三日月は流離う   作:がんめんきょうき

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何という事でしょう。キャラが多過ぎて回し切れていません(笑
師匠、貴方一体どうやって描いてんのさ。





それと今回はまず投稿する事を最優先に考えていたので、後で加筆修正入れる可能性が高いです。
誤字修正もその時に…とりあえず頑張ります(汗


第四十八話 主人公と姫と豹王と…その他諸々

 黒い軌跡を残しながら、一護は只管に虚夜宮内の通路を駆け抜けて行く。そんな彼に肩車されているネルは、まるでアトラクションを体験している子供の様な満面の笑みを浮かべていた。

 何故そこまでの速度が出ているのかと言うと、3ケタの巣を出て以降も卍解を解いていない為だ。

 

 消耗の事を考えると解くべきだと思えるが、一護は例外。

 彼の卍解の燃費の良さは、歴代の死神の中でも類を見ない。それこそ、戦闘さえしなければ、その霊圧消費の速度は平常時とそう変わりは無かったりする。

 恋次の様に、只解放しているだけでも霊圧を凄まじい勢いで消費して行く者からして見れば、何とも羨ましい限りである。

 

 

「…くそッ!!」

 

 

 一護の表情は硬い。何かを耐えているかの様に、ギリギリと音を立てる程強く歯を食いしばっていた。

 その理由は言わずもがな―――ルキアだ。

 3ケタの巣を抜けた辺りで、突如として彼女の霊圧が消えた事に気付いたのだ。

 当然、一護は動揺した。今居るメンバーの中では、恋次と同等レベルの深い絆で繋がっている相棒的な存在である。動じない訳が無い。

 

 加えてルキアが居た筈の場所には、新たに別の破面らしき霊圧が存在していた。その大きさから判断するに、十刃クラスだと思われる。恐らくはその存在に敗れたのだろう。

 だが如何し様も無い。助けに行こうにも、此処からでは大分距離がある。

 それに敵地のど真ん中に居るこの状況下。救助に向かったにしても、途中で邪魔が入らないという保証も無い。

 第一目的である織姫についても、未だ五体満足で居るのか如何かすら不明だ。一刻も早く彼女の元へ辿り着く必要がある。

 

 だが一護にとって、両名共に優先順位は変わらない。

 ―――どちらを選べば良いんだ。

 心の内に焦燥ばかりが募り、足が止まり掛ける。

 

 現実的に考えると、この場面に於いてはルキアを見捨てて先へ進むのが正しい。

 彼女は戦士だ。戦場で敗北して死する程度、とうの昔に覚悟している。

 十三番隊の肩書を失う事も同様だ。例え無事に織姫の救出を達成したとしても、はい良かったねでは済まない。護廷十三隊の意向に背いた罪は決して軽くは無いのである。

 

 だが例えその事を忠告してたとしても、恐らくルキアはこう返すだろう。

 それが如何した。大切な仲間を救えるなら構いはしないと。

 

 

「い、一護…?」

 

 

 切羽詰まった雰囲気を感じたのか、ネルは相手の顔色を窺う様にして、小さく声を掛けた。

 其処で一護ははっと正気に戻る。

 そして虚夜宮へ侵入後、個々に分かれる直前に自身を諭して来た、恋次の言葉を思い出す。

 ―――戦場での気遣いは、戦士にとって侮辱だ。

 

 

「っ、大丈夫だ。心配すんなネル」

 

 

 一護は横目でネルを見遣ると、笑みを浮かべる。

 そして己の意識を切り替える。

 ―――仲間を信じろ。

 必ず生きて戻ると、手を合わせて誓ったではないか。

 皆ならきっと大丈夫。だから希望を捨てるなと。

 

 つい先程までとは一転、軽やかな足取りで通路を突き進み始める。

 やがて眼前に現れたのは、相当な長さを誇る階段。

 だが一護は速度を落とす事無く、足へ更に力を入れて跳躍。何十も段数を飛ばしながら、一気に駆け上る。

 

 階段を抜けて辿り着いた先は、3ケタの巣でドルドーニと交戦した遊撃の間に敗けず劣らずの広さを誇る広場だった。

 一護は其処で一旦足を止めると、周囲を見渡して警戒する。

 

 

「…誰もいねえな」

 

「みたいっスね」

 

 

 危険が無い事を確認すると、一護は再び駆け出した。

 やがて広場の中央付近へと差し掛かった、次の瞬間―――突如としてその真上から大きな霊圧を感じた。

 

 

「くッ!!?」

 

「うええぇっ!?」

 

 

 背筋に途轍も無い悪寒を感じた一護は、即座にその場を飛び退く。

 急激に方向転換した影響で、ネルが悲鳴を上げながらその頭にしがみ付く。

 

 直後、青色の閃光が天井を突き破って広場の床へ降り注ぐ。

 見れば其処は一護が先程まで居た筈の場所であった。

 

 

「こいつは…虚閃!!」

 

 

 その閃光の正体を、一護は即座に看破する。

 同時にそれを放った犯人の正体も。

 

 

「―――躱したか。良い反応してんじゃねえか」

 

 

 大穴の空いた天井から何者かが広場へ侵入。

 それは一護の前へと降り立つと、感心する様にして言った。

 

 

「グリムジョー…!!」

 

 

 一護は天鎖斬月を構え、その眼前に立つ人物の名を口に出した。

 

 

「ま、それでこそ殺しがいがあるってモンだ」

 

「―――ッ、離れてろネル!!」

 

 

