「主人ですか? 主人は今留守にしていまして……申し訳ありません」
さてどうしたものか。
テッセンから情報を得ようと思ってこのテッセンの家に向かったが……テッセンは出かけたらしい。なんとタイミングが悪いのか。
「仕方無い……。あとジムリーダーで事情を理解してくれそうなのは……」
俺はポケナビを開く。ポケナビ――ポケモンナビゲーターの略称だ。これでマップを見ることができる。
「トクサネシティジム、ジムリーダー……」
――フウとランの場所へ。
◇◇◇
トクサネ宇宙センター。
「ソライシ博士。これは即ち……どういうことなのですか!」
「私にも解らない。ただ、これだけは言えるだろう……」
ソライシと呼ばれた博士と助手はある画面を見ていた。
そのモニターにはあるものが写し出されていた。それは直径十キロメートルはあると思われる隕石だった。隕石はまっすぐこの星に向かっていた。
「隕石の軌道計算をします……。このままだとホウエン地方に落ちる模様!」
「なんだと……! 冗談じゃない! ホウエンに落ちたら何が起きるか……。ええい! 至急、デボンコーポレーションに連絡を入れるんだ!」
そうして宇宙センターに喧騒が広がったが、階下ではそんなことが起きているなどさも知らず、観光客で賑わっているのだった――。
◇◇◇
トクサネシティ。
「ここも久しぶりだな……。でもなんというか変わっているな。少なくとも、あんなロケット見たことないぞ」
ロケットがあんな立派になっていただろうか。いや、無い。
「そんなことよりフウとランの場所へ……」
「あれれ、トレーナーさん? どうしたのかな?」
声が聞こえた。
振り返るとそこに立っていたのは二人の少年少女。背格好もほぼ似ていて、殆ど区別がつかない。要するに一組の双子が立っていた。
「フウとラン……だったよな? ジムリーダーの」
「ええ、そうですよ?」
答えたのは……ランだった。二人ってほんとうに区別がつかないな。
「ちょうど良かった。実は聞きたいことがあるんだ。お前たちって――」
「――思い出したよ」
背後から声が聞こえた。
それは俺も聞き覚えのある声だった。
バサ、バサ、と重い翼がはためく音。
フウとランは背後の敵――その強さを感じ取って、モンスターボールを構えていた。
そこに立っていたのは――ヒガナだった。
ヒガナはボーマンダに乗って、俺に対して笑みを浮かべていた。
「やあ、ユウキくん。また会ったね。ここで再会するとは思わなかったけれど……もしかして私と君には何か『絆』みたいなもので繋がっていたりするのかな?」
「さあ、どうだろうね」
俺は腰につけたモンスターボールに手をかける。何かあった時は、ポケモンバトルだって考えている。
じりじりと一歩近づく。
一歩、また一歩と。俺とヒガナの距離が近づいていく。
「……まあ、今回は何も無いよ。ただ、あそこへ行こうと思ったの」
ヒガナが指差した方向にあったものは――宇宙センターだった。
「宇宙センター?」
頷くヒガナ。
「宇宙センターは科学、血、汗……その他諸々の結晶だよね。まあ、私がそれについて言及することはないのだけれど。問題はそれじゃないよ。これは私たちの問題でもあり、あなたの問題でもあり、この世界の人間の問題でもある。この世界にとっての絶望はある世界にとっての希望でもあるんだよ」
ヒガナの言葉が俺には理解できなかった。
だがヒガナは俺の意見を聞くこともなく、俺の手を取る。
「ちょ、お前……!」
「君も宇宙センターへ向かおう。どうせ君もこれに関わることになるのだろうから」
「どういうことだよ! お前はいったい何がしたいんだ!?」
「それは言えないなあ」
ヒガナの脇にいるゴニョニョも、ヒガナの表情を見て笑う。ちくしょう、どうやらヒガナの指示に従うほかないようだ。
そして俺は、ヒガナに連れられ宇宙センターへと向かった――。