三日月は流離う   作:がんめんきょうき

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これだけ更新期間空けといて、この程度とは…。
全く…罪深いな(このフレーズが気に入った)










あと総合評価が5000を越えました。
お気に入り登録及び評価をして下さった方々、有難う御座います。



追記

少し修正しました。
まあツッコまれるだろうなとは思ってた部分なので、しょうがないね。
多分昔200トンの水を圧縮した水の剣で戦う奴を見た影響かな?


第四十五話 その他諸々と、白雪と強欲と…

 突如として身体全体に響き渡った激痛。それにガンテンバインは叩き起こされた。

 肺に溜まった空気を咳と共に吐き出すと、その瞼を開く。

 視界に映るのは、天井や壁の殆どが崩壊し、瓦礫塗れとなった遊撃の間の無残な光景。

 

 泰虎とあれだけの戦いを繰り広げたのだ。当然の結果である。

 だがそれ以前に疑問があった。

 

 

「俺…何で生きてんだ?」

 

 

 最後に泰虎が放った“魔人の一撃”。

 全身全霊を込めた“龍哮拳”を消し去ったそれは、勢いをそのままにガンテンバインを打ち抜いた。

 文字通り全てを出し切ったタイミングで、その恐るべき威力を誇る一撃を受けたのだ。普通に考えれば即死している。

 寧ろ全身が粉々にならなかっただけ良かったと思うべきなのかもしれない。

 

 

「命まで奪う気は無かった、それだけだ」

 

「ッ!! 茶渡泰虎!?」

 

 

 突如として聞こえて来た、ガンテンバインの呟きに答える声。

 その方向へ振り向くと、其処には既に立ち去ったと思っていた泰虎が座り込んでいた。

 

 今の彼は上半身裸で、何処に隠し持っていたのか、包帯を傷口に巻く等の治療を行っている。

 思い返してみると、如何に勝利したとは言え、それまでに泰虎の負った怪我は相当だ。

 最低でも止血程度は行わなければ、この先の戦いで持たないと判断したのだろう。

 

 だがそれでも腑に落ちない点もある。

 ガンテンバインは問い掛けた。

 

 

「こんな事をして、てめえに何の得がある?」

 

 

 そう、泰虎にはガンテンバインを生かす義理は無い筈なのだ。

 ―――情けでも掛けたのだろうか。

 ガンテンバインは憤りを覚えた。もしそうであるのなら、この上無い屈辱だと。

 自分はあのまま死んでいても悔いは無かった。そう考える程に、あの戦いの結果に満足していたのだから。

 

 敗者が何を言っていると思うかもしれない。だが一介の武人としては、如何しても泰虎の選択に異を唱えたかった。

 もし納得の行く答えが無ければ、自らこの命を絶ってくれよう。そう考える程に。

 

 

「俺がこの力を完全にモノにするきっかけを作ってくれた、その礼だな」

 

 

 それに―――と、泰虎は其処で一旦言葉を区切った。

 同時に包帯を巻いていたその手が止まる。恐らく一通りの治療が済んだのだろう。

 泰虎は近くに脱ぎ捨てて置いたシャツを手に取り、袖を通す。

 そしてゆっくり立ち上がると、ガンテンバインへ振り向いた。

 

 

「何よりお前は、ここで死なせるには惜しい男だ。傷が癒えた後、もう一度戦いたいと思える程に」

 

 

 フッ、と泰虎はニヒルな笑みを浮かべた。

 暫しの間呆然としていたガンテンバインだったが、やがて苦笑を浮かべた。

 それは情けから来る選択で無かった事に対する安堵でもあり、好敵手認定を受けた事による嬉しさ。

 

 

「…バカヤロウが」

 

 

 人間と破面。存在レベルで相容れぬ関係でありながら、一個人として接する。

 それがどれ程愚かな行動か、十分に理解しているだろうに。

 だが―――存外悪く無い気分だった。

 

 

「それに…井上の居場所も聞きたかったし、な」

 

「おい、それが本音だろ」

 

 

 泰虎はやや顔を背けると、小声で呟いた。

 ―――さっきまでの感動を返せ。

 だがガンテンバインにはしっかり聞こえており、即座に内心で抗議しながらツッコみを入れた。

 

 正確には半々といった所なのだろう。どちらにせよ台無しなのに変わりは無いが。

 泰虎はバツが悪そうに、後頭部を掻いた。

 

 

「…ま、所詮コッチは負けた身だ。何でも聞きやがれ」

 

「済まない」

 

 

 色々と思う所はあるが、取り敢えずガンテンバインは開き直る事にした。

 その様子に思わず泰虎は謝罪する。

 

 

「で、“崩姫(プリンセッサ)”―――井上織姫の居場所だったか」

 

 

 虚夜宮内での呼称を口に出すが、それは此方側しか知らないのだと気付き、言い直す。

 だが実際、殆どの破面達は織姫の事を人間としか呼ばない。やはり本能的に見下しているのだろう。会合等の正式な場ではその限りでは無いのだが。

 

 

「すぐ判ると思うが…虚夜宮の中心寄りに天蓋を超える高さの宮がある。そこが井上織姫の住居だ」

 

「…ならここから外に出て、真っ直ぐ向かった方が近いか」

 

 

 泰虎は先程までの戦闘で崩壊した壁、その先に見える光景を眺めながら言う。

 建物の中にしては妙に明るい。人工的な照明では無い、まるで太陽の光が差しているかを思わせる程に。

 