 全身から霊圧と共に殺意を垂れ流しながら、グリムジョーは口元を吊り上げた。

 一護は咄嗟にネルを下に降ろすと、退避の指示を出す。

 ネルは素直に従い、壁際にある柱の影へとその身を隠した。

 

 

「…あァ、忘れるところだったぜ」

 

 

 突如としてそう零すと、グリムジョーは後ろに回していた自身の右腕を見遣り―――その手に持っていた何かを一護に向けて放り投げた。

 それは白い布に包まれた、まるで蚕の繭を連想させる物だった。

 特筆すべきはそのサイズ。二メートルは無い、だが確実に人一人分の大きさはある。

 

 

「なっ!?」

 

 

 予想外の出来事に、一護は驚愕の余りその足を硬直させた。

 反射的に放り投げられた物を身体で受け止める。

 その際に空いた左手で抱える様に持ち上げた瞬間―――ムニュン、と柔らかで且つ弾力のある、非常に心地良い感触がその手の内に広がった。

 

 

「ん…ぁっ…!?」

 

「……へ…?」

 

 

 直後にその場に響き渡る、男の本能を刺激する甘く艶やかな女の声。

 それは一護が今持っている物の中から発せられている。

 

 思わずもう一度その左手を何度か動かし、感触の正体を探る。

 そう―――“探ってしまった”。それが男として最も行ってはならない行為に繋がるとは思いもせず。

 

 

「ゃ…ぁ…ちょっと、待っ…んぅ!!」

 

「ま…まさか―――!?」

 

 

 其処で一護はやっと気付いた。その声は明らかに覚えがある人物のものだと。

 一瞬でその顔色を蒼白に染めると、眼前にグリムジョーが居るにも拘らず、天鎖斬月を地面に突き立て、右手をフリーの状態にする。続けて抱えていた物を地面に降ろすと、それから布を取り、その中身を確認する。

 

 

「ぷはっ……く…黒崎君…?」

 

「い、井上…?」

 

 

 其処から現れたのは――― 現在進行形で一護達が救出を目指している織姫本人だった。

 その頬は僅かに上気しており、そして妙に色気を感じるオーラを垂れ流している。

 

 暫しの間、二人は互いに呆然としたまま見詰め合う。

 そして先程まで自分達が何をしていた、されていたのか気付き―――全くの同時に顔を真っ赤に沸騰させた。

 

 

「きゃあああああぁぁぁ!!!」

 

「うおおおおぉぉぉッ!!? 済まねえ井上!!!」

 

 

 盛大に悲鳴を上げた織姫は、両腕で自身の胸元を隠すと、その場にへたり込んだ。

 一護は弾かれる様にして、そんな彼女から距離を取る。

 

 

「うう~…!」

 

「マジで悪かった!! まさかお前だと思ってなくて…」

 

 

 瞳を潤ませながら、織姫は三メートル程離れた位置に立つ一護を見詰めた。

 一護はそれにたじろぎながら、土下座する勢いで謝罪を口にする。

 意図的では無いにせよ、これは完全にセクハラである。

 ―――でも凄かったな。

 何が、とは言わないが、左手に残る至高の感触の余韻から、一護は密かにそう思った。

 

 だが織姫の心情としては、セクハラをかまされた事に対する怒りは無かった。

 ―――どうせならこんな形では無く、もっと別のシチューエションで触れられたかった。

 簡潔に言うと、悔しい。これに尽きる。

 羞恥心や抵抗は凄まじいが、一護が相手なら別に自身の身体を触られても構いはしない。寧ろバッチ来いである。

 

 だがやはりその場の雰囲気というものがある。

 それは恋する乙女としての理想。然るべき場面で、然るべき結果へと至る。

 より正確に言えば―――満月の浮かぶ幻想的な夜に、狭い部屋で二人きりとなった男女。互いにロマンティックな雰囲気を醸し出した所で、部屋の隅にあるベッドへ視線が向き―――。

 

 

「む、無理いいいいいぃぃぃ!! 初めてでいきなりそんな体勢なんて…黒崎くんのえっち!!!」

 

「体勢!? 何の!? おい井上…ちょっと落ち着いて―――」

 

「ストロングブリッヂロングジェネレーション体位なんて…私には高レベル過ぎる…!!」

 

「何か凄そう!!?」

 

 

 何時の間にやら妄想世界へと旅立っていた織姫は、突如として両手で顔を隠すと、今度は意味不明な事を叫び始めた。

 しかも何故かその世界の一護が何か遣らかしたらしい。

 現実の一護はと言うと、何故突然自分が責められたのか理解出来ず、盛大に混乱していた。流石と言うべきか、反射的に的確なツッコみを入れながら。

 

 

「…乳繰り合うのは済んだかよ」

 

 

 個々が敵地である事も御構い無しにラブコメを展開している二人へ向けて、グリムジョーの苛立った様な声が投げ掛けられる。

 それに正気を取り戻した一護は、天鎖斬月を構え直す。

 

 だがグリムジョーは軽く鼻を鳴らすだけで、臨戦態勢を取る様子も無い。

 すると彼はその直後、今度は視線を織姫へと移し、口を開いた。

 

 

「おい、女」

 

「は、はい…?」

 

「これで借りは返した」

 

 

 その言葉に、織姫は一瞬迷った。借りとは、何の事について言っているのかと。

 だが即座に思い出す。此処へ連れて来られた直後、藍染に言われるがまま、“双天帰盾”で再生させたグリムジョーの左腕の事を。

 決して善意からの行動では無いとは言え、それに恩義を感じ、現在こうして軟禁場所から連れ出すだけに終わらず、一護の元へ届けてくれるとは。

 

