デルタへといたる道   作:natsuki

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 pixiv版に先行掲載した短編となります。
 ORAS世界のユウキとラティ兄妹の話。基本、公式イベント準拠。


第一部:外伝
南の孤島


 

 南の孤島という島がある。

 ホウエン地方の南に突如出現する小さな島のことだ。そこに行くにはむげんのチケットというものが必要となる。そしてカイナシティ或いはミナモシティから出るタイドリップ号に乗り込めばよい――。

 

「それにしてもこの島、暑すぎやしませんか。ダイゴさん?」

 

 俺は隣に居るダイゴさんに訊ねる。ダイゴさんは石の洞窟で出会ったストーン・ゲッター。バトルが強い感じは雰囲気だけでも感じ取ることが出来る。

 俺がダイゴさんとともにここにやってきたのは――あるポケモンに誘われたからだった。

 ラティオス。

 それは見たものや感じたものを映像として映し出すことのできる、とても知能の高いポケモンだ。噂によれば、人間の言葉を理解することが出来るし、未来予知もある程度出来るのだという。ほんとうにそうなのかどうかは、解らないが。

 また体毛が光を反射させる特殊なもので出来ているらしく、自由自在に変身しているように見える――らしい。見ていないから眉唾物ではあるが。

 ラティオスは言った。

 

「ダイゴ……だったな。かつて私たちのことを守ると言った、強者たる存在」

 

 ラティオスの声は深いものだった。落ち着いたものとも聞こえるが、それには少し焦りも見られる。

 

「確かに僕は言ったよ。……君たちは単独で活動する存在では無かったはずだ。いったい何があったんだ?」

「今ここで詳しく語る余裕はない。頼むから急いできてくれないか。話は南の孤島へ向かう、その最中とさせてくれ」

「……それもそうだね。解った。急いで向かうことにしよう」

 

 ダイゴさんの言葉に、俺は否定することなんてしなかった。

 そして俺とダイゴさんはラティオスに乗り込み――南の孤島へと向かった。

 

 

 

 

 

「南の孤島は私たち兄妹の楽園ともいえる場所だ。そこに住むのは私たちしかいない。あとは豊富な木の実だけだろうか。……ともかく、私たちにとっては楽園と言える場所であることは間違いない」

「そうだ。確かに僕も以前訪れたとき、これほど前に完成された『楽園』があるのか、と驚いたほどだよ」

 

 南の孤島へ向かうにはまだ幾分時間があるらしく、ラティオスから俺たちは話を聞いていた。どうやらダイゴさんは以前南の孤島に訪れたことがあるらしく、時折相槌を打っていた。

 

「そこがマグマ団によって見つけられた」

 

 それを聞いて、俺は眉をひそめた。

 マグマ団。陸を増やそうと活動している団体のことだ。

 彼らがどうしてラティオスを狙うのだろうか?

 

「違うぞ、人間。私だけを狙っているのではない。ラティアスも狙われているのだ」

 

 どうやら考えていることを理解できるらしい――それは出来ることならばしてほしくないのだが――。

 

「ラティアス?」

「ラティオスの妹だよ。同じ個体に見えるが性別が違うように見える」

「そうだ。なぜマグマ団が私たちを狙っているのか解らないが……このままでは私たちはマグマ団に捕らわれてしまう」

「それは不味いね。マグマ団にポケモンを奪われるわけにはいかない。もしかしたら彼らの目的はそれ以上、メガシンカになるのかもしれないけれど」

 

 メガシンカ、か。

 ということはラティアスとラティオスもメガシンカするということなのだろうか?

 

「まもなく、着くぞ」

 

 それを聞いて、俺とダイゴさんは見下ろした。

 そこには小さな島があった。そこが南の孤島なのだろう。

 そして俺たちはそこへ降り立った。

 

 

 

 南の孤島は緑が生い茂っていた。これほどまでに完成された場所があるのか――と疑ってしまうくらいだ。

 

「この奥にラティアスはいる。……頼む、妹を救ってくれ」

 

 ラティオスの言葉に、俺は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 ラティアスの前には一人の女性が立っていた。因みにダイゴさんはラティオスを守るためにその場に待機している。

 赤い。ただ赤い。

 タイトスカートを履き、ピンクの髪をしている。

 

「…………あなた、誰?」

 

 踵を返し、女性は言った。

 

「ラティアスを渡すわけにはいかない」

 

 俺はその問いに答えず、ただ自分の理念を言った。

 

「…………とりあえず、消えて。このポケモンが持っているメガストーン…………、それが私たちマグマ団の求める物なのだから」

 

 やはりマグマ団はメガストーンを求めていた。

 だからといって、引き下がるわけにはいかない。

 

「…………消えるつもりはないようね」

 

 女性は言った。

 

「…………それじゃあ、デリートします」

 

 そう言って女性はモンスターボールを投げた。

 繰り出されたのはバクーダ。

 俺も即座にポケモンを出す。

 俺が出したのは、タイプ相性から考えて、ヌマクローしかあり得なかった。

 

「…………バクーダ、『ふんえん』」

「ヌマクロー、『マッドショット』!」

 

 バクーダの『ふんえん』が当たるよりも早く、ヌマクローのマッドショットがバクーダに命中する。バクーダに効果は抜群だ。

 そして一発でバクーダは倒れた。……あれ、思ったより弱い?

 それを見た女性は、呆気にとられた表情だった。

 

「…………予想外」

 

 女性はゆっくりと歩き出す。俺に向かって、ゆっくりと歩き出した。

 女性は俺の目の前に立って、言った。

 

「…………私の名前は、カガリ。…………マグマ団の幹部であり、研究者」

「俺の名前はユウキだ」

 

 そして再び歩き出す。

 森を出ていく最後、立ち止まるカガリ。

 

「…………君、ターゲットロック、したから」

「は?」

「…………エクスペリメントするから、ずっと、君を」

 

 そしてカガリは姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 ダイゴさんとラティオスがそれからやってきた。

 ラティアス――赤いポケモンだ――を確認して、ラティオスはほっと安堵の溜息を吐いた。余程心配していたようだった。

 

「ありがとう、人間。君が居なければ、何も解決しなかったことだろう」

「人間じゃない、ユウキだ」

 

 それを聞いて、ラティオスは目を瞑る。

 そして、すぐに目を開けた。

 

「それは済まなかった、ユウキ。私たちはこのまま南の孤島に住む。ただ、もし君に何かあった時……私たちが君のことを助けよう。たとえ、君に死の危機が降りかかろうとしても」

「ありがとう、ラティオス」

 

 そして、俺たちはラティオスとラティアスに別れを告げ、南の孤島を後にした。

 

 

 

 

 ――ラティオスに出会うのは、それから暫く経ってからのことだった。

 ――その時、俺がまさかあんな目にあうなど、解りもしなかった。

 

 

 

 

 


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