 

「それは止めとけ」

 

「…何故だ?」

 

 

 その場から立ち上がり、其処へ足先を向けた瞬間だった。

 一息遅れで、ガンテンバインから制止の声が掛かる。

 

 

「ここは敵地だぜ。開けた場所に、それも一人で出る。それがどういった意味を持つか…解らねえとは言わせねえぞ?」

 

 

 泰虎は頭を横合いからガツンと殴られる様な錯覚を覚えた。

 確かにその通りである。

 見渡しの良い広い場所に出るという事は、即ち敵にとっても同様。寧ろ場合によっては此方の方が不利だ。

 

 先程僅かに見えた程度だが、虚夜宮の内部に幾つか点在している建物は皆高層。

 その上に立って下を見下ろせば如何なるか。取り敢えず下から見上げるのとは比較にならない程、その監視範囲は広いだろう。

 自分は此処にいます、どうぞ狙ってくださいと言っている様なものだ。

 

 

「そこの出口を真っ直ぐ行くと、途中で宮と宮を繋ぐ橋がいくつかある場所に出る。適当に経路を探しながら移動してりゃあ、いずれは着く筈だ」

 

「そうか、礼を言う」

 

「ま、精々死なねえ様に気を付けるこった」

 

 

 説明を終えると、ガンテンバインは背中を壁に預けて脱力する。

 彼は未だ完全に動けるまで回復していない。

 敗北した今、如何いった処分を下されるのか気になる所だが、一先ず後回しにした。

 ―――成る様に成る。

 その様に考えながら。

 

 実を言うと、ガンテンバインが説明した織姫の居場所までのルートだが―――誤りがあった。

 確かに通常であればその通りに行き着く筈なのだが、今は状況が異なる。

 3ケタの巣のある一定範囲に存在する通路、その全てが第三者の手によって本来とは別の形へ変えられていたのだ。

 だがガンテンバインはそれを知らない。

 ―――これがあの様な結末を齎す事になるとは誰が想像出来ただろう。

 

 

「幸運を祈る、ガンテンバイン・モスケーダ」

 

 

 そう言い残すと、泰虎は踵を返した。

 目指すは先程説明を受けた通り、遊撃の間の出口。

 その足取りは軽い。応急処置したにしても、あれだけの怪我を負いながらこうも動けるとは、相変わらずのタフネスだった。

 

 徐々にその背中が遠退いて行く。

 その時、ふとガンテンバインが口を開いた。

 

 

「待て」

 

「…何だ?」

 

「少し言いそびれてた」

 

 

 泰虎は一旦足を止め、振り返る。

 其処には真剣な面持ちをしたガンテンバインが居た。

 

 

「理解してるとは思うが、道中で十刃に出くわしたら真っ先に逃げろ。それが1から4番の上位組なら尚更だ。まともに()り合おうと考えるな」

 

「それは…」

 

「てめえは確かに強え。でもな…奴等はその遥か上をいく。文字通り次元が違うんだよ」

 

 

 その言葉に、泰虎は迷った。

 確かにある程度の実力はあると自負しているが、

 喜助のアドバイスの通り、撤退も視野にいれていた。幸いにも、真の力に目覚めた今の泰虎には咄嗟に逃げ出せるだけの反応速度はあるのだから。

 

 だが相手の実力が高ければ高い程、逃走が成功する可能性は低くなる。

 避けられない場合は戦うしか選択肢は無い。

 

 

「そして―――“あいつ”とだけは絶対に戦うな。どう足掻いても勝ち目は無え」

 

「あいつ?」

 

「ああ…階級だけ見りゃど真ん中だが、実際は詐欺も良いとこだ」

 

 

 妙に実感が籠った声で、ガンテンバインはその名を口にした。

 

 

「覚えとけ。その名は―――」

 

 

 ―――とは言え、頭を下げて懇願した上で逃走すれば、見逃してくれるかもしれないが。

 “あいつ”の性格を知るガンテンバインは、密かに内心でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノイトラは変わらず得物を担いだ体勢で、葬討部隊の前に立ち塞がっていた。

 言い逃れは許さないと言わんばかりに、彼の左目から放たれる威圧感。

 先程ぶつけられた霊圧の影響で全身が弛緩していたルドボーンには、顔を逸らす事すら叶わなかった。

 

 

「そ…それは…」

 

「答えられねぇ、と。この第5十刃でもある俺にもか?」

 

「ぐ…」

 

 

 口籠っていると、更に追及。しかも立場を持ち出されると来た。

 流石にルドボーンも迷った。この場は答えるべき―――否、答えねば危うい状況だろうと。

 

 基本的に葬討部隊に命令したり、自由に動かせるのは十刃である。

 だが今回の様な緊急時ともなると、葬討部隊を動かせるのは藍染のみに限定される。そういう決まりとなっているのだ。

 

 真実を言ってしまうと、自分達に指示を出した“あの方”は十刃であり、藍染では無い。この時点で既にアウト。重大な規則違反だ。

 しかも階級は眼前のノイトラよりも下である。如何考えても素直に白状する事が懸命だろう。

 

 だがそれでも尚ルドボーンは言い出せなかった。

 恐ろしいのだ。この件の首謀者たる“あの方”の考えが。

 例え此処で全てを曝け出したとして如何なる。実はそれも想定の範囲内であり、独断行動に対する罰が藍染から下されるよりも早く、自分達を始末する手筈を整えているのではないか。