 ―――案外、悪い人では無いのかもしれない。

 見た目と言動は明らかに不良そのもの。だがその反面では義理深い面を持っている。

 織姫はグリムジョーの印象を少し上方修正し掛け―――直後にその考えを改める事となった。

 

 

「だから今度は俺の命令に従ってもらうぜ」

 

 

 グリムジョーはそう言うと、その顔に凶悪極まりない笑みを浮かべた。

 織姫はそれを目の当りにした途端、背筋に悪寒を感じた。

 何を勘違いしていたのか。確かにこの男は義理深い部分を持ち合わせてはいる様だが、善人では決して無い。

 そしてその目的も、大凡の検討は付く。

 

 

「そいつの傷を治せ。一つ残らずな」

 

「な…!!」

 

 

 顎で一護の方向を指すと、グリムジョーはそう命令した。

 織姫は瞠目し、ほったらかしで話を進められていた本人も驚愕の声を上げる。

 

 

「まさ、か…」

 

 

 一筋の汗が、織姫の頬を伝う。

 現世に於けるグリムジョーの今迄の行動、そして現在浮かべている表情。それ等の情報から導き出される結論は一つ。

 

 

「べつに逆らっても良いぜ? その代わり、あの影に隠れてるガキがどうなっても知らねえがな…」

 

「なッ、てめえ…!!」

 

 

 口元を吊り上げながら、グリムジョーはその掌をネルの隠れている柱へ向ける。

 織姫が命令に背いた場合、容赦無く虚閃で消し飛ばす心算なのだろう。

 

 だが一護は動けなかった。

 本来の虚閃は発射までに一定量の霊圧の溜めが必要となるが、グリムジョーの場合は特にこれといった制約が無い。溜めも無しに無拍子の虚閃を放つ事が可能なのだ。

 例え阻止に動いたとしても、高確率で無駄に終わる。それこそ以前の戦いの中で、一護を助けに来たルキアがされた様に、ネルは為す術も無くその極大の光線に吞み込まれてしまう事だろう。

 

 そしてネルを助ける為に動いた場合、下手すると今度は標的が織姫に移る可能性もある。

 これが時に冷酷な判断を下せる現実主義者だったなら、片方を切り捨てるという選択を取るだろう。

 だが一護はその正反対に位置する理想主義者だ。そんな事が出来る筈も無い。

 故にこうして膠着状態に陥るのは必然と言えた。

 

 

「さァ、どうする?」

 

 

 だが実を言うと、グリムジョーはネルに手を出す気は殆ど無かった。

 彼が求めているのは、一護との完全決着のみ。

 だが織姫と合流を果たした今、素直に戦うとは思えない。もはや理由が無いとして、逃走を図る可能性だってある。

 ネルを人質に取る様な事をしたのは、そんな一護を確実に自分と戦う様仕向ける為に過ぎない。

 此方の思惑通りに流れを持ち込んでしまえば、後は如何とでもなるとして。

 

 

「く…そ…!!」

 

「黒崎君…」

 

 

 現状に於いて、一護達の取れる選択肢はもはや決まり切っていた。

 自身の思惑の通りに事が運びそうな雰囲気を感じたグリムジョーは、笑わずには居られなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この薄暗く長い通路を進み始めて、一体どれ程の時間が経過しただろう。

 右目を覆う黒い眼帯。顔の左側には頭部から左目、そして顎の付近まで届く縦一筋の傷跡。十一本の棘状にセットされ、その先端部の一つ一つに鈴が編み込まれているという奇抜過ぎる髪型を持った長身でガラの悪い男―――十一番隊隊長、更木 剣八(ざらき けんぱち)は、不意に足を止めた。

 

 

「…チッ、一体どうなってんだ此処は。ちっとも出口が見えてこねえじゃねえか」

 

 

 舌打ちすると、ぐちぐちと文句を垂れ始める。

 

 

「それにいつの間にか他の奴等も居なくなってやがるしよォ…」

 

「あはは! 剣ちゃん置いてきぼりー!」

 

 

 恨めしそうに零す剣八。そんな彼の背中から声が上がる。

 見た目は完全に幼児そのものな、桃色のショートヘアをした幼女―――十一番隊副隊長、草鹿(くさじし) やちる。

 彼女は剣八の背中にしがみ付きながら、楽しげに笑った。

 

 

「…笑い事じゃねえよ。あんまモタついてっと、朽木とマユリのヤローに獲物を全部取られちまうじゃねえか」

 

「―――何を言っているのです。此処に着いた途端、我先に走り出して迷子になったのは貴方ではありませんか」

 

 

 ―――責任転嫁とは感心しませんね。

 不機嫌さを露にする剣八へ、背後からそんな冷静な声が投げ掛けられる。

 その指摘が図星だったのか、剣八は瞬時に黙り込むと、バツが悪そうにソッポを向いた。

 

 

「…いつから居た?」

 

「出口がどうの―――…といった辺りです」

 

 

 その声の主は、首元から三つ編み状に編まれた長髪を持つ、落ち着いた容姿で物静かで穏やかな雰囲気を漂わせている女性―――四番隊隊長、卯ノ花 烈(うのはな れつ)

 彼女は依然として黙り込む剣八に、何処か呆れた様な視線を向けていた。

 

 

「うぅ…なんで僕、ここに居るんでしょうか…」

 

「…今更何言ってるんですか。諦めて下さい」

 

 

 そんな卯ノ花の後ろには、身長差の激しい男女二人組が静かに言葉を交わしていた。

 見るからに気弱で覇気が皆無な顔付きをした小柄な青年―――四番隊第七席、山田 花太郎(やまだ はなたろう)。彼は剣八の怒気に怯えているのか、先程からその目に涙目を浮かべながら、全身を震わせている。

