刀使ノ巫女 護国の御刀   作:山さん

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猛将の遺伝子  東シナ海海戦

 

 

ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」の全通甲板。

 その上で、SH-60K哨戒ヘリが次々にローターを唸らせ、待機していた刀使たちを飲み込んでいく。三機編成――一機に二人ずつ。衛藤可奈美と十条姫和、柳瀬舞衣と糸見沙耶香、益子薫と古波蔵エレン(ねね付き)。制服姿の彼女たちは御刀を抱え、シートベルトで身体を固定する。

 

 「こちらヘリ1、ローター回転数安定。発艦準備よし」

 「ヘリ2、発艦準備完了」

 「ヘリ3、同じく準備完了」

 

 艦橋から鈴花が右手を掲げる。

 「――発艦始め!」

 

 フライトデッキの主任海曹が腕を振り下ろした。

 三機の哨戒ヘリが次々に艦尾から浮かび上がり、夜の海上に舞い上がる。鋼鉄の巨艦を背に、刀使を乗せた影が三つ、静かにホバリングして隊形を整える。そのまま上空待機へ――刃はまだ、鞘にある。

 

 

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推奨BGM

元祖ヤマトのテーマ

https://youtu.be/oa9NdnUh3FE?si=EmWfN1dSGLOVTYfs

 

 

 艦橋下、いずもCIC(戦闘指揮所)。赤い照明が張りつめた空気を染める。

 司令官席に座る山口鈴花が、マイクを取った。

 

 「全艦――対潜戦闘用意!」

 

 オペレーターたちが一斉に応答する。スクリーンには、P-1哨戒機が撒いたソノブイからの音紋データ。そこに赤い円でマークされた「異常音源」。

 

 「アスロックと07式魚雷投射ロケットに、荒魂の音源を入力。各艦――発射弾数二発ずつ!」

 

 リンク回線に各艦の艦長たちの声が重なる。

 「こちらむらさめ、入力完了」

 「いかづち、よし」

 「あけぼの、入力終了」

 「ありあけ、問題なし」

 「あきづき、射撃管制準備完了」

 

 艦隊幕僚・神谷隆信一佐が確認し、振り返る。

 「――全艦、発射準備完了!」

 

 鈴花はわずかに頷き、声を張り上げる。

 「攻撃――始め!」

 

 

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 いずも以外の護衛艦のVLSから、轟音を伴い無数の火柱が立ち上がる。

 アスロック、07式魚雷投射ロケット――鋼の矢が空を裂き、暗黒の海へと弧を描いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「弾体、空中安定。シーケンス正常」

 

 目標付近の海域に差しかかると、ミサイルの尾部からパラシュートが展開。減速しながら魚雷を吊り下げた状態で降下し、そのまま海面へ。接触の瞬間、魚雷が切り離され、深海へと突入する。

 

 「07式魚雷、アクティブ! 目標捕捉!」

 

 CICのスクリーンに青い光点が荒ぶるように移動し、やがて閃光。海面が爆ぜ、白銀の水柱が次々と立ち上がる。

 

 「着弾確認――」

 オペレーターが叫ぶ。

 「荒魂、浮上してきます!」

 

 

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 海面が膨らみ、泡立ち、やがて巨大な黒い影が姿を現した。鋼鉄の船体にも似た異形の甲殻、触手のような腕を蠢かせる。荒魂――海を喰らう怪物が、ついに姿を晒したのだ。

 

 鈴花は即断した。

 「出てきたところを、艦載機と対艦ミサイルで叩く! 対水上戦闘用意!」

 

 無線が震える。

 「こちらブルー隊、目標確認。爆撃開始!」

 

 夜空を裂き、ビーストモードのF-35Bが二派に分かれて突入。翼下に抱えたJDAMを切り離す。無数の誘導爆弾が尾を引き、荒魂の甲殻へ雨のように落下する。

 