 または知らぬ内に、命令の事をバラした瞬間自爆する等といった仕掛けを身体に施されてしるかもしれない。

 

 

「ま、どうせアイツに命令されたんだろ。内容は敗者の回収と侵入者の追撃ってトコか」

 

「…は?」

 

「ザエルアポロのヤロウによ」

 

「ッ!?」

 

 

 ルドボーンは仮面の内側で瞠目した。

 何故ノイトラがその事を知って居るのか。バレる要素は何処にも無かった筈だと。

 

 ハッタリをかました訳では無いのは明白。その声と態度からは確固たる自信が見て取れる。

 その様子に、ルドボーンは底知れぬ恐怖を感じた。

 

 

「な、何故…」

 

「臭うんだよ。アイツが何時も撒き散らしてる―――ジメジメした陰湿で気色悪ぃソレがな。テメェ等にもその臭いがこびり付いてんぜ?」

 

 

 ノイトラは不敵な笑みを浮かべる。

 其処で言葉を一旦区切ると、直後にその表情を引き締めながら言う。

 

 

「それに―――藍染サマだったら、こんなセコい真似なんざする訳が無ぇ」

 

 

 ノイトラの言葉を聞き、ルドボーンは思考する。

 確かにそうだ。藍染は全てが別次元。強さも、頭脳も、カリスマも、上位十刃と比べる事すら烏滸がましい程に。

 如何なる危機的状況に陥ろうとも、あの静かな笑みを一切崩す事無く、堂々と玉座に腰掛けて情勢を眺めていそうだ。

 

 

「つー訳で、今直ぐ引くってんなら見逃してやる。藍染サマへの報告もな」

 

「…う…く…」

 

 

 譲歩案を告げるも、素直に首を縦に振ろうとしないルドボーンに、ノイトラは首を傾げた。

 だが即座に納得する。

 あのザエルアポロだ。命令を忠実にこなさなかった部下に対し、何をするかなど容易に想像が付く。

 若しくは保険と表して、悪趣味な仕掛けを施している可能性も否めない。

 

 嘗て瀞霊廷へ侵入した雨竜と織姫の二名を仕留める為、マユリが平隊士数名を爆弾として使い捨てた様に、マッドサイエンティストという存在は命を命と思わない行動をする。

 それを理解しているからこそ、ルドボーンは迷っているのだろう。

 

 

「安心しろ。俺に止められたって言やあ、流石のアイツでも無茶振りはしねぇだろ」

 

 

 直後、ルドボーンは俯き加減となっていた顔を持ち上げる。

 その瞳には光が宿り、何か期待が籠った色をしていた。

 

 言葉通りに取れば、ノイトラはこう言っているに等しい。

 ―――困ったら自分の名前を出せ。

 下手するとザエルアポロと敵対する可能性も低くは無い。にも拘わらず、ノイトラは平然とそう言い放った。

 決してそうはならないという確信でもあるのか。それともザエルアポロ程度軽く捻られるという、自身の実力への絶対的な信頼故か。

 

 

「もしそれでも何かされそうだってんなら……部下の一人でも俺に寄越すなりして教えろ。口添え程度はしてやるさ」

 

 

 ルドボーンに電流が走った。

 何と言う寛大さか。ハイエナやら死体漁りといった蔑称を囁かれても致し方無い様な自分達に対し、これ程までの気遣いをしてくれるとは。

 

 

「何故、そこまで…」

 

「虚夜宮の中で、葬討部隊の肩書を背負える奴は殆ど居ねぇ。俺はそう考えてる」

 

 

 古今東西、所謂汚れ役という仕事が出来る者はかなり限定される。

 自らの意思を押し殺し、それで且つ正気を失う事無く任務を忠実に熟し続けられる強靭な精神。

 組織のトップ以外、周囲からの理解はほぼ皆無。常に得体の知れない存在として弾かれ、蔑まれても動じない胆力。

 そしてそんな自身の仕事に誇りを持ち、組織のトップへ対する絶対的な忠誠心。

 

 思い返して見れば、さり気にルドボーンはその全てを満たしている。以前それに気付いたノイトラは少し彼の事を尊敬した。

 その上で十刃に次いで高い立場でもあると自負しているのか、下々の者達に何を思われ様が知った事かと言わんばかりに、徹底的に傲慢に振舞える余裕もある。

 好きにはなれないが、その在り方は認めるに相応しい。それがノイトラの考えだった。

 

 

「いくら命令されたっつっても、今のテメェは間違った事をした。でもそれだけだろ。次から改めりゃ良いんだよ」

 

 

 故に殺さずに見逃す。その後も立場が悪くならぬ様にフォローはする。

 ―――何故ならお前は必要な存在なのだから。

 ノイトラは遠回しにそう言っているのだ。

 

 ルドボーンの全身が震え始める。

 怒りや怯えでは無い。感極まる余り、暴走寸前となった己の感情を抑えている為だ。

 何時以来だろう。自身の事を認める様な事を言われたのは。

 有象無象の破面に言われたのとは訳が違う。相手は十刃、しかもあのノイトラ・ジルガにだ。

 

 ザエルアポロからの情報では、変わったと言う噂は偽りで、中身は獣のままらしい。

 だが現実は如何だ。これが演技とは誰が思うか。

 もし話の通りであれば、立場が下の自分達に譲歩する様な態度を取れる訳が無い。

 次の瞬間、ルドボーンのその考えは確信へと変わった。

 

 