 花太郎の呟きに対して突き放す様に返したのは、百九十近い長身でやや紫掛かった白髪を持つ女性―――四番隊副隊長、虎徹 勇音(こてつ いさね)。彼女は一見平静を保っている様に見えるが、その視線は頻りに左右に動いており、何処か落ち着かない様子だ。

 

 

「そんな事言ったって…僕みたいな奴より、伊江村三席とかの方がずっと役に立てると思うんですが…」

 

「…隊長はその辺りも考えた上で貴方を選んだんです。文句言わない」

 

「そんなぁ…」

 

 

 諭された花太郎は、咋にその肩を落とした。

 確かに彼の疑問は尤もである。

 その口から上げられた人物は、四番隊第三席、伊江村 八十千和(いえむら やそちか)。眼鏡を掛けた至極真面目な性格の男で、勇音に匹敵する実力者。

 日常業務に始まり、現場での前線指揮。そして後方支援専用故か、四番隊を舐めている他の隊士が原因で起きたイザコザの収集も行っている、所謂出来る男というやつだ。

 ―――しかし如何せん地味であり、周囲からの人気が余り無い事に頭を悩ませている不遇な男でもある。

 

 普段から間の抜けている花太郎は、ドジを踏む度に指導を受ける機会が多く、それと同時に八十千和の凄さを認識しており、密かに憧れを抱いていたりする。地味だが。

 八十千和と花太郎、どちらがこの場に相応しいかと言えば間違い無く前者である。だが後者が選ばれたのは理由があった。

 

 現在、四番隊は主力であるツートップが不在だ。それは即ち護廷十三隊全体の後方支援能力の著しい低下を意味する。

 これで更に支柱とも言える八十千和が抜けてみろ。もし現状のまま大規模戦闘を行えば、もはや今の四番隊の能力ではカバーし切れない状態へ陥ってしまう事だろう。

 

 戦場に於いて最も重要なのは強さだけでは無い。傷を癒す回復手段も同等に求められる。

 試合とは違うのだ。環境も整わない、劣悪な環境での戦いもザラな状況下に於いて、僅かな負傷が原因で死に至る事なぞ珍しくも無い。

 こうして考えてみると、如何に四番隊の存在の大きいかが理解出来る。

 

 それに花太郎は四番隊の中で唯一―――切っ掛けは色々とアレではあったが、一護達との交流を持っている。

 治療という行為は、身体のみならず精神面についても含まれている。傍に居ると安心出来たり、信頼の置ける人物が治療に当たるだけで、措置を受ける者にとっては効果が段違いだ。

 卯ノ花が花太郎を選んだのにはこういった背景もあった。

 

 

「しょうがねえだろ! あんな強ェ奴がいるってわかってて我慢できるかよ!!」

 

「まあ、貴方らしいと言えば貴方らしいですが…」

 

 

 やがて開き直ったのか、剣八は声を荒げる。

 それに対し、卯ノ花は静かに溜息を吐いた。

 

 総隊長の秘密裏の指示の元、黒腔の解析を進めていた喜助。

 その途中で起こった織姫の誘拐。其処で喜助は一月掛かる筈だったその予定を急遽変更し、それよりも圧倒的短期間で解析を終了させ、一護達を虚圏へ送った。

 そんな彼等への援軍として、護廷十三隊から虚圏へと派遣されたのは八名。

 内の五名は見ての通り。残る三名は現在別行動を取っている。

 

 そうなった全ての原因は剣八だった。

 喜助が独自に開いた黒腔を通り、虚圏へと到着したまでは良い。

 だがその直後、剣八は何を思ったのか勝手にその場から駆け始めたのだ。やちるもそれに便乗し、途中から勘で行き先の指示を出したりと煽りに煽った結果―――見事に迷った。

 基本脳筋で霊圧探知が苦手な剣八と、致命的なまでに方向音痴なやちるが合わさったのだ。妥当とも言える。

 卯ノ花はそんな二人を追い掛け、それに勇音と花太郎が追従した流れだ。

 御蔭でこうして五人仲良く迷子となった訳である。

 

 立場から考慮すると、全ては隊長である剣八の責任。だが当人は一切気にも留めず、全く別の事を考えていた。

 その内容は主にとある破面―――第5十刃、ノイトラ・ジルガの事である。

 切っ掛けは前回の現世侵攻の後、無事に意識を取り戻して復帰した一角から報告。

 だがそれは部下を襤褸雑巾の様にされた報復の為という訳でも無い。確かに少しはあるが、主な意図は別。

 

 得物抜きで一角を瞬殺する実力。そして抜いたら抜いたであの夜一と互角以上に渡り合ったばかりか、最終的に喜助を含めた隊長格数名を相手に大立回りを演じ、圧倒。その後はあっさり撤退したが、実質ノイトラの勝利に等しい結果となっていた。

 それ等の情報を知った剣八は、思わず武者震いした。

 未解放であの実力である。解放すれば一体どれ程まで強さが跳ね上がるのか、全く見当も付かない。

 

 

「あァくそっ、楽しみで楽しみで仕方が無えッ…!!」

 

 

 ―――全く以て最高の相手ではないか。

 戦意の昂りと同時に、全身から膨大な霊圧が漏れ出す。

 対峙するその時が待ち遠しい。一秒でも早く、ノイトラと斬って斬られての至高の時間を味わいたい。

 剣八はその長い舌を伸ばすと、自身の上唇を舐め回した。

 それは気色悪さより、血の滴る新鮮な肉を前にした猛獣を連想させる。

 

