戦闘を終えた「いずも」のフライトデッキには、まだ火薬と油の匂いが漂っていた。夜空の彼方には星が瞬き、荒魂の咆哮はもうない。代わりに残されたのは、戦いを終えた者たちの安堵と、まだ消えない緊張の余韻だった。
甲板上でヘリから降り立った刀使たちは、整列を崩して仲間と笑い合ったり、互いの肩を叩き合ったりしていた。海風が彼女たちのストームアーマーの装甲を鳴らし、その姿を柔らかく照らしていた。
ふと、十条姫和――日和が口を開いた。静かな声だったが、周囲の空気を変えるには十分だった。
「……あの、気づいたんですが」
可奈美が振り返る。
「ん? 日和ちゃん、どうしたの?」
姫和は夜の空を見上げ、言葉を選びながら口にした。
「……山口海将補が――女性の指揮官として初めて、荒魂相手とはいえ“海戦の式”を執ったのではありませんか?」
その場にいた者たちが、一瞬息を呑んだ。
彼女は続ける。
「近年になって、女性の艦長や艦隊司令官は誕生しました。けれど実戦の場で、これだけの規模の戦闘を女性の指揮官が率いた例は……世界を見渡しても、聞いたことがありません」
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驚きと誇りの反応
「えっ、そうなの!?」
可奈美が目を丸くした。
舞衣は「そう言えば……」と呟き、沙耶香は小さく目を見開いた。
エレンは「オオ! ユメノジョセイ・カンタイショウカン!」と大げさに両手を広げ、薫は肩をすくめて「まあ、確かにそうかもな」と苦笑した。
周囲にいた艦の乗員たちもざわめいた。
「言われてみれば……」
「確かに、実戦で艦隊を率いた女性の指揮官なんて……」
「世界史に刻まれるかもしれんな」
CICから出てきた神谷一佐もその場に加わり、頷いた。
「……事実だろうな。山口司令は、間違いなく“最初の一人”だ。これは戦史に残る。誰かがいずれ記録に記すことになるだろう」
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鈴花の沈黙と答え
皆の視線が自然と、山口鈴花に向けられた。
艦隊司令官として、甲板の中央に立つ彼女の姿は、まさに歴史の一幕を彩る存在のように映っていた。
だが鈴花は、しばし沈黙した。海風に髪を揺らし、夜の水平線を見つめたまま動かない。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……私は、ただ任務を果たしただけよ。女性であることも、初めてであることも、意識していなかった」
その声には一片の誇張もなかった。
「でも……そうね。これだけの規模の戦闘を、女性の指揮官が執ったのは確かに初めてかもしれない。ならばそれは、私一人の力ではなく、この場にいるすべての者の力によって成し遂げられた記録。――刀使も、艦隊も、共に戦ったからこその勝利よ」
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刀使たちの共鳴
可奈美が拳を握り、笑顔で言った。
「じゃあ、みんなで作った“初めての記録”だね!」
姫和は真剣な眼差しで鈴花を見据え、静かに言った。
「その記録が、未来の指揮官や私たち刀使に勇気を与えるでしょう。山口司令の名は、必ず語り継がれます」
舞衣は胸に手を当てて微笑んだ。
「私たちが一緒に戦えたことも……きっと忘れません」
沙耶香はただ短く「誇りに思います」と告げ、エレンは「イエース! オンナノジダイ!」と声を弾ませた。
薫は最後に「まあ……女版沖田艦長なんて言われるくらいだしな」と笑い、場を和ませた。
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歴史の証人
周囲の乗員たちは一様に頷き、誰からともなく拍手が湧き起こった。
それは戦勝の喜びというより、歴史の証人となった者たちの敬意の拍手だった。
山口鈴花は静かに受け止め、最後にこう言った。
「私は“最初”であっても“最後”であってはならない。これから先、女性であろうと誰であろうと、任務を果たす覚悟がある者が指揮を執る時代が来る。――今日の戦いは、その始まりにすぎない」
その言葉に、甲板の空気がさらに熱を帯びた。
少女たちと大人たち。刀使と自衛官。
異なる立場が一つの歴史を刻んだ瞬間だった。
夜空に星が瞬き続ける中、「いずも」の甲板には確かな誇りと新しい時代の風が吹き抜けていた。