鍛冶師志望のTS幼狐 作:黒幼狐
あの日から、僕の暮らしは大きく変わった。
道端で倒れていた僕を拾ってくれた神様━━アメノマヒトツ様は、言葉通りに僕をファミリアに迎えてくれたのだ。
そんな僕に最初に言いつけられたのは、先ずは食べること、そして寝ること。
衰弱しきっている身体は酷いもので、立つだけでふらついた。
ファミリアの一員であるスミカさんは、そんな僕にご飯を食べさせてくれながら笑顔で言う。
「焦らなくていいよ。ちゃんと食べて、少しずつ元気になればいいんだから」
「……はいっ」
空っぽのお腹に温かいスープが染み渡って、涙が出そうになる。
その時、僕は強く思ったのだ━━この恩に、必ず報いたいと。
◆ ◆ ◆
体力が戻りはじめた僕を待っていたのは、鍛冶師としての修行だった。
「握れ」
そう言いながら神様が差し出したのは、大きな金槌だった。
「っ……重い……!?」
「慣れぬうちは腕が千切れそうになるだほう。しかし、それでも打たねばならん。鍛冶は力だ。力なき者に良き鋼は打てぬ」
握りしめるにしても大きなそれを持ちながら、僕は僕自身の夢のため、拾ってくれた神様やスミカさんに報いるために、覚悟を決める。
ごうごうと燃え盛る炉の前。熱と汗で視界が霞む。
しかしそれでも、僕は槌を振り下ろし続けた。
カン、カン、カンと弱々しい音。
あまりにも力の無いそれは、鍛冶師として笑われても仕方がないものだった。
しかし何日も何日も続ける内に、音は少しずつ力強くなっていく。
神様に
神様は厳しい。けれどいつだってその目は、僕を見てくれている。
叱ってくれるのも僕に期待してくれている事の裏返しなのだと、むしろ嬉しく思えるのだ。
◆ ◆ ◆
僕が鍛冶師としてなんとか見れる様になってきた頃、神様からある言葉が告げられる。
「カナデ、今日は己のために打て」
「僕のため、ですか?」
「うむ。己が身に合う武器を、自らの力で打ち上げてみせよ。使い手に合わせた武器を打つ、それこそが鍛冶師としての第一歩となるのだ」
胸が高鳴った。
ついに、この時が来たのだ。
僕は炉に火を入れ、鉄を熱し、槌を振り下ろす。
頭の中で何度も描いた、自分だけの武器。
小さな自分の身体に合わせた、軽くて鋭い刃。
━━カンッ! カンッ! カンッ!
かん高い打音とともに、心の奥が強く震える。
前世で憧れた伝説の武具たち。
そんな遥か先へと辿り着くための最初の一歩。
時間を忘れ、僕はただ必死に槌を振り続けた。
やがて━━
舟の中から現れたのは、鈍く光る黒鉄の刀身。刃渡り60cに満たない小さな脇差。
まだ荒削りだけど、間違いなく僕の手で打った刃だった。
「できた……!」
息を切らしながら刀身を見つめる僕に、神様は近付き静かに言った。
「━━子狐丸」
「……え?」
「その刀の名じゃ。お主のような小さき狐が打ち上げた初めての武器だ……ふさわしかろう」
胸に温かいものが広がっていく。
神様に初めて鍛冶師として認めてもらえた気がした。
『子狐丸』━━神様からもらった銘。
これから僕と共に歩んでいく相棒の名前だ。
「ありがとうございます、神様……!」
思わず刃を抱きしめた僕に、神様はほんの少しだけ口元を緩めたのだった。