 本来であれば、敵の持つ戦力の大きさに絶望する所だが、生憎と剣八は普通では無い。

 生きている限り、強者との死闘を求め続ける戦闘狂の極致。それが戦いより生まれ、戦いに生きて来た更木剣八としての在り方だった。

 

 

「…もう少し霊圧を抑えて下さい。後ろの二人が怯えてしまいます」

 

「ブクブクブク…」

 

「うひゃああああぁぁぁ!? 山田七席ぃぃぃ!!」

 

 

 卯ノ花の指摘も虚しく、花太郎は直後に白目を向いて後方へと倒れた。その口元からは泡が盛大に噴き出している。

 そのホラーチックな有様に、勇音は涙目になりつつも介抱を始める。

 

 

「さて、今頃あの二人はどうしているのでしょうね…」

 

 

 背後の惨事をスルーしながら、卯ノ花は霊圧探知で周囲一帯を探った。

 すると此処から結構離れた位置にて、三つの霊圧が確認出来る。一つは凄まじい速度で移動しており、残る二つは共にゆったりと移動している。

 

 後者は十二番隊隊長、(くろつち) マユリと、同隊副隊長の涅 ネムだろう。

 元から協調性は薄目なマユリだ。この行動も納得ではある。

 研究の為の環境を与えて貰っているが故か、ある程度の義理は果たす心算はある様だが、それ以外は如何でも良い。彼が何より優先するのは、自身の研究だけなのだ。

 

 残る前者はルキアの義兄であり、四大貴族である朽木家の現当主及び六番隊隊長、朽木 白哉(くちき びゃくや)。最高位の貴族であり護廷十三隊の隊長の一人としての高いプライドを持ち、そして自他共に厳しい、白皙で中性的な容姿の整った男。

 その実力も死神の基本的な四つの戦闘方法として斬術・白打・歩法・鬼道―――“斬拳走鬼”全てに於いて極めて高水準の練度を誇り、尸魂界でも上位に位置する実力者だ。

 

 常に冷静沈着で、戦場に赴く際は万全の態勢を以て臨むべきという、極めて堅実な考えを持つ様な白哉が、こうして独断行動を取るのは非常に珍しい。

 ―――やはり妹さんが心配なのだろう。

 卯ノ花は自身の口元に笑みが浮かぶのを感じた。

 思い返してみれば、最近のルキアは色々と悲惨な経験をしている。腹部を手刀で貫かれたり、右腕を捥ぎ取られたり、虚閃の直撃を受けてボロボロな状態に陥ったり。戦場に身を置く戦士としてはある意味必然なのかもしれないが、それにしても現世へ派遣されたメンバーの中では彼女が最も重傷を負っていた。

 その者が何事にもドライな考えを持っていない限り、身内がその様な目に遭っていて気に掛けない筈が無い。

 

 実は昔から白哉はルキアに対して、その身を案じるが余り遠回しな心配りをしていた。

 彼の亡き妻である朽木 緋真(ひさな)。彼女の遺言に従い、南流魂街78地区の戌吊(イヌヅリ)に置き去りにされたにも拘らず逞しく成長し、死神見習いとして真央霊術院に通っていた実妹であるルキアを養子として迎え入れたまでは良い。だが接し方が判らず、冷たく接してしまう不器用さを見せる反面、その影で危険度の高い席官職に就かせない様に根回しをしていた過去がある。

 護廷十三隊の中では総隊長と同等の古参の死神である卯ノ花がそれに気付かぬ筈も無い。

 今となってはその蟠りも払拭され、多少ぎこちなさは残っているものの、実に良好な関係を築けている様で何よりだが。

 

 

「では更木隊長、ここからは私が先導します」

 

「…あァ?」

 

「大人しく着いて来て下さい。勇音も行きますよ」

 

「は、はい!」

 

 

 そう言って卯ノ花は前に出たかと思いきや、そのまま先を進み始める。

 埒が明かないとして、勇音は意識の無い花太郎を担ぐと、その後を追った。

 

 突如としてこの場を仕切り始めた彼女に対し、剣八は眉を顰めた。

 元より他人に指図される事を嫌う性分だ。気に食わないに決まっている。

 しかも此処は破面という強敵が大量に存在している―――剣八にとって楽園とも言える場所だ。

 盛大に暴れて周囲の建物を破壊したとしても、修理費の請求が来る事は無いし、総隊長に直接呼び出されて叱られる事も無い。

 ―――こんな時ぐらい好きにさせろ。

 剣八は苛立ちを覚えていた。

 

 だが卯ノ花としては、如何あっても剣八が自身の指示に従って貰わねばならない理由があった。

 一言で言えば―――剣八を死なせない為だ。

 今の彼の実力では、五からそれ以下の数字を持つ十刃達を相手取れないとして。

 右目に着用されている、技術開発局が作成した着用者の霊力を無尽蔵に削減する効果を持つ眼帯を外せば、幾分か良い勝負は出来るだろう。

 だがノイトラの実力を見る限り、その程度では足りないと卯ノ花は判断した。

 

 何故そこまでして剣八の身を案じるのか。それは他ならぬ卯ノ花の過去が関係している。

 ―――これは全て自分の責任。

 内心で懺悔する。これは贖罪であると。

 本来であれば尸魂界の中でも限り無く最強に等しい存在であった筈の剣八。そんな彼の力を幼少期に極限まで封じさせてしまったのは、紛れも無く自分自身。

 何時の日か剣八がその力を取り戻すまで、絶対に死なせるものかと、卯ノ花は誓っていた。

 

 

