デルタへといたる道   作:natsuki

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第七話

 

 マツブサはユウキから聞かされた言葉を理解して、しかしそれが真実とは思えなかった。なぜなら今まで彼が話していたことは、紛れも無く、真実だった。

 

「……そんなこと、ほんとうに有り得るのか」

 

 マツブサは眼鏡をずり上げて、言った。

 ユウキが嘘を吐いているようには、彼には見えなかった。

 だからこそ、それが信じられなかったのである。ほんとうにそんなことがあったのだろうか、と。

 

「確かに信じられないと思うのも解る。現に俺だってこれについては理解できなかった。だが、ヒガナは俺に記録を残してくれたよ。そして、彼女はついに隕石を破壊した。……彼女の役目は終わった」

「ならばどうして今になってそれを蒸し返す?」

「彼女は『いくつもの平行世界を行き来することが出来た』……俺はそう言ったな?」

 

 そう。

 マツブサが理解できないのはそこだった。

 ユウキの言葉によればヒガナという少女は、いくつもの平行世界を行き来することが出来たという。それは凡て、隕石を破壊するためだった。

 それが自由に出来なかった……のだとしても、もしそれが可能だったら……。

 

「その手段を聞き出す輩が出てきてもおかしくはない、な」

 

 マツブサの言葉にユウキは頷く。

 

「その通りだ。ここにきて正解だったよ」

 

 ユウキはそう言って微笑む。

 

「その手段はいったい何なのだ? それについては、私も教えてもらうことは出来ないだろうか」

「もともとそれを教えるために来たんだ。そうじゃなかったら、同盟を組もうなんて言うわけがないだろ? ……ええとね、ヒガナが残した資料にはこう書いてある」

 

 

 ――光輪を持つ魔術師めいたポケモン。そのポケモンによって私は世界を行き来した。

 ――そのポケモンの名前はフーパ。いつか私が隕石を破壊し、記憶を失ってしまったとしたら、このポケモンの記憶も失ってしまうのだろうか……。

 

 

 ユウキはそれに該当する部分を読み上げ、マツブサの表情を窺った。

 マツブサは考え事をしているのか、俯いていた。

 ユウキが見ているのに気が付いて、すぐに顔を上げたマツブサは、笑みを浮かべる。

 

「いや、済まなかったな。何というか、まだぴんと来ないものでね。……それにしても、そのヒガナという少女がフーパの情報を知っていればいいのだが、その資料からすると記憶を失ってしまったのだろう。だとするならば、難しい話だ」

「記憶を失っただけではない。隕石を破壊したことで、別世界に隕石が落ちた事実が無くなる。要するに彼女がこの世界に来た目的が失われるというわけなんだ。さっき、十二年前の話をしただろう? それはつまり、そういうことになるんだよ」

 

 突然マツブサは立ち上がり、テーブルに置かれたモンスターボールを見る。

 そのモンスターボールにはバクーダが入っていた。バクーダは七色に輝く石――メガストーンを持っていた。

 そのバクーダの目を――真っ直ぐにマツブサを見ていた目を、見て、彼は頷いた。

 踵を返し、ユウキに告げる。

 

「君の仲間になろう」

 

 短い返答だったが、ユウキはそれがうれしかった。

 そしてユウキとマツブサは固い握手で結ばれた。

 


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