鍛冶師志望のTS幼狐 作:黒幼狐
翌朝、目を覚ますと体中が筋肉痛で悲鳴を上げていた。
布団の中で呻きながら、僕は苦笑する。
(昨日は、本当に必死だったな……)
けれど、不思議と嫌じゃなかった。
痛みは戦った証拠で、今の僕を確かに強くしているのだ。
子狐丸を握ると、胸の奥が熱くなる。
僕のスキル【鍛魂一如】━━自分で打った武具を身に着けているとき、その全てが力に変わる。
早く試してみたい。
昨日よりも、もっと深くダンジョンに潜ってみたい……!
そうしてやってきた迷宮の第一階層。
昨日は恐怖に押し潰されそうだったが、今日は違った。
ゴブリンが飛びかかってきても、身体が自然に動いてくれる。
相手の注意の薄い場所へと刃筋が自然に導かれ、刃を振るう度に敵が次々と倒れていった。
「……すごい!」
まるで僕と子狐丸がひとつになったみたいだ。
刃が手の延長になり、戦うたびに感覚が研ぎ澄まされていく。
恐怖はまだ消えてはいない。
でも昨日よりも確かに強くなった自分がいた。
◆ ◆ ◆
冒険から戻った僕は、鍛冶場で子狐丸の手入れをして汗をかいた後、すぐに風呂場へと飛び込んだ。
ガシガシと髪や尻尾を洗い、湯船でざっと温まってからタオルで拭いて終了。最初は異性の身体という事もあって色々と手間取ったのだけれど、今ではすっかり慣れたものだ。
そのまま部屋へと戻ろうとした、その時だった。
「こらカナデ! また髪と尻尾、ほったらかしにしてるでしょ!?」
「ッ!?」
振り向けば、腰に手を当てたスミカさん━━改めて紹介するが、彼女は二十代半ばくらいのヒューマンの女性で、とても面倒見がいいのだ━━が仁王立ちしていた。
彼女はファミリアに入った僕の世話を、ずっと焼いてくれていた。今の僕にとっては年の離れた姉か母親みたいな存在だった。
「え? ほとんど乾いてるし、このままでも━━」
「ダメに決まってるでしょ!」
有無を言わせず首根っこを掴まれ、部屋の隅の椅子へと連行される。そのままスミカさんの膝にぽすんと座らされてしまった。
「ちょ、ちょっと!? 僕、もう子供じゃないんですけど!?」
「はいはい、暴れないの。漆黒の髪も尻尾もこんなに綺麗なんだから……ちゃんと梳かさないとダメよ?」
「えー……」
「えーじゃないの」
そう、この身体になって一番困ったのは、性別のこと以上に毛並みの手入れだった。
正直、面倒臭い。ぶっちゃけサボりたい。しかしサボれば、こうしてスミカさんに捕獲されてしまうのだ。
(まぁ、スミカさんの言い分も分からなくはないんだけどさ……)
櫛が髪を通るたび、月明かりを受けた黒髪が黒曜石みたいに艶やかに光る。
見てる分には悪くない。だが、それが自分の髪だから問題なのだ。
尻尾に至ってはもっと厄介だ。梳かされるたびにふわりと膨らみ、スミカさんの指が気持ちよさそうに沈んでいく。
「わぁ……やっぱりいい毛並みだわぁ……! カナデ、尻尾は宝物なんだからちゃんと手入れしないと!」
(……もしかしなくても、スミカさんは僕じゃなくて尻尾目当てなんじゃ?)
「くすぐったいよ……それに尻尾は武器じゃないし」
「武器じゃなくても大事なの! ほら、この黄金の瞳と漆黒の髪、それに尻尾。女の子らしくしてれば、もっともっと可愛く見えるんだから」
個人的に可愛さとは無縁でいたいのだけれど……。
「ぼ、僕は別に……気にしてないし」
「気にしなさい。女の子なんだから」
むむ、と言葉に詰まってしまう。僕は自分を男だと思っている。けれど、この身体が女の子なのは紛れもない事実なのだ。
だからこそスミカさんに「女の子扱い」されると、妙にくすぐったくて落ち着かない。
「ほんとアンタは。そんな調子じゃいつまで経っても子どもっぽいまんまよ。まるで男の子みたいなんだから」
「…………」
……否定できなかった。
「んー、やっぱりいいわね、カナデの尻尾。触り心地最高よ!」
「ちょ、そんなに撫で回さないでよ!」
「ふふ、こうしてるとなんだか私まで癒されるのよねー……」
というか触り方おかしくないかな?なんかゾワゾワするんですけど……!?
「わ、わぁぁっ! 顔をうずめないでぇぇ!」
結局僕は、毛皮が完全にふわふわになるまで解放してもらえなかったのだった……。
━━まぁ、ちょっとだけ気持ちよかったのは内緒だけどね。
今更ですが主人公の見た目は十代前半の少女で、黄金の瞳と漆黒の髪と毛皮を持つ狐人です。