ゴォォォ──……
月がとうに沈んだ夜、淡い紫色の光が空をかける
ほんの一瞬、雲の形が浮き上がる、星々がかすむ、ピジョンブルーの空が現れる
バシャーン パラパラパラパラパラ──
天降石は海へ着水し、光は夜空より深い暗闇に包まれ消えていく
肌寒いこの一夜の光景はほんの一瞬であったが、夜更かしな人々の目に焼き付くには十分だった
きっと、新聞紙やニュース、誰かが愛するオカルト雑誌で取り上げられるだろう
❍
擦られ熱かった体が急に冷まされ全身が縮こまる、何か…水だろうか、徐々に沈んでいく。
宇宙ではそうなかった感覚に困惑を覚える。
どこかの星に落ちたのだろう。
すぐにサイコパワーで周囲の確認をする。
小さな生命体が無数に漂い、離れた所には中から大型の生物がいる。全く動かないものから活発に動き回るものまで。
様々な建物がある。高いもの低いもの。他の星でも見た、ビルや工場といえるものたち。
私にとって危険といえるものは今のところなさそうだ。
黒と白の目を、四角い突起を、先細い足を、二重らせんに絡めた腕を造っていく。
使い慣れた
久方ぶりに感じる重力が、なぜか懐かしい。
陸地へ向かい、ふと目についた看板の文字を見た。
[海にゴミを捨てないでください]
…私はこの文字を知っている。
あぁ、なんという幸運だ。
ここは地球の日本それも現代、私の古い記憶で生きていた星と国と時代。
無い心臓が高鳴る、今までにないほどの喜びと驚きが噴き出す、興奮のあまり
己が魂の、過去の故郷に帰ってこれた。
地球に足をつけて生きていける、諦めていたというのに。
東西南北すらない虚無を生きていた日々には、稀にある墜落とかつての人の記憶に縋りつき、救いとして支えていた今までは無駄ではなかった。
私が生きていた意味はあった!
…落ち着こう。
まず、姿を変えなければ、この姿では宇宙人だとバレる。
記憶を掘り出し、地球人の姿を模倣する。
白目に黒い瞳、丸い耳と鼻、四肢はしなやかに、関節のシワや爪など細かい部位まで。髪は維持しにくい、短めにしよう。
私に性別はない、胸部や喉仏などは造らなくともいいだろう、服で見えない部位は手を抜くことにする。
道路脇のカーブミラーを眺めながら体を確認する。
…ふむ、体色が問題だな。
まず赤と水色の体色をなんとかしないと、まだ宇宙人度60%はある。
色、色か……、色は光の波長だ、光の壁で変えられないだろうか。
体に薄く何枚か重ねればかなり自然な肌を造れた。
拾った服で着飾り手抜き部分を隠せば、完全に人間の外見となった。
「あ、あ、わレワれハ、ウチゅうジんダ。」
声もノイズがかっているが誤魔化せる範囲だ。
念を込めて墜落地点からかなり離れているし、地球人はもちろん宇宙人でも気づくことは出来ないだろう、きっと。
さて、生きていくにはお金が必要だ。
旅で手に入れた"すいせいのかけら"や"でかいきんのたま"などはあるが、売るためのスジもなく経済を壊しそうなので売ることが出来ない。
しかし、私(地球外生命体・戸籍なし)でも受け入れてくれるような職場などあるのだろうか……
ピラリ
うん?
◯
「所長、ピーくん見つケまシた。」
「でかした!!」
私は今、"探偵事務所"で働いている。
[アルバイト・調査員募集!!迷子のペットを探す仕事です!男女経歴不問!髪色、服装自由!ご連絡はこちらまで─]
と書かれた求人を見て、翌朝に住所に行き少々強引気味に採用を取ったのだ。あぁ無論、非暴力である。
何でも、仕事道具でもあった飼い犬が亡くなってしまい、仕事に支障が出てきたため、求人を出したらしい。
ペット探しはサイコパワーが使える私にとって天職である。
「ピィくんは無事見つかりましたよ〜。」
「まシタよ。」
「ありがとうございます!ピィ〜良かったよぉ〜。」
「今回、依頼から経過したのは1日なので21000円ですね。」
普通のペット探しは犬や猫が多いらしいが、この事務所は鳥や爬虫類を専門に、場合によっては昆虫までやるらしい。
犬や猫よりも個人で探すのが難しく、需要が高いのだと教えてもらった。しかし、虫は半年に一回もないくらい少ないそうだ、虫は苦手なので助かった。
「はい、今回のお給料!本当優秀で助かってるよ〜。」
「アリがトうゴザいマす、褒メてモ何も出マせんヨ。」
仕事は楽しくお給料も中々。所長には感謝しかない。
「そういえば今回でアパート資金貯まったんじゃない?」
「はイ、明日カら入居シマす。」
そう、住居が手に入るのだ。
所長のツテでアパートを紹介してもらったのである。
何でも、アパートの住民がとてつもなく不気味な亡くなり方をしたため、住んでいた人が引っ越して新しく入ってくる人もいなくなってしまったらしい。いわゆる事故物件だ。
隣の部屋が事故物件なことをのぞけば、綺麗な部屋だし大家さんも良い人で住みやすそうだった。
明らかにワケアリであろう自分に紹介してくれた所長と受け入れてくれた大家さんには本当頭が上がらない。
入居は明日から、楽しみだ。
⦿
入居審査などが終わった今日、とうとう入居することができる。
大家さんから鍵を受け取り、少ない段ボールを部屋に運び込む。
テーブルを中央に、部屋の隅にタンス、その上に契約した固定電話、クローゼットに白いシャツと黒のズボンをかける。
念願の住居を手に入れた高揚がじわじわと込み上がってくる。
プライベートな空間を手に入れたことで心にも体にも余裕ができてきた、これから味覚の再現を完成させれば、食事の楽しみも得ることができるだろう。
ああしよう、こうしようと考えを巡らせていたら、ふと壁に目が向かった。なぜか意識が吸い寄せられた。
壁に1cmほどだろう、穴が空いていた。
なぜ?
