「役立たなかった……? つまり、隕石をワープさせるのは失敗した、ってことか?」
「失敗した、ということになりますね。人間は自然に淘汰されるほかありませんでした。結局は、人間は自然に敵うことなんて無かったのですよ」
シガナの話は続く。
その話の意味のほとんどを、彼は理解できなかったが、しかし話を聞こうという意志はあった。
「……一つ、聞かせてくれ」
「なんでしょう」
「なぜ……俺をここに連れてきた? フーパというポケモンを使ってまで連れてきたのだから……何か理由があるのだろう?」
その言葉にシガナは頷く。
「ええ、その通りです。あなたには再び、この世界を救ってほしいのです。この世界にはすでにあなたと同じ名前の……正確にはこの世界であなたの存在と一致する人間が居ます。彼と協力して、この世界を救う必要があるわけです」
「掛け値なしに、ってことか? いくら俺がお人よしでも別の世界を救うためにわざわざ時空を超えるなんて……」
「そんな悠長なことではないのです。それはあなたもすぐに解ると思いますが……。つまりは簡単なことです。あなたがそう考える前に、もう物語は動き始めているのですよ。そう、すぐそこまで……」
ある場所にて。
「首領。ついに発見しました」
跪いて報告をする男性の前にある椅子、それに腰かけている眼鏡をかけた、普通に見れば科学者かと見間違えてしまう風貌の男は、その言葉を聞いて笑みを浮かべた。
「そうですか。ついに発見しましたか。それは手柄ですね。褒めて差し上げましょう」
「ありがとうございます」
それを聞いて頭を下げる男。
科学者めいた男は立ち上がり、窓から外を眺める。
外は雲海が広がっていた。
「そして、それは?」
科学者めいた男がそれを聞くと、跪いていた男は立ち上がりそれを差し出す。
それは箱型の機械にも思えた。空の柱という場所に落ちていたそれは、平和になった今必要ないとして回収を怠ったのである。
そして、それは今彼の目の前にある。
「翠色の宝珠……、噂話程度でしか聞くことのない代物が、私の目の前にある……! うう、とてもうれしい!」
科学者は高笑いしながら、その箱を眺めた。
「ソウジュ様、宝珠を手に入れたとお聞きしました」
ノックもせずに(そもそもノックする扉が無いのだが)入ってきたのは白衣を着た女性だった。風貌からすればソウジュと呼ばれた男に近い恰好をしている。
ソウジュはそれを聞いて頷く。
「ミソラか。そうだよ。その通りだ。とうとう宝珠を見つけた。あとはこれを使ってレックウザを制御するのみ。それによって、あのポケモンは姿を現すはずだ……」
そう言って、ソウジュは笑みを浮かべた。
これから起こることを、予見しているかのように。