赤ゲージにランキング
たくさんのご拝読、誠にありがとうございます!
落ちた先は地獄でした。
ぬめついて気持ちの悪い液体──血液──がまとわりつき、服が肌に張り付く不快な感触、かすかに開けた目に映り込むのは見慣れたドス黒い赤色、不完全な嗅覚でも感じられる吐き気の催す濃い鉄の臭い、聞こえる音は醜くくぐもっており、全身が沸き立つような不快感に襲われる。最悪の気分だ。
全身が血だまりに浸かりどんどんと沈んでいく、その上、上下左右もわからず五感も殆ど役に立たない。
普通の人間ならば絶体絶命の状態だろう。そう、普通の人間ならば。
普通の人間ではない私はサイコパワーで周囲の確認をする。ん?他に生体反応が…
「ごぉ゙、ぐっごぼ、づ」
「ブクブクブク…」
わ゙ーっメガネの少年!溺れてる!救助!!出口出口出口、あった!開かねえ!!壊す!!
開かない扉を無理矢理突き破った。溜まっていた血液と外れた扉とともに体が流され固い床に体が触れる。血にまみれているからだろうか、じっとりとしていて不快だ。
急いでサイコキネシスで少年が飲んでしまった血を引きずり出す。人体は繊細だ、体内を傷つけないよう慎重に。
「うぇ、おぇ、げほっごっごほっごほ、ひゅぅひゅぅ。」
まだ苦しそうではあるが、呼吸は安定しているようだ。
ほっ、と安心しつつ声をかける。
「少年、少年!」
「っは…… 、うわあぁっ!!!」
そんな驚く?
「えっ、あ、あなたは依頼に来た人!うわっなんですかこれ血?!どこですかここ!神社は?綾瀬さん達は?!」
「疑問が多イですネ。一旦落ち着イテくだサい。」
「まさかお前が…!」
「ングェッホゲポ」
あわわ何か容姿変わった、何かヤなかんじがするぞあの姿。誤解されそうでもあるし何とかお話しできないだろうか。
「原因の一ツではアりマすが、主犯デはありマセん。私ニモ分からナイことばカリなノです。」
「……。」
「しカシ、いくツカ確信し分かっテイる事もあリます。聞イてくレマすか?」
「…妙な動きしたらぶっ飛ばすぜ。」
何とか話を聞いてくれそうだ。廊下には外れた扉と招き猫ぐらいしかないし、今の所危険ではなさそうだ。安心して話せる。
「まズ私と君…あのオ嬢サんと綾瀬サんもでしょウ、君達がこんナ病院のようナトコろにいルのは私に憑イテいた呪いによルモのだと思イマす。」
今いるのは長い廊下だ。薄汚れた白い床に壁、天井、並んで置かれた蛍光灯、扉の横には数字…部屋番号があり、壁に低めの手すりが配置されている。
また、廊下の突き当たりには大きな窓があり、奇妙に輝く青空が映っている。窓の外と内の光景があまりにも不釣り合いで気持ちが悪い。
今世で来るのは初めてだが、怪我にしろ病気にしろ、ましてやこんな形で来たくなかった。
「呪わレテいた私はトモかく、無関係の君達がココにいル理由なんデスが、私のセいデす。」
ここに落ちてくる前に見て、確信した。私は泳がされていたと。
「恐ラく私ガ呪いを
「…意図的じゃねえのか?」
「ェ゙ッホゲホッ」
「はい、しカシ少なくとモ君達が巻き込まレ、ここに来テシまった原因は私ノ愚かさと怠慢ガ引き起こしたコトです。
私ガ原因で今、君達マデ危険に晒シテしまッテいる。本当に、すみません。」
少年に深々と頭を下げる。
彼らからしてみればこんな陳腐な謝罪で許せるわけも無かろう。完全なとばっちりを受けているのだから。
今の今までほんの少しも気づけなかった私のせいで、彼らを巻き込んでしまった。
罪悪感と怒りが水晶体の内で煮え立っている。気づけなかった己の未熟さが、ただ祓ってもらうことばかり考えていた怠慢さが、正しく現状を認識できていなかった愚かさが憎たらしい。吐き気がしてくる。胃とか無いけど。
「─ゲホッゴホゴボッゴボッ」
………。謎の咳込む声がする。
呪いによる幻聴かと思ったがどうやら少年にも聞こえているようである。
病院の幽霊か?タチサレ…とか言われても困るぞ。
彼に倣って恐る恐る顔だけ向けてみる。
「あ゙あ゙あ゙ぁ血生臭ぇ!くそ!」
招き猫が四つん這いで叫んでいた。????