「頑張んな、ルドボーン・チェルート」

 

 

 そう言い残し、ノイトラは3ケタの巣の中へと立ち去って行く。

 霊圧にアテられた名残をものともせず、ルドボーンはすっと立ち上がる。

 そしてその背中に向けて、敬意を表す様に、右腕を胸に当てながら頭を垂れた。

 やがてノイトラの姿が完全に消えた後、懐から何かを取り出すと、耳に当てる。

 

 

「…申し訳ありません、ザエルアポロ様。想定外の事態により、任務遂行は不可能となりました」

 

『へえ? キミが其処まで言うとは…一体何があったんだい?』

 

 

 それは通信機と同様の働きをする、通信用霊蟲だった。

 出発の事前にザエルアポロから渡されていたものである。

 使用するにはまずその長い腹部を耳に差し込む必要があり、その際に尋常ならざる不快感があるのだが、ルドボーンは我慢した。

 

 

「3ケタの巣の入口周辺に、ノイトラ・ジルガ様が居られまして。止むを得ず…」

 

『…あの獣が。やってくれる』

 

 

 通信機越しに聞こえる舌打ち。

 ルドボーンは何故かその様子に愉悦を感じた。

 

 

『まあ良いさ。直に奴は何も出来無くなる』

 

「は、それはどういった―――?」

 

 

 明らかに不機嫌そうではあったが、それは僅かな間のみ。

 途端にザエルアポロの声は嬉々としたものへと豹変した。

 

 その発言内容に、思わず疑問の声を上げるルドボーン。

 だがそれに対する返答は無かった。

 

 場所は変わり、とある虚夜宮内の通路の一部。

 其処にザエルアポロは居た。

 周囲に従属官である異形の破面を無数に従えて。

 

 

「別にお前が知る必要は無い。取り敢えずご苦労だった」

 

 

 反論の余地を与えず、そう言って霊蟲を耳から引き抜き、一方的に通信を切る。

 狂気の笑みに歪んだ表情をそのままに、視線を足元に移す。

 其処には白衣を身に纏った女性―――セフィーロが倒れ伏していた。

 意識を失っているのか、彼女の身体はピクリとも動かない。

 

 

「そうさ…もはや如何にでもなる。全ては僕の手中さ」

 

 

 クククと静かに笑い声を漏らしながら、ザエルアポロは徐に右手を持ち上げ、その指を鳴らす。

 すると周囲の破面達が動きだし、セフィーロの身体を取り囲む。

 彼等は割れ物を扱う様に、数人掛かりでその身体を優しく持ち上げると、何処かへ運び始めた。

 

 

「間違っても傷付けるな。大事に扱え」

 

 

 ―――今は、の話だが。

 ザエルアポロは内心でほくそ笑む。

 何せ未だノイトラは健在。下手にセフィーロを傷付ける真似をしてしまい、それがバレる事になりでもすれば、“計画”が実行される前に此方が潰される可能性もあるのだから。

 

 部下達の後に、ザエルアポロは少し遅れで移動し始めた。

 同時に先程使用していた通信用霊蟲を指先で弄り始める。

 最後に人差し指でその腹部に当たる部分を押すと、再び耳へと差し込んだ。

 

 

「やあ、そっちはどんな様子だい?」

 

『…敵二名の消耗は二割程度。こちらもまもなく“補給”が切れる』

 

「…相変わらず燃費が悪いね。その辺は要調整といったところか」

 

 

 通信越しに聞こえて来たのは、一切の感情が籠っていない無機質な声。

 ザエルアポロは顎に手を当てながら思考する。

 

 数年前に偶々見付けた、死んで間も無いらしい人型の中級大虚。

 部下に早速持ち帰らせ、新たな改造虚の素体として研究を始めたは良い。だがその特殊な能力のせいか、相当苦戦したのを覚えている。

 それはつい最近になり、やっと完成へと漕ぎ着ける事が出来た。

 軽く行った実験結果は上々。燃費の悪さがネックだが、それでもその能力は便利だった。

 言うなれば、今の葬討部隊のレベルを更に二段階程上げた感じか。一つの軍隊を手に入れたと考えて良い。多数の従属官を従えるとは訳が違う。

 

 そんな中、現れた侵入者達。

 ザエルアポロはチャンスだと思った。実戦へ投入しての検証と、自身の計画をスムーズに進める為に利用出来ると。

 侵入者達が進む通路の何本かの構造を弄り、行先を更に散開させる形へと勝手に変更。

 

 敵が何処に居るのか、何処へ向っているのか不明な状況程、不安を掻き立てるものは無い。

 まず殆どの破面は其方に注目する。そして恐らく戦闘狂であるノイトラは真っ先に動くだろう。それも敵の位置に応じてバラバラに。

 その隙を突いて、計画の仕込みと、彼の弱みを握ろうと企てた。

 

 すると天はザエルアポロへ味方した。

 監視も届かない、破壊も出来無い。そんな鉄壁の城とも言える治療室周辺より、セフィーロが一人で出て来たのだ。

 つい最近話した限り、未だノイトラは彼女に対し、独占欲を抱いている事は判っている。

 つまり弱みの一つとも言えた。完全な人質には出来無いだろうが、此方の要求通りに呼び出す程度の材料には出来そうだ。

 

