「想像力が足りない、か。君がどれほどのものを見てきたのか、僕には解らない」
ダイゴさんは呟いた。
「だが、生きている時間が長いのはこちらだ。対して君はユウキくんと未だ変わらないくらいの年齢に見える。そんな人間の言葉を、誰が信じる? 少なくとも僕は信じられないね」
「信じる、信じないという問題じゃない。現に世界は選択を見誤ることで滅びの時を迎える。それをして欲しくないからこそ、私は今ここにいる」
「選択を見誤る? そんなこと、実際には解らないじゃないか。にもかかわらず、そんなことを言うなんて正直おかしいとは思えないかい?」
「信用できない。まあ、その事実は理解していた。……これ程までに人間は愚かで、同じ道を歩み続けるのかということについて議論を重ねておきたいくらいに」
「何が言いたいんだ!」
拳を握り、ダイゴさんは激昂。
「私はただ一つの提案をしているんだよ、元チャンプ」
ヒガナはゆっくりと俺のもとへ戻ってきた。
「条件は二つ。一つは、∞エナジーなどと巫山戯たことをやめること。もう一つは、メガシンカに必要なメガストーンを私に寄越しなさい」
「……言っている意味が解らないな。第一、見ず知らずの女性にメガストーンを渡す、だと? 絆のつながりを持つメガストーンを渡すことが、ポケモンの絆を裏切ることになるくらい、君だって理解できるんじゃないのか? そこにある……キーストーンらしきものを装備している、君ならば」
冷静にダイゴさんは足元につけている石に目をつけた。
……しかしメガストーンやらキーストーンやら言われるが、それはいったい何なのだろう?
聞きたくても、とてもこのタイミングでは聞くことが出来ない。
「メガストーンをたくさん手に入れなければ、目を覚ますことはできない。呼ぶことができない」
「目を覚ます? 呼ぶ? ……いったい君は何を呼び出そうとしているんだ」
「レックウザ」
彼女の言葉に、空間が支配された。
レックウザ。何億年もオゾン層の中に生き続けていると言われているポケモンだ。夜空に飛ぶその姿は流星に見えると聞く。
何故その伝説のポケモンの名前を……?
「伝説では、レックウザはグラードンとカイオーガの争いが起きた時に降り立つと言われている。何億年もオゾン層にいるからこそ、自分の住む場所が脅かされる危険性が出てくるからこそ、やってくる」
「カイオーガとグラードンの争いは僕たちが収めたばかりだ。それにその時レックウザは降り立ってこなかったじゃないか」
「降り立ってこなかったのではない。降り立とうと判断する前に解決してしまったのよ。元チャンプであるあなたと、現チャンピオンが」
「つまり君は、カイオーガとグラードンの争いによってホウエンが滅んでも良かったというのか!?」
「世界が救われるなら、安いものよ。メガシンカの無い世界に飛ばす可能性を残している、ブラックホール計画を用いるよりマシ」
ヒガナの言葉は一方的だった。自分の考えていることをただ相手に告げるだけ。それに意見を求めてすらいない。まさに自己中心的な人間だった。
そんな人間と俺は、どうして行動する必要があるのだろうか?
俺はそんなことをふと考えてしまうのであった。