科学者アクロマ。
かつて遠いイッシュ地方でポケモンに関する研究をしてきた、その界隈では有名な人間だった。しかしながら彼は、研究の道に進みすぎた故、道を踏み違えてしまった。
彼が進んだ道は、かつてその地方でポケモン解放を訴えた組織『プラズマ団』。
彼はそこでポケモンの力を操作するための研究を進めるようになった。彼がもともとしたかった研究ではあったものの、それは正義か悪かといわれると、一目瞭然だった。
「……彼に打ち砕かれて、面倒になったのですよ。あの組織で研究を進めていくには、非常に肩身が狭くなってきてしまった。だから、私は一路ホウエンにやってきたというわけです。まだこの地方ならば私の悪名は轟いていないでしょうからね」
アクロマはそう言って、ゆっくりと歩き始める。
ユウキとヒガナは警戒しているようだったが、それに対してシガナは冷静に頷くと、
「あなたの昔語りはどうだっていいのですよ、アクロマ。問題は一つ。空に浮かぶあの砦に向かう術があるか否か? 研究者であるあなたに声をかけたのはそのためでもあるのですから」
それを聞いたアクロマはシガナの発言を鼻で笑った。
「何を言っているのですか、あなたは? まるで私が何も出来ないと言っているようではないですか。悲しいですねえ、まるで私が何もできないと言いたい雰囲気ではありませんか。はっきり言って、そんなことはあり得ませんよ?」
そう言ってアクロマはどこかへと向かった。
「アクロマ、どこへ――!」
「ついてきてください。既にもう、用意が出来ています」
その言葉を、シガナたちは信じることしか出来なかった。
だから彼女たちはアクロマの後を追うことしか出来ないのだった。
◇◇◇
ホウエンの海上をクルーザーが進んでいた。
甲板で近づいてくるホウエン地方を眺める、一人の少女が居た。シルクハットにドレスといういで立ちはどこかマジシャンのような雰囲気を放っている。手首まである手袋をつけた黄色い髪の少女は、ホウエン地方を眺めたまま、溜息を吐いた。
「ラニュイ、なんばしよっと、こぎゃんところで」
言ったのは、彼女の背後に立っていた、同じような恰好の女性だった。緑色のドリルめいた髪型をしている彼女は、ラニュイと呼んだ少女よりも大人びて見える。
女性はラニュイの隣に立ち、彼女を見つめた。
「……心配なんは解る。ばってん、今は身体ば休めたほうがよか」
女性の言葉を聞いて、ラニュイはただ頷くことしか出来なかった。
「あんがとう、姉さま。だけん……あいつのことが心配やけん。気になってしゃーないんよ」