 そう考えたザエルアポロは早速行動を開始した。

 通路を弄り、予め幾つもの薬剤を散布させた場所へとセフィーロを誘導。

 序にその周辺には探査神経や霊圧知覚を阻害する装置が壁に打ち込んである。

 そのまま全方向を従属官達で塞いで身動きを取れなくさせた結果―――やがてセフィーロは薬剤の効果によって意識を失った。

 

 

「じゃあ彼等をそのまま宮まで誘導してくれ」

 

『…では?』

 

「後は直々に僕が始末するとしよう。研究材料になりそうな奴も居る事だし」

 

 

 今後の未来に期待が膨らむとはこの事か。

 ザエルアポロは全てが思い通りに運んでいる現状に、この上無く満足していた。

 

 

「頼んだよ…バスーラ」

 

『…了解、ボス』

 

 

 それは嘗てノイトラを追い詰め、覚醒の切っ掛けを作った者でもある中級大虚の名。

 そんな事などいざ知らず、ザエルアポロは通信を切ると、軽やかな足取りで自身の拠点の宮へと向かった。

 

 だが彼は気付いていなかった。

 従属官が運んでいるセフィーロ。

 意識の無い筈の彼女、その仮面の名残に隠れた口元が、不気味な程に吊上がっていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その動きを例えるなら、舞か。

 風を斬り裂く鋭さを感じさせながら、柳の如く緩やかな揺れを連想させるそれは、見る者を飽きさせない不思議な魅力があった。

 そして本来の担い手とは全く別の扱を方されているにも拘らず、その三又の槍は一向に霊圧の放出を緩めない。

 

 

「何故…だ…」

 

 

 全身が微かに震え出すのを覚えながら、アーロニーロは絞り出す様にして声を出した。

 

 

「何故お前が捩花を扱える!? 答えろ朽木!!」

 

 

 やがてそれは怒声となり、眼前のルキアへ降り掛かる。

 最後に穂先を振り下ろすと、其処で舞が止まった。

 終始目を閉じたままだったルキアは、徐にその瞼を開く。

 鋭利に輝くその瞳の奥底には、静かな怒りが宿っていた。

 海燕を演じるのは止めた様だが、所々にその名残を見せるアーロニーロの態度に対して。

 この期に及んでも尚、その呼称を使うかと。

 

 

「それはオレの力の筈だ…!! なのに何故拒絶される!? 何故戻せない!?」

 

 

 アーロニーロの抱いた疑問は尤もである。

 本来であれば捩花という斬魄刀は、彼の意志一つで好きに出来る筈なのだ。消すも戻すも、解放も解除も自由自在に。

 だが先程は触れる事すら叶わなかった。弾くと同時にその右手を焼くという、明確な敵対行為まで示された上で。

 

 

「それとも―――このオレがずっと騙されていたとでも言うのか!? 斬魄刀如きに!!?」

 

 

 アーロニーロは叫んだ。心の何処かで察してはいたものの、断固として認めたく無かった事実を。

 捩花に初めから意思が存在していたのだとすれば、そうとしか考えられない。

 自らを押し殺し、頑なに道具の振りを続け、今こうして反旗を翻すチャンスを窺っていたのだと。メタスタシアが融合した海燕の魂と共にアーロニーロに取り込まれた、その瞬間から。

 

 だがそれは他ならぬ捩花に問うべき内容である。しかし焦燥に加えて恐怖が重なったその精神状態では、冷静な思考も何も出来る筈が無い。

 アーロニーロは只々、ルキアに叫び倒すしかない。

 思い通りに物事が運ばずに駄々を捏ねる幼子の如く。

 

 

「簡単な事だ」

 

 

 穂先をアーロニーロの喉元へと突き出し、ルキアは静かに呟いた。

 

 

「貴様では担い手に相応しく無いと、捩花が判断しただけに過ぎん」

 

 

 そんな事すら解らないのかと、ルキアは冷ややかな視線を向ける。

 当然、その態度はアーロニーロにとってこの上無い屈辱であった。

 ヤミー程では無いが、アーロニーロもそれなりに気が短い。それは破面という高位種族、その更に上位に君臨する十刃としてのプライド故に。

 

 ―――たかが死神風情が、この自分に対してその様な目を向けて良いと思っているのか。

 感情が一瞬で沸騰。激情の余り視界が赤く染まる。

 そしてその意志は、全てがルキアへの殺意で塗り潰された。

 

 

「喰い尽くせ“喰虚”ァァァ!!!」

 

 

 唱えられた解号は、まるで怒声であった。

 直後、帰刃を選択したアーロニーロの全身が、凄まじい速度で盛り上がって行く。

 やがて生まれた異形の造形は、先程と余り変わらない。だがその色が明らかに異なっていた。

 赤みを帯びた青色であった筈のそれは、何処か禍々しい印象を受ける濃い紫色へ。アーロニーロ自身の殺意に比例しているとでも言うのだろうか。

 

 巨体の中心部が泡立ち始めると、其処からアーロニーロの上半身が飛び出した。

 常に穏やかな表情を浮かべた好青年である筈の海燕の顔は、溢れ出んばかりの怒りと殺意によって醜く歪んでいた。

 

 

「死神風情が…絶対に殺してやる!!」

 

 

 今のアーロニーロは間違い無く素の状態へと戻っていた。ルキアへの呼称が変わっているのが何よりの証拠である。

 意図的に海燕の演技を止めたのか、それとも精神的な余裕を失ったが故に自然と消えたのかは定かでは無い。

 だがルキアにとって、これは好機とも言えた。

 