「なに言ってやがる。そんな面倒くせえ真似なんざしなくても、テキトーに壁ぶち抜きながら進んだ方がずっと簡単―――」

 

「良いですね?」

 

「だから―――」

 

「 良 い で す ね ? 」

 

「…おう」

 

 

 卯ノ花が浮かべているのは普通に笑顔に含まれた妙な迫力に気圧されたのか、剣八は反論を途中で止めると、大人しく従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程から離れで巻き起こっている爆発を確認しながら、バスーラは休み無く能力を行使し続ける。

 今ので一気に二十体は消し飛んだだろうか。確かその半数以上がザエルアポロの生み出した改造破面。並みの下級大虚よりも殺傷能力や耐久力が高い筈のそれ等がこうも容易く遣られるとは、予想外も良い所だ。

 

 しかもそれを成したのは、霊圧から読み取るに、先程この場に現れた死神でも滅却師でも無い只の人間だろう。

 ―――何が如何なっているのか、全く理解出来無い。

 バスーラは機械的な思考回路でそう思った。

 

 人間でありながら、虚の霊圧までも併せ持った謎の大男。

 いきなり自分達の居る戦場へと入り込んだばかりか、瞬く間に戦況を引っ繰り返したその力は決して侮れない。

 右腕から放たれた虚閃を思わせる光線は、バスーラが生み出した百近くの虚を消炭と化し、ザエルアポロの鋼皮を焼く威力を持つ。

 それに加え、シャツ越しにも判る筋骨隆々な体格から察せる通り、相当な膂力を持っているのだろう。驚異的な脚力から繰り出された踏み込みは、響転に匹敵する程の速度と移動力を誇る。

 

 そして特筆すべきは―――その白色の鎧に覆われた左腕だ。

 隙を突いたとは言え、一撃のみであのザエルアポロに致命傷を与えたその破壊力は恐ろしい。

 間違っても直撃を食らう訳にはいかないと、バスーラは泰虎に対する警戒を最高レベルまで引き上げた。

 恐らく自身の鋼皮では耐え切れない。確実に死に至るであろうと確信して。

 

 

「―――背中が御留守だよ?」

 

「ッ!!」

 

 

 突如として背中へ投げ掛けられた声に、バスーラは思考の渦の中から帰還する。

 取り敢えずその正体を確認するのは後回し。即座に両腕に生えた計六本の刃を地面から引き抜くと、振り向き様に真横へ薙ぎ払う。

 

 

「…なんだと?」

 

 

 直後、刃が何かを砕いた。それは雨竜の放った霊子の矢。

 だがバスーラは引っ掛かりを覚えた。それが放たれたのは一本だけであった事に。

 

 先程まで相手をしていた分、雨竜の戦闘スタイルについては大凡把握している。

 だからこそ解せない。何故連射しなかったのだと。

 矢の一本一本では大した威力が無い事を理解しているのだろう。その証拠に、雨竜は耐久力の高めな虚に対し、急所を狙うのは勿論だが、更に複数の矢を連続して放っていた。

 ザエルアポロに及ばないにしても、バスーラの鋼皮とてそれなりの耐久力を持っている。

 にも拘らず、先程放たれた矢はたったの一本だ。疑問に思わない訳が無い。

 

 

「棒立ちとは余裕だね!!」

 

 

 バスーラが内心首を傾げていると、其処でやっと雨竜は右手に持つ銀嶺弧雀より、無数の矢を放ち始めた。

 ―――やはり可笑しい。

 だがそれでも不審な点があった。

 それ等の矢は殆ど狙いが定められておらず、大雑把に放たれているのだ。

 

 

「…陽動? いや、違う…」

 

 

 思わず口に出すが、バスーラは即座に考え直す。

 僅かな時間で、この宮に仕掛けられた装置の弱点を見抜く程の頭脳を持つ雨竜だ。そんな単純な策である筈は無いと。

 ―――奴の行動の裏を読め。

 眼前から迫り来る無数の矢を払いながら、バスーラは脳の稼働装置の設定値を徐々に引き上げて行く。

 

 

「今度は足元がお留守だぜェ!!」

 

「な、に…!?」

 

 

 しかしそれこそが雨竜の狙いだった。

 先程までの細々とした攻撃の意図は只の陽動である。

 そしてその真意は―――敢えて単純明快な策を仕掛け、深読みさせる事で相手の動きを鈍らせるというもの。

 

 仕掛け人が頭の回る者で、且つ相手がその事を把握していれば、大抵は成功するだろう。

 複雑怪奇な数式を瞬時に解く程の頭脳を持つ学者が、足し算引き算の問題を出題したとすれば如何だろう。当然裏がある、馬鹿正直にその問題の答えを言っては駄目だと思うに決まっている。

 

 バスーラの足元の地面を砕きながら現れたのは、巨大な骨の蛇。

 恋次が先程まで封じられていた筈の卍解―――狒狒王蛇尾丸であった。

 

 バスーラは瞠目する。何時の間に解放したのだと。

 真面に戦えば厄介だと判断した恋次と泰虎に対しては、現状で出せる最高戦力である中級大虚を限界まで生み出して向かわせた筈である。

 だが現にこうして恋次が此方の戦いに参戦して来たという事は、それ等全てを打倒したという意味に他ならない。

 

 

「ガッ!!」

 

 

 咄嗟に両腕を交差して防御体勢を取るが、案の定バスーラは力負けした。

 いとも容易く弾き飛ばされると、何度ももんどり打ちながら地面を転がって行く。

 