 轟音と閃光。海面が爆裂し、黒い影が揺らぐ。しかし――

 

 「ダメージ軽微。装甲に弾かれています!」

 

 高山由紀 三等空尉(ブルー6)は奥歯を噛んだ。操縦桿を握る手に汗が滲む。

 「隊長! 普通に落としただけじゃ効果が薄いです!」

 「急降下爆撃を許可してください!」

 

 隊長の声が返る。

 「危険だし身体に負荷がかかるぞ!」

 

 由紀は即答した。

 「女性の方がGに強いです! 大丈夫です、やらせてください!」

 

 一瞬の沈黙。やがて短い許可が下る。

 「……分かった。だが無理だと思ったら通常投下に切り替えろ!」

 

 「了解! ありがとうございます!」

 

 由紀のF-35Bが急降下に移る。HUDの角度が急激に変わり、Gが身体を押し潰す。しかし彼女の声は震えない。照準器に巨大な影を捕らえ、指を引いた。

 

 JDAMが一直線に突き刺さり、荒魂の甲殻を穿つ。

 「命中! 通常投下よりも大ダメージを確認!」

 

 CICに歓声が弾ける。

 神谷が深く息を吐き、鈴花に

 

 鈴花は即座に次の矢を放つ。

 「対艦ミサイルも各艦三発ずつ打ち込む! ――同時弾着対艦・対空ミサイル攻撃始め!」

 

 「了解!」

 

 いずも以外の護衛艦が火を噴いた。

 ハープーン、90式、17式対艦ミサイルが水平線を越えて飛翔し、同時にイージス艦のVLSからSM-6とSM-2が火を吐く。空と海から放たれた鋼鉄の牙が、同一目標への同時弾着を狙って殺到する。

 

 海面を割る轟音。夜空を裂く閃光。

 荒魂が悲鳴にも似た咆哮を上げた。

 

 

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 鈴花は最後の命令を放つ。

 「突撃せよ! ――主砲、並びにレールガンと短魚雷も使用幕僚の神谷が驚愕の声を漏らす。

 「短魚雷も主砲と一緒に?! 今どき水雷戦ですか!?」

 

 鈴花は静かに言った。

 「ええ。今こそ全ての刃を合わせる時よ」

 

「――各艦、短魚雷攻撃始め!」

 

 

 むらさめ、いかづち、あけぼの、ありあけ、あきづき――外周艦が一斉に短魚雷を発射。

 続いて、「主砲、撃ち方始め!」の号令。127mm速射砲が火を噴き、閃光と轟音が夜を裂いた。

 

 イージス艦「まや」の艦長が叫ぶ。

 「――レールガン、撃ち方始め!」

 

 電磁加速砲から放たれた弾体が閃光を走らせ、荒魂の装甲を撃ち抜く。

 

 鈴花が拳を握り、叫んだ。

 「――食い破れ!」

 

 

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 主砲弾が甲殻を砕き、レールガンの超速弾が内部を抉る。短魚雷が下方から衝撃波を叩き込み、荒魂は悲鳴を上げてのたうち回った。

 

 「荒魂、著しく弱体化!」

 

 

 

 山口鈴花は艦橋の窓越しに、砕かれた荒魂の影を見据えた。

 「ここまでが私たちの役割……。あとは彼女たちに託す」

 

 静かな声だったが、艦内すべてに届いた。

 

東シナ海の夜空は、しばし沈黙に包まれていた。

 砲撃、魚雷、ミサイル、そしてレールガン――第1護衛隊群が持ちうる全火力を一斉に叩き込んだ直後、荒魂は悲鳴にも似た振動を発し、のたうつように海面に漂っていた。数分前まで、船団を蹂躙していた怪物の威容は見る影もなく、甲殻は裂け、力強さを失った四肢は海に浮かぶ瓦礫のようにだらりと垂れ下がっている。

 