 ―――正直言うと、有難い。

 ルキアは内心で少々安堵した。

 造形のみとは言え、敬愛すべき人物を斬るのは何処か抵抗を持ってしまうのが普通である。振り切れたとは言いつつ、心の奥底では―――といった感じにだ。

 だが今のアーロニーロには、その切っ掛けとなるような要素は一切無い。全身から滲み出る雰囲気から、正に海燕の皮を被った化け物にしか思えない。

 

 

「今の貴様なら…」

 

 

 ―――迷い無く斬り捨てられる。

 そう呟くや否や、ルキアはその場を跳んだ。

 同時に周囲から何本もの水柱を立ち昇らせながら。

 

 一瞬の出来事だった。それで且つ耳を澄ましていたとしても気付かぬ程静かに。

 確かにルキアは序盤の戦闘時にも何度か使用してはいた。だが今の動きはそれとは別格。

 上昇した霊力と共に、肉体の動きや反応等も強化されたのだ。

 

 激情の余り我を忘れ掛けていたアーロニーロは、御蔭でそれに気付くのが遅れた。

 無論、それは戦場に於いて致命的に過ぎる。

 死神で言う隊長格の戦闘レベルともなれば、一息で勝負が付く事などザラなのだから。

 

 

「グ、ゥッ!?」

 

 

 突如として右の肩口から感じた鋭い痛みに、アーロニーロは声を漏らす。

 視線を横に移してみれば、其処にはパックリと裂かれて鮮血を噴き出す自身の右肩が。

 ―――あの一瞬の内に、斬られたというのか。

 アーロニーロは戦慄した。この斬撃の鋭さを見るに、下手すれば斬り落とされていたと。

 自身が置かれた状況に対する危機感、そして絶え間無く響き続ける激痛から、次第に精神が落ち着きを取り戻して行く。

 

 だがやはり遅かった。

 次の瞬間、アーロニーロの背筋に悪寒が走る。

 そして最大音量で警報を鳴らす本能。

 咄嗟に周囲を見渡すが、ルキアの姿は何処にも無い。

 

 焦燥の余り、額に冷や汗が浮かぶ。

 そんな時だった。パシャンという水の鳴る音が、真上から聞こえて来たのは。

 

 

「な…」

 

 

 視線の先に居たのは―――巨大な獅子。

 水で模られているが故に、全身は透明。そしてその顔は、今直ぐにでも獲物に襲い掛からんとする、狩人の表情を浮かべていた。

 

 

「“獅子脅(ししおどし)”」

 

 

 猛獣の腹の下に当たる場所では、ルキアが捩花を上段に振り被っていた。

 此方を眺めて硬直したままのアーロニーロ目掛け、それを振り下ろす。

 矛先に合わせ、獅子も動く。眼前の獲物を見定め終えたのか、その顎を大きく開きながら、勢い良く飛び出して行く。

 

 アーロニーロは咄嗟に下半身から無数の触手を伸ばし、自身を覆い隠す様にして防御体勢を取った。

 直後に圧し掛かる衝撃。同時に幾つかの触手が千切れ飛んだのが判る。

 ―――こんな技、志波海燕の記憶の中には無かった筈。

 アーロニーロは驚愕した。

 まさかこの短時間で新たな技を編み出したとでも言うのか。

 

 そう間を置かずして、触手から感じる圧が消える。

 恐らくこれは単発に等しい技なのだろう。これ幸いと、アーロニーロは触手の壁を解き、直ぐ様反撃の為に動いた。

 今迄に喰らった虚達の記憶を引き出す。凡百の雑魚に始まり、巨大虚、最下級大虚。数は少ないが、中級大虚も含まれている。

 その中から、この場に最も適しているであろう能力を選定し、発現させる。

 

 

「この程度か! 温いぞ死神ィ!!」

 

 

 アーロニーロの全身が、徐々に鍍金加工を施したかの如き光沢を放ち始める。

 これは“帝王外皮(ディアマンテ)”という、数種類の甲殻類を混ぜ合わせた姿をした中級大虚が所持していた技。内容は単純に外皮を硬質化させるだけだが、身体の動きを一切阻害する事が無いという、地味に便利な能力だ。

 例え軟体であっても、身体の一部に一つでも先鋭な部分があれば武器と化す副次効果も齎す。アーロニーロの場合、触手を無数に所持しているとくれば―――言わずもがな。もはや武器には困らなくなる。

 

 地面へ着地したルキア目掛け、アーロニーロは数本の触手を足として用いると、地面を這う様に移動し始める。

 その速度は巨体に似合わない程速い。小型の軽自動車、そのアクセルを全開に踏んでも追い付けない程。

 このまま単純に体当たりしても十分な威力があるだろうが、生憎とルキアの実力は副隊長クラス。瞬歩どころか、下手すると足捌き程度で容易に躱されてしまう。

 

 其処でアーロニーロは触手を更に増やす。

 当然それも先程の能力の恩恵を受けており、刺突に鞭打を初め、形状を平たく変化させれば斬撃としても利用可能の凶器と化していた。

 発現した能力の詳細は全く知らないが、ルキアは本能的にそれが危ないものだと悟った。

 

 迎撃の構えを解き、捩花の穂先を地面に突き立てる。

 大量の水がルキアを中心に集束し始め、やがて渦を形成する。

 彼女の全身を完全に覆い隠すまで巨大化した渦は更に回転速度を上げ―――無数の水の弾丸を打ち出し始めた。

 良く見ればその弾丸の一つ一つは非常に小型で、大人の小指程度のサイズだ。

 普通に考えれば、そんなものは例え高速で打ち出されたとしても、多少痛みを感じる程度しかダメージを与えられないだろう。只の悪戯でしかない。

 