「ターボババア!?いたんですか!?」
ターボババアというのか、あの招き猫さん。まぁ少年の知り合いのようなので敵ではなさそうだ。ターボさんは一体なんなんだろう。動く招き猫かぁ。
「付喪神?」
「だぁれが付喪神だボケ!」
違った。
「ターボババアは妖怪です。」
妖怪だった。実在するんだ妖怪って。
というか少年、いつの間に姿戻してたんだ。結局あの変身なんなんだ。
まぁ病院の幽霊じゃなくてよかった。
「おらおらおら!」
「イタタタ。叩かナイでくダさい。」
「うるせぇ!おらおら!」
「…。」
「下ろしやがれ!」
「……あの。」
「?どウしまシたか少年。」
「あれ…窓を見てください。」
「ああん?」
少年に言われるがまま窓を見てみる。廊下の突き当たりの気味悪い青空が見えるあの大きな窓だ。
「あんな黒い…丸?ありませんでしたよね。それに空も…」
ガラス窓の外側。立体感のない黒い丸が張り付いている。
ギラギラとした青色は血腥い夕暮れの赤に変わり果て、ひどく不気味で異質だ。
赤い紙に墨汁を垂らしたような、空に突然ブラックホールができたような、不思議で不可解な光景。
…私には分かってしまう、あの正体が。
「うお!」
「えっうわ!」
何も言わず、少年の手を掴みターボさんを抱え、出てきた403号室に逃げ込んだ。
扉は外れているが、廊下より安全だろう。
「ちょっ突然何ですか!」
「スみまセん。危険を感じタものデ。」
「危険って…あの黒い 「目。」
ゴオ
廊下を青い炎が通り過ぎる。あのまま廊下にいたら黒焦げになるところだった。
「えっ?えっ?」
「アれは黒目です。」
あの悍ましい視線。
間違いなく私を三日間ずっと見ていた《何か》だ。少年に言われて見るまで気づかなかった。
「三日間悩まセテきた視線デす、忘れラれまセんヨ。しかし覗き見トハ、趣味の悪い。」
「すみません、突然色々起こりすぎてて何が何だか…。」
確かに怒涛の展開だった。申し訳ない。
「えっとまとめると、外にいた何かに見つかって焼き殺されそうになったってことですか?」
「はい。」
「ワシの幸運がなきゃ今頃死んでたとこだぜ。感謝しな!」
「どウも助カりまシた。」
「危うく死ぬところだったのに冷静すぎませんか?」
もしも気づかずに廊下を進んでいたら私達は今頃丸焼きになっていただろう。ターボさんが咳き込んだお陰で背後を確認し、少年が外のアレに気がつけた。
ちなみに現在の廊下の様子を見える範囲でお届けすると、大部分が黒焦げで蛍光灯も壊れ、かなり闇を感じる見た目になっている。虚無的で不気味だった廊下が劇的ビフォーアフターされてしまった。
「てかあれ何なんですか?!」
「私を四六時中見テいたヤツでス。」
「正体とか何か分からないんですか?」
「ソの他一切のコトは分かリマせん。」
あっ頭抱えてる。でも私では分からないのだ。私では。
「ターボさんは何かゴ存知ないでしョウか?」
「あん?さっきのはワシにも分からん。一瞬だったからな。」
「さっきの?」
「他に何カ分かルのデすか?」
「まぁな。ワシらをここに連れてきやがったやつは分かったぜ。」
おお!流石お年寄り、ご博識である。
というかここに落としてきたのはあの覗き魔ではないのか。じゃあ何アイツ。
「誰なんですか?連れてきたやつって。」
「教エてくダサい。」
「そんな迫んじゃねぇ。まぁ連れてきやがったのは赤い部屋だろうな。」
赤い部屋?そのまんまな名前をしているな。
「決まった行動に強く執着してる地縛霊の悪霊でな。狙った人間を出血多量で殺すんだぜ。」
幽霊だった。ややこしい名前だ。
「成る程、部屋が血塗レになるカラ赤い部屋。」
「怖!」
「そういうこった。元が地縛霊だからな。ワシや星子にビビって有利なテリトリーに引きずり込んだんだろ、まぁ普通じゃしねえがな。」
言われてみれば、部屋で飛んできた刃物は全部腹部や首を狙っていたような気がする。まぁ私に血液は無いんだが。
というか、もしかしてこの部屋に溜められてた血液って今までの被害者のものなのでは……。
…嫌な想像をしてしまった。
まぁそれはそれとして、引っかかる事がある。
「出血多量で殺シてくるノッて、必ずでスか?」
「ああ。少なくとも殺害予告と殺し方には絶対のこだわりがある。」
「老若男女問わズで変ワリまセんカ?」
「おう。」
「恐怖をあおらないでください!」
ふむ。
おかしい。
「コの部屋デ溺死さセヨうとシたコトと辻褄ガ合いマセんね。」
「…確かに。それに綾瀬さん達と分断されている所も変じゃありませんか?」
リスク分散?
わざわざ有利をとるため、普通ではしないらしい
「…んな見てきても、知らんもんは知らん。」
うむむ。
やっぱりあの覗き魔が何か関わってそうだが…。
…………。
「ていうかそうですよ!綾瀬さん達も危険な目に遭っているかもしれません!」
「もしかしたらもう死んじまってるかもしれねぇぜ。」
「縁起でもないことを言うな!」
「お二方に伝エたイ事が。」
「何ですか?」
「あん?」
「私ハ宇宙人デス。」
誤字報告や感想は助かりすぎて喜びと感謝がだいばくはつしております