マツブサはユウキから聞かされた言葉を理解して、しかしそれが真実とは思えなかった。なぜなら今まで彼が話していたことは、紛れも無く、真実だった。
「……そんなこと、ほんとうに有り得るのか」
マツブサは眼鏡をずり上げて、言った。
ユウキが嘘を吐いているようには、彼には見えなかった。
だからこそ、それが信じられなかったのである。ほんとうにそんなことがあったのだろうか、と。
「確かに信じられないと思うのも解る。現に俺だってこれについては理解できなかった。だが、ヒガナは俺に記録を残してくれたよ。そして、彼女はついに隕石を破壊した。……彼女の役目は終わった」
「ならばどうして今になってそれを蒸し返す?」
「彼女は『いくつもの平行世界を行き来することが出来た』……俺はそう言ったな?」
そう。
マツブサが理解できないのはそこだった。
ユウキの言葉によればヒガナという少女は、いくつもの平行世界を行き来することが出来たという。それは凡て、隕石を破壊するためだった。
それが自由に出来なかった……のだとしても、もしそれが可能だったら……。
「その手段を聞き出す輩が出てきてもおかしくはない、な」
マツブサの言葉にユウキは頷く。
「その通りだ。ここにきて正解だったよ」
ユウキはそう言って微笑む。
「その手段はいったい何なのだ? それについては、私も教えてもらうことは出来ないだろうか」
「もともとそれを教えるために来たんだ。そうじゃなかったら、同盟を組もうなんて言うわけがないだろ? ……ええとね、ヒガナが残した資料にはこう書いてある」
――光輪を持つ魔術師めいたポケモン。そのポケモンによって私は世界を行き来した。
――そのポケモンの名前はフーパ。いつか私が隕石を破壊し、記憶を失ってしまったとしたら、このポケモンの記憶も失ってしまうのだろうか……。
ユウキはそれに該当する部分を読み上げ、マツブサの表情を窺った。
マツブサは考え事をしているのか、俯いていた。
ユウキが見ているのに気が付いて、すぐに顔を上げたマツブサは、笑みを浮かべる。
「いや、済まなかったな。何というか、まだぴんと来ないものでね。……それにしても、そのヒガナという少女がフーパの情報を知っていればいいのだが、その資料からすると記憶を失ってしまったのだろう。だとするならば、難しい話だ」
「記憶を失っただけではない。隕石を破壊したことで、別世界に隕石が落ちた事実が無くなる。要するに彼女がこの世界に来た目的が失われるというわけなんだ。さっき、十二年前の話をしただろう? それはつまり、そういうことになるんだよ」
突然マツブサは立ち上がり、テーブルに置かれたモンスターボールを見る。
そのモンスターボールにはバクーダが入っていた。バクーダは七色に輝く石――メガストーンを持っていた。
そのバクーダの目を――真っ直ぐにマツブサを見ていた目を、見て、彼は頷いた。
踵を返し、ユウキに告げる。
「君の仲間になろう」
短い返答だったが、ユウキはそれがうれしかった。
そしてユウキとマツブサは固い握手で結ばれた。