鍛冶師志望のTS幼狐 作:黒幼狐
前世の僕の人生は、あまり恵まれたものではなかった。
病気でいつもベッドの上。走ることすらできなくて、ただただ窓の外を眺めながら本を読むだけだった。
けれど、本の中の物語には夢があった。
王のための聖剣。神の力の象徴たる槌。太陽を射落とした英雄の弓や国を生みだした矛。
ページをめくるたびに、胸が熱くなった。
武器はただの道具じゃなく、持ち主と共に戦い、伝説にまでなってしまうのだと。
現実にはあるはずが無いと分かっていても、僕は触れてみたい、手にしてみたいと思っていしまった。
そして僕は、そんな憧れを抱いたまま、その人生を終えたのだった━━
◆ ◆ ◆
そして気がつけば、僕は知らない街の路地裏に転がっていたのだ。
ボロボロの体で、お腹は空っぽだった。
しかもその身体は前世のものでは無くなっていた。
地面に着いた両手は前世の自分よりもなお小さく幼い子供のそれで、腰にはイヌ科のものと思われる黒くて大きなフサフサの尻尾が。管理しやすい様にと短く整えていた髪の毛も、今は肩より長くなっていた。しかも耳の位置が前世とは違う。頭頂部付近に大きな耳がある自覚があった。多分耳も、尻尾や髪と同じ黒色だろう。
━━どうやら僕は、見知らぬ世界で獣人の幼子として生まれ変わってしまったらしい。
生まれ変わりというものが実在し、更には種族や性別まで変わってしまった事にはとても驚いた。
しかしそんな事は、直にどうでもよくなっていった。
僕は保護者のいない浮浪児だったのだ。
僕は生きるために走り回り、眠る場所を探して歩き回り、何度も暴力に晒された。
僕がそれでも生き残れていたのは、獣人という丈夫な種族だったからだろう。
そんな中、僕は耳を澄ませて周りの声を必死で拾った。生き残るために、どんな情報でも惜しかったのだ。
市場の商人が言う「ファミリア」の噂。
酒場で冒険者らが誇らしげに語る「ダンジョン」の話。
街の子供たちが口にする「神様が地上にいる」っていう冗談みたいな事実。
少しずつ分かってきた。
ここ都市の名はオラリオ━━巨大な迷宮を中心にして栄え、神様と人々が共に暮らす街。
冒険者は迷宮に潜って魔物を狩り、そこから得られる資源で人々は武具や薬を作って暮らしているらしい。
……胸が高鳴った。
ここでなら、僕の願いが叶えられるかもしれない。自分の手で「本物の武器」を造る事ができるかもしれない。
そして神様が実在するのだ、ならば神話に語られる武具も実際にあるのかもしれない。それならば━━
しかし夢を見る前には、今のこの状況から抜け出さなくちゃいけない。
今の僕はただの浮浪児でしかないのだから。
どうにかして鍛冶師になる方法を考えなくては……。
そんなギリギリ生を繋いでいたある日、道端にうずくまっていた僕に、誰かが声をかけたのだ。
「お主、道の真ん中で何をしている?」
声の主は、大柄な壮年の男性だった。
片目に眼帯をした、威厳のある雰囲気の彼は、東方の白装束を身に纏い、腰には槌や火箸を身に着けていた。
その存在感で、ただ者じゃないと一目で分かった。
名乗られた名前に、僕の心臓は跳ねた。
━━天目一箇神
それは日本における鍛冶の祖神の名。鍛冶師を目覚め僕にとっては憧れの存在だ。
その瞬間、僕は理解した。
これは偶然なんかじゃない。きっと運命なのだと……!
なんか数年ぶりに文章書きたくなったので。