 だがそれは誤った認識である。

 その証拠にアーロニーロが水の弾丸を受ける度、硬質な物同士が打ち合ったかの如き金属音が鳴り響いていた。

 

 実はこの水の弾丸、捩花の支配力によってその形状の持続力が極めて高くなっている。つまりそれ等一つ一つが持つ威力は、只の水鉄砲とは比較にならない程高い。

 これに技名など無い。先程の獅子脅は捩花から教えられたもので、これは全くの別物。

 自身の持てる知識を総動員し、水を武器として用いる方法を見出し、技に昇華させたのだ。

 

 ―――“徹雨(とおりあめ)”、とでも名付けようか。

 ルキアの内では、そんなノリの軽い捩花の声が聞こえていたりする。

 

 

「下らん真似を…!!」

 

 

 途中までは気にせず直進し続けていたアーロニーロだったが、やがて数本の触手を自身の上半身の防御に回す様になる。

 負傷とまではいかない。だが直撃時に伝わる衝撃が大きいのだ。

 外側は硬質化の能力に加えて鋼皮もあるが、その内側まで強い訳では無い。ましてや頭部が強度の低いカプセル状で、且つ中身が薄紅色の特殊な液体で保護されていなければ瞬く間に死に至る貧弱な本体であれば尚の事。

 

 しかも現在発現している硬質化の能力にはとある制限がある。

 故にアーロニーロは出来る限り早目に勝負を付ける事を選択した。

 こんな小娘の悪足掻きに付き合う義理は無いと。

 

 

「付け焼刃の技が、このオレに通用すると思うか! 舐めるな!!」

 

 

 移動と防御の一切を捨て、アーロニーロは全ての触手を攻撃へと転じさせた。

 視界の先を埋め尽くす様にして、無数の触手は未だに水の弾丸を放ち続けているルキアへ襲い掛かる。

 

 だがルキアは落ち着いていた。静かに捩花を地面から抜くと、弾丸の発射と共に自身の周囲を渦巻く水の回転が止まる。

 水はやがて輪の様な形状へ変化。彼女はすかさず穂先を下段から振り上げ、それを縦一筋に両断した。

 輪だったものは龍の如くうねり始め、更にその姿を変えて行く。

 言うなれば巨大な魚。多少大雑把ではあるが、口の左右に生えた二対の髭を見ると、鯉に分類出来るだろう。

 それはルキアの周囲を暫しの間遊泳すると、急激に方向転換し、真正面からアーロニーロへと突っ込んだ。

 

 

「“鯉昇(こいのぼり)”!!」

 

 

 地面を擦れ擦れに移動しながら、獲物を飲み込む様にその口を開く。

 対するアーロニーロは、移動に用いているものを除いた全ての触手、その先端を前方に突き出し、巨大魚に対抗する。

 

 互いに引く事無く―――やがて激突。

 水と鉄製の針山。どちらが優位かと言われれば明らかに後者だろう。

 だが巨大魚は触手の針山に全身を貫かれながらも、その形状を崩す事無く、アーロニーロの巨体をその口で後方へと押し込み続けていた。

 

 

「なん……だと…!!?」

 

 

 アーロニーロは咄嗟に数本の触手を地面に突き立て、何とか踏み止まる。

 だがその表情には明らかに焦燥が浮かんでいた。

 理由は直ぐに判る。何故ならアーロニーロの全身の光沢が、次第に薄まって来ていたのだから。

 

 そう、“帝王外皮”の制限というのは、その持続時間なのだ。

 腕や脚のみといった、身体の一部分に限定して使用すれば長時間に亘って持続が可能なのだが、全身ともなると一気にそれが短くなる。

 アーロニーロの帰刃形態が誇る巨体程ともなれば尚更だ。

 

 

「く、そッ!!」

 

 

 巨大魚を貫いている触手を暴れさせ、その形状を崩さんと試みるが、一向にその気配は無い。只々水を切るだけで、何の変化も起きなかった。

 そうこうしている内に、遂に全ての光沢が消え去る。それと同時に全身の硬度が通常状態へと逆戻り。

 一応鋼皮は健在だが、初撃の威力を考えると、余り意味は無いだろう。

 

 ルキアはその変化を見逃さなかった。

 すかさず捩花を頭上で回転させ、周囲の水をそれに集束させて行く。

 十分な量が集まったのを確認すると、穂先を上段から振り下ろす。

 

 そして再び放たれる無数の水の弾丸。

 だがアーロニーロは眼前の巨大魚のみに意識が向いており、他は完全に無防備。畳掛けるにはベストなタイミングだと言えるだろう。

 

 だがルキアの狙いは違っていた。見れば水の弾丸が飛ぶ方向はアーロニーロの上半身では無く―――地面に突き立てている数本の触手。

 

 

「なっ!?」

 

 

 切れ掛けのロープへ更に荷重を掛ければ如何なるか。誰でも想像が付くだろう。

 所々に穴が開き、抉られるその触手達。それに容赦無く襲い掛かる巨大魚からの圧。

 アーロニーロは其処で初めて不意討ちに気付くも、既に手遅れだった。

 その触手達は先端部を地面に残し、瞬く間に千切れ去る。杭を失った巨体は勢いを増しながら後方へと押し遣られて行く。

 

