輪の中を潜り抜け、彼らがやってきたのは、緑の生い茂った草原だった。
その時間僅か数秒。だからユウキはほんとうに輪を潜っただけにしか思っていなかった。
「……ただの輪じゃないか。ほんとうにどこかへ移動したというのか?」
ユウキの言葉に女性は頷く。
「ええ。気になるのであればポケナビを起動してみてください」
「ポケナビ?」
「そう。ポケナビです」
それを聞いたユウキは、疑問を浮かべつつも、ポケナビの入っているポケットを弄った。
――はずなのに、ポケナビはそのポケットに入っていなかった。
「……は?」
ユウキは冷や汗をかいた。これはいったいどういうことなのか……。
そして彼は頭を抱える。突然、頭痛が襲いかかったからだ。
「……こ、これは……?」
「あなたはこの世界に来たことがあります。そしてあなたはこの世界を救いました。それは誰も知らないことではありません。むしろ、あなたが世界を救ったのに、あなたではない、別の人間が世界を救ったことになっているのです」
「……ここは俺たちが暮していた世界じゃない、ってことか?」
「少し、話をしましょう。ちょうどこのあたりで、構わないでしょう。長くなりますけれど、いいですか?」
「……まあ、いいですけど。シガナさん、あなたはいったい何を知っているんですか?」
その言葉に女性――シガナは微笑む。
「私は知っている事しか知りませんよ」
そしてシガナは話を始めた――。
今から十二年前のことです。
ホウエン地方に隕石が落下しました。
ホウエン地方に落下した隕石はどうして落ちたのかは解りませんでした。まるでそこに隕石がテレポートしたかのように、突然落ちてきたのです。
十二年前? そんなの聞いたことが無いぞ、と言いたげですね。
ええ、その通りです。だって、その十二年前というのはあなたたちが過ごすはずだった世界なのですから。
どういうことか、って?
それはあなたが世界を変えたからでしょう。ヒガナとともに世界を変えた。そしてその代償にあなたたちは記憶を失った。正確にはその世界を救ったことに対する記憶を、です。もともとこの世界は幾重にも線がありました。その線は一つの世界を形成しています。……そうですね、世界線とでも言えばいいでしょうか。
その世界線の一つの世界で、隕石が落ち、そして通信ケーブルによって別の世界線へと飛ばしたのです。
「……ちょっと待ってくれ。全然話が理解できないのだが……」
「いいえ、あなたは理解したくないだけです。理解しようとしたくないだけです。もっと、話を聞けば顛末を理解できるはずです」
そしてシガナの話は続く。
「……通信ケーブルによって隕石を飛ばそうとしたこの世界。そしてそれが成功すると、別の世界へとそれが飛ばされます。しかし、時代は十二年後……。はっきり言ってそこに飛ばされるのなら、十二年前に隕石が飛ばされる理由が解らない。普通ならばそう思うはずなのです。ですが、ワープホールは開いてしまった。隕石は落ちてしまった。……人間の技術って皮肉なものよね。自分たちの世界を救うために使用した技術が、結局役に立たなかったのだから」