 CICに静寂が戻った。誰もがモニターの赤い反応が弱まっていくのを見つめ、息を呑んでいた。汗をぬぐうもの、座席に深く腰を落とすもの――乗員たちの表情には安堵と疲労、そして信じがたい戦果を目の当たりにした驚きが混じっていた。

 

 その中で、最初に口を開いたのは「むらさめ」の艦長だった。壮年の男は乾いた笑いを漏らし、眼鏡を外して額をぬぐいながらぼそりと呟く。

 「……血は、争えないな」

 

 その言葉に隣の副長が怪訝な顔を向ける。

 艦長は肩をすくめ、視線を旗艦「いずも」の艦橋にやった。

 「山口司令だよ。あの徹底した火力の使い方、退路を断ち切るような決断……まるで七十数年前の“飛龍”の魂そのものじゃないか。祖父と同じく、命を懸けた反撃を信条にするなんてな。……やっぱり血筋ってやつはある」

 

 「こんごう」の艦橋でも同じように、乗員たちが互いに顔を見合わせていた。

 「短魚雷まで叩き込めってさ……今時聞かねえよな」

 「でも効果は絶大だったろ」

 「ははっ、あの人、女版の沖田艦長だよww」

 

 「沖田……?」若い航海科員が首をかしげる。

 年配の砲術長がにやりと笑い、声を潜めた。

 「宇宙戦艦ヤマトだよ。沖田十三艦長。退路を断ち、命を削ってでも敵を叩き潰す覚悟を見せる提督像の代名詞だ。……今の山口司令は、まさにそれだろう」

 

 艦橋に笑い声が広がる。しかしそれは嘲笑ではない。畏敬と親しみが入り混じった、戦場特有の緊張をほぐす笑いだった。

 

 「いかづち」CICでも似た光景があった。

 オペレーターが椅子に倒れ込みながら、「女版沖田艦長」発言を繰り返し、周囲の隊員たちが頷く。

 「だが、俺は嫌いじゃないぜ。徹底的に叩いてから仲間を送り出す……その覚悟、むしろ頼もしい」

 

 一方、「まや」の艦長はレールガンの余熱に包まれたCICで苦笑した。

 「未来兵器まで総動員させて……司令は本当に加減を知らん」

 副長が応じる。

 「けれど、そのおかげで刀使たちが降下できる。……“沖田艦長”と呼ばれても、私は構わないと思いますよ」

 艦長はわずかに目を細め、呟いた。

 「沖田艦長には、最後まで部下を生還させる執念があった。あの方も同じだ。血筋だけじゃない――今の日本の未来を背負う覚悟が、そうさせているんだ」

 

 各艦の通信回線に、笑い混じりのやり取りが飛び交う。

 「女版沖田だな」「血は争えない」「あの決断力には震えたよ」

 それを受けた「いずも」艦橋では、鈴花が静かに窓越しの夜の海を見つめていた。周囲の笑い声も、畏敬の混じる呼称も、彼女の耳には届いている。だが口元は固く結ばれたままだ。

 

 神谷隆信一佐が横に立ち、苦笑を浮かべる。

 「女版沖田艦長、ですって……司令」

 鈴花は視線を外さず、低く答える。

 「私は沖田ではないし、祖父でもない。……ただ、あの少女たちを無事に降ろすために、私の全てを使っただけよ」

 その横顔に、神谷は確かに見た。沖田の幻影でも、山口多聞の残像でもなく、山口鈴花というただ一人の指揮官がそこに立っているのを。

 

 笑いと敬意の混ざった通信が続く中、鈴花は拳を静かに握りしめた。

 「……血は争えない、か。いいえ――私は血で戦っているんじゃない。未来のために戦っているのよ」

 

 その声は小さく、艦橋の窓にだけ届いた。

 しかし外の海はその言葉を刻み取るかのように、荒魂の呻きと砲煙を飲み込み、次の戦いの幕開けを待っていた。

 

 

 

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