なぜかわからないが、この穴は隣の部屋につながっている、と確信があった。
内見や荷運びの時には確実になかった。
隣の部屋はどうなっているのだろう、変な好奇心が生まれ、自分が自分でなくなっているような感じがした。
なにか嫌な予感がする。
覗きたい。覗かないといけない。覗いてみよう。
第六感が警鐘を鳴らしている!
赤い。まあ当たり前か、穴があったら塞ぐだろう。赤い壁紙というのは珍しいが。
…まて、隣の部屋は"事故物件の部屋"ではなかっただろうか。確か死因は失血死、床はもちろん、天井や壁まで血塗られていたそうだ。今は清掃されて血など無いはずだが…
そんなことをなぜ私は知っている?
そこまで思い出して嫌な妄想が頭を巡る。
すぐに隣の部屋へ向か冷静になれ、めいそう
…………。
………………。
……色々とおかしかったな。
まず、私はこの穴を確実に確認していなかったし、自身の、エスパーの勘に逆らうようなことは基本しない。また、隣の部屋が事故物件だとは聞いているが、死因などの詳細は知らない。サイコパワーで壁程度無視して視れるのにわざわざ外に出る必要はない。ふむ、明らかに異常な思考だったな。
……水晶体に何か実体のない異物がある。きっとこれが先程の原因だろう。とてつもない嫌悪感だ。
もう少し瞑想と…自己暗示を重ねておこう。
rrrnr〜 rrrnr〜
?何だろうか、電話が鳴っている。
まぁ無視で カチャリ …。
「あなたは、赤い部屋が好きですか?」
…は?ひとりでに外れた上、何か訳のわからない言葉を吐いて切れた…。何が起きている?
散々だ。私の部屋は事件の起きた部屋ではないはずだが?
取りあえず、これから仕事だ。事務所へ行こう。
「おハヨうゴザいまス。」
「おはよ〜。新居どうだった?」
「…コレかラが楽しミデす。家具ハ置き終ワリまシた。」
申し訳ないが少し返答に迷った。しかし、悪意があるわけではなかったらしい、酷いことは言いたくなかった。
偶に嘘を吐くが今回のことは本当に知らなかったようだし。
彼らに相談したほうがいいだろうか。
部屋に招いて穴を見てもらったほうがいい気がしてくる。
が、たぶんまずい。穴を覗いたらあの謎思考に誘導されて取り返しのつかないことになるだろう。エスパーの勘はよく当たる。
「でモ、ヤっぱリちょット怖いデス。」
「う〜ん、事故物件だしなぁ。頼れるお祓い紹介しようか?」
お祓い……確かにその手がある。これが事故物件の呪いならばお祓いの力に頼るのはアリだ、紹介してもらおう。
「ウーん、知っテおクだけでモ安心でキそうデす、教えテくダさい。しカし、本当色々ツテあリますネ。」
「"地域密着型探偵"だからね!で、お祓いの人"綾瀬星子"って方でね隣の県の神越市の…」
"アヤセセイコ"…神越市にいるらしい。詳しい住所もメモした、頼らせていただこう。
しかし本当この人の人脈は謎だな、宇宙人でも分からない。というか隣の県は"地域"だろうか…。
お祓いの相場とはどのくらいの値段なのだろう、できるだけ早く行きたい…、場合によっては宇宙旅で集めた物品を使うことになるかもしれない。
「ありガトウございマス、所長。」
「どういたしまして〜。今日の仕事も鳥さん捜索だよ。」
「最近逃げル鳥多いデすネ。」
「何だか焼き鳥が食べたくなってくるね。」
主人公
エスパータイプで地球外生命体な転生者
擬態時の容姿は黒髪黒目ショートヘアでプレッシャーを感じる中性的な顔
だいぶ擦り切れていたが地球に来れた超ハッピーで感情が爆発した
現在進行系で呪われている