 

「うおおオオォッ!!?」

 

 

 壁に激突するも、その勢いは依然として変わらず。

 御蔭でアーロニーロは壁を貫通し、宮の外へとその巨体を投げ出す事となった。

 

 第9十刃の拠点の宮は比較的高所に存在している。

 つまり今、アーロニーロは宙を舞っていた。流石の彼でも、その巨体を支え切れる霊子の足場を形成する事も出来無い。喰らった虚の中にも、空を飛ぶ能力を持つ者は居なかった。

 

 巨大魚は追撃と言わんばかりに、今度は下方へとアーロニーロを押し遣らんと動いた所で―――その姿を消した。

 確認してみると、アーロニーロを中心とした周囲一帯には水気が殆ど無く、乾燥し切っている。

 同時にその範囲の景色がユラユラと揺れている様にも見える。

 これは陽炎。熱により空気の密度が違う場所が発生する事で光が屈折した為、そう見えているのだ。

 

 言わずもがな、これもアーロニーロが発現した一つの能力。

 全身の温度を瞬間的に超高温域まで引き上げる―――“旱魃地獄(セキア)”。その温度は約一万にも及び、太陽の表面温度すら超えていた。

 本来であれば敵に密着した状態で使用する一度限りの必殺技である。だがあの状況だ。致し方無いだろう。

 

 

「グゥアアァアァァアア!!?」

 

 

 だが危機的状況は変わらない。

 光の差す天蓋の青空の下に出た影響で、闇の中でのみ発現可能であった海燕の能力が解けると同時に、その顔が崩れ始めた。

 

 強制的にその能力を解かれた反動なのか、アーロニーロは苦痛を堪える様に声を上げる。

 そして露になる本来の素顔。

 カプセルの中に浮かぶ二つの頭は、未だ残る反動の名残に眉を顰めている。

 

 

「くそが…!!」

 

「アイツハ、何処ニ―――ッ!!?」

 

 

 上側に浮かんでいる頭は憎々しげに声を漏らし、下側の頭はルキアの姿を探す。

 

 直後、そんなアーロニーロに影が覆い被さる。

 

 

「さらばだ、十刃」

 

 

 上部から聞こえて来たのは、今自身が最も殺意を抱いている相手。

 アーロニーロは即座に反応を示すと、弾かれる様にして頭部を持ち上げた。

 

 刹那―――頭部全体に走る衝撃。

 そして次に視界を遮る銀色。

 見れば捩花の穂先が、二つの頭を避ける様にして頭部に突き刺さっていた。

 

 アーロニーロが何らかの能力を発動した事を察したのだろう。

 水を用いた技は使えず、残存する熱量から接近も不可能と判断し、遠方から捩花を投擲したのだ。

 

 他ならぬアーロニーロ自身がその状況を理解するのに要した時間は大凡十秒。

 パリン、とカプセルが音を立てて砕け散り、紅色の液体と共に二つの頭が宙へ投げ出されたのと同時だった。

 

 

 




アフロさん、チャドに助言。
主人公、今度は牛髑髏さんを陥落させる(オイ
勝った気になる邪淫さん(フラグゥ
主人公補正全開ルキア無双。

的な感じでした。





超展開及び捏造設定纏め。
①アフロさん、さり気にチャドの霊圧消失フラグ回避。
・普通に考えても、敵の拠点のど真ん中突っ切るのはありえんです。
・そして道中の説明はテキトーです。
・ただ現状の主人公の頭の中からはチャドの存在は消えてます(笑
②お姫ちんの宮の位置。
・前の話の中で、第5~4十刃の宮の付近としてましたが、それ自体が何処にあるか判らんとです(笑
・なのでテキトーに中心寄りという事に。
③牛髑髏さんの事情。
・あの陰険ピンクメガネの性格を考えるに、これぐらい恐れられてても良いかと思って捏造。
・いわゆる報酬と言う名の飴と、しくじったら死という…鞭?
④普段から意外と頑張ってる牛髑髏さん。そしてチョロイ。
・汚れ役って、傍から見ても辛い役回りだと思います。
・以前社員にリストラ宣言する役回りだった人に、酒の席で延々と愚痴を聞かされた事がある(関係無し
・そして人知れず陰で黙々と頑張ってる人は、少し褒められるだけで凄く喜ぶ。それが上司なら忠誠心が爆上がり。
⑤邪淫さん「この戦い、我々の勝利だ(キリッ」
・説明不要。
・そして再登場した何時ぞやの使い捨てキャラと、悪巧みするそよ風さん。
・やっぱり何があろうとも、常に一貫して優雅さをキープせんと駄目ですよ。
⑥何故か捩花使いこなしてるルキアちゃん。
・彼女は原作に於いてもう一人の主人公。
・つまり主人公補正です。
・つまり主人公補正です。
・それに鬼道が得意な人は頭も良いしねー(ハナホジ
・それに技がオサレじゃないのは判り切っている。だからあんまり責めないで…(懇願
⑦引き出し多数な強欲さん。
・この位使えてもおかしく無いかと。
・ただ二つ同時に使えないものとかありそう。
⑧何でこう簡単に勝てるねん!しかも不意討ち臭ぇ!!
・他のキャラが全力出さないと勝てないレベルの奴にあっさり勝つのは、主人公には良くある事。
・京楽さん「アーアー、キコエナーイ」





それともしかすれば今年最後の更新かもしれません。
なので皆さん良い御年を。

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