――ユウキはある場所に居る。今頃、彼はラティアスとともに過ごしていることだろう。彼は危険な目にあっている。彼を今、失ってはならない。
――以下に、彼が住んでいる場所を記す。
――これは、元チャンピオンであるツワブキダイゴが、この情報を提供するに信頼できる人間だと思ったため、記した。
――彼を、世界を、よろしく。
ヒガナの手紙は、こう締めくくられていた。