鍛冶師志望のTS幼狐   作:黒幼狐

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7話 幼狐の恩返し

 

 

再びダンジョンを訪れた僕の頭上に、紫の羽を震わせるモンスター━━パープル・モスが現れる。

 

高く、狡猾に。毒の鱗粉を撒き散らしながら、決して地上に降りようとはしない。

 

「前回は手も足も出なかったけど、今回は違う」

 

腰や懐、袖口なんかにに忍ばせてある細身の鉄棒。自分の手で打ち上げ、研ぎ、重心を工夫した棒手裏剣だ。

 

 

僕は息を整え、狙いをつけた。そして━━

 

「……いけ!」

 

空を裂いて真っ直ぐ飛んだそれは、狙い違わずパープル・モスの胴を貫いたのだ。

 

呻くような悲鳴を上げたモンスターが力無く墜落する。

 

その姿を見て、前回の悔しさが一瞬で晴れていった。

僕は残った魔石と棒手裏剣を拾いながら、思わず小さく笑ってしまう。

 

「ふふ……これで僕に届かない相手はいなくなった」

 

 

僕は、強くなっている。

今この瞬間、確かに僕は胸を張れる。ちゃんと成長しているのだと。

 

 

 

 

 

棒手裏剣の効果を確かめ、地上に戻ってきた僕は、ふとある事が頭を過ぎった。

 

━━最近、神様やみんなに心配をかけ過ぎていないかな? という考えが。

 

 

 

「というわけでスミカさん。日頃の感謝を込めてみんなに何かしてあげたいんですけど、何かないですか?」

「唐突ね……でもそれなら料理がよさそうね。今日の夕飯の準備を一緒にやりましょう」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

僕は調理台の上に置かれた銀色の魚をじっと見つめていた。

戦場なら相手を睨み返すところだけど、魚はもちろん何の反応返さない。ただ光りを失った目でこちらを見るだけだ。……なんだかちょっと怖い。

 

僕の今回の担当はメインのおかずである焼き魚だ。他はスミカさんが何とかしてくれるらしい。

前世も含めて料理の経験は無いが、スミカさんは簡単だと言うし何とかなるだろう。

 

 

「カナデ、まずはこの魚の内臓を抜くんだ。腹を開いて、中を取り出して洗えばいい」

 

スミカさんが隣で他の具材を切りながらこちらに指示を出す。

だけど僕の頭の中には「???」しか浮かんでこない。簡単そうに言うけれど……内臓? 腹を開く? 僕、そういう経験はゼロなんだけど。

 

とりあえず包丁を握りしめる。武器としては馴染みがある刃物だけど、魚を斬る事は初めてだ。

 

「えっと……とりあえず首から……」

 

いつもの感覚で刃を振り下ろそうとした瞬間━━

 

「まったぁぁぁっ!?」

 

耳を劈く声が飛んできて、手首をがしっと掴まれた。

 

「あなた魚を処刑する気!? 腹よ! 腹を切るのよ!」

 

スミカさんの真剣な剣幕に、思わず背筋が伸びる。処刑……確かに、今の動きは首を狙っていた。

 

「戦いでは首を落とすのが一番早いので……」

「料理は戦いじゃない!」

 

きっぱりと言い切られて、僕は思わずしゅんと肩を落とした。

 

仕方なくスミカさんが魚を手に取り、包丁で腹をすっとなぞって見せた。

 

「こう浅く、丁寧によ」

 

僕はごくりと唾を飲み込み、真似をして腹を開く。思った以上に柔らかくて、刃がすっと入っていった。

そこから……赤黒い内臓が見えてきて、思わず顔をしかめる。

 

「う……モンスターよりグロいかも……」

「慣れなさい、これも料理の一環よ」

 

スミカさんが笑いながらそう言う。

僕は恐る恐る手を突っ込んで、言われた通り内臓を取り出す。ぐにゃっとした感触に、背筋がぞわっとしたけど……なんとかできた。

 

「うん、その調子。初めてにしては上出来よ」

「……戦いより難しいかも」

 

思わず漏れた僕の本音に、スミカさんは「ふふっ」と可笑しそうに笑った。

 

 

 

下処理を終えて、次は焼きの工程に移だ。

 

「じゃあ、火を起こして網の上に置いてね。コツは強火の遠火で焼く事よ、わかる?」

「……えっと、何となく?」

「ホントに解ってるのかしら……」

 

 

僕は言われた通りに火を調整する。

火を使うのは得意だ。いつも鍛冶で火床を調整してるからね。

 

言われた通りに火を強くしていく。ふいごが無いので少し弱いが、このサイズの竈であればこんなもんだろう。

 

魚は火に飲まれて良い感じに焼けていっている。

 

「うわああ!? 火、強すぎってば!」

「あれ? 違ったかな?」

 

そう思っていたのだが、何故かスミカさんが慌てて火加減を調整しにきた。強火が必要なのでは?

 

 

 

 

 

その後も色々あったが、ようやく終わりが見えてきた。

 

━━料理って大変なんだな……。

 

それでも、なんとか魚は焼きあがった。見た目は片面がちょっと黒いし、形もいびつだけど……食べられないほどじゃないはずだ。

 

 

神様とスミカさん、それにファミリアのみんなで食卓を囲む。僕が焼いた魚はみんなの前に並べられていく。

正直、不安で仕方がない。

 

「「いただきます」」

 

神様の号令に合わせて皆が思い思いに箸を伸ばしていく。

僕はそれをドキドキしながら見守った。

 

神様はもぐもぐと咀嚼してから呟いた。

 

「見た目はともかく、味は悪くないな。何より、お前の気持ちはちゃんと伝わったぞ」

 

その言葉に胸がじんわり温かくなる。

 

「次も一緒に作ろうね」

 

スミカさんが笑いながらそう言ってくれる。

僕は思わず、ぱたぱたと尻尾を揺らしてしまった。

 

「……戦うだけじゃなくても、僕はみんなを支えられるんですね」

 

小さくつぶやくと、神様が穏やかな目で僕を見て頷いた。

 

「料理でも鍛冶でも、どんな形であれ、お主の努力は無駄にはならん」

 

 

その言葉に胸が熱くなる。僕は拳を握り、次こそもっと上手にやろうと、そう心に誓ったのだった……。

 

 

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