 やがて一際大きな瓦礫へと衝突し、止まる。

 バスーラは即座に起き上がろうと腕に力を籠めるが、其処で自身の身体に起きた異常に気付いた。

 先程攻撃を防御した影響なのだろう。両腕の六本の刃は全てが砕け、腕があらぬ方向へ曲がっているのだ。

 

 

「…不便な」

 

 

 だがバスーラの表情は至って普通。両腕が折れているというのに、痛みを感じている様子全く無い。

 それもそうだ。彼はザエルアポロが死体から造り上げた改造破面。戦闘時に邪魔となるとして、痛覚を完全に取り除かれているのである。

 それが仇となったのか、こうして負傷に気付くのが遅れた訳だ。

 

 治療しようにも、バスーラが補給と称している―――ザエルアポロが大量に従えている従属官達は、既に先程最後の一匹を影に取り込んで食らったばかり。

 これ以上はこの宮にある試験室まで取りに行かねばならないだろう。

 残念ながら、現状に於いてそんな暇は与えられそうに無い。

 

 

「グォァッ!!?」

 

 

 そしてその際に生じた隙は、更に別な結果を齎す原因となる。

 次の瞬間、バスーラの全身を極大の光線が吞み込む。

 発生源を辿ると、其処にはやはり右腕を前方へ突き出した体勢の泰虎が。

 恋次が参戦出来たという事は、泰虎も同様。雨竜の術中に嵌っていたバスーラはそれも失念していた。

 

 

「む…流石に頑丈だな」

 

 

 だがそれでも仕留め切るには足らなかったらしい。

 光線の中から不格好に転がりながら抜け出すバスーラの姿を見た泰虎は、そう小さく呟いた。

 

 

「けど奴の抵抗もそれ程長く続かないだろう。油断せずに畳み掛けよう」

 

「同感だぜ。ま、あの陰険ヤロウがいなけりゃ、こっちの勝ちは決まったモンだと思うけどな」

 

 

 泰虎の両側に並ぶ雨竜と恋次の二人は、其々に自身の得物を構える。

 視線の先では、両腕が使えない状態となっているバスーラが、何とか身体を上手く使って立ち上がらんとしていた。

 泰虎の攻撃の影響か、全身からは煙が上がっており、見ればその剥き出しとなっている上半身の殆どが焼け焦げている。

 刺青のせいで傷の有無が判り辛いが、ほぼ満身創痍と言っても良いだろう。

 

 

「…これまでか」

 

 

 バスーラは己の行く末を悟った。だがやはりその表情に悲観等といった感情は皆無。

 彼はザエルアポロの道具としての意識しか所持しておらず、その与えられた役割を忠実に熟すだけだという考えしか無かった。

 ―――その失われた筈の心の奥底で、密かに息を吹き返したとある感情に気付かぬまま。

 

 睨み合う一人と三人の両陣営。

 雨竜は銀嶺弧雀に矢を番え、矢尻をバスーラへ向ける。

 恋次は右手に持つ骨の柄を操り、狒狒王蛇尾丸の頭部を持ち上げさせ、その顎をガチガチと開閉させる。

 泰虎は左腕へ己の霊圧を籠め、更にその指先から周囲の霊子を吸収し、確実に仕留められる様に破壊力を限界まで引き上げる。

 彼等に対し、バスーラはせめてもの抵抗として、自身の足元を中心に影を広げられるだけ広げると、質量のある下級大虚を二十体程生み出して盾とした。

 

 やがて両者が激突するかと思われた刹那だった。

 先に踏み込んだ雨竜と恋次の頭上へ、大きな影が覆い被さったのだ。

 

 

「―――ッ!! 上だ二人共!!」

 

「な…!?」

 

「うおォォォッ!?」

 

 

 逸早くそれに気付いた泰虎が呼び掛けるが、当の二人は反応し切れなかった。

 影の正体―――赤い触手を無数に生やした細長い羽の様な何かが、二人の全身に覆い被さる。

 

 泰虎は即座に救出の為に動くが、それよりも早く、羽は二人をその内側に包み込んだまま、宙へと持ち上げられる。

 ―――ならば元を叩くまで。

 羽が伸ばされている方向の逆を辿ると、泰虎はその場から反転。バスーラへ使用する筈だった強化済みの左腕を振り絞った。

 

 

「ゴフッ!!?」

 

 

 だがその左腕が振るわれる事は無かった。

 背後へ振り返ったのと同時に、泰虎は腹部へ強い衝撃を感じたかと思うと、凄まじい勢いで吹き飛ばされてしまったのだ。

 それを成したのは、真横に鞭の如く薙ぎ払われたもう一つの羽。

 根本を見遣ると、其処には泰虎によって退場させられた筈のザエルアポロが居た。

 

 

「―――ああ、僕が居ない間に随分と好き放題してくれたみたいだね」

 

 

 彼はドレスの様な物を身に纏い、背中から二対の触手の羽を生やしている。

 これこそザエルアポロ・グランツの帰刃形態―――“邪淫妃(フォルニカラス)”。

 帰刃の影響なのか、その身体には一切の傷も見当たらない。

 

 

「ボス…」

 

「バスーラ、お前は試験室に戻れ。こいつ等は僕が直々に片付ける」

 

「…了解」

 

 

 バスーラは頭を下げると、生み出した下級大虚達を影の中へと戻し、この場から響転で去った。

 

 

「ふん…」

 

 

 ザエルアポロは鼻を鳴らしながら、雨竜と恋次を包み込んでいる羽を見遣る。

 その内側からは苦しげな呻き声が漏れ出していた。

 

 雨竜はその細身の体格から判る通り、その拘束から抜け出せる力は持ち合わせていない。

 一方恋次はと言うと、今迄に過酷な鍛錬を重ねてきた御蔭か、副隊長の中でもトップクラスの膂力を持っている。だがそれでもザエルアポロの羽を押し退けるには足りなかった。

 しかも一番の問題は、彼の右手に握られていた筈の狒狒王蛇尾丸の柄が何時の間にか無く、丁度真下の地面に落ちている事だ。幾ら担い手の魂の一部とも言える斬魄刀でも、その手から離れてしまっては如何し様も無いのである。

 

 

「御馳走様…と」

 

「ぶはっ!?」

 

「うおおおッ!?」

 

 

 ザエルアポロはやがてその羽を振り被ると、凄まじい勢いで外側へと振るい、捕えていた二人を用無しとばかりに乱雑に放り投げた。

 宮の頂上から落下して行く彼等を尻目に、ザエルアポロは視線を別の方向へ移す。

 

 

「ゲホッ…ゲホッ…」

 

 

 その先に居たのは、片膝を着きながらも何とか立ち上がらんと奮闘している泰虎だった。

 先程の腹部への一撃の影響なのだろう。その表情は苦痛に歪んでおり、激しく咳込むと同時に少量の血も吐き出している。

 

 如何やら完全に不意討ちだった為に防御も儘ならず、相当なダメージを負ってしまったらしい。

 帰刃形態となったザエルアポロの戦闘能力は、ガンテンバインのそれを大きく上回る。武人としての技術は後者が上だが、基本的なスペックが違い過ぎるのである。

 ならば泰虎の状態も納得だった。

 

 

「さて、君には先程の御礼をしなければならないね」

 

「くッ…!!」

 

 

 ゆったりとした足取りで近付いて来るザエルアポロに対し、泰虎は本能的に危機感を覚えた。

 だが思った以上に足に力が入らず、未だに立ち上がれていない。

 このままでは嬲り殺しにされる運命しか見えない。

 

 泰虎の表情は強張り、その額からは止めど無く冷や汗が流れ始める。

 内心で嘲笑を浮かべながらそれを眺めていたザエルアポロは、ふと気付いた。

 確かにこのまま手負いの泰虎を仕留めるのは簡単である。帰刃した今となっては、万が一にも敗北する可能性は無い。

 ―――だが果たしてそれで本当に良いのか。

 決まり切った結果を態々実現する。そんなものは余りにつまらない。

 ザエルアポロの美学的な観点からすると、限り無くナンセンス。

 

 ―――何れにせよ殺すのであれば、此処は一つ捻りを加えてみよう。

 ザエルアポロは内心でほくそ笑んだ。

 これなら此方の溜飲が下がるし、愉悦に浸れる。

 きっと泰虎はそれはそれは良い反応を示す筈だ。自身に敵対した事を心から後悔し、涙ながらに命乞いをする、そんな実に無様な姿を晒してくれる事だろう。

 

 

「…使え」

 

「ッ!?」

 

「それで傷を治すと良い」

 

 

 突如としてザエルアポロは懐から何かを取り出すと、それを泰虎へと投げ渡した。

 それはノイトラがスタークへと渡した物と同じ。僅かながら消費した霊圧と怪我を治療するカプセル状の薬の入った容器だった。

 

 

「安心しろ、毒は入っていない。この僕の慈悲深さに咽び泣きながら感謝してくれ」

 

 

 足元に転がる容器とザエルアポロを何度も見渡しながら、泰虎は盛大に混乱した。

 敵である筈の自分に施しを与えるとは、こいつは何を考えているのだと。

 

 

「傷が癒え次第、相手をしてやろう。念の為言って置くが…先程の様にいくとは思わない事だ」

 

「………」

 

「…早くしてくれないか。こう見えても僕は暇じゃないんでね」

 

 

 当然、信用出来る筈が無い。だが嘘を言っている様にも見えないのも事実。

 泰虎は迷いに迷った末、その容器を手に取った。

 

 

 




豹王さん、もはや手段を選ばず。
剣ちゃんやっぱり剣ちゃん。
やっぱり生きてた邪淫さん。チャドピンチ!!





捏造設定及び超展開纏め。
①独断行動してるルキア達の立場は結構拙い。
・少なくとも組織的な観点から見れば、二人の行動を容認する訳にはいかないと思います。何かしらの罰は下されるかと。
・山じいの判断次第では、実質御咎め無しになる可能性は高いかと。謹慎一週間とか。
②ラッキースケベリたん。
・そりゃ主人公だし、仕方ないね(悟り顔
・そしてさり気にうちのテスラに続いてムッツリ野郎と化す。
・妄想癖のあるお姫ちんも、少しはエロ方向に向かう時はあると思います。
③ゲスい豹王さん。
・描写の中にも入れましたが、ベリたんと戦う為に必要だからしただけです。
・ファンの方々、こんな風に書いてしまって御免なさい。
・決して本当に下衆な訳では無いよ?本当だよ?信じて!!
④花太郎が選ばれた理由。
・特に明言されていないので、それっぽい理由をこじつけてみました(笑
・そして調べてみると判る、かなり優秀な四番隊第三席の人。でもやっぱ地味。
⑤舌舐めずりする剣ちゃん。
・戦いは大好きだけど、部下思いの一面もあるし、思考のバランス的にはこんな感じかと。
・主人公「…何か寒気が(((((lll゚д゚)))))ガタガタ」
⑥邪淫さん復活ッッッ!!
・逆転からの逆転はデフォです(笑
・そしてやっぱり慢心レベルMAX。
・ちなみにペッシェ達は現在犬神家状態です。



最近のBLEACH読んで思った事。
店長その位置替われ(真顔
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