鍛冶師志望のTS幼狐 作:黒幼狐
2話 初めてのダンジョン
子狐丸を手にしてから数日、僕は決意を固めていた。
━━この刃を本物にするためには、戦いを知らなきゃいけないと。
鍛冶師として真に良い武器を打つには、工房内の修行だけでは足りない。
戦場で実際に使い、刃と共に立ってこそ初めて分かることがあるはずだ。
僕はそう信じて、神様に告げる。
「僕、ダンジョンに行きたいです!」
炉の火を見つめていた神様はしばしのあいだ黙り込んだ。そして片方の眼で、まっすぐに僕を射抜くと口を開いた。
「確かに実戦を知ってこそ。その心は鍛冶師に必要なものだろう」
「それって……!」
「行け。ただし、命を軽んずるな。刃を軽んずるな。己を鍛える場と心得よ」
「はいっ!」
胸が震えた。
神様は心配している。だけど、信じてくれている。
その想いが嬉しくて、僕は子狐丸を握りしめた。
◆ ◆ ◆
オラリオの中心にそびえる巨大な石造りの塔━━バベル。
その地下に広がるのが、
入口に立ち、僕はごくりと唾を飲み込んだ。
この世界に来てから何度も耳にしてきた。
迷宮は生きている。そこは常に死と隣り合わせの世界だと。
日本にいた頃の僕には、そんな場所は想像もできなかった。
病院のベッドで本を読み、静かに日々を過ごすだけの世界。
平和の中で育った僕にとって『誰かに殺されるかもしれない』なんて実感は遠いものだった。
けれど、これから足を踏み入れる場所ではそれが当たり前の現実となる。
背筋が冷たくなった。
逃げたい。怖い。
それでも、心の奥底から囁く声があった。
━━もしここで逃げたら、一生武器の事を理解できずに終わるんじゃないか?
僕はその声を肯定する。
僕は刃を打ちたい、伝説に並ぶ武具を造りたい。
そのために、この恐怖に立ち向かわなきゃならない!
しかし恐怖と同時に、ワクワクしてしまっている自分もいた。
まるで、物語に謳われる登場人物になったみたいで。
「行こう、子狐丸……!」
小さく呟いて、僕は一歩を踏み出したのだ━━
◆ ◆ ◆
青白く光る石の壁、湿った空気、耳に届く不気味な風鳴り。足音が響くたびに背筋が強張る
(ここが迷宮……)
そうし恐る恐る進んでいると、闇の中から小柄な影が現れたのだ。
僕よりも少し小さな薄汚れた身体、醜悪な顔、どこで拾ったのか錆びた短剣を持っている━━ゴブリンだ。
(あれが本物のゴブリンか……!?)
ぎらついた目が僕を捉えた瞬間、身が竦んだ。
初めてモンスターを見たという恐怖と緊張、それと興奮によって、僕はわけもわからず口を開いていた。
「えっと……こんにちは……?」
当然、返事なんて返ってこない。
返ってきたのは牙と殺意だった。
「うわっ!? なんで!? いきなり来るの!?」
振り下ろされる短剣を見て、僕は咄嗟に子狐丸を抜いた。
━━ギンッ!
火花が散った。
衝撃が腕を走り、背筋に冷たい汗が流れる。
(怖い……死にたくない……!)
心臓が破裂しそうなほど暴れ、視界が狭まる。呼吸は浅く早くなっていく。
それでも、刃を手放すわけにはいかなかった。
(ここで逃げたら、僕は一生『鍛冶師』にはなれない!)
怖かった、逃げたかった。だけど僕は、自らの意思で戦う事を選択する。
冒険者として、そして何より鍛冶師として……!
「はあああっ!!」
僕は叫んだ。
恐怖を吐き出すように、刃を振るう。
━━ザンッ!
浅い傷━━けれど確かにゴブリンの皮膚を斬り裂いたのだ。
しかし、浅い。
腰の引けた僕の斬撃では、まるで威力が足りていなかった。
「……まだだ……!」
何度も短剣と打ち合い、傷を負う。
腕が痛い、傷が痛い、まるで酸素が足りない。
それでも僕は我武者羅に刃を振るった。
そしてどうにかゴブリンを斬り伏せた瞬間、僕は膝から崩れ落ちたのだ。
「はぁ……はぁ……っ!」
塵になっていくゴブリンを見て、ようやく僕は実感したのだ━━生き延びたという事を。
死と隣り合わせの恐怖をくぐり抜け、僕はここにいる。
恐ろしかった、心の底から震えた。
でも同時に……胸の奥が熱くてたまらなかった。僕の中に何かの熱が確かに宿ったのだ。
(これが……戦うってことなんだ……)
怖いけど、恐ろしいけど、でもちょっとだけ、楽しい。
もっと知りたいと思った……この世界の事を、戦いの事を。
鍛冶師として武器を打つなら、この恐怖を知らなきゃならない。
僕はその事を確かに刻み込む。
初めての血。
初めての勝利。
そして━━子狐丸と共に歩み始める僕の、最初の一歩だった。
◆ ◆ ◆
工房の扉を押し開けた時、炉の前に立つ神様がこちらを振り返った。
「……帰ったか」
その声音は低く、静かだった。
けれど一瞬、片眼がわずかに見開かれたのを僕は見た。
きっとボロボロの僕の姿に驚いたのだろう。
けれど僕は、口元を緩めた。
頬には血と汗がこびりついている。
それでも、笑った。
「ただいま、神様」
やりきったんだ。
恐怖に押し潰されそうになって、それでも刃を振るって、ちゃんとここに帰ってきたんだ。
その実感が胸の奥からあふれて、自然と笑顔になっていた。
神様はしばらく僕を見つめていたが、やがてほんの少し口の端を緩めた。
「……よく帰った、カナデ」
その一言に、胸が熱くなる。
僕は深く頭を下げ、全身の力を抜いたのだった。
◆ ◆ ◆
その夜、傷の手当てを終えた僕は、神様にお願いをした。
「神様、ステイタスの更新をお願いします」
神様は静かに頷き、僕の背中に触れた。
━━硬い。
ごつごつとした指先が、僕の華奢な背をなぞる。
炉の前に立ち続けてきた神様の、厚く鍛えられた手。
それに比べて、僕の背中はあまりに細く、弱々しい。
けれど、だからこそ、その指が刻んでくれる力の重みを実感できた。
「……ふむ。カナデよ、目を通してみるがよい」
差し出された紙を見た瞬間、僕は息をのんだ。
━━スキル【
効果:自作武具を装備している時、その扱いと全ての能力値に高補正
「……これって……!」
胸が熱くなった。
僕が僕であるための力。鍛冶と魂を一つにして、共に成長していくための力。
僕は子狐丸を抱きしめる。
「これから一緒に強くなろう、子狐丸」
神様は僕の様子を黙って見ていた。
けれどその表情は、ほんの少しだけ柔らかかった。
◆ ◆ ◆
こうして僕は、初めてダンジョンに挑み、新たな力を得た。
まだまだ小さな一歩だ、だけど確かな、力強い一歩。
━━数々の伝説に並ぶための旅路が、ここから始まるんだ……!
カナデ
Lv.1
力 H121 → H143
耐久 H103 → H120
器用 I92 → H105
敏捷 I65 → H136
魔力 I0 → I0
《魔法》
《スキル》
【
・自作武具装備中に自動発動
・効果中、その武器の扱い及び全能力に対して高補正
カナデは過酷な鍛冶場で槌を振るい続けたため、ダンジョンに入る前でも多少ステイタスが伸